後遺障害逸失利益の金額は計算方法によって大きく異なります。適切な逸失利益を計算するには、正しい計算方法を知らなければなりません。

逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故がなければ将来的に得られるはずだった利益のことを意味します。交通事故で後遺障害を負ったり、被害者が亡くなったりすると、以前のように働いて収入を稼げなくなるため、その分の補償を相手方に請求できるのです。
逸失利益の種類について
逸失利益は「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2種類があります。それぞれの説明は以下の通りになります。
後遺障害逸失利益
交通事故で後遺障害が残ったことで、被害者が将来稼げなくなったことによる減収に対する賠償金です。
後遺障害とは、交通事故が原因で発生した機能障害・神経症状のうち、労働能力の低下をもたらすものです。加害者側の自賠責保険に後遺障害の等級認定を申請し、これが認められると後遺障害逸失利益を請求できるようになります。
死亡逸失利益
交通事故の被害者が亡くなったことで、被害者が将来稼げるはずであった収入を全て失ったことに対する賠償金です。ただし、被害者の方は既に亡くなっているため、被害者の相続人が死亡逸失利益の損害賠償請求権を相続することになります。
逸失利益と休業損害との違い
「休業損害」とは、交通事故によるケガを治療するまでの期間中に、仕事を休んだことで減少した収入分に対する補償です。どちらも消極的損害(交通事故が起こったことで得られなくなった利益)という意味では、逸失利益と休業損害は似ています。
この点、休業損害は事故によって既に失った「過去の収入」であるのに対して、後遺障害逸失利益は失うことが予想される「将来の収入」になります。
逸失利益と慰謝料との違い
「慰謝料」とは、相手方に精神的苦痛を与えられたときに、それを慰謝させることを目的とした賠償金です。例えば、交通事故で後遺障害を負うと、以前のような生活はできなくなるので、被害者の方は多大な不安やストレスを感じます。このように、相手に与えられた精神的苦痛を償ってもらうための金銭のことを慰謝料といいます。
これに対して、逸失利益は「将来の収入がなくなった」という実損に対する賠償金です。財産的損害を受けたことで請求できるものなので、精神的損害に対して支払われる慰謝料とは全く性質が異なります。
逸失利益がもらえないケースとは
逸失利益は、後遺障害が残ったからといって必ずしも受け取れるわけではありません。逸失利益の請求が認められるためには、後遺障害によって現実に減収が発生している必要があります。
後遺障害逸失利益の計算方法
逸失利益は、後遺障害によるものか死亡によるものかで計算の仕方が異なります。この記事では、後遺障害逸失利益の計算方法を紹介します。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益の計算式は以下のようになります。
それぞれの用語がわかりにくいと思いますので、一つずつみていきましょう。
基礎収入とは、逸失利益算定の基礎となる収入のことをいいます。被害者がサラリーマンや自営業者の場合は、原則として事故前年の年収が基礎収入になります。
なお、家事従事者(主婦・主夫)や学生などは、会社員や自営業者と違って労働収入を得ていません。この場合、賃金センサス(厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」に記載された労働者の平均賃金)をもとに基礎収入を算出します。
労働能力喪失率とは、交通事故で失った労働能力の割合を意味します。死亡事故では、労働能力喪失率が100%になります。
後遺障害については、「労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表1」の労働能力喪失表を参考にします。
後遺障害等級 労働能力喪失率 1級 100/100 2級 100/100 3級 100/100 4級 92/100 5級 79/100 6級 67/100 7級 56/100 8級 45/100 9級 35/100 10級 27/100 11級 20/100 12級 14/100 13級 9/100 14級 5/100
労働能力喪失期間とは、労働能力を失ったことで減収の影響を受ける期間のことを意味します。原則は「症状固定日から67歳までの年数」が労働能力喪失期間になります。
ただし、むち打ち症のような軽度の後遺障害では、年数が経つにつれて症状が軽くなりやすいため、14級では5年、12級では10年程度になるのが一般的です。また、被害者が未就労者や高齢者の場合は、例外的に以下のものになります。
被害者の属性 | 労働能力喪失期間 |
---|---|
18歳未満 | 18歳〜67歳の年数 |
大学生 | 大学卒業時〜67歳の年数 |
67歳までの期間が短い者 | 「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」のうち長い方 |
67歳を超える高齢者 | 平均余命の2分の1 |
ライプニッツ係数は、「中間利息控除」の考えに基づいて損害額を算出するための指数です。中間利息控除とは、わかりやすく言うともらいすぎる分の利息をあらかじめ損害額から差し引く処理のことです。
逸失利益は、将来発生する損害を前払いで補償してもらうものなので、そのまま受け取ると利息のもらいすぎが発生してしまいます。そこで、過剰な利息部分を差し引く調整を行うのです。
ライプニッツ係数は法定利率の影響を受けます。2020年の民法改正では、法定利率と市中の金利水準の乖離を是正するために、法定利率が5%から3%に引き下げられました。これに伴ってライプニッツ係数の数値が変動しています。

生活費控除について
生活費控除とは、死亡事故による逸失利益を算定する際に、被害者が生きていれば支出していたと考えられる生活費を収入から差し引く処理のことです。
被害者が亡くなると、得られるはずの将来の収入が失われる一方で、生存していれば発生しているはずの必要経費(生活費)が発生しなくなります。このような場合に、遺族の方が被害者の将来の収入をそのまま受け取るとなると、被害者が生存していたときと比べて取得する金額が多くなってしまいます。
後遺障害逸失利益の具体的な計算例
被害者の属性別に、後遺障害逸失利益の計算例を紹介します。具体的な計算方法を知りたい方は参考にしてください。なお、事故は全て2020年4月1日以降に発生したものとします。
事例① 被害者が40歳のサラリーマン
交通事故によって40歳のサラリーマンがむち打ち症を負った事例です。軽度のむち打ち症だったので、後遺障害等級は14級9号(労働能力喪失率5%)が認定され、労働能力喪失期間は5年(ライプニッツ係数4.5797)となりました。また、前年度の年収(基礎収入)は800万円とします。
このケースでの計算式は以下の通りです。
8,000,000円×5%×4.580=1,832,000円
事例② 被害者が35歳の専業主婦
交通事故によって35歳の専業主婦がむち打ち症を負った事例です。後遺障害等級は12級13号(労働能力喪失率14%)が認定され、労働能力喪失期間は10年(ライプニッツ係数8.530)となりました。
令和3年賃金センサスの女性・学歴計・全年齢の平均賃金を見ると「きまって支給する現金給与額」は270,200円、「年間賞与その他特別給与額」は617,000円になっています。したがって、本事例における被害者の基礎収入は、270,200円×12 + 617,000円=3,859,400円になります。
次に、逸失利益の金額を計算します。計算式は以下の通りです。
3,859,400円×14%×8.530=4,608,896円(小数点以下四捨五入)
事例③ 被害者が家事労働に従事している75歳の男性高齢者
交通事故によって75歳の高齢者が9級7号の後遺障害(労働能力喪失率35%)を負った事例です。
この事例では、高齢者が家事労働に従事していたということで、女性労働者の全年齢平均賃金を基準に基礎収入を算出します(家事従事者は、男性でも女性労働者の全年齢平均賃金を参照します)。女性労働者の全年齢平均賃金は3,859万4,000円なので、これが基礎収入になります。
67歳を超える高齢者の労働能力喪失期間ついては、原則として、厚生労働省が公表している簡易生命表の平均余命の2分の1がになります。令和3年の簡易生命表の平均余命では、75歳男性の平均余命は12. 42年なので、労働喪失期間は6年(ライプニッツ係数5.417)になります。
以上をまとめると、このケースでの逸失利益の計算式は次の通りになります。
3,859,400円×35%×5.417=7,317,229円(小数点以下四捨五入)
事例④ 被害者が10歳の男児
交通事故によって10歳の男児が7級4号の後遺障害(労働能力喪失率56%)を負った事例です。10歳の男児はまだ就労していないため、賃金センサスの男性・学歴計・全年齢の平均賃金を用いて基礎収入を算出します。
令和3年の賃金センサスによると、男性・学歴計・全年齢の「きまって支給する現金給与額」は370,500円、「年間賞与その他特別給与額」は1,018,200円になります。したがって、本事例における被害者の基礎収入は、370,500円×12 + 1,018,200円=5,464,200円になります。
次に、児童が18歳から働くことを仮定すると、労働能力喪失期間は18歳〜67歳の年数、すなわち49年になります。
以上をまとめると、このケースでの逸失利益の計算式は次の通りになります。
5,464,200円×56%×20.131=61,599,894円(小数点以下四捨五入)
後遺障害逸失利益の請求の流れ
後遺障害逸失利益の請求の流れは以下の通りになります。
1、治療を受ける
交通事故でケガを負った場合、まずは病院で診察を受けましょう。外傷がなくても、後から後遺症が発覚することがあるため、事故後は必ず検診を受けるようにしてください。後遺障害が残ったときは、症状固定まで治療を受けることになります。

2、後遺障害等級の認定を申請する
症状固定後は、加害者側の自賠責保険に後遺障害等級の認定を申請します。申請するためには、後遺障害診断書などの必要書類を提出する必要があります。申請方法には、加害者側の任意保険を介して提出する「事前認定」と、被害者自身が提出する「被害者請求」があります。
認定の通知が届くまでには、通常1〜2か月程度かかります。なお、認定された等級に不服がある場合は、異議申立てを行うこともできます。
3、示談交渉で賠償金額を決める
自賠責保険で認定された後遺障害等級に基づいて、任意保険会社と損害賠償額について話し合います。この話し合いのことを「示談交渉」といいます。示談交渉は、逸失利益の金額はもちろん、治療費や慰謝料を含むさまざまな賠償金の取り決めを行います。
4、賠償金の支払いを受ける
示談成立後、約1〜2週間後に保険会社から示談金が支払われます。
後遺障害逸失利益で注意したいこと
後遺障害逸失利益を受け取るために、注意すべきポイントを解説します。
後遺障害の等級認定が重要
後遺障害逸失利益の請求が認められるためには、後遺障害等級の認定が必須になります。後遺障害等級の申請にあたっては、医師が作成する「後遺障害診断書」の記載内容が非常に重要になります。後遺障害診断書とは、後遺症の内容などが詳しく書かれた診断書です。

逸失利益の適正な金額を把握する
逸失利益は、治療費などの賠償項目よりもはるかに高額となるのが一般的です。そのため、計算方法などをきちんと理解したうえで請求しないと、適正な金額を大幅に下回ることになります。
逸失利益は、職業、年齢、性別などの被害者の個別的な事情を勘案して算出されます。普段からこのような計算に慣れていないと、適正な金額を算出するのは困難でしょう。そのような場合は、弁護士に依頼することで、逸失利益の詳しい計算方法や、最終的に賠償金がいくらになるかについて教えてもらえます。
時効に気を付ける
逸失利益の損害賠償請求には時効があります。時効とは、法律で定められた時効期間をすぎると、被害者が有していた損害賠償請求権が消滅してしまう制度です。
交通事故の損害賠償請求権は、不法行為にもとづく損害賠償請求権であり、時効期間は「損害及び加害者を知ってから3年間(民法724条)」になります。これを過ぎると時効が適用されるので、なるべく早くに請求権を行使しましょう。

弁護士に相談する
後遺障害逸失利益を請求する際には、弁護士への相談がおすすめになります。弁護士に依頼するメリットは以下の通りです。
適切な後遺障害等級が認定されやすくなる
後遺障害逸失利益を請求するためには、後遺障害等級の認定が必要があります。弁護士に依頼すれば、治療の段階から通院方法や診断書の内容についてアドバイスを受けられます。また、後遺障害の申請手続きを一任できるため、手続き上の負担も緩和できます。
適切な等級認定を受けるためには、弁護士への依頼が有効です。
慰謝料を増額できる
交通事故の被害者は、逸失利益以外にも、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。ただし、相手方の任意保険会社は、自社の支出を減らすために、「任意保険基準」という低額の基準で算定した金額の慰謝料を提示するケースがほとんどです。
弁護士特約があれば実質タダで依頼できる
被害者が加入している自動車保険に「弁護士特約」というオプションがついていることがあります。弁護士特約とは、保険加入者が交通事故にあったときに、保険会社が代わりに弁護士費用を支払ってくれるものです。
保険会社が最大300万円まで弁護士費用を支払ってくれるため、費用を気にすることなく弁護士への依頼ができます。
まとめ
交通事故で後遺障害が残ると、将来の労働に影響を及ぼします。労働能力の低下によって減少した将来の収入については、加害者に対して後遺障害逸失利益を請求できます。ただし、逸失利益の計算はややこしく、一般の方では適正な金額を算出するのは困難といえます。
このとき、弁護士に依頼すれば、逸失利益の算定だけなく、示談交渉などの手続きを一任できます。適正な後遺障害等級も認定されやすくなるため、全体的な損害賠償額を大きく増額できます。困ったことがあるときは、いつでも弁護士に相談してください。
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