交通事故で後遺障害等級認定を申請して非該当や想定より低い等級に認定された場合、異議申し立てを行って決定の変更を求められます。しかし、異議申し立ての成功率は高くありません。
後遺障害等級認定の異議申立てとは
交通事故の被害に遭い、「治癒(病状固定)」後も痛みや痺れ、身体の障害など、何らかの後遺症が残った場合には、「後遺障害等級」の申請を行うと補償を受けられるようになります。
治癒(病状固定)とは、これ以上治療を行っても症状の改善が見込めない状態で、病状固定以降も症状が残るケースは一般的に「後遺障害」と呼ばれます。しかし、どのような症状でも補償の対象になるわけではなく、専門の機関で認定を受けられた場合のみ慰謝料等を受け取れます。
ただし、実際の認定率は15%程度とされていて、成功率は決して高いとはいえないでしょう。
交通事故の後遺障害とは
交通事故の後遺症は「後遺障害」と呼ばれ、1級~14級までの等級に分かれています。認定される等級によって請求できる慰謝料や逸失利益などの金額が変わり、数字が小さいほど障害も重く、受け取れる補償も手厚くなります。
後遺障害の認定を受けるには、「損害保険料率算出機構」の「自賠責損害調査事務所」への申請が必要で、後遺症が残っていても、手続きを行わなければ、認定を受けたり、補償を得たりできません。
後遺障害等級の認定に納得できない場合の対応とは
交通事故の後遺障害等級認定で満足のいく結果が出なかった場合、「異議申し立て」等の対応を行えば、決定を変更してもらえる可能性があります。後遺障害の認定で納得いかない場合に、交通事故の被害者がとれる手段には大きく以下の3つがあります。
- 異議申し立て
- 紛争処理申請
- 訴訟提起
異議申し立てとは、損害保険料率算出機構に対して書面で申請を行い、等級認定に関する再審査を求める手続きです。利用する場合にお金はかからず、回数制限もないため、時効にならない限りは何度でも行えます。
しかし、一度結果が出た審査のやり直しを求めるには、主張の根拠となる新しい証拠・資料を提示する必要があります。何度やっても結果が変わらなさそうな場合には、他の手段も検討してみてください。
本記事では、3つのうち、異議申し立ての手続きについて詳しく紹介していきますが、参考として、先に他2つの方法も簡単に説明しておきましょう。
「紛争処理申請」は「一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構」に調停を依頼する方法です。自賠責保険・共済紛争処理機構は、交通事故被害者の保護を目的に、自賠責保険に関する紛争について、専門的な視点から公正・中立な解決を目的に設置された機関です。
申請すると、弁護士や医師など第三者による保険金支払いの妥当性に関する審査が実施され、保険会社には調停結果の遵守が求められます。
裁判所に対して、民事裁判を提起し、自分が望む等級での後遺障害認定を求めていく方法です。裁判の結果は、これまでの審査や紛争処理申請による調停の影響を受けないため、他の方法で満足できる結果にならなかったケースで有効な手段といえます。
しかし、裁判で認定を受けるには、後遺障害を証明できるだけの証拠を集め、客観的に主張を行えるようにする必要があります。
後遺障害等級認定の異議申し立ての流れ
実際に、後遺障害等級認定で納得できない結果になり、異議申し立てを行う際の手続きの流れをみていきましょう。
異議申し立てに必要な期間
異議申し立てにかかる期間は通常2~3か月程度とされていますが、申請内容によっては6か月ほどかかる場合もあります。申請している間も時効は進行しているため、期間が長引くケースでは、うっかり消滅時効が成立しないよう注意が必要です。
異議申し立ての方法は2種類
異議申し立ては基本的に保険会社を介して行い、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
事前認定
加害者の加入している任意保険会社を通して異議申し立てを行う方法です。任意保険会社に「異議申立書」と添付書類・資料を渡し、再審査依頼を行ってもらいます。異議申し立てに伴う細かな手続きを保険会社が代わりにやってくれるため、被害者の負担は最小限に抑えられます。
2、後は結果が出るまで待っていれば、手続きは任意保険会社が行ってくれる。
被害者請求
被害者自身で手続きを行う方法で、異議申立書および添付書類を準備し、加害者の加入している自賠責保険会社を通じて再審査を依頼します。
自分自身で手続きを行うため手間はかかるものの、任意保険会社の手続きが事務的になりやすいのに対して、申立書の内容や証拠集めなど、認定率を高めるためのさまざまな手段を講じられるのがメリットです。
2、用意した書類を加害者の自賠責保険会社に提出して結果を待つ。
いずれの方法をとるか、決まっているわけではなく、被害者自身の判断に任されています。ただ、初回の申請が被害者請求で行われていた場合は、異議申し立ても被害者請求で実施する必要があります。
一般的には、被害者請求のほうが認定率は高くなるといわれていますが、申請書や証拠をどれだけしっかり準備できるかによるため、手続きに自信がない場合は、事前認定を利用しても構わないでしょう。
異議申立書の詳しい書き方について
異議申し立てを行う際には、方法の種類に寄らず、異議申立書を提出する必要があります。後遺障害の認定を受けられるよう、異議申立書はしっかり書かなければなりません。ここからは、異議申立書の詳しい書き方を説明していきます。
異議申立書に記載する内容
異議申立書には、特に決まった形式・フォーマットなどは存在していません。基本的にはどのような書き方でも構わないのですが、事前認定の場合は、保険会社から書類が送られてくるため、そちらに必要事項を記入してください。
被害者請求を行うケースで、自身での作成を求められる場合には、通常、異議申立人の住所・氏名・連絡先・作成日などに加えて、「異議申し立ての趣旨および理由」を記載するのが一般的です。
認定のどの部分に納得がいかず、審査の内容を覆すためのどのような証拠を用意しているかは、再審査の結果を左右する重要事項のため、しっかり記載するようにしましょう。また、異議申立書に資料等を添付する場合は、そちらの名称や内容も記載しておくと良いでしょう。
被害者請求では、以下のような添付書類を自分で用意する必要があります。
・カルテや検査データ
・医師の意見書
・症状に関する本人の陳述書など
一度非該当になったものを変更するには、新しく検査を受けた結果を添付するなど、以前の申請にはなかった新たな資料を提出する必要があります。
後遺障害等級の認定で弁護士に依頼するデメリットはあるか?
後遺障害の認定で弁護士にした場合のデメリットとして一番に考えられるのは費用の問題でしょう。多くの方は弁護士費用は高額なものと思っているので不安になるかもしれません。
弁護士費用には、「相談料」や依頼時に支払う「着手金」、依頼が成功したときに発生する「成功報酬」などがあり、合計すると数十万円になるケースが多く、決して安い金額とはいえないでしょう。ただ、費用面に関しては、「弁護士特約」が利用できれば負担を大きく軽減できます。
弁護士特約を利用すれば、弁護士費用の問題や弁護士費用が受け取る損害賠償を上回ってしまう「費用倒れ」の心配がなくなります。弁護士特約は家族の加入している保険でも利用できる場合が多く、クレジットカードや火災保険に付帯しているケースもあるため、交通事故の被害に遭われた際には使えるものがないかを調べてみてください。
他に弁護士への依頼で注意する点は、適切な依頼先の選定です。弁護士も得意分野はさまざまで、後遺障害に関する相談をするなら、交通事故に強い弁護士を探す必要があります。
最近は各事務所のホームページで得意分野やこれまでの実績などが紹介されているため、信頼できる弁護士事務所を見つけてみてください。
異議申し立てが認められた事例
ここからは、交通事故で後遺障害が残ったものの、非該当など思うような認定を受けられなかったケースで異議申し立てを行い、実際に認定を受けられた事例を紹介していきます。
①非該当から後遺障害14級9号の認定を受けられた事例
交差点で横断歩道を渡っていたとき、右折してきた車とぶつかる事故を起こしたAさんは、頚部挫傷等の診断を受け、治療が終わってからも末端の痛みやしびれといった症状が残りました。
Aさんは後遺障害等級の認定を受けてきちんと補償をもらいたいと考えていましたが、申請の結果は非該当に。しかし、実際に症状は出ているため補償が受けられないのは困ります。悩んだAさんは、弁護士に相談することにし、異議申し立ての制度を紹介されます。
弁護士のアドバイスをもとに、病院から詳細なカルテやリハビリに関する書類を取り寄せ、添付資料として異議申立書を提出。再審査では14級9号の認定を受けられ、示談交渉によって加害者から損害賠償を得られるようになりました。
②異議申し立てで、高い等級へ変更できた事例
Bさんは、車を運転している最中、カーブで対向車と衝突し、顔面の骨折など重傷を負いました。治療後も、顔の一部には傷跡が残り、さらには感覚の異常(神経症状)も見られたため、後遺障害等級の申請を行ったところ、併合12級で認定の結果になりました。
後遺障害では、複数の等級に該当する症状の場合、極めて重い等級へ繰り上げる「併合」といわれる制度があり、今回のケースでも適用されたのです。しかし、Bさんとしては、顔に大ケガを負ったこともあり、併合12級では軽いと感じました。結果に納得できないBさんは弁護士へ相談。
このケースで併合12級は認定される等級として低いという意見をもらうとともに、異議申し立ての制度について知り、利用することを決めます。
異議申立書には、弁護士のアドバイスをもとに、最初の認定の不当さや病状固定後も神経症状が頑固に続いている事実などを丁寧に記載。再審査の結果、併合11級の認定を受けることができました。
異議申し立てを成功させるポイント
ここまで、交通事故の後遺障害等級の認定に納得できなかった場合に利用できる異議申し立ての制度について紹介してきました。しかし、実は異議申し立ては回数こそ制限はないものの、成功率は決して高いとはいえません。
年間の申請数約1万2000件に対して、変更が認められるのは2000件ほどで、実際の認定率は15%程度とされています。そこで、最後に申請時や異議申し立ての成功率を高めるために注意したいポイントについて解説します。
異議申し立てでは時効にも注意する
異議申し立ての際は、損害賠償請求権の時効に関しても注意しましょう。せっかく認定を受けられても、時効のために補償を受けられなくなっては意味がありません。損害賠償の時効は、事故発生の翌日から人身事故なら5年、物損事故なら3年です。
ひき逃げなど加害者が不明の場合は、判明した日の翌日から5年または3年で、加害者が判明しなかった場合は、事故の翌日から20年で時効を迎えます。ただ、事故により後遺障害が残った場合は、病状固定の診断をもらった次の日から5年になるため、それほど慌てる必要はないでしょう。
しかし、交通事故では、後遺障害の認定を受けるだけでなく、相手方との示談交渉によって損害賠償を決めていくのにも時間がかかるため、完全に無視してしまうのも危険です。損害賠償請求には時効が存在すると頭の片隅にはとどめておきましょう。
非該当になった理由を分析して対策を立てる
異議申し立てを行う際は、なぜ前回の申請では、納得のいく等級が認定されなかったのかを分析してきちんと対策する必要があります。以前と同じ内容で申請しても、また失敗してしまう可能性が高いといえるでしょう。
認定を受けられなかったのは、後遺障害に該当すると判断されるだけの客観的な証拠などが不足していたと考えられます。今度の申請では、CTやMRIなど画像検査の結果や新しい後遺障害診断書、医師による画像所見、意見書、詳細なカルテなど、足りなかった医学的資料などを添付して提出すれば、認定される確率もより高くなります。
前回の審査結果が出された理由については通知書に記載されていますが、一般の方が見ても対策に困るケースもあるでしょう。そこで、どういった点が悪かったのか、何の資料が必要かについては、交通事故や後遺障害に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。
まとめ
交通事故で後遺障害等級の認定を申請したものの、非該当になったり、望むような等級の認定を受けられなかったりしたケースでは、異議申し立てを行えば、結果が変更される可能性があります。
しかし、異議申し立ての成功確率は決して高いとはいえないため、申請の際は、以前はどこが悪かったのかをきちんと分析し、医学的資料を揃えるなどの対策が必要です。
どういったところに問題があったのか、どのような対策を立てればいいのか、わからないという方は、一度、交通事故に詳しい弁護士などに相談してアドバイスをもらうようにしましょう。
- すべて弁護士にお任せください!!
弁護士が示談交渉、慰謝料の増額をサポート!- 交通事故のご相談はコチラ