後遺障害の併合とは?慰謝料にも影響する等級認定のルールを詳しく解説

後遺障害の併合とは?事例や併合の例外について

後遺障害の「併合」とは、2つ以上の障害等級を合わせることを指します。

交通事故に遭ったために複数の箇所に後遺障害が残ると、等級を繰り上げる併合のルールがあります。

”豊川弁護士”
この記事では併合の原則と例外を解説します。さらに、併合により賠償金を上乗せできた例を紹介します。

後遺障害に認定される症状とは

交通事故による治療で治りきらなかった傷病は「後遺症」として扱われ、条件に該当すれば「後遺障害」を申請できます。

交通事故で負ったケガは、治療しても必ずしも完治するとは限りません。傷病の一部または全部が後遺症として残り続けることは多いです。しかしただ単に後遺症が残ったからといって、後遺障害に認定されるわけではありません。認定されるのは、以下に当てはまる後遺症です。

  1. 交通事故と残った障害に因果関係がある
  2. 後遺障害の存在が医学的に認められている
  3. 労働能力の低下(喪失)を伴う
  4. 自賠法施行令が定める等級に該当する

ひとつでも当てはまらなければ、後遺障害とは認められません。

後遺障害等級の考え方

後遺障害は後遺症の種類、部位、程度に応じて、1〜14の等級に分類されています。

後遺障害の等級認定を受けると、被害者は加害者に対して慰謝料や逸失利益(事故によって労働能力が減少しなければ本来得られるはずの収入)などの損害賠償請求ができるようになります。

症状が重くなる1級に近づくほど、高額の慰謝料や逸失利益を請求できます。どの等級が認定されるかによって、支払われる損害賠償の金額は大きく異なりますので、後遺障害の等級認定は重要な手続きになります。

また、後遺障害が2つ以上残ってしまったときは、「併合」「相当」「加重」を用いて等級を上げる措置が取られます。

後遺障害における併合の基本的なルール

一度の事故で部位や系列が異なる障害が残り複数の後遺障害等級が認定されると、通常は等級の繰り上げが生じます。この処理を「併合」といいます。

後遺障害の種類は、「眼」「耳」「鼻」「口」などの10の部位に区分され、さらにそれぞれの機能ごとに35の系列にグループ化されています。異なる部位やグループの後遺障害等級に認定されたときは、併合によりひとつの等級に認定されます。

併合は基本的なルールが定められています。

  • 5級以上の後遺障害が2つ以上ある→最も重い等級を3つ繰り上げる
  • 8級以上の後遺障害が2つ以上ある→最も重い等級を2つ繰り上げる
  • 13級以上の後遺障害が2つ以上ある→最も重い等級を1つ繰り上げる
  • 14級の後遺障害が2つ以上ある→いくつ障害があっても14級のまま

併合では等級が繰り上がるのが原則ですが、14級は対象にならないと決められています。

併合のルール最も重い等級
1〜5級6〜8級9〜13級14級
次に重い等級1〜5級最も重い等級+3級   
6〜8級最も重い等級+2級最も重い等級+2級最も重い等級+2級 
9〜13級最も重い等級+1級一番重い等級+1級最も重い等級+1級 
14級最も重い等級最も重い等級最も重い等級14級

後遺障害の併合の例外について

後遺障害の併合ルールに当てはまらない、例外も存在しています。一度の事故で複数の障害を患ったケースでも、部位と系列によれば併合が生じないこともあるので注意してください。

みなし系列

次の部位に障害が残った後遺障害は、系列に違いがあったとしても同一系列として扱われます。これを「みなし系列」といいます。

みなし系列
​​1、両眼球の視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各相互間
2、同一上肢の機能障害と手指の欠損または機能障害
3、同一下肢の機能障害と手指の欠損または機能障害

組み合わせ等級

部位、系列が別であっても以下のように左右で一定の後遺障害が発生した場合は、併合ではなく「組み合わせ等級」として扱われます。

組み合わせ等級
1、両上肢をひじ関節以上で失ったもの(1級3号)
2、両手の手指の全部の用を廃したもの(4級6号)
3、両下肢の用を全廃したもの(1級6号)
4、両足をリスフラン関節以上で失ったもの(4級7号)

例えば、ひじより上で両腕を失ったケースでは、4級9号を片腕ずつ認めて併合が行われるのではなく初めから1級3号が認められることになります。

等級の序列を乱す場合

併合によって等級の序列が乱れる場合は、併合後の等級を1つ下げて認定されます。

例えば、手関節以上で片腕を失い(5級4号)、同じ腕の上腕骨が癒合不全(7級8号)になると、5級が2つ繰り上がって3級になるはずです。

ところが、4級4号には「一上肢をひじ関節以上で失ったもの」という項目があり、これを超えて3級を認めると序列に反して不合理となってしまいます。そのため、併合の基本的なルールは無視され最終的に5級となります。

併合できないケース

後遺障害の中には、併合が適用にならないケースもあることは注意点です。

要介護

要介護となる後遺障害は、併合の対象になりません。

後遺障害の等級表は別表第1と別表第2に分かれており、別表第1の1級と2級は要介護の後遺障害になります。

1級
1、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2、胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

2級
1、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
2、胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

”女性”
介護が必要な後遺障害が認定されると、併合は起こりません。

派生関係

1つの後遺障害から他の後遺障害が派生しているケースでは、併合を用いずに上位の等級が認定されます。

例えば、「上肢に偽関節を残すもの」(8級8号)から同一の箇所に14級9号の神経症状が派生している場合は、上位等級の8級8号が認定されます。

後遺障害の併合が行われた事例

併合によって後遺障害の等級が繰り上がった具体例を2つ紹介します。

併合12級で650万円以上の賠償金を獲得できたケース

自転車で十字路を走行していたAさんは、右側から進入してきた乗用車と衝突し、右殿部打撲、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫などの障害を負いました。約7ヶ月の治療を経て症状固定になりましたが、頭部外傷が原因でふらつきや神経症状の残存、嗅覚の低下などの症状が残ってしまいました。

Aさんは、後遺障害の等級認定手続きのために弁護士に相談したところ、必要な検査を受けていないことが判明しました。新たに検査を受けてから後遺障害の等級認定に申請したことで、神経系統の障害で12級13号、嗅覚の減退について14級相当が認められ併合12級が認定されました。

 最終的には約230万円の後遺障害慰謝料と約170万円の逸失利益の請求が認められ、合計で約650万円の賠償金を獲得することができました。

併合6級で約5,900万円の賠償金を獲得できたケース

単車に乗車していたBさんは脇見運転していた対向車と衝突し、急性硬膜下血腫・脳挫傷などの傷害を負いました。事前認定で等級認定を申請したところ、高次脳機能障害(主に記銘力障害)で7級、醜状障害(前額部から後頭部にかけての裂創痕等)で12級が認められ、併合6級が認定されました。

当初、加害者側保険会社からおよそ3,340万の示談金が提示されましたが、Bさんはこの金額が妥当なのか判断できず弁護士事務所に相談しました。弁護士はBさんの容体を確認し、足関節についても後遺障害が認められると判断しました。

自賠責保険に異議申立てをした結果、既存の7級と12級に加えて右足関節の可動域制限について12級が新たに認められ、併合6級が認定されました。

級は変わりませんが、当初は醜状による減給は想定しにくいため、高次脳障害7級の労働能力喪失率(56%)で逸失利益を計算していました。しかし、足関節の機能障害12級が新たに認定されたことで、6級の喪失率(67%)での算定が認められ損害額を大幅に増額することに成功しました。

 弁護士に相談したことで、支払われた賠償金は約3,340万円から約5,900万円まで増額しました。

納得のいく後遺障害認定を受けるためにできること

後遺障害の等級が認定される確率は決して高くないという現状があります。適切な等級に認定されるため、万全な準備をしておく必要があります。

”豊川弁護士”
納得できる後遺障害の等級認定を受けるために、できることを解説します。

医師に適切な後遺障害診断書を書いてもらう

後遺障害の等級認定の審査では、後遺障害診断書の記載内容が重要になります。

診断書は医師に作成してもらいますが、すべての医師が後遺障害の等級認定基準を熟知しているとはいえません。必要な検査を受けていなかったり、「たまに痛い時がある」などの曖昧な表現をしたりしてしまうと、後遺障害に認定されないような内容で作成されてしまう可能性があります。

レントゲンやMRIなどの画像検査を受けること、自身の状況を医師に正確に伝え「常に痛みがある」などはっきりとした表現で診断書を記載してもらうことが大切です。

被害者請求を利用する

後遺障害の申請方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。

納得のいく等級認定を受るためには、被害者請求で申請するのがおすすめです。

被害者請求

被害者本人が相手方の自賠責保険に直接等級申請を行う方法です。被害者が自ら必要な資料を揃える必要があります。手間や時間がかかりますが、自賠責が定める等級認定基準を満たす資料を提出できれば、適切な等級が認定されやすくなる強みがあります。

POINT
被害者請求が認められると、示談が成立する前に自賠責に保険金を請求できるようになります。示談が成立するまでに1年以上など長い期間かかることもあります。先取りで保険金を請求できれば、入院や通院にかかった治療費の足しにできるでしょう。

事前認定

加害者側の任意保険会社を経由して、自賠責保険に等級認定を申請する方法です。被害者は相手方の任意保険会社に後遺障害診断書を提出するだけでよく、その後の手続きは全て任意保険会社に一任することができます。

事前認定では被害者が書類を集めて提出する必要はなく、手続き面での負担を減らせるのが大きなメリットといえます。

 ただし、想定している等級が認定されない可能性が高くなります。相手方保険会社が適切な資料を自賠責保険に提出してくれるとは限らないためです。支払う保険金の額を少なくするために、被害者側が不利になるような書類を提出することもあります。

弁護士に相談する

交通事故で後遺障害が残ったときは、弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士は後遺障害の認定に必要なポイントを知っています。適切な検査結果を入手したり、医師から意見書を取り寄せたりするなど、知識がない人では難しい対応をしてくれます。

また、弁護士基準で算出し慰謝料を請求すれば、相手方の任意保険会社が提示する金額よりも高額の慰謝料を請求できます。結果的に賠償金を増額できる可能性が高まるのです。

”女性”
弁護士への一任は大きなメリットがあります。交通事故で後遺障害の等級認定を考えているなら、弁護士に相談するのが良いでしょう。

まとめ

後遺障害が複数あるときは、併合という考え方を適用し重い方の等級が繰り上がります。ただし、障害の部位・系列によれば、例外的に併合が適用されないことがあります。

交通事故で後遺症が残っている、併合によって等級が繰り上がるかわからないといった悩みがあるなら、弁護士のサポートを検討するのがおすすめです。

弁護士に依頼すれば後遺障害の申請手続きを行ってくれるだけでなく、適切な等級認定されやすくなります。また併合が適用されれば、後遺障害慰謝料を増額できます。

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