交通事故の損害賠償の相場はいくら?慰謝料の種類や計算方法を弁護士が解説

交通事故の被害者は、加害者に対して適正な損害賠償を請求する権利があります。

しかし、賠償金の種類や相場に関する知識がないと、請求漏れが発生したり、本来受け取れるはずの金額より大幅に低く見積もられてしまったりするリスクが高まります。

”豊川弁護士”
本記事では、交通事故で請求可能な損害賠償の種類や具体的な相場、そして金額を大きく左右する「算定基準」について、実際の事例を交えてわかりやすく解説します。

執筆・監修者

執筆・監修:豊川祐行

2010年に早稲田大学を卒業後、同大学院法務研究科を修了。2016年に東京弁護士会へ弁護士登録。都内の法律事務所勤務を経て、「一人でも多くの方を救いたい」という強い信念のもと独立し、「弁護士法人あまた法律事務所」を設立しました。 あまた法律事務所へのお問い合わせはこちら

交通事故の損害賠償とは

損害賠償とは、不法行為などによって被害者が受けた損害を補填するために、民法で定められている金銭のことです。交通事故においては、怪我の治療費や壊れた車両の修理代、精神的苦痛に対する慰謝料などがこれに該当します。

金銭で損害を補うのが損害賠償

加害者の責任を金銭で補償する仕組みが損害賠償です。民法第709条では、「故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。

また、道路交通法第70条では、運転者の安全運転義務として「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定められています。交通事故を起こして他人に怪我を負わせたり、物を壊したりする行為は、この義務に違反したとみなされます。

POINT
交通事故の被害者は、事故によって生じたあらゆる損害(治療費、休業損害、精神的苦痛に対する慰謝料など)を加害者に対して請求する正当な権利を持っています。

損害賠償は複数人に請求できる

複数の加害者が関与する交通事故(玉突き事故など)の場合、被害者はそれぞれの加害者に対して損害賠償を請求することが可能です。

複数人が共同で損害を発生させたケースは、民法第719条の「共同不法行為」に該当し、「各加害者が連帯して賠償責任を負う」と定められています。

さらに、事故の状況次第では、直接の運転者だけでなく運行供用者に対しても損害賠償を請求できます。運行供用者とは、車両の運行を支配して利益を得ている者のことで、業務中の事故における勤務先の会社(バス会社や運送会社など)が代表例です。

加害者が複数(例えばAとB)いる場合、被害者は損害の全額をAかBのどちらか1人に請求してもよいですし、両者に分けて請求しても構いません。

”女性”
例えば損害賠償の総額が200万円の場合、AとBに100万円ずつ請求することも、AまたはBのどちらか一方にのみ200万円全額を請求することも法的に認められています。


請求できる損害賠償金の種類

交通事故の被害に遭った際、加害者に対して請求できる損害賠償金には様々な種類があります。ここでは、具体的にどのような項目が請求対象となるのかを詳しく解説します。

交通事故の損害賠償金は4種類ある

交通事故において加害者に請求できる損害賠償は、大きく分けて以下の4種類に分類されます。

  • 積極損害
  • 消極損害
  • 精神的損害
  • 物的損害

積極損害

積極損害とは、交通事故に遭ったことが原因で、被害者が「実際に支払いを余儀なくされた出費」のことです。つまり、事故に遭わなければ本来支払う必要のなかったマイナスの費用を指します。

人身事故の場合は、怪我の「治療費」や「通院交通費」、車椅子や松葉杖などの「装具・器具の購入費」などが該当します。また、死亡事故の場合は「葬儀費用」も積極損害として請求対象になります。

治療費(積極損害)

交通事故による怪我を治すために、病院へ入院・通院した際にかかる費用です。診察料、投薬代、手術費、応急手当費、検査費、リハビリ費用などが含まれます。

原則として、医師から完治または「症状固定(これ以上治療しても改善が見込めない状態)」と診断されるまでの治療費は全額請求可能であり、加害者側の保険会社から実費が支払われます。

ただし、賠償対象として認められるのは、医学的に必要かつ相当と判断された治療に限られる点に注意が必要です。

 温泉療法や特殊な民間療法、医師の指示がない自己判断での整骨院・鍼灸院への通院などは、治療費として認められず自己負担になるリスクがあります。

また、治療の途中で保険会社から「治療費の打ち切り」を打診されることがありますが、主治医がまだ治療の継続が必要と判断している場合は、安易に同意せず治療を続けることが大切です。

付添看護費

事故による入院や通院の際、第三者の付き添いが必要になった場合に認められる費用です。

原則として、医師から付き添いの必要性が認められた場合に請求できます。プロの職業付添人を雇った場合はその実費が全額支払われるのが通常です。一方、家族などの近親者が付き添いを行った場合は定額で計算され、自賠責基準では1日2,100円、弁護士基準では通院で1日3,300円程度が相場とされています。

交通費

怪我の治療のために病院へ通う際にかかった交通費です。

原則として全額実費で請求できますが、あくまで「通院に必要かつ妥当な範囲」に限られます。

自家用車で通院した場合は、通院距離に応じたガソリン代や、病院の駐車場代、必要な場合の高速道路料金などが請求対象となります。

ただし、タクシーの利用には注意が必要です。足の骨折で歩行が困難であるなど、電車やバスといった公共交通機関を利用できない特別な事情がない限り、タクシー代は認められないケースがほとんどです。自己都合でむやみにタクシーを利用するのは避けましょう。

入院雑費

入院生活を送るうえで発生する細々とした出費のことです。

パジャマなどの衣類、洗面用具、ティッシュなどの日用品・消耗品をはじめ、家族との連絡に使う通信費、テレビカードや新聞・雑誌などの購入費もここに含まれます。

これらは個別に領収書を集めて精算するのではなく定額で請求するルールになっており、入院1日あたり1,100円〜1,500円程度として計算されるのが一般的です。

器具・装具費

事故で身体に障害が残り、車椅子、義手、義足、義眼、松葉杖、コルセットなどの補助器具が必要になった場合の費用です。

これらの購入費やレンタル代は実費として請求可能です。また、耐用年数に応じて将来的に買い替えが必要になる装具については、将来の購入費用から中間利息を控除した金額をあらかじめまとめて請求することができます。

将来介護費用

事故によって重い後遺障害が残り、生涯にわたって日常的な介護が必要となった場合に請求できる費用です。

将来介護費は、被害者の平均余命までの長期間にわたって計算されるため非常に高額になりやすく、保険会社との間で金額の争いになりやすい項目の筆頭です。

POINT
交通事故の示談は、一度成立してしまうと後から追加で請求したり計算をやり直したりすることは一切できません。介護費用は、将来発生するであろう出費を漏れなく見据えて慎重に計算することが極めて重要です。

自宅改修費

車椅子生活を余儀なくされるなど、事故の後遺障害に合わせて自宅をバリアフリー化したり、スロープや手すりを設置したりするための改修費用です。

賠償対象として認められるのは、被害者の生活や介護において必要不可欠と判断される範囲のみです。単に家族の利便性を高めるためのリフォームなどは対象外となります。

 必要性を超えた過剰な設備改修を行うと、賠償額が減額されたり自己負担になったりする恐れがあるため注意が必要です。

車両の改造費

下肢の麻痺などにより通常の自動車運転が困難となり、手動式の運転補助装置を取り付けるなど、車両の改造が必要になった際にかかる費用です。

こちらも自宅改修と同様に、生活や通勤において真に必要な改造費のみが認められ、不要なオプション設備の追加などは請求できません。

葬儀費用

不幸にして被害者が亡くなられた死亡事故において、葬儀の実施にかかった費用を加害者に請求することができます。

これには、葬儀会社への支払いだけでなく、火葬や埋葬の費用、読経料・戒名料、お布施、供花代、参列者の飲食代、仏壇・仏具の購入費、遺族の交通費、四十九日の法要にかかる費用なども広く含まれます。

”豊川弁護士”
弁護士基準(裁判基準)では、葬儀費用の上限は原則として150万円程度とされています。しかし、社会的地位などから多額の費用を要する正当な事情が認められれば、それを上回る実費の請求が認められるケースもあります。

損害賠償にかかる費用

損害賠償手続きを進めるために直接発生した必要経費も請求対象となります。

具体的には、医師に作成を依頼した診断書や診療報酬明細書の発行費用、警察で取得する交通事故証明書の発行費用、印鑑登録証明書の手数料、被害者が重度の障害を負い成年後見人を選任する際の手続き費用などが含まれます。

弁護士費用

加害者側の保険会社との示談交渉などを弁護士に依頼した際に発生する報酬費用です。

原則として、示談交渉段階における弁護士費用は被害者の自己負担となります。しかし、交渉が決裂して裁判(訴訟)に発展した場合は、判決によって加害者へ弁護士費用の一部を負担させることが可能になります。

POINT
裁判で勝訴判決が出た場合、裁判所は「認容された損害額の10%程度」を弁護士費用として加害者に上乗せして支払うよう命じるのが一般的です。ただし、裁判に移行せず示談交渉のみで解決した場合は、この請求はできません。

損害遅延金

金銭の支払い義務(債務)が遅延したことに対するペナルティとして請求できる金銭を「遅延損害金」と呼びます。

交通事故の損害賠償金は、事故発生の瞬間に支払い義務が生じていると法的に解釈されます。しかし実際に賠償金が支払われるのは、数ヶ月から数年後の示談成立時です。

この「事故発生日から実際の支払い日までのタイムラグ」に対する利息分として遅延損害金を請求することができます。ただし、これが認められるのは原則として裁判を起こして判決を得た場合に限られ、示談交渉の段階で保険会社が遅延損害金の支払いに応じることはほぼありません。

消極損害

交通事故に遭わなければ本来得られていたはずの将来的な経済的利益(収入)が失われたことに対する賠償金です。

怪我の治療のために仕事を休んだことによる給与の減額分や、主婦が家事を行えなくなったことによる損害、また後遺障害が残ったことで将来にわたって労働能力が低下し、生涯収入が減少してしまう損害などが該当します。具体的には「休業損害」と「逸失利益」に分けられます。

休業損害

交通事故の怪我が原因で仕事を休業し、その期間中の収入が減少してしまった損害を補償する項目です。

会社員(給与所得者)の場合は、事故前3ヶ月間の給与をベースに1日あたりの基礎収入を算出し、休業日数を掛けて計算します。なお、治療のために有給休暇を利用した場合も「有給を消化させられた損害」として請求が可能です。自営業者の場合は、前年の確定申告書をもとに計算されます。

また、専業主婦(主夫)であっても、家事という労働ができなかった損害として、国の統計データ(賃金センサス)の女性の平均賃金を用いて休業損害を請求できます。

 事故で休んだ期間も会社から給与が全額支払われていて実質的な減収がなかった場合や、すでに労災保険から休業補償給付を受け取っている部分は、二重取りになるため請求できません。

後遺障害逸失利益

治療を尽くしても後遺障害が残り、労働能力が低下したことで将来的に発生する収入の減少分を補填する賠償金が「後遺障害逸失利益」です。

休業損害が「治療中の減収」を補償するのに対し、逸失利益は「症状固定後から定年退職等までの将来の減収」を前倒しで補償する性質を持ちます。

会社員や自営業者はもちろん、専業主婦(主夫)も賃金センサスをベースに請求できます。さらに、まだ働いていない幼児や学生であっても、「将来社会に出て得られたはずの平均的な収入」を基準に計算して請求することが認められています。

”女性”
逸失利益の金額は、「事故前の収入が高い」「認定された後遺障害の等級が重い(労働能力喪失率が高い)」「被害者の年齢が若く、将来働くはずだった期間(就労可能年数)が長い」ほど高額になるのが特徴です。

死亡逸失利益

被害者が事故によって死亡してしまった場合、生きていれば将来得られたはずの生涯収入が失われた損害として請求できる賠償金です。

事故前年の収入や、死亡時から一般的な就労可能年齢(原則67歳)までの年数を掛け合わせて算出されます。ここから、本人が生きていれば当然消費したはずの「生活費(生活費控除率)」を差し引いて計算します。こちらも専業主婦や子供、学生などであっても、賃金センサスを用いて請求が可能です。

入通院慰謝料

入通院慰謝料(傷害慰謝料)とは、交通事故で怪我を負い、治療のために病院へ入院・通院を強いられたことによる「精神的苦痛」に対する賠償金です。

主に治療期間や実際の通院日数をベースに金額が算出されます。重傷で入院期間が長引くほど高額になりますが、打撲やむちうちなどの比較的軽い症状であっても、医療機関で治療を受けた事実があれば請求できます。

精神的損害

交通事故の被害に遭ったことによって、被害者本人やそのご家族が受けた精神的苦痛(ショックや悲しみ)に対する損害を指します。この精神的苦痛を金銭で慰謝するものが、いわゆる慰謝料です。

具体的には、治療の辛さに対する「入通院慰謝料」、後遺症が残った絶望感に対する「後遺障害慰謝料」、そして大切な命が奪われた無念や遺族の深い悲しみに対する「死亡慰謝料」の3つに大別されます。

”豊川弁護士”
一般的には「損害賠償=慰謝料」と混同されがちですが、法的には、慰謝料はあくまで損害賠償全体の中の「精神的損害に対する補償部分」という一つの項目に過ぎません。

後遺障害慰謝料

治療を継続しても完全には治らず、身体に後遺症が残ってしまったことへの精神的苦痛に対する慰謝料です。

ただし、痛みが残っていると主張するだけで請求できるわけではなく、第三者機関による審査を経て法的な「後遺障害等級」の認定を正式に受けることが必須条件となります。

後遺障害の認定

交通事故の後遺障害は、症状の重さに応じて最も重い第1級から第14級までの等級に分類されています。等級が高い(数字が小さい)ほど、支払われる慰謝料も高額になります。

主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらう → 「損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)」へ書類を提出して申請する → 書面審査を経て等級が認定される

これが認定を得るための基本的なプロセスです。

”豊川弁護士”
特に「高次脳機能障害(脳の損傷による認知機能の低下など)」のような目に見えにくい障害は、認定に必要な医療記録や立証資料が膨大で手続きが極めて複雑です。個人で進めると必要な証拠が漏れて非該当になるリスクが高いため、必ず弁護士のサポートを受けましょう。

死亡慰謝料

交通事故によって被害者が命を落とした事案において請求できる慰謝料です。法的には、「死亡した被害者本人の慰謝料」と「遺された遺族固有の慰謝料」の2つの側面から構成されます。

被害者本人の慰謝料とは、理不尽に命を奪われた無念や恐怖という精神的苦痛に対する慰謝料です。この権利は死亡と同時に発生し、遺族(配偶者や子供などの法定相続人)へと相続される形で請求権が引き継がれます。

一方、遺族の慰謝料とは、愛する家族を突然失った遺族自身の深い悲しみに対する慰謝料です。民法第711条により、被害者の父母、配偶者、および子に対して、独自の慰謝料請求権が明確に認められています。

POINT
死亡慰謝料を請求できるのは、原則として民法で定められた配偶者、子、父母(近親者)です。しかし、被害者と同居して生計を共にしていたなど特別な事情が証明できれば、兄弟姉妹や祖父母、あるいは内縁の妻(夫)などであっても請求権が認められるケースがあります。

物的損害

交通事故によって生じた物的な被害に対する賠償金(物損)です。

自動車やバイクの修理代はもちろんのこと、事故の衝撃で破損した衣服、スマートフォン、腕時計などの携行品の損害や、車両修理期間中の代車費用などが対象となります。

車両修理費

事故によって破損した自動車やバイクを直すための修理費用です。

ただし、請求が認められるのは今回の事故の衝撃によって生じた破損箇所のみです。事故前からあった古い傷の修理や、事故と無関係なパーツの交換費用を加害者に請求することはできません。

また、修理見積もりが事故当時の「車両の時価額(現在の中古市場価値)」を上回ってしまった場合、法的には「経済的全損」とみなされます。この場合は修理費ではなく、車両の時価額と買い替えに必要な諸費用(登録手数料など)を請求することになります。

代車使用料

事故車両を工場で修理している間、あるいは全損で買い替える車が納車されるまでの間、移動手段として手配したレンタカーなどの代車費用です。

代車費用が賠償として認められるためには、「通勤や業務で車が毎日必須である」など、公共交通機関では代替できない明確な必要性が求められます。また、認められる代車のグレードは、原則として被害車両と同等クラス(外車の場合は国産の同等クラスになることも)までとされています。

 代車費用が認められる期間は「修理や買い替えに要する相当な期間(通常は2週間〜1ヶ月程度)」に限られます。不当に長く代車を借り続けると、超過分は自己負担になる恐れがあります。

評価損

いわゆる「格落ち損」のことです。適切に修理を行ったとしても、「修復歴あり(事故車)」という扱いになることで、将来下取りに出す際の中古車としての査定価値が下落してしまう損害を指します。

評価損には、完璧な修理ができず走行性能などにわずかな欠陥が残る「技術的評価損」と、市場のイメージ悪化により価格が下がる「取引的評価損」の2つの側面があります。

”豊川弁護士”
高級外車や新車登録から間もない(一般的に初年度登録から3〜5年以内)新しい車、あるいは走行距離が極めて少ない車ほど評価損が認められやすい傾向にあります。逆に、年式が古い車や軽微な修理で済んだ場合は、認められないことが大半です。

休車損

タクシーやトラックなどの緑ナンバーの営業車両(事業用自動車)が事故に遭い、修理期間中に稼働できなかったことで「本来得られたはずの営業利益」が失われた損害です。

請求が認められるのは修理や買い替えに要した合理的な期間に限られ、かつ会社に稼働できる予備の車両(遊休車)が存在しなかったことが条件となります。

その他の物的損害

その他にも、交通事故との直接的な因果関係が証明できる損害であれば、幅広く賠償請求が可能です。

例えば、自走不能になった車両のレッカー移動費用や保管料、車載していたカーナビやドライブレコーダーの破損、トランクに積んでいた荷物(ゴルフクラブやパソコン等)の損害、さらには車に同乗していたペットが負傷した際の動物病院の治療費などがこれに該当します。

交通事故の損害賠償算定基準は3種類

交通事故における慰謝料などの損害賠償額を計算する際、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの異なる算定基準が存在します。どの基準を適用するかで最終的な受け取り金額が劇的に変わるため、適正な賠償金を得るためには最も高額な「弁護士基準」での解決を目指すことが極めて重要です。

自賠責基準

法律によりすべての自動車やバイクに加入が義務付けられている「自賠責保険(強制保険)」が定めている算定基準です。

この保険の目的はあくまで「被害者への迅速かつ最低限の救済」であるため、慰謝料などの支給額は3つの基準の中で最も低く設定されています。損害額が自賠責保険の支払い上限額(傷害の場合は120万円)を超えた部分は、加害者側の任意保険会社に対して請求していくことになります。

任意保険基準

加害者が任意で加入している民間の自動車保険会社が、独自に定めている社内規定に基づく算定基準です。

具体的な計算式は各社非公開とされており、外部からはブラックボックスとなっています。一般的には「自賠責基準と同等、あるいはそこにわずかな上乗せをした程度」の金額に収まることが大半です。

保険会社は自社の支出である保険金の支払いを最小限に抑えたいという意図があるため、示談交渉ではこの低額な任意保険基準での金額を提示してきます。保険会社の提示額を鵜呑みにして示談書にサインしてしまうと、本来もらえるはずの適正額から大幅に損をしてしまう危険性があります。

弁護士(裁判)基準

弁護士が被害者の代理人として示談交渉を行う際や、裁判所が判決を下す際に用いられる算定基準です。

過去の膨大な裁判例(判例)をベースに作られた客観的な基準であり、3つの基準の中で最も高額かつ法的に適正な相場となります。

具体的には、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤本)」や、「交通事故損害額算定基準(通称:青本)」といった専門書に基づいて計算されます。裁判を起こさずとも、弁護士が介入するだけでこの基準での交渉がスタートします。

弁護士基準で計算し直すだけで、自賠責基準の2倍から3倍以上へと慰謝料が跳ね上がるケースも珍しくなく、まさに被害者が受け取るべき本来の正当な賠償額と言えます。

POINT

損害賠償金は、事故後の生活再建や将来の不安を払拭するための極めて重要なお金です。加害者側のペースに巻き込まれて低額な示談で妥協しないためにも、法的に適正な「弁護士基準」の適用を目指し、早い段階で専門家である弁護士に相談することを強く推奨します。

損害賠償金の相場を3つの基準で比較

各算定基準を用いることで、実際に受け取れる金額にどれほどの差が生じるのか、具体的なシミュレーションで比較してみましょう。

慰謝料の計算は、入院や通院の「期間(日数)」、後遺障害の「重さ(等級)」などの要素によって大きく変動します。

ここでは、「通院3ヶ月のケース」「通院6ヶ月のケース」「後遺障害が残ったケース」「死亡事故のケース」に分け、3つの基準による相場の違いをわかりやすく解説します。

治療期間3か月

むちうちや打撲などで、3ヶ月間(入院なし)病院へ通院した場合の「入通院慰謝料」の目安を見てみましょう。

自賠責基準

自賠責基準の入通院慰謝料は、現在「1日あたり4,300円」と規定されています(※2020年4月以降の事故に適用)。この単価を用いて、以下の2つの計算式から算出された金額のうち、少ない方が採用されます。

① 4,300円 × 治療期間(事故日から治療終了日までの全日数)
② 4,300円 × (実際の通院日数 × 2)

【例】治療期間3ヶ月(90日)で、月に10日(合計30日)通院した場合
① 4,300円 × 90日 = 387,000円
② 4,300円 × (30日 × 2) = 258,000円

両者を比較し、少ない方である258,000円が自賠責基準での慰謝料額となります。

任意保険基準

現在の任意保険基準は各社非公開であるため、かつて業界全体で統一して使用されていた「旧任意保険支払基準」を参考値として比較します。

任意保険基準では、主に入院期間と通院期間(月数)のクロス表を用いて定額で算出されます。

旧任意保険支払基準をもとにした入院および通院の慰謝料算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月025.250.475.695.8113.4128.5
1か月12.637.86385.7104.6121134.8
2か月25.250.473.194.5112.2127.3141.1
3か月37.860.581.9102.1118.5133.6146.1
4か月47.969.389.5108.4124.8138.6151.1
5か月56.776.995.8114.7129.8143.6154.9
6か月64.383.2102.1119.7134.8147.4157.4

単位:万円

この算定表の「入院0ヶ月・通院3ヶ月」が交差する部分を見ると、任意保険基準の目安は378,000円となります。自賠責基準よりは若干高いものの、まだ十分な金額とは言えません。

弁護士基準

弁護士基準の入通院慰謝料は、「赤本」に掲載された算定表(別表)を用いて計算します。骨折などの他覚症状がある場合は「重傷用(別表Ⅰ)」、むちうちや打撲で他覚所見がない場合は「軽症用(別表Ⅱ)」を使用します。

弁護士基準軽症用算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月0356692116135152
1か月195283106128145160
2か月356997118138153166
3か月5383109128146159172
4か月6795119136152165176
5か月79105127142158169180
6か月89113133148162173182

単位:万円

弁護士基準重傷用算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月053101145184217244
1か月2877122162199228252
2か月5298139177210236260
3か月73115154188218244267
4か月90130165196226251273
5か月105141173204233257278
6か月116149181211239262282

単位:万円

むちうち等の軽症として「軽症用」の表を参照し、「入院0ヶ月・通院3ヶ月」の交差部分を見ると、弁護士基準での慰謝料額は530,000円となります。

”女性”
弁護士基準を適用するだけで、自賠責基準(約25万円)の2倍以上の金額になることが一目でわかりますね。

治療期間6か月の場合

続いて、骨折などの重傷を負い「2ヶ月間入院し、退院後に4ヶ月間通院した(合計治療期間6ヶ月)」というケースでの慰謝料を比較します。

自賠責基準

自賠責基準の計算式は入院でも通院でも一律「4,300円」をベースに計算します。
治療期間6ヶ月(180日)、実際の治療日数100日(入院60日+通院40日)として計算します。

① 4,300円 × 180日 = 774,000円
② 4,300円 × (100日 × 2) = 860,000円

両者を比較し、少ない方である774,000円が自賠責基準の慰謝料上限となります。

任意保険基準

旧任意保険支払基準の表で「入院2ヶ月・通院4ヶ月」の交差部分を参照すると、慰謝料の目安は895,000円となります。自賠責基準より十数万円ほど上乗せされていますが、重傷を負った対価としてはまだ不十分です。

弁護士基準

骨折などの重傷であるため、「重傷用(別表Ⅰ)」の算定表を使用します。

「入院2ヶ月・通院4ヶ月」の交差部分を見ると、弁護士基準での慰謝料は1,650,000円となります。自賠責基準や任意保険基準とは比較にならないほど、大幅な増額が実現します。

後遺障害が残った場合の慰謝料

懸命に治療を続けても症状が完治せず後遺症が残り、後遺障害等級に認定された場合は、入通院慰謝料とは別に「後遺障害慰謝料」を請求できます。むちうちの慢性的な痛みや痺れでも認定されるケースは多々あります。

後遺障害慰謝料は、認定された第1級から第14級までの等級に応じて金額が一律で定められています。各等級における自賠責基準と弁護士基準の金額差は以下の通りです。

”豊川弁護士”
任意保険基準の明確な定額表は存在しませんが、実務上は自賠責基準と同額か、それにほんの少し色をつけた程度の金額が提示されるのが通例です。

等級自賠責基準弁護士基準
1級(要介護)16502800
1級11502800
2級(要介護)12032370
2級9982370
3級8611990
4級7371670
5級6181400
6級5121180
7級4191000
8級331830
9級249690
10級190550
11級136420
12級94290
13級57180
14級32110

単位:万円

表を見れば一目瞭然ですが、後遺障害慰謝料においても弁護士基準の優位性は圧倒的です。後遺障害が重い上位等級になるほど格差は広がり、第1級などでは1,000万円以上もの途方もない金額差が生じます。

死亡事故の慰謝料

不幸にして被害者が命を落とされた死亡事故において、遺族が請求できる「死亡慰謝料」についても3つの基準で比較します。

自賠責基準

自賠責基準における死亡慰謝料は、亡くなられた被害者本人への慰謝料として一律400万円が設定されています。これに加えて、遺族固有の慰謝料が「請求権者の人数」に応じて加算され、さらに被害者に扶養されていた遺族がいる場合は200万円が上乗せされます。

請求権者遺族への慰謝料
1人550万円
2人650万円
3人750万円
被扶養者1人につき+200万円

例えば、被害者が一家の大黒柱で「妻と幼い子供1人」を残して亡くなった場合(請求権者2名、被扶養者1名)。

本人分400万円 + 遺族分650万円 + 被扶養者加算200万円 = 合計1,250万円が自賠責基準の支払い上限となります。

任意保険基準

任意保険会社も独自の基準を持っていますが非公開です。一般的には被害者の家庭内での役割(属性)に応じて金額が設定されており、最も金額が高くなる「一家の支柱(大黒柱)」が死亡したケースでも、提示される慰謝料総額は概ね1,500万円〜2,000万円程度に留まることが多いです。

弁護士基準

弁護士基準の死亡慰謝料は、本人分と遺族分を合わせた「総額」の目安が、被害者の家庭内での属性ごとに明確に定められています。

弁護士基準での死亡慰謝料

一家の支柱である場合2800万円
一家の支柱に準ずる者(母親、配偶者)2400万~2700万円
その他(独身の男女、子供、高齢者など)2000万~2500万円

先ほどと同じ「一家の支柱である夫」が亡くなったケースでは、弁護士基準を適用するだけで相場は2,800万円となり、自賠責基準(1,250万円)の2倍以上に跳ね上がります。

慰謝料の項目だけでもこれだけの差が生じますが、さらに休業損害や逸失利益の計算方法においても弁護士基準の方が被害者に有利な算定方式となります。したがって、専門家である弁護士に依頼して法的に適正な基準で争うことが、損害賠償額を最大化するための最善策と言えます。

過失割合で損害賠償の金額が変わる

ここまで解説した慰謝料や損害賠償額はあくまで「被害者の過失がゼロ(加害者の過失100%)」を前提とした相場です。実際の事故では、被害者側にも前方不注意などの落ち度があったとされ、「過失割合」が認定されるケースが少なくありません。

もし過失割合が「加害者80:被害者20」となった場合、損害総額から被害者の過失分(20%)が差し引かれます。これを「過失相殺」と呼びます。例えば損害総額が1,000万円でも、手元に入るのは800万円になってしまいます。

停車中の追突事故(0:100)などを除き、動いている当事者同士の事故では被害者にも過失がつくのが一般的です。保険会社は支払いを減らすために被害者の過失を大きめに主張してくるため、不当な減額を防ぐためにも弁護士に過去の判例と照らし合わせて妥当性を検証してもらうことが大切です。

損害賠償請求には時効がある

損害賠償を請求する上で絶対に忘れてはならない法的なリミットが「消滅時効」です。

事故から一定の期間が経過して時効が完成してしまうと、加害者に対する損害賠償請求権が法的に消滅し、一円も受け取れなくなってしまいます。

 「まだ交渉中だから大丈夫」と安心している間に時効を迎えてしまうトラブルも実際に起きています。ご自身のケースで時効がいつになるのかを正確に把握し、余裕を持って手続きを進めることが不可欠です。

損害賠償請求権の時効は3年または5年

交通事故の損害賠償請求権の時効期間は、原則として「被害者が損害および加害者を知った時」から起算して、物損事故の場合は3年、人身事故(怪我・死亡)の場合は5年と定められています(※2020年4月施行の改正民法適用の場合)。

時効のカウントダウン(起算点)は通常「事故日の翌日」から始まります。ただし、後遺障害が残った場合は「症状固定日の翌日」から、ひき逃げなどで加害者が特定できていない場合は「加害者が判明した日の翌日」から時効期間が進行します。
参考:法務省(民法改正に関するパンフレット)

”女性”
死亡事故のケースでは、「被害者がお亡くなりになった日」に損害が確定するため、その翌日から5年の時効カウントがスタートします。

請求権を行使しないと時効になることがある

もしひき逃げ等で犯人が長期間見つからず、「損害および加害者を知った時」という条件を満たさない場合でも、永久に請求権が維持されるわけではありません。

民法第724条により、「不法行為(事故発生)の時から20年が経過した時点」で、権利を行使していなければ問答無用で時効が成立し、請求権は完全に消滅します(除斥期間)。

長期間放置して時効を迎えてしまうと、いざ請求しようとしても法的に完全に手遅れとなってしまいます。

POINT
保険会社との交渉が長引いたり、後遺障害の治療が長期化したりして時効が迫っている場合は、裁判を起こすなどの方法で時効の完成を阻止(更新・完成猶予)する手続きが必要です。時効管理に不安がある場合は、早急に弁護士に相談して適切な法的手続きを取りましょう。

交通事故の損賠賠償は弁護士に相談しよう

交通事故の被害者は、加害者に対して治療費や慰謝料をはじめとする適正な損害賠償を請求する権利があります。

しかし解説してきた通り、賠償額は適用する「算定基準」によって大きく異なり、法的に最も正当かつ高額となる「弁護士基準」を獲得するには、専門家の介入が実質的に不可欠です。さらに、積極損害や消極損害など数多くの複雑な賠償項目が存在するため、知識のない一般の方が一人で保険会社と渡り合い、漏れなくすべての損害を主張するのは至難の業です。

適正な賠償金を確実に獲得し、不当な減額や時効消滅のリスクを防ぐためにも、交通事故問題に精通した弁護士への早期の相談を強くおすすめします。ご自身の加入する自動車保険に「弁護士費用特約」が付帯されていれば、実質的な費用負担なしで弁護士に依頼できるケースも多いため、まずは無料相談窓口などを活用して一歩を踏み出してみてください。

執筆・監修者、豊川祐行弁護士

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。

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