労災によるうつ病で後遺障害は認定される?等級は何級か

労災によるうつ病で後遺障害は認定される?等級は何級か

仕事が原因でうつ病などの精神疾患を発症したと認められるケースでは、条件を満たせば労災と認められる可能性があり、後遺障害等級の認定も受けられます。

本記事では、労災のうつ病による後遺障害等級に認定される条件や認められる等級について解説します。

労災の後遺障害とは

労災」とは「労働災害」の略で、労働者(アルバイトなども含む)が業務や通勤中の事故などによって傷病や死亡などが起こった場合を指す用語です。労働災害が認められると「労災保険」から給付を受けられるようになります。

一般的に労働災害といえば、工場の機械でケガをするケースや通勤途中での事故などが思い浮かぶかもしれません。しかし、それだけでなく、過労やセクハラ・パワハラといった心理的負荷が原因となる「うつ病」などの精神疾患も労災として認定される場合があります。

労災の後遺障害等級とは

「後遺障害」とは、労働災害で負ったケガが治療後も治りきらず、何らかの症状が残ってしまった状態です。労災によるケガや精神疾患などで後遺症が残ったケースでは、労働基準監督署への申請を行い、認定を受けられると労災保険から後遺障害に関する補償も受けられるようになります。

労災の後遺障害は、症状の程度によって1級~14級までの等級に分けられており、後遺障害等級表に記載されている症状に該当する場合に、規定の等級認定を受けられます。

後遺障害等級では、数字が小さいほど障害が重く、比例して、手厚い補償を受けられます。

うつ病でも労災認定はされるのか

労災は、ケガなどの肉体的な疾患だけでなく、精神的な疾患にも認められ、業務に起因してうつ病を発症したと考えられるケースでは、労災認定を受けられる可能性があります。うつ病をはじめとする精神疾患で労災と認められるため、満たす必要のある要件は次の3つです。

3つの要件
要件①:精神疾患を発症するおおむね6か月以内に業務が原因となる強いストレスを受けた。
要件②:うつ病やストレス反応など、労災認定の対象になる精神疾患*と診断された。
要件③:うつ病などの精神疾患が業務外のストレスや個体側要因**による発症とはいえない。

*認定の対象になる後遺障害は、WHO(世界保健機関)が作成した『国際疾病分類第5章「精神および行動の障害」』に記載されている精神疾患で、以下の分類コードの症状が該当します。

F2:統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
F3:気分(感情)障害
F4:神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5:生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6:成人の人格および行動の障害
F7:知的障害(精神遅滞)
F8:心理的発達の障害
F9:小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害
※F1、F0は認知症や脳の障害、アルコールや薬物依存症のため除外されています。

なかでも、後遺障害の対象になりやすいのは、次の2つです。
「F3:気分(感情)障害」……うつ病や躁病、双極性感情障害(躁うつ病)など。
「F4:神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」……パニック障害、適応障害、急性ストレス反応、恐怖性不安障害、対人恐怖症、社会恐怖症など。

**「個体側要因」とは、精神疾患の既往歴など本人に特有の事情です。会社に勤める前から精神疾患で通院していた場合や治ったり発症したりを繰り返していた場合などは、個体側要因が認められ、後遺障害認定が受けにくくなる可能性があります。

上記3つの要件を満たしており、労災と認定された場合には、労災保険から以下のような補償を受けられるようになります。

「休業補償給付」……労災により仕事を休まなければならなかった期間の給与に対する補償。休んだ期間に応じて休業4日目から、給付基礎日額*の8割が支払われる。
「病養補償給付」……労災による病院での治療費に対する補償。うつ病の場合は治療に数年かかるケースもあるが、その間も継続的に支払われる。
「障害補償給付」……労災により後遺障害が残った場合に受けられる補償**。認定された後遺障害等級によって支払われる補償額が変わる。

*給付基礎日額
労災が発生する直近3か月前の給料をその期間の日数で割った金額で、労災による補償を計算する際の基になる。
例えば、4月に労災が起こり、1月から3月までの給料が月20万円だったとすると、
給付基礎日額=20万円×3か月÷(31日(1月)+28日(2月)+31日(3月))=60万円÷90日=6,666円
支払いが給付基礎日額の8割とすると、金額は1日当たり5,332円となる。

**障害補償給付には、後遺障害の等級に応じて以下のような補償がある。

障害補償年金後遺障害等級1~7級に認定された場合に、年金として受け取れる補償。給付基礎日額をもとに、等級によって支払い日数が決まっている。
1回に限り前払いを受けられる「前払一時金」制度がある。
障害補償一時金後遺障害等級8~14級の認定を受けた場合に一時金として一括で支給される補償。給付基礎日額をもとに、等級によって支払い日数が決まっている。
特別支給金後遺障害等級1~14級の認定を受けた場合に一時金として支給を受けられる補償。等級によって支払額が決まっている。
障害特別年金後遺障害等級1~7級の認定を受けた場合に年金として受け取れる補償。
賞与額を基礎にした算定基礎日額をもとに支給され、前払い制度は存在しない。
障害補償一時金後遺障害等級8~14級の認定を受けた場合に一時金として一括で支給される補償。賞与額を基礎にした算定基礎日額をもとに支給される。

うつ病の後遺障害等級の認定方法

労災による精神疾患でうつ病やPTSD(外傷後ストレス障害)など、脳の損傷を伴わない精神障害は「非器質性精神障害」と呼ばれ、治療後に残った「精神症状」と「能力判断項目」についての関係により後遺障害等級の判断と認定が行われます。

精神症状」とは、具体的な精神疾患の症状で、次のような障害が認定の対象になっています。

  • 抑うつ状態
  • 不安の状態
  • 意欲低下
  • 慢性的な幻覚、妄想
  • 記憶、知的能力の障害
  • その他の障害(衝動性障害や不定愁訴(原因不明の体調不良)など)

能力に関する判断項目」では、次のような項目から、精神疾患が今後の生活にどれくらい影響を与えるかを判断します。

身辺の日常生活きちんと規則的な食事がとれるか。
更衣や入浴などを適切に行って清潔な状態を保てるかなど。
仕事や生活への積極性や関心仕事や娯楽に対する関心をもっているか。
通勤、勤務時間を守れるか毎日規則的に決められた時間に通勤・出勤できるか。
きちんと約束の時間を守れるか。
普通の作業を持続できるか決められた業務をこなして通常の労働が行えるか。
一般的な持続力、集中力で業務に取り組めるか。
他人との意思伝達同僚や上司など、職場の人間と適切なコミュニケーションがとれるか。
自分から発言ができるか。
対人関係・協調性職場の上司や同僚と協力しながら作業が行えるか。
適切な社会的行動がとれるか。
身辺の安全保持、危機回避業務上での危険やリスクから適切に自分の身を守れるか。
困難や失敗への対応職場で新しいストレスを受けた場合に、大きな緊張や混乱を起こさずに適切な対処がとれるか。

以上の項目について、次の4つの区分に分けて後遺障害の等級を判断します。

  • 全くできない
  • しばしば助言や援助が必要
  • 時々助言や援助が必要
  • 適切に、または、おおむねできる

非器質性の精神疾患は、要因が多岐にわたり、また症状が将来的に改善する可能性もあるため、労災の後遺障害を認めてもらうためには、精神科医による診断を受けているのが前提になっています。

 もし専門医の精神医学的治療を受けていない場合は、自賠責保険の後遺障害等級に認定されないケースもあるため注意しましょう。

うつ病で認定される可能性がある後遺障害等級は?

労災によるうつ病などの精神疾患では、自賠責保険の後遺障害等級第9級、第12級、第14級のいずれかで認定を受けられる可能性があります。

等級症状判断基準
9級10号精神や神経系統の機能に障害が残り、通常通りの労務に就けるものの、できる業務の内容が相当に制限を受けてしまう。1:就労しているか、意欲はあるものの就労していない人で、
・判断項目の4つ以上について助言、援助が必要。
・「身辺の日常生活」を除く能力の1つが失われている。

2:意欲低下により就労していない人で、「身辺の日常生活」への助言、援助が必要。

12級13号通常通りの労務に就けるが精神疾患のため、多少の障害が残っている。1:就労しているか、意欲はあるものの就労していない人で、判断項目の4つ以上について、ときに助言、援助が必要。

2:意欲低下により就労しておらず、「身辺の日常生活」についておおむね適切な対応ができる。

14級9号通常通りの労務に就けるが精神疾患のため、軽微な障害が残っている。判断項目の1つ以上について、時に助言、援助が必要。
ケース①:上司からのストレスによるメンタル不調で後遺障害14級に認定された事例

病院に勤務していたAさんは、部下に対して感情的な接し方をする直属の上司と折り合いが上手くいっていませんでした。そんな中、上司から特に強くヒステリックな対応をされたのがきっかけで、Aさんはメンタルを崩してしまい、出勤できなくなってしまいます。

長期にわたる治療を続けたものの、症状は改善しなかったため、労働基準監督署に申請を行ったところ、後遺障害14級が認められました。

ケース②:過労とパワハラによるうつ病で後遺障害12級に認定された事例

会社員のBさんは、会社から能力を超える大きなノルマを課せられており、過重労働や業績に関する上司から叱責のため、長期にわたって精神的に極度のストレスにさらされてきました。とうとう、Bさんはメンタルを崩して入院することになってしまいます。退院後も1年近く通院を行って治療に努めましたが、症状は完全には治りませんでした。

そこで、Bさんは労働基準監督署に申請を行い、うつ病による労災として後遺障害12級の認定を受けられました。

労災による後遺障害で請求できる慰謝料の相場

労災による後遺障害で請求可能な慰謝料は、大きく「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」に分けられ、2つを合わせた合計がもらえる慰謝料額になります。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院期間および通院期間の長さに応じて、以下の表をもとに計算されます。

 

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月7か月8か月9か月10か月11か月12か月
0か月053101146186220250266277286295303308
1か月2776121164201228255270282291298306310
2か月4999141181209236259274286294301308312
3か月72119159193217244263278290298304311314
4か月90134165199224249267282294301306313317
5か月108145175207230254270286298304308316319
6か月120153183213236259275290300306311318322
7か月128161193217242263280294302308313320324
8か月136169198224248267284298305311316323326
9か月144176204232254271288301307313318325329
10か月152182210236260274292304310316320328331
11か月160188216241264277294306312318323330334
12か月166194220246268281296308314320325332336

単位:万円

上記の表をもとに、例えば、精神疾患で1か月入院し、3か月通院を行った場合の入通院慰謝料額は、119万円になります。

なお、うつ病など労災の精神疾患に関しては、厚生労働省のデータで、薬物治療が効果を発揮した場合において、9割が6か月以内に職場復帰(リハビリ勤務を含む)可能となり、8割が1年以内に、9割以上が2年以内に治ゆ(症状固定)になっているとされます。そのため、労災の精神疾患で後遺障害認定を受けようとする場合は、ある程度長期の治療期間が必要になるでしょう。

参考:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について

後遺障害慰謝料

後遺障害では、認定を受けた等級ごとに、次のように慰謝料の額が決められています。

等級弁護士基準
1級2,800
2級2,400
3級2,000
4級1,700
5級1,440
6級1,220
7級1,030
8級830
9級670
10級530
11級400
12級280
13級180
14級110

単位:万円

上記の表をもとに、例えば、後遺障害12級に認定された場合に請求できる慰謝料額は280万円になります。

うつ病で後遺障害等級が認定されないときの対処法

労災によるうつ病で後遺障害等級の申請を行ったにもかかわらず、認定を受けられなかった場合には、不服申し立てを行い、不足していた資料などを追加してもう一度申請すると、認定される可能性があります。

労災のうつ病は、外見から判断できない上に、仕事が原因で精神疾患になったことや個体側要因でないことなどを証明しなければならず、認定が難しい後遺障害とされています。申請が通らないケースも十分に考えられるため、対処法をきちんと把握しておくのが大切です。

労災のうつ病による後遺障害認定の不服申し立てとは

労災によるうつ病で後遺障害の申請を行ったものの、認定を受けられずに労災保険が不支給になったり、思っていたよりも低い等級での認定しか受けられなかったりしたケースなど、結果に納得がいかない場合は、不服申し立てが可能です。

不服申し立てでは、申請を行った労働基準監督署を管轄している「都道府県労働局」の「労働者災害補償保険審査官」に「労働保険審査請求書」を提出して審査請求を行います。不服申し立てには期限があり、不支給の処分を知ってから3か月以内に申請しなければなりません。

 審査官は、労働基準監督署による審査内容を確認し、不服申し立ての申請が妥当と判断すれば、決定の一部または全部の取り消しを行いますが、逆に妥当性がないと判断されてしまうと請求は棄却されます。

不服申し立てでも認定を受けられなかった場合は

不服申し立てを行ったにもかかわらず、再び認定を受けられずに不支給となった場合、「再審査請求」と「取消訴訟」の2通りの対応が可能です。

再審査請求

裁判の2審にあたる制度で、労災保険の不服審査を行っている「労働保険審査会」に対して再審査請求を申請します。再審査請求にも期限があり、審査請求の決定書が送られてきた日の翌日から2か月以内でなければなりません。

取消訴訟

裁判所に対して、原処分や審査請求、再審査請求の取り消しを求めて訴訟を提起する方法です。取消訴訟にも期限が定められており、各申請の結果を知ってから6か月以内に裁判を起こす必要があります。裁判所は労働基準監督署などとは独立した判断を行うため、従来の申請結果を覆せる可能性は高いといえるでしょう。

ただ、個人で裁判に対応するのは難しいため、訴訟を検討している方は、一度弁護士など法律の専門家に相談してみてください。

労災によるうつ病で後遺障害認定を得るなら弁護士への依頼を

労災によるうつ病で後遺障害等級の申請を行う場合は、一度、弁護士に相談してみるのをおすすめします。業務上のストレスが原因となって起きた精神疾患は、後遺障害認定の対象になっているものの、認定率は30%程度(参考:厚生労働省「精神障害に関する事案の労災補償状況」)で、不支給になる可能性も高いといえるでしょう。

きちんと認定を獲得し、適切な補償を受けるためには、労災による精神疾患を証明できる資料が必要になります。しかし、医師は後遺障害の専門家ではなく、どのような検査結果や診断書があれば、認定を受けられるかわかっていないケースも多いのです。そのため、医師の指示に従っているだけでは認定を受けられない可能性もあります。

そこで、後遺障害の申請を行う前には、労災案件に強い弁護士に相談し、アドバイスをもらいながら一緒に申請を進めていくようにしましょう。弁護士であれば、診断書や申請書の内容の不備や記載漏れなどを指摘してもらえるため書類でミスをする可能性がなくなり、さらに、不支給となった場合にも裁判等での対応を依頼できます。

POINT
労災によるうつ病で後遺障害等級の申請をお考えの方は、弁護士など法律の専門家へ依頼を行い、相談しながら進めていくようにしましょう。

まとめ

労災によりうつ病などの精神疾患になってしまい、治療後も何らかの症状が残ったケースでは、後遺障害に認定されると労災保険から補償を受けられるほか、慰謝料の請求も可能になります。

しかし、うつ病で労災が認められるには、いくつかの条件があり、さらに、業務上のストレスが原因になったと証明しなければならないため、認定率は決して高いとはいえません。

診断書や申請書のほか、精神疾患を証明できる資料などをきちんと揃え、適切な後遺障害等級の認定を受けるには、弁護士など労災認定に詳しい専門家のアドバイスが有効です。労災によるうつ病で後遺障害認定を申請したいと考えている方は、ぜひ一度、弁護士への依頼を検討してみてください。

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