交通事故の被害者になったとき、慰謝料は自賠責保険と任意保険の両方からもらえることはご存じでしょうか。2種類の保険にはそれぞれ特徴があり、保険金を早くもらう方法もあります。
自賠責保険と任意保険の違いとは
交通事故で被害者に支払われる自動車保険には「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。
それぞれ、名前は耳にしたことがあるかもしれませんが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
自賠責保険と任意保険は加入義務が違う
自賠責保険と任意保険の一番の違いは加入が義務付けられているかどうかです。
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき、全ての自動車に対して契約が義務とされている保険です。運転するなら必ず加入しなければならないため、「強制保険」とも呼ばれています。
自賠責保険に加入していない車を運転すると、たとえ事故を起こしていなかったとしても、「無保険車運行」として自賠法違反となり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金と違反点数6点により側免許停止に処せられます。自賠責保険の証明書をもっていなかっただけでも30万円以下の罰金になります。
また、加入していない車は車検を通すこともできず、車検に通っていない車を運転する「未車検車運行」は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
対して、任意保険はその名の通り、加入するかどうかはドライバーの任意です。入っていないからといって運転できなくなることもありません。
自賠責保険と任意保険には他にも違いが
自賠責保険と任意保険では、加入義務のほかにも保険の目的や補償の内容・金額、過失相殺や面積事由など保険金支払い条件が異なります。
保険の目的と補償対象
自賠責保険は、交通事故被害者への最低限の補償を目的とした保険です。そのため、補償範囲は傷害や後遺障害による損害など、被害者本人の身体に対する損害に限られます。
任意保険は自賠責保険だけでは不足する部分を補う目的があり、補償対象も対人保険から対物保険、車両保険など種類が豊富です。加入の際にはこれらの保険から必要なものを選ぶことになり、いろいろな補償に加入して事故への備えを万全にすることもできます。
補償金額
自賠責保険は最低限の補償が目的のため補償金額にも限度額が設けられており、大きな事故だと全額の支払いができないこともあります。
任意保険では、加入しているプランや契約内容によって限度額は異なります。なかには無制限のものもありますし、自賠責保険だけで払えない分は任意保険から支払ってもらうことができます。
過失相殺(減額)
交通事故で被害者側にも責任がある場合、被害者の責任分(過失)を割合に応じて賠償金から差し引く制度を過失相殺(減額)といい、自賠責保険と任意保険では過失相殺の方法にも違いがあります。
自賠責保険は被害者の過失割合が70%未満の場合は過失相殺がありません。被害者への最低限の補償、つまりは被害者救済を主目的としているため、重過失があるとき以外は被害者へ責任を求めないのです。一方、任意保険では過失相殺は厳密に行われます。
免責事由
保険会社が保険金を支払わない場合の条件を免責事由といいます。自賠責保険では免責事由は限られており、重複契約の場合か、被保険者または保険契約者の悪意(わざと起こした)による事故の2つだけです。
一方の任意保険では、免責事由に関する細かな規定があり、自賠責保険よりも基準が厳しくなっています。
示談代行
任意保険には保険会社のサービスとして加害者が被害者側との交渉を任せることができる示談代行が付属している場合がありますが、自賠責保険ではこうした代行はありません。
自賠責保険 | 任意保険 | |
---|---|---|
加入条件 | 全ての自動車に加入義務 | ドライバーの任意 |
保険の目的 | 被害者への最低限の補償 | 自賠責保険だけで保障できない部分を補う。 |
補償範囲 | 被害者自身の身体的な損害のみ | 対人賠償、対物賠償、車両保険、搭乗者傷害保険、自損事故への補償など契約内容・プランにより様々な補償がある。 |
補償金額 | 限度額あり 傷害:120万円 後遺障害:3000万円(常時介護は4000万円) 死亡:3000万円 | 契約内容によって異なる。 加入者が任意で選択でき、無制限のものもある。 |
過失相殺 | 被害者の過失割合が70%を越える場合のみ | 厳密な過失相殺がある |
免責事由 | ・重複契約 ・保険契約者・被保険者の悪意によって生じた損害 | 契約内容によるが、多くの免責事由が規定されている場合がほとんど。 |
示談代行 | なし | あり(契約内容による) |
交通事故が起きた際にはどう保険を使うのか
自賠責保険と任意保険、両方加入しているというドライバーの方も多いと思いますが、実際に事故が起きたときは2種類の保険をどのように使うのでしょうか。
この2つの保険はどちらかを選んで使うというよりは二階建て構造と呼べるもので、自賠責保険で最低限の補償を行い、さらに足りない部分を任意保険によって補う形になります。
ですから、自賠責保険だけですべての補償が終わる事故でない限り、基本的には両方の保険を利用することになります。また、任意保険は加入している本人だけでなく、家族の起こした事故に対しても適用できる場合があります。
自賠責保険しか入っていないとどうなるか?
自賠責保険には支払い額に限度があるため、もし事故による賠償金がそれを越えるものだった場合には、残った部分は加害者が自腹で賠償しなければなりません。慰謝料の金額が大きければ、簡単には払えないかもしれませんし、加害者に金銭的に余裕がない場合は賠償金の受取そのものが困難になることもあり得ます。
交通事故の被害者に支払われる保険金
続いては、実際に事故が起きたとき、それぞれの保険からどれくらいの保険金が受け取れるかを解説していきます。
自賠責保険の保険金
交通事故の慰謝料の算定方式には3種類ありますが、自賠責保険は最低限の補償が目的のため、自賠責基準による慰謝料は3つのなかでも、もらえる金額が最も少なくなります。
自賠責保険では支払われる保険金に限度額があり、傷害による損害なら120万円、後遺障害では3000万円(常時介護を必要とする場合は4000万円)、被害者が死亡した場合は3000万円と決まっています。
次に傷害や後遺障害などそれぞれの損害で自賠責保険から支払われる保険金を見ていきます。
自賠責基準による傷害慰謝料の算定は入通院の日数1日につき4300円として計算します。
以下の2つの計算方法のうち、金額の低いほうが適用されます。
①4300×通院期間
②4300×実通院日数×2
例えば、3か月通院(週3日で1月あたり12日)した場合の慰謝料は、
①4300×3か月(90日)=38万7000円
②4300×36日(12日×3か月)×2=30万9600円
となり、金額の低い②の30万9600円が実際にもらえる慰謝料になります。
他にも、病院での治療費やケガのため仕事を休んだことへの補償である休業損害など以下のようなお金が支払われます。
治療費 | 医療機関での治療にかかった費用。 | 実費での支払い(必要かつ妥当と認められる範囲において)。 |
---|---|---|
休業損害 | ケガで仕事を休んだとき、収入の減少に対する補償。 | 原則1日あたり6100円。(これ以上の収入減を証明すれば19000円まで支払われる) |
看護費 | 入院中や通院時に付添が必要になった場合の費用。 | 入院1日6100円。 通院1日2100円。 |
通院交通費 | 通院に要した交通費。 | 実費での支払い(必要かつ妥当と認められる範囲において)。 |
雑費 | 入院中に必要になる日用品等諸々の費用。 | 原則1日1100円。 |
義肢などの費用 | 義肢や義眼、松葉杖、眼鏡などが必要になったときの費用。 | 実費での支払い(必要かつ妥当と認められる範囲において)。 |
交通事故で何らかの後遺症が残ってしまった場合には後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害は1級から14級までの等級に分かれており、1級が最も重い障害です。
後遺障害慰謝料は等級によって決まっており、自賠責基準の場合は以下の表のようになります。
等級 | 慰謝料額(単位:万円) |
---|---|
1級(要介護) | 1650 |
1級 | 1150 |
2級(要介護) | 1203 |
2級 | 998 |
3級 | 861 |
4級 | 737 |
5級 | 618 |
6級 | 512 |
7級 | 419 |
8級 | 331 |
9級 | 249 |
10級 | 190 |
11級 | 136 |
12級 | 94 |
13級 | 57 |
14級 | 32 |
後遺障害に関しては他に、後遺症が無ければ将来働いて得られたであろう収入への補償である逸失利益を受け取れます。逸失利益は以下の式で算定されます。
・基礎収入額……事故に遭う前の収入。
・労働能力喪失率……後遺症がどの程度仕事に支障を及ぼすか。
・就労可能期間……健康であれば将来どれくらい期間働けたか。通常は67-年齢で計算される。
・ライプニッツ係数……将来の損失を現在の価値になおすために使われる係数。
例えば、年収350万円の35歳男性が12級(喪失率14%)の認定を受けた場合の遺失利益は、
350万×14%×20.389(35歳でのライプニッツ係数)=999万610円となります。
死亡慰謝料は死亡したことに対して本人へ支払われるものと近しい人を亡くした遺族の精神的苦痛に対して支払われるものの2種類があり、自賠責基準では以下のようにきまっています。他に、死亡の際にもらえるお金には以下のものがあります。
葬儀費用 | 葬儀や通夜、火葬、埋葬にかかる費用や花代、墓石代など。 | 原則100万円が上限。 |
---|---|---|
死亡逸失利益 | 生きていれば将来得られるはずだった収入に対する補償。 | 「基礎収入額×(1-生活費控除率*)×就労可能期間に対するライプニッツ係数」で計算される。 *生活費控除率……死亡により本来必要だった生活費がかからなくなる分を考慮したもの。 |
任意保険の保険金
自賠責保険には限度額が定められているため、大きな事故などでは、すべてのお金を賄うことができない可能性があり、それを補う目的で任意保険が存在しています。通常は、まず自賠責から保険金が支払われ、足りない分が任意保険からの支払いとなります。
任意保険による慰謝料の算定方法は、任意保険基準と呼ばれます。3つの算定基準のなかでは2番目に高い慰謝料を受け取れますが、実際には自賠責基準より少し高い程度であり、大きな金額の違いがあるわけではありません。
任意保険基準での慰謝料は保険会社によって算定方法が異なり、外部には非公開とされているため、詳細な金額を知ることはできません。ここでは、金額の目安として、以前にすべての保険会社で共通の基準として使用していた「旧任意保険支払基準」の算定表を掲載します。
入院→ 通院↓ | 0か月 | 1か月 | 2か月 | 3か月 | 4か月 | 5か月 | 6か月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
0か月 | 25.2 | 50.4 | 75.6 | 95.8 | 113.4 | 128.5 | |
1か月 | 12.6 | 37.8 | 63 | 85.7 | 104.6 | 121 | 134.8 |
2か月 | 25.2 | 50.4 | 73.1 | 94.5 | 112.2 | 127.3 | 141.1 |
3か月 | 37.8 | 60.5 | 81.9 | 102.1 | 118.5 | 133.6 | 146.1 |
4か月 | 47.9 | 69.3 | 89.5 | 108.4 | 124.8 | 138.6 | 151.1 |
5か月 | 56.7 | 76.9 | 95.8 | 114.7 | 129.8 | 143.6 | 154.9 |
6か月 | 64.3 | 83.2 | 102.1 | 119.7 | 134.8 | 147.4 | 157.6 |
単位:万円
例えば、1か月入院2か月通院した場合にもらえる慰謝料は50万4000円です。上の自賠責基準の例と同様、3か月通院した場合の慰謝料は37万8000円となり、自賠責基準の慰謝料30万9600円より若干高くなります。
休業損害など、その他にもらえるお金も任意保険では、保険会社に基準に合わせて自賠責保険の場合より割高になるケースがあります。ただ、保険会社も営利企業のため、支払う保険金はなるべく低く抑えたいと考える傾向があり、相手の言いなりになっていると低額な慰謝料で話をつけられてしまうことも考えられます。
交通事故で被害者が使える保険
交通事故では、加害者の保険から保険金を受け取れるのはもちろん、被害者が加入している保険など、その他の保険を利用することもできます。
事故に遭った際、被害者が利用できる保険を解説します。
加害者の保険
慰謝料などの支払いには相手が加入している自賠責保険と任意保険が使われます。加害者が任意保険に入っていないケースなどを除き、基本的には両方から保険金を受け取れます。
被害者側の任意保険
特定のプランがある場合は、事故に遭った被害者本人の加入する保険も利用可能です。
入っている任意保険に、
・搭乗者傷害保険……同乗していた家族等が死傷した場合に支払われる。
・人身傷害補償保険……契約者の搭乗者全員を対象としてケガや死亡や後遺症に対する保険金が支払われる。
などが付帯している場合には、支払いの対象になる可能性があるので、加入している保険会社に問い合わせてみてください。
健康保険
事故でケガを治療するときも、普段病院へ行くときと同じように健康保険を利用できます。多くのケースでは、加害者の保険会社から治療費を支払ってもらえますが、そうでない場合や治療費の支払いを打ち切られた場合などは自分の保険を使って治療します。
治療費の支払いは保険会社のサービスのため、途中で打ち切られることも多いです。病院側は保険を使うと手続きが面倒になるため、自由診療を薦めてくることもあります。しかし、利用が不可能ということはありませんし、保険を使う方が治療費負担の面などでメリットが大きいため、健康保険を利用する旨をきちんと伝えるようにしてください。
労災保険
業務中や通勤途中に起きた事故の場合、労災保険が適用できることがあります。労災保険を利用すると、治療費を支払ってもらえるほか、事故による休業が4日以上になった場合に4日目以降、休業補償給付を受けられます。ただ、この制度を利用すると相手方の保険会社へ休業損害を請求できなくなります。
しかし、休業損害は治療費同様、保険会社の判断によって打ち切られることもあります。その場合でも、労災保険が利用できれば休業補償を受け取れる可能性があるので安心といえます。
保険金を早く受け取るためにできること
ここまで、事故の際に受け取れる保険金や使える保険の種類を解説してきましたが、ここからはできるだけ早く保険金を受け取るためできることを紹介します。
事故にあったときは、治療費はもちろん、仕事を休んで収入が減少することもあるので、なるべく早く保険金をもらいたいものです。
しかし、保険会社からの治療費や休業損害などの支払いがすぐに行われるとは限りません。そうしたとき、少しでも早くお金をもらえるよう被害者自身がとれる手段にはなにがあるのでしょうか。
被害者請求
事故の被害者が直接、相手方の自賠責保険会社に限度額の範囲内で請求を行う制度を「被害者請求」といいます。この制度を利用することで、加害者との示談が成立する前の段階でも保険金を受け取ることが可能になります。
もらえるのは自賠責の範囲に限ってですが、交渉途中でもお金が入ってくるので、金銭面に余裕のない場合は利用を検討してみてください。
被害者請求でもらえる保険金の計算には自賠責基準が用いられます。支払い限度額は120万円までと決まっており、賠償金がこれ以上になっても120万円までしか受け取ることができません。
制度の利用には、以下の書類を用意して加害者の自賠責保険会社に送付します。
・交通事故証明書
・交通事故発生状況報告書
・医師による診断書
・診療報酬明細書
・交通費明細書
・付添看護自認書(付添看護があったとき)
・休業損害証明書(休業で収入が減少したとき)
・請求者の印鑑証明書
・委任状(代理人による請求時)
・委任者の印鑑証明書(代理人による請求時)
・後遺障害診断書(後遺障害分の請求時)
・レントゲン写真等(後遺障害分の請求時)
・戸籍謄本課(死亡事故)
通常は1週間程度で保険金が支払われ、限度額の120万円に達するまでは何度でも請求が可能です。
仮渡金の利用
もう1つは自賠責保険の「仮渡金」制度を利用する方法です。被害者のなかには、経済的に余裕がなく、示談が成立してからしかお金がもらえないと治療費の捻出などに困ってしまう方もいるため、一時的にまとまったお金を手に入れられるよう設けられている制度です。
受け取れる金額はどの程度のケガをしたかで以下のように決まっています。
ケガの程度 | 金額 |
---|---|
・死亡事故 | 290万円 |
・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められるもの ・上腕または前腕の骨折で合併症のあるもの ・大腿または下腿の骨折 ・内蔵の破裂で腹膜炎を併発したもの ・14日以上の入院が必要なケガで、30日以上の期間、医師の治療を要するもの | 40万円 |
・脊柱の骨折 ・上腕または前腕の骨折 ・内蔵の破裂 ・病院への入院が必要なケガで、30日以上の期間、医師の治療を要するもの ・14日以上の入院が必要なケガ | 20万円 |
・11日以上医師の治療が必要なケガ | 5万円 |
もしこの表にないケガの場合は、仮渡金をもらうことはできません。仮渡金の請求には以下の書類が必要です。
・交通事故証明書
・事故発生状況報告書
・医師による診断書
・請求者の印鑑証明書
・委任状(代理人による請求時)
・委任者の印鑑証明書(代理人による請求時)
・戸籍謄本(死亡事故の場合)
請求から支払いまでは被害者請求と同じで1週間程度です。ただ、仮渡金の請求は1度だけと決まっているので注意してください。
また、保険金の前渡しという形ですから、示談後にもらえる保険金からは仮渡しの分が差し引かれることになります。もし、決定後の保険金が仮渡金を下回った場合は差額を返金しなければならないので、こちらも注意が必要です。
自分で手続きが難しいときは弁護士に相談を
被害者請求や仮渡金の請求手続きは用意する書類も多く、複雑で一般の方には難しいかもしれません。また、相手方の保険会社と示談交渉を行うのも、法律知識等のない被害者自身が行うと保険会社に言われるままだと、相場より低い金額で示談に持ち込まれることも考えられます。
もし不安に感じることがあるなら、弁護士など法律の専門家に相談するのが有効です。弁護士なら、被害者に代わって示談交渉を行ってもらえたり、慰謝料に関する相談に乗ってもらえたりするだけでなく、自賠責基準や任意保険基準よりも高額な弁護士基準での慰謝料算定が可能になります。
まとめ
交通事故の被害に遭った場合は、加害者の自賠責および任意保険の両方から保険金を受け取れます。ただ、実際に賠償金が支払われるのは示談が済んでからになるため、治療費やケガによる収入減少により経済的に余裕がない場合は、この記事で解説した各種制度を利用して保険金の先払いを行うのも1つの方法です。
保険金を早くもらうための手続きや保険会社と交渉するのに不安がある場合は、弁護士への依頼を検討してみてください。
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