労災による後遺障害に対する補償には、障害補償給付というものがあります。ただし、障害補償給付は自動的に支払われるものではありません。

労災による後遺障害とは
交通事故による労災にあって後遺障害が残った場合、労働者は労災保険から後遺障害に関する給付金を受け取れます。では、労災における後遺障害とはどのようなものなのでしょうか。詳しくみていきましょう。
労災とは
労災(労働災害)とは、労働者が業務中や通勤中に見舞われた災害(負傷・病気・障害または死亡)をいいます。労災の認定を受ければ、正社員、パート、アルバイト等の就業形態にかかわらず、労災保険の給付を受けることができます。
労災の種類について
一般的な労災は、「業務災害」と「通勤災害」の2つに分類されます。それぞれの内容は以下の通りです。
業務災害
労働者が業務中に見舞われた負傷・病気・障害または死亡のことです。例えば、工場勤務でベルトコンベアーに指をはさんで怪我したときは業務災害にあたります。
業務災害と認められるためには、
- ①被災労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある(業務遂行性)こと
- ②業務がきっかけで災害が発生したという因果関係がある(業務起因性)こと
が必要になります。

通勤災害
労働者が通勤中に見舞われた負傷・病気・障害または死亡のことです。例えば、朝の通勤で車を運転した労働者が、左折巻き込み事故にあってむち打ちを発症したときは通勤災害にあたります。
通勤災害における「通勤」とは、
- ①住居と就業の場所との間の往復
- ②就業の場所から他の就業の場所への移動
- ③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
のうち、合理的な経路及び方法によって行うことをいいます。
合理的な経路を逸脱すれば「通勤」にはなりませんが、スーパーでの買い物など、日常生活上必要と認められる最小限度のものである場合は、合理的な経路を逸脱したことにはなりません。
後遺障害とは
交通事故などで負ったケガや病気を治療したものの、完治せずに残ってしまった機能障害や神経症状のことを後遺障害といいます。業務中や通勤中に発生した交通事故で後遺障害が残った場合、「後遺障害等級」の認定を受けることで、労働者は労災保険から後遺障害についての給付金が支払われます。
後遺障害等級は1級から14級まであり、障害の程度が重い1級に近づくほど補償の内容が手厚くなります。
労災による後遺障害で受け取れる給付金
労災による後遺障害で受け取れる給付金は以下の通りです。
障害補償給付
労災による後遺障害で等級が認定されると、労災保険から障害補償給付が支払われます。障害補償給付は、後遺障害の程度によって年金と一時金に分かれます。
介護補償給付
障害の程度が重く介護が必要なケースでは介護給付を受け取れます。障害等級1級であれば全て、障害等級2級であれば精神神経・胸腹部臓器の障害が残ったときに、介護給付が支給されます。
療養補償給付
労災によるケガや病気を治療するために病院へ通ったときは、その治療費や交通費などについて療養補償給付を受け取れます。
休業補償給付
ケガや病気を治療するために仕事を休んだときは、働けなかった機関について休業補償給付を受け取れます。
症状固定とは
症状固定とは、ケガや病気の治療を継続しても症状の一部が改善せず、これ以上治療を継続してもその効果が期待できない状態のことを意味します。症状固定の時期は、医師が被災労働者の様子をみて判断します。交通事故によるむち打ち症は、3ヶ月〜6ヶ月の経過観察を経た上で症状固定になるケースが一般的です。
症状固定になると治療は終了したものとして扱われます。治療中は労災保険から療養補償給付や休業補償給付が支払われますが、これらは症状を治療しているときに支払われる給付金なので、症状固定以降は支払いがストップします。

障害補償給付は請求が必要
障害補償給付は自動的に支給されるものではありません。休業補償給付や療養補償給付とは別に、被災労働者が改めて請求するなどの対応が必要です。ここからは、障害補償給付の請求方法や注意点について解説します。
労災申請の必要書類
労災保険は、所定の様式で作成した給付請求書と必要な添付書類を提出して請求します。障害補償給付の請求で必要となる書類は以下の通りです。
・後遺障害診断書
・レントゲン写真などの検査結果
障害補償給付支給請求書と診断書については、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。診断書については、担当医に自覚症状を丁寧に説明して記載漏れがないように記入してもらってください。
障害補償給付の請求方法
請求書や診断書、レントゲン写真などの資料を用意できたら、それらを労働基準監督署に提出することで障害補償給付を請求できます。労働者が属している会社が労災認定するわけではないため注意しましょう。
その後、労働基準監督署が必要な調査を行い、顧問医が直接被災労働者と面談した上で、後遺障害の等級認定を判断します。労災認定されると障害補償給付が支払われます。
障害補償給付の請求には時効がある
労災申請には時効期限があります。時効期限を過ぎると、それ以降は労災保険を請求できなくなります。
時効期限は労災保険の内容ごとに異なります。障害補償給付の時効は5年となり、傷病が治癒(症状固定)した日の翌日から時効のカウントが進みます。

労災の後遺障害の申請タイミングは?
労災の後遺障害はいつ申請すればいいでしょうか。後遺障害の程度は、症状固定の後に評価されます。そのため、後遺障害の申請タイミングは症状固定後になります。症状固定の時期については、大きく分けて以下の2つになります。
- 医学上妥当と認められる期間を待ってから
- 症状固定の見込みが6か月以内の期間においても認められないものについては、療養の終了時
①の「医学上妥当と認められる期間」とは、6ヶ月以内の期間を意味します。例えば、指の欠損などの器質的な障害については、通常元に戻ることはないと考えられるため、6ヶ月を経過しなくても症状固定と判断できます。
他方で、痛みや痺れなどの神経症状や、関節の可動域制限といった機能障害は、一定期間治療を継続することで回復する可能性があります。そのため、まずは6か月間様子を見て、完治しなければそれ以降の妥当な時期を症状固定日と考えます。これが②のケースになります。
後遺障害等級が認定されるまでの流れ
事故発生から後遺障害等級が認定されるまでの流れは以下の通りになります。
1、ケガや病気の治療を受ける
労災事故にあったら、まずはケガや病気の治療をしましょう。これ以上治療を続けても改善の見込みがないと判断されると、担当医から症状固定と診断されます。この時点で治療は終了したものと考えられ、労災関係の書類では「治ゆ」と表記されます。

2、必要書類を提出する
症状固定と診断されたら、労災保険請求に必要な書類を収集しましょう。障害補償給付支給請求書、後遺障害診断書、レントゲン写真などが用意できたら、それらを労働基準監督署に提出します。
3、労働基準監督署による審査が行われる
所轄の労働基準監督署に必要書類が提出されると、労働基準監督署において後遺障害の等級の認定審査が行われます。労災の等級認定審査では、原則として地方労災医員という医師が、後遺障害の等級認定の判断にあたって被害者との面談を行います。
4、支給決定通知が届く
労働基準監督署で後遺障害の審査が完了し、等級が認定されると、厚生労働省から支給決定通知と支払振込通知が一体となったハガキが送付されます。通知が送付されるタイミングの前後に、支払振込通知記載の等級に応じた障害補償給付年金又は一時金が、振込指定先の口座に振り込まれます。
労災の後遺障害等級認定で気を付けること
労災の後遺障害等級は必ずしも認められるわけではありません。ここからは、適切な等級が認定されるためのポイントについて解説します。
後遺障害診断書の記載内容が重要になる
後遺障害等級の申請にあたっては、労働基準監督署に送付する後遺障害診断書の内容が非常に重要になります。
労災保険を利用する際には、労災指定の診断書の書式を用意し、担当医に後遺症の内容を記載してもらいます。記載内容が不十分であると正しい等級が認定されないおそれがあるため、日常で感じる痛みや痺れについて、日頃から丁寧に説明するようにしましょう。
結果に納得いかないときは不服申立てする
等級認定を申請しても、想定よりも低い等級が認定されたり、等級不該当で不支給決定がなされたりすることがあります。そのような場合は、所定の行政庁に不服申立てができます。不服申立ての種類には以下のものがあります。
審査請求
行政庁が違法または不当な処分をしたときに、労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行う不服申立てです。審査請求は、後遺障害の認定結果を知ってから3ヶ月以内に、口頭・書面・電子申請で行う必要があります。
審査請求が認容された場合は、行政庁の処分(労災保険の不支給決定)が取消されます。
再審査請求
審査請求が棄却となったり、3ヶ月が経過しても結果が出なかったりする場合は、労働保険審査会に対して「再審査請求」ができます。再審査請求は、審査請求の決定書送付の翌日から2か月以内にする必要があります。
また、再審査請求は、審査請求とは異なって口頭ではできず、書面で提出しなければなりません。
後遺障害認定されても慰謝料はもらえない
労災で後遺障害等級が認定されても慰謝料は受け取れません。なぜなら、慰謝料は労災保険の給付内容に含まれていないからです。会社や第三者から慰謝料を受け取るためには、労災保険請求とは別に損害賠償請求をする必要があります。
では、どのようなケースで会社や第三者に慰謝料を請求できるのでしょうか。それぞれに分けて解説します。
会社への請求
労働者を雇う会社は、労働者の生命や身体に損害が生じないために労働環境を整える配慮をしなければなりません(安全配慮義務)。
例えば、老朽化した設備をメンテナンスしていなかったり、長時間労働を強いたりしたことで業務災害が発生したときは、会社側に課せられた安全配慮義務を実行できていないということになります。

第三者への請求
労災が第三者の故意や過失によって引き起こされた場合は、第三者に対して不法行為にもとづく損害賠償請求ができます。例えば、通勤途中に生じた交通事故の加害者や、PTSDの原因になったパワハラをしてきた上司に対しては、個別に損害賠償請求をすることができます。
適切な補償を獲得するためには弁護士に相談しよう
多くの被災労働者にとって、労災にあうのは初めてのケースが多いと思います。ケガや病気で万全でない状態で、労災関係の手続きを全てこなすのは困難といえるでしょう。そのような場合は、労災問題に強い弁護士への依頼がおすすめになります。
弁護士に依頼するメリットには以下のものが挙げられます。
メリット① 適切な等級が認定されるようにサポートしてくれる
労災認定を受けるためには、労働基準監督署に送付する書類の内容が重要になります。しかし、医師は治療の専門家であるものの、後遺障害認定の専門家ではありません。等級が認定される基準を必ずしも熟知しているわけではないため、そのままでは診断書の内容が不十分なケースがあります。
弁護士であれば、等級認定に必要なポイントを押さえているので、適切な診断書の書き方についてアドバイスが受けられます。

メリット② 会社や第三者に損害賠償請求してくれる
先ほども述べた通り、労災保険では慰謝料の補償はありません。災害の原因となった会社や第三者に対して別途慰謝料を請求をする必要があります。しかし、法律に詳しくない被災者が会社や第三者に慰謝料請求しても、適切な賠償金を獲得するのは難しいでしょう。
メリット③ 弁護士特約を利用できる
労災事故が交通事故で発生したときは、被災者本人や家族が加入している自動車保険などに付帯している「弁護士特約」を利用することができます。
交通事故で500万円の損害賠償請求を弁護士に依頼した場合、特約なしだと100万円以上の弁護士費用がかかってしまいます。特約があれば実質タダで依頼できるようになるため、積極的に弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、被災者や家族の方が加入している保険に弁護士特約が付帯しているか調査してもらうこともできます。

まとめ
交通事故による労災で後遺障害が残ったときは、労災保険から障害補償給付を受け取れます。ただし、後遺障害等級が認定されなければ、障害補償給付は支払われません。
交通事故で痛みや痺れが生じた場合、後遺障害等級の申請タイミングは受傷してから6か月以上経過した後になります。それ以前は等級の評価が行われないため、申請してもムダなものになるおそれがあります。
労災認定の分野は法律知識が求められるため、わからないことがあれば気軽に弁護士に相談してみてください。
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