交通事故の相手が無保険だった!適正な示談交渉のためにできる対処方法

交通事故の相手が無保険だった!適正な示談交渉のためにできること

交通事故の相手方が無保険の場合、加害者本人と示談交渉をおこなう必要があります。ですが、当事者同士で示談交渉をすると、話がまとまらないおそれがあります。

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本記事では、無保険の加害者と示談がまとまらないときにできることを紹介します。

「無保険」とはどういうこと?

無保険とは、加入の必要性が高い任意保険に入っていない、または、保険の加入が義務付けられているのに、保険料の未払いなどが原因で保険が適用されない状態を意味します。

自動車保険には、全ての運転者に加入が義務付けられている「自賠責保険」と運転者が自由に保険契約できる「任意保険」があります。そのため、交通事故における「無保険」とは、運転者が自賠責保険に入ってないケースと任意保険に加入していないケースがあることになります。

自賠責保険と任意保険について

まずはじめに、自動車保険の自賠責保険と任意保険について詳しくみておきましょう。

自賠責保険

先ほど述べた通り、原付などを含む全ての車両を運転する者が必ず加入しなければならない自動車保険です。自賠責保険に加入せずに運転をおこなった場合は、「50万円以下の罰金または1年以下の懲役」と「免許停止処分(違反点数6点が加算)」が科せられます。

交通事故で怪我人が出た場合、事故の被害者は自賠責から保険金を受け取れます。なお、自賠責で補償を受けられるのは対人事故(相手を怪我させてしまった事故)の場合に限定されており、対物事故(モノや車体を損壊してしまった事故)では補償対象外となります。

 自賠責保険から支払われる保険金には上限があります。上限を超えて発生した損害額については、自賠責から補償を受けられません。その場合は、任意保険で上限額を超えた分をカバーすることになります。

任意保険

自賠責保険とは異なり、自分で加入するかどうかを選べる自動車保険です。交通事故における損害は、自賠責保険だけで補うのは簡単ではありません。全ての損害をカバーするためには任意保険への加入が必要になります。

また、自賠責保険では対人事故のみに補償が適用されますが、任意保険では対物事故についても保険金が支払われます。さらに、任意保険では一般的な補償である主契約以外にも、様々な特約をつけることが可能です。

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例えば、通常の契約に「弁護士特約」をつけた場合、交通事故の解決を弁護士に依頼する際に、保険会社が弁護士費用を補償してくれます。

現実には無保険の車も公道を走っている

損害保険料率算出機構が公表している「自動車保険の概況(2021年度版)」によると、対人賠償保険の加入率は75.1%になります。自賠責保険を合わせると88.4%が保険に加入していることになります。

一方で、残りの12%弱の人は、任意保険だけでなく自賠責保険にも加入していません。つまり、4人に1人は任意保険に加入しておらず、10人に1人は完全に無保険で公道を走行していることになります。

交通事故の相手が無保険だったらどうなる?

交通事故にあった場合、本来であれば相手方が加入している保険会社から保険金を受け取れます。しかし、事故の相手方が無保険だった場合、十分な賠償金が支払われないリスクが発生します。

ここからは、事故の相手方が無保険であった場合の注意点について解説します。

加害者本人と示談交渉する必要がある

通常の任意保険には「示談代行サービス」がついています。これは、任意保険会社が加害者の代わりに示談交渉を代行してくれる制度です。そのため、加害者が任意保険に加入している場合、その後の連絡は保険会社と取り合うことなり、示談交渉の相手方は加害者側の保険会社になります。

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一方で、自賠責保険にはこのような示談代行サービスがついていません。したがって、任意保険に加入していない者が事故を起こした場合は、加害者本人が示談交渉を行うことになります。

賠償金が十分に支払われないリスクがある

自賠責保険では支払われる保険金額に上限が決まっています。例えば、傷害による損害が発生したケースでは、被害者1名につき120万円までしか保険金が支払われません。

しかし、実際の交通事故において、損害額が自賠責保険の限度を超える事例はたくさんあります。このとき、加害者が任意保険に加入していれば、保険会社が超過分を負担してくれます。一方で、加害者が任意保険に加入していなければ、自賠責保険の上限額を超える分の補償は受けられません。上限を超えた金額については自己負担で賠償することになります。

任意保険に入っていない加害者は、賠償金を支払う資力が不足していることも多く、ときには賠償金を支払えないと言われることがあります。さらに、加害者が自賠責保険にも加入していなければ、本来自賠責保険から支出されるはずの保険金も加害者が負担することになります。

 このように、加害者が無保険である場合、賠償金が十分に支払われないリスクがあるので注意してください。

無保険の加害者との示談交渉について

無保険車との事故においては、加害者本人と「示談交渉」を行います。示談交渉とは、交通事故で発生した損害について、賠償金額や支払い方法などを取り決める話し合いです。

請求できる賠償金には、治療費や慰謝料の他にもさまざまな項目があります。そして、示談交渉ではそれら全ての金額について話し合います。このとき、加害者が任意保険に入っている場合、任意保険会社が加害者の代わりに示談交渉を進めてくれます。保険会社は損害賠償の分野に詳しいため、話し合い自体はスムーズに進行するでしょう。

一方で、加害者が任意保険に加入していないケースでは、加害者本人が交渉に参加することになります。ですが、無保険の加害者は、示談交渉について無知であるケースがほとんどのため、率先して示談を進めようとしません。そのため、被害者側から加害者に働きかける必要があります。

POINT
賠償金の計算は専門的な知識が必要になります。治療費だけでなく、他にも多くの賠償金を請求できるため、損害賠償に詳しくない当事者が話し合うとトラブルに発展する場合もあるでしょう。お互いの主張が噛み合わなければ、和解までに相当な時間がかかる可能性があります。

無保険の加害者との示談交渉がまとまらないときはどうする?

示談が成立しなければ示談金を受け取れません。しかし、事故の加害者が無保険であると、連絡がつかない、示談交渉に応じない、支払い能力がない、支払いを拒否されるなどの事態が想定されます。また、当事者同士で話し合うと感情的になりやすく、冷静に交渉ができなくなるかもしれません。

では、相手方との示談交渉が難航している場合はどのように対処するべきでしょうか。ここからは、交渉がまとまらないときに被害者ができることを解説します。

ADRを利用する

ADR」とは、裁判外で法律上の紛争解決を図る手続きのことです。代表的なADR機関には、「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」があり、どちらも第三者が示談または和解をあっ旋することで、裁判外での紛争解決を手伝ってくれます。

ADRを利用するメリットとしては、簡易な手続きで利用できることや、解決までの時間が短いことが挙げられます。また、費用もほとんどかからないため、裁判に比べて金銭的な負担がかかりません。

事故の当事者だけで示談交渉をすると、お互いの主張が食い違って示談成立に至れないことが多々あります。このとき、ADRによって第三者が間に入れば、専門的な見解を聞くことができ、冷静な話し合いができます。

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このように、交通事故の紛争をスムーズに解決したいときは、ADRによって第三者の力を借りるのも一つの方法です。

民事訴訟を提起する

長い間支払いが滞っている場合や、示談交渉が決裂した場合は、最終的に裁判で決着をつけることになります。民事訴訟を提起すると、裁判所が加害者に通知を送ります。

交通事故の被害者が裁判に勝つと、加害者に賠償命令が下されます。そして、加害者が無保険で賠償金の支払い能力がなくても、被害者は加害者名義の財産を差し押える権利を得られます。

POINT
このように、裁判に勝てば確実に損害賠償債権を回収できます。ただし、裁判は時間や費用がかかる手続きですので、基本的には示談交渉によって支払いを求めるのがおすすめです。どうしても相手が対応してくれない場合には、民事訴訟を起こすようにしてください。

無保険の加害者から適正な慰謝料を獲得するためにできること

無保険の加害者が十分な慰謝料を獲得するのは簡単ではありません。ここからは、無保険の加害者から適正な慰謝料を獲得するために、被害者本人ができることについて解説します。

踏み倒し対策をする

慰謝料は示談が成立してから受け取るのが基本ですが、無保険の加害者は支払い能力を有していないことが多く、最悪の場合、賠償金の支払いを拒否されることがあります。ですが、支払い能力がないからといって、加害者の賠償義務は免れません。法的な手続きによってきちんと賠償金を払ってもらうようにしましょう。

支払いを踏み倒されないようにするためには、下記の方法が有効になります。

内容証明郵便を送る

内容証明郵便は郵便の方式の1つです。内容証明郵便を利用すると、郵送物の内容の控えが郵便局と差出人に残ります。このことから、内容証明郵便を送ることで、被害者が加害者に対して損害賠償を請求した事実が記録として残せます。

無保険の加害者に普通郵便やメールで賠償請求しても、「そんな連絡は届いていない」としらを切られるリスクがあります。ですが、内容証明郵便で請求した場合、郵送した事実を証明できるため、郵送物が届いてないなどの言い逃れができなくなります。

内容証明郵便には、財産を強制執行する効力はありませんが、相手にプレッシャーを与えることができます。

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特に、無保険の加害者は支払いを踏み倒そうとする人も多いため、損害賠償請求する際には内容証明郵便で書類を送りましょう。

示談書は公正証書で作成する

示談が成立しても、加害者が後から支払いを拒否するリスクも十分にあります。このような踏み倒しを防ぐためには、示談書を「公正証書」の形式で作成するようにしましょう。

公正証書とは
公証事務を扱う公務員によって作成される文書であり、証拠能力を備えた証書になります。

また、公正証書で示談書を作成することで、支払いが滞ったときに裁判をしなくても強制徴収できる「執行証書」にもなります。示談書を公正証書にしたうえで、強制執行認諾条項が記載されていれば、公正証書でも、裁判による勝訴判決と同様に強制執行をすることができます。

支払いの踏み倒しリスクを減らすためにも、無保険の加害者と示談をする際には、公正証書の形式で示談書を作成するようにしてください。

被害者自身の保険を利用する

無保険の加害者に支払い能力がない場合、被害者が加入している保険を利用して損害をカバーするという方法があります。被害者が利用できる保険には以下のものが挙げられます。

人身傷害補償保険

交通事故で加入者が傷害を負った場合に補償を受けられる保険です。過失に関係なく補償を受けられることや、示談交渉を待たずに保険金を受け取れることが利点になります。

加害者が無保険者であると、示談交渉が長引くケースも珍しくありません。しかし、人身事故傷害保険に加入していれば、保険会社が治療費や慰謝料などの損害額を算定した後に、速やかに保険金を支払ってもらえます。

搭乗者傷害保険

車に乗っている人が、交通事故で傷害を負った際に補償を受けられる保険です。対物賠償や対物賠償では、他人の身体や持ち物に損害が生じた場合のみに補償が適用されますが、搭乗者傷害保険に加入していると、搭乗者全ての死傷が補償の対象になります。

 なお、人身傷害補償保険と内容が重複している関係上、搭乗者傷害保険を取り扱っていない保険会社もあります。

無保険車傷害保険

事故の加害者が自動車保険に加入しておらず、十分な賠償金が得られない場合に補償を受けられる保険です。また、相手が無保険のときだけでなく、ひき逃げや当て逃げで加害者が特定できないケースでも保険が適用されます。

ただし、無保険車傷害保険が補償するのは、被害者が死亡または後遺障害を負った場合に限られます。治療によって完治する傷害は補償の対象とならないため注意が必要です。なお、保険会社によっては特約として補償したり、あらかじめ人身傷害補償保険に含まれていたりする場合もあります。

車両保険

契約車両の修理費などを補償してくれる保険です。車同士の衝突で車体が損壊した場合や、車両が盗難された場合などで補償を受けられます。一般的な交通事故では、加害者に対して車の修理費を請求できます。

しかし、ガードレールに車両をぶつけたなどのケースでは、保険に入っていなければ修理費を補償してもらえません。また、相手方が無保険で賠償金を支払ってもらえない場合でも、車両保険に加入していれば車両の修理費などを補償してもらえます。

加害者の自賠責保険に支払い請求する

交通事故の被害に遭った場合、加害者との示談がまとまらなくとも、加害者側の自賠責保険に賠償金の支払いを請求できます。このように、被害者が相手方の自賠責保険に賠償請求できる制度を「被害者請求」といいます。

自賠責保険は、他人を怪我させてしまった加害者に代わって、被害者に保険金を支給するものです。そのため、本来であれば被害者から自賠責保険に保険金を請求することはできません。

しかし、自賠責保険の目的は、交通事故の被害者を救済することにあります。そこで、被害者が、加害者本人ではなく自賠責保険に損害賠償請求できる権利が認められています。

 ただし、被害者請求を利用するためには、相手方が自賠責保険に加入している必要があります。加害者が自賠責保険にも加入していない場合は、被害者請求は利用できないため注意してください。

加害者以外の者に請求する

事故の加害者が無資力の場合、加害者本人以外に損害賠償請求できる者がいないか検討することになります。法律上、加害者以外に賠償できるケースは以下のものがあります。

使用者責任(民法715条)
使用者責任とは、従業員が他人に損害を発生させた際に、従業員だけでなく、従業員を雇っている会社も損害賠償の責任を負わせる法制度です。
従業員が業務上に交通事故を起こした場合は、加害者を雇っている会社にも損害賠償の責任が生じます。そのため、加害者が無保険で支払い能力がなくても、加害者が所属する会社に賠償請求することが可能です。
運行共用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
自動車損害賠償保障法3条は、交通事故が発生したときにおける運転供用者(自己のために運行の用に供する者)の賠償責任について定めています。運転供与者の具体例としては、自動車を管理している者や、自動車の運行によって利益を得ている者などが当たります。
例えば、友人に車を貸していたところ、その友人が交通事故を起こした事例では、実際に運転していない貸主も賠償責任が問われることがあります。

このように、加害者が無保険で支払い能力がなくても、加害者以外の者に賠償請求できることがあります。

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弁護士に相談すれば、加害者以外に賠償請求できるケースについて詳しく教えてくれるので、わからない点があれば気軽に相談すると良いでしょう。

労災保険を利用する

労災保険(労働者災害補償保険)とは、労働者が勤務または通勤している間に、負傷、疾病、傷害を負うと保険給付がされる制度です。

通勤中または勤務中に交通事故にあった場合、労災保険を利用することで、加害者が無保険でも補償を受けられます。また、労災保険には自賠責保険のような保険金の上限が定められていません。そのため、交通事故による損害が大きい場合でも、治療費などを十分に受け取れます。

ただし、労災保険では慰謝料が支払われません。慰謝料を受け取りたいときは、別途加害者に直接請求することになります。特に、長期にわたって入通院していた事例や、後遺障害が残った事例では慰謝料が高額になります。

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このようなケースでは、労災保険ではなく加害者に直接慰謝料請求するようにしましょう。

政府補償事業を利用する

政府補償事業とは、自動車損害賠償補償法に基づき、自賠責保険の補償すら受けられない被害者の損害を代わりに補償する制度です。

例えば、ひき逃げや無保険車による事故は、自賠責保険の給付対象外になります。このような事例において、被害者は自賠責保険とほぼ同様の補償を政府(国土交通省)に求めることができます。

ただし、政府補償事業はあくまで最終的な救済措置ですので、被害者に過失があると賠償金が減額されやすいなど、自賠責保険と比べていくつかデメリットがあります。

まとめ

車を運転する人は基本的に自動車保険に加入しています。一方で、交通事故の加害者が無保険である事例も少なくありません。特に、自賠責保険にも入っていない人は、支払い能力がないことが多く、賠償金を支払われないと言われることがあります。

しかし、交通事故の加害者が無保険だからといって、十分な補償を受けられないわけではありません。わからないことがあれば、弁護士の力を借りながら適切な賠償金の獲得を目指しましょう。

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