後遺障害診断書の記載内容は、入通院先の医師によってに違いが生じます。適切な内容が記載されていなければ、診断書を提出しても等級が認定されません。

後遺障害の認定に必要な診断書とは
後遺障害の認定に必要な診断書は、正式名称を「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といい、交通事故で負った怪我が完治せずに残ってしまった後遺障害の内容・程度を記載する書類です。
では、診断書があるとどのようなことができるのでしょうか。また、いつ誰に作成してもらえるのでしょうか。ここからは、後遺障害診断書の詳細について解説します。
診断書の効果
交通事故で後遺障害が残ると、被害者は加害者に対して「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」などの賠償金を請求できます。
これらの賠償金を請求するためには、必ず後遺障害等級の認定を申請しなければなりません。そして、後遺障害等級の認定を申請するためには後遺障害診断書が必要となります。
後遺障害等級認定の審査は診断書の内容に基づいて決定されます。正しい書式で記入漏れがないように作成してください。
誰に書いてもらえる?
診断書は通院先の医師に作成してもらえます。なお、柔道整復師は医師ではないため、整骨院(接骨院)で診断書を作成してもらうことはできません。中には、整骨院(接骨院)のみに通ってリハビリをおこなう方もいると思いますが、後遺障害が残っている場合は、定期的に病院で診察を受けるようにしてください。
いつ作成してもらえる?
診断書の作成時期は「症状固定」のタイミングです。症状固定とは、怪我の治療を継続してもこれ以上の回復が見込めない状態のことであり、医師によって症状固定となる時期が判断されます。
症状固定になるまでの期間は症状や受傷部位によって異なります。例えば、むちうちなどの症状は治療によってある程度の改善が見込めるため、症状固定までに6ヶ月以上かかる場合があります。

診断書の記載内容
診断書を作成するためには、以下の必要事項を医師に記入してもらう必要があります。記載内容に不備や誤りがあると正しい等級が認定されない可能性があるため、必要な情報を正確に記入しましょう。
①被害者の基本情報
被害者の氏名・性別・生年月日・年齢・住所・職業などの情報が記載されます。
②受傷日時
交通事故にあった年月日が記載されます。むちうちなど、後から症状が出る後遺障害についても、事故にあった年月日を記載してあるか確認してください。
③症状固定日
医師が症状固定と判断した年月日が記載されます。
④当院入院期間・通院期間
後遺障害診断書を作成してもらう病院に入通院していた期間が記載されます。他院での治療期間は含まれません。
⑤傷病名
症状固定のタイミングで残っていた後遺障害の名前が記載されます。正式な傷病名が全て記載されているか確認してください。
⑥既存の障害
今回の事故以前に存在していた精神または身体の障害を記載されます。既存障害を記載しなければ、後から相手方保険会社と揉めるおそれがあります。症状、部位、程度についても正確に記載されてあるか確認してください。
⑦自覚症状
被害者本人が自覚している症状について、記載されます。被害者本人しかわからない症状が記載されるため、正しく書かれているか必ず確認してください。
⑧他覚症状および検査結果
被害者以外の人が医学的・客観的に捉えることができる症状を他覚症状といい、医師が各種検査で確認した医学的所見が記載されます。他覚症状が認められるためには、レントゲンやMRIなどの画像証拠や神経学的検査の結果が記載されている必要があります。
症状の裏付けができなかった場合、原則として後遺障害が認められません。そのため、等級認定において「他覚症状および検査結果」の記載内容が最も重要になります。
⑨障害内容の増悪・緩解の見通し
症状が今後改善するか、それとも悪化するかについての見通しが記載されます。
診断書の作成にかかる費用
診断書の作成費用は一律ではなく、病院や医師によって異なります。一般的には5,000円〜10,000円程度で作成してもらえますが、高額なところだと2万円を超える場合もあります。

交通事故による後遺障害とは?
交通事故による怪我を治癒したにもかかわらず、その後も残り続ける神経症状や機能障害を「後遺症」といいます。
さらに、後遺症の中でも、交通事故が原因であることが医学的に証明されるとともに、労働能力の低下(あるいは喪失)が認められ、その程度が自賠責保険の等級に該当するものは「後遺障害」として扱われます。すなわち、全ての後遺症が後遺障害として扱われるわけではありません。
後遺障害等級の認定とは
後遺障害が残ったとしても、直ちに後遺障害に関する補償を受けられる訳ではありません。「損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所」という審査機関に「後遺障害等級」の認定を申請し、審査に通ることで後遺障害の補償を受けられます。
等級認定を申請する際には、後遺障害の内容を証明する書類を提出しなければなりません。後遺障害診断書についてもこのタイミングで提出することになります。
後遺障害等級とは
後遺障害等級は、「自動車損害賠償保障法施行令」の後遺障害等級表に規定されており、障害が残った部位や症状の程度によって等級が1〜14級に分類されます。
等級が認定されることで請求できる損害賠償
後遺障害等級が認められると、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を請求できます。それぞれの賠償金の内容は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
「慰謝料」とは、加害者の言動によって精神的苦痛を受けた際に請求できる賠償金です。後遺障害が残ると、以前と同じように生活できなくなり、日々ストレスを感じることになります。このような精神的苦痛に対する損害賠償として、後遺障害慰謝料を加害者に請求できます。
後遺障害逸失利益
後遺障害があると労働能力が低下するため、将来働けなくなる分の収入が減少してしまいます。後遺障害がなければ得られたはずの将来の収入のことを「逸失利益」といい、加害者に損害賠償請求できます。
適切な診断書を作成してもらうためにできること
後遺障害診断書の内容によって後遺障害の等級が決まります。したがって、診断書の記載内容が非常に重要になります。ここからは、適切な診断書を作成してもらうために、被害者本人ができることについて解説します。
自覚症状をしっかりと医師に伝える
定期検診では、被害者本人が感じている症状をしっかりと医師に伝えるようにしてください。等級が認定されるためには、画像検査や神経学的検査の結果だけでなく、被害者本人の感じている自覚症状についても審査されます。
特に、むちうちなどの見た目ではわからない症状については、自覚症状の記載内容が非常に重要になります。「症状が残る部位」「痛みの程度」「どんなときに特に痛むか」「日常生活にどのように影響するか」など、検診の際には被害者本人が感じている自覚症状について細かく説明するようにしましょう。
症状に一貫性・連続性があることを伝える
初診のときから連続かつ一貫して症状が続いていなければ、事故と後遺障害との間の因果関係が否定され、等級認定が受けられないおそれがあります。症状の一貫性・連続性を主張するためには、事故直後はすぐに診察を受けて、検査結果を残すことが大切です。

弁護士に相談して診断書の内容を見てもらう
後遺障害の等級が認定されるためには、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことが必要です。しかし、後遺障害診断書の作成は、医師が専門とする分野ではありません。医師によって記入方法が異なる上に、曖昧な表現がなされていたり、必要な診断結果が記載されていなかったりする場合があります。
このようなケースでは、被害者側が適切な診断書の書き方を医師に伝えなければなりません。ですが、医学的知識に詳しくない一般の方では、記載内容が適切であるか判断するのは難しいでしょう。このとき、弁護士への相談が有効になります。
医師が診断書を書いてくれないときにどうするか
等級認定を申請するためには、後遺障害診断書がなければなりません。しかし、何らかの理由で医師が後遺障害診断書を作成してくれないケースがあります。では、なぜ医師が診断書の作成を断るのでしょうか。
医師が診断書の作成を断るケースには、正当な理由がある場合とそうでない場合があります。ここからは、医師が後遺障害診断書を作成してくれないケースと対処法について解説します。
正当な理由で診断書の作成を断られるケース
医師が正当な理由で診断書の作成を断るケースを紹介します。また、断られたときの対処法についても解説するので参考にしてください。
医師がまだ症状固定と判断していない
医師が診断書を作成するタイミングは症状固定になったときです。そのため、医師がまだ治療を継続する必要があると判断した場合は、症状固定と判断されず、診断書も作成してもらえません。

医師が治療の経過を確認できていない
診断書には現在残っている症状を記載すればいいだけでなく、どのように怪我が回復したかについても記載する必要があります。そのため、医師が被害者の治療経過を確認できていない場合、診断書の作成を断られることがあります。
医師が治療経過が確認できない例には、被害者が通院を怠っていた場合や、転院して新しい医師に診察してもらっていた場合が挙げられます。
医師が後遺障害が残っていないと判断した
診察の結果、後遺障害が残っていなかった場合は診断書の作成を断られることがあります。また、むちうちなどの後遺障害が残っていたとしても、MRIなどの画像に異常が見られなかった場合は、診断書を書くほどの症状ではないと判断されることがあります。
当然ですが、後遺障害がなければ診断書の作成を依頼することはできません。しかし、現時点で痛みやしびれが残っている場合は、たとえ症状が酷くなかったとしても後遺障害等級に該当する場合があります。
このようなケースでは、症状の良し悪しにかかわらず、まずは医師に「今の状況をそのまま記載してください」といって診断書の作成を依頼しましょう。当時の状況を正確に記載すれば、等級認定が認められる余地は十分にあります。
正当な理由なく診断書の作成を断られるケース
医師が正当な理由なしに後遺障害診断書の作成を断るのは法律で禁止されています(医師法第19条2項)。ですが、何らかの事情で正当な理由なく診断書の作成を断られることも存在します。
ここからは、正当な理由なしに診断書の作成を断られる事例についていくつか紹介します。
健康保険を使って治療している
健康保険を使って治療している場合、後遺障害等級認定に必要な書類は作成できないと断られることがあります。ですが、健康保険を使って交通事故の治療を受けることは認められており、自賠責保険へ後遺障害等級の認定を申請しても問題ありません。
医師が後遺障害診断書の書き方を知らない
医師に後遺障害診断書の作成を依頼しても、「当院では対応できない」などのあやふやな理由で断られることがあります。このような言い分で断られる理由として、医師が後遺障害診断書の書き方をよくわかってないことが挙げられます。
医師の仕事は怪我や病気の治療であるため、治療できずに残ってしまった後遺症への対応は消極的になりがちです。そのため、全ての医師が正しい診断書の書き方を熟知しているわけではなく、診断書の書き方を知らないことを理由に断られるケースも一定数あります。
しかし、医師には後遺障害診断書を作成する義務があり、正当な理由なしに作成依頼を拒否できません。医師が診断書の書き方を知らない場合は、こちらから書き方を説明することになります。
後遺障害診断書入手後の流れ
後遺障害診断書を入手した後は、後遺障害等級認定を申請してから示談交渉に移ります。期間としては、症状固定から等級認定を受けるまでに約2ヶ月、等級認定から示談成立までには約2〜3ヶ月かかると考えておいてください。
ここからは、後遺障害診断書を入手した後の流れについて詳しく解説します。
後遺障害等級の認定を申請する
後遺障害診断書を入手した後は「損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所」という機関に後遺障害等級の認定を申請します。申請結果は1〜2ヶ月程度でわかります。
等級認定の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。それぞれの申請方法の内容は以下の通りです。
加害者側の任意保険会社を仲介して等級認定を申請する方法です。被害者の方は相手方保険会社に後遺障害診断書を提出するだけでよく、残りの手続きは相手方の保険会社が代わりにおこなってくれます。
事前認定では、等級認定の手続きを相手方の保険会社に全て任せるので、被害者側に必要書類を揃えるための手間や費用がかかりません。一方で、書類の準備を保険会社に一任するため、書類の不備が起きやすく、正しい等級認定が受けられないリスクが高くなります。
また、事前認定で等級認定がなされた場合、保険金を受けとるタイミングは示談が成立したタイミングになります。等級認定を受けた段階で保険金を先払いしてもらうことはできません。
被害者本人が相手方の自賠責保険会社に必要書類を直接提出する方法です。あらゆる資料を被害者本人が収集する必要があるため、事前認定と比べると時間や手間がかかる手続きになります。
被害者請求を利用するメリットは、被害者が適切な適切な資料を準備できれば、適切な後遺障害等級が認定されやすくなることです。また、被害者自身が必要書類を提出するため手続きの透明性も確保されます。さらに、被害者請求では、等級認定が認められた時点で、自賠責保険から後遺障害慰謝料を先払いしてもらえます。

加害者側と示談交渉する
等級認定を受けた後は、加害者側との示談交渉に移行します。示談交渉では、加害者が加入している任意保険会社と損害賠償の金額などについて話し合います。
示談交渉では、相手方の保険会社から、示談金、示談金の内訳(車両の修理代、慰謝料、逸失利益など)、過失割合などが記載された示談書が送付されます。示談書の内容に納得ができる場合は、示談書に署名捺印して示談成立になります。
ただし、示談書に記載されている示談金は、相手方の保険会社が決めた金額になります。ほとんどの場合において、裁判で認められる適正な金額よりも低額になっているので、保険会社側の主張を鵜呑みにするべきではありません。
まとめ
後遺障害として認められるためには、等級認定の審査を受ける必要があります。このときに必要な書類が後遺障害診断書であり、診断書の記載内容によって等級認定の可否が決まります。
このように、後遺障害が認定されるためには、診断書の記載内容が重要になります。記入漏れがあると適切な等級が認められないため、不安がある方は弁護士に診断書の内容を確認してもらうことをおすすめします。
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