交通事故の裁判の流れとは?裁判を起こすと過失割合は変わるのか

交通事故の裁判の流れとは?裁判を起こすと過失割合は変わるのか

交通事故の過失割合について、示談交渉で納得いく結果にならないとき、裁判を起こせば有利な割合に修正できる可能性があります。

この記事では、交通事故の過失割合に関する裁判の流れや訴訟によるメリット、デメリットを解説します。

交通事故で裁判になるのは1割ほど

交通事故の過失割合で裁判になるケースはそれほど多くはなく、全体の1割程度とされています。

交通事故の過失割合とは、事故に対してどちらがどれだけ責任をもっているかを0~10までの数字で表したもので、数字が大きいほうは「加害者」、小さいほうは「被害者」と呼ばれます。

通常、過失割合は、当事者同士の示談交渉によって決められ、90%以上の事故では示談が成立します。交通事故で裁判まで起こしたりするのか、と思われるかもしれませんが、全体で見れば裁判まで行くのは少数派といえます。

しかし、なかには相手の主張に絶対に納得できない、話し合いだけでは解決できないといったケースもあり、そういった場合には、最終的に裁判となる場合があります。特に裁判になりやすい事例には次のようなものがあります。

1、過失割合で折り合いがつかない

1つ目は、示談交渉だけで過失割合の問題に決着がつかないケースです。

過失割合について双方の折り合いがつかず、いくら交渉を重ねても妥協点が見い出せない場合には、裁判になる可能性が高くなります。過失割合は損害賠償全体に影響を与える大切な数字で、1割違うだけで受け取る賠償額が数十万円から数百万円変わる場合もあります。

通常、過失割合は最初に相手方の保険会社が提示してくる示談案に書かれているものをもとに交渉を進めていきます。

 しかし、保険会社の算定した割合は、正確でない場合や個々の事故の態様をきちんと加味していない場合があり、鵜呑みにするのは危険です。過失割合に納得がいかない場合は、安易に妥協せず、きちんと交渉によって変更を求めていく必要があります。

2、保険会社が要求する賠償額を認めない

2つ目は、保険会社の認める賠償金額・慰謝料が十分でないケースです。

交通事故の示談案では、保険会社が基準を大きく下回る賠償額しか提示しない場合があります。保険会社も民間企業のため、支払う保険金額はなるべく低く抑えようとするものですし、賠償額が大きい事故ほど、その傾向も強くなります。

損害賠償額に納得がいかず、合理的な説明ももらえない場合には、保険会社の言いなりにならず、変更を求めて交渉するべきです。

話し合いだけで決着させられないのであれば、弁護士に相談して裁判も検討すべきといえるでしょう。

3、加害者が無保険で賠償に応じようとしない

3つ目は、加害者が保険に入っておらず、損害賠償請求に応じようとしないケースです。

ここで言う保険とは、自賠責保険に加えて加入する任意の自動車保険のことで、損害保険料率算出機構によると、ドライバーの約10%は任意保険に加入していないとされています。

車のドライバーは全員が自賠責保険への加入を義務付けられていますが、これは交通事故に対する最低限の補償を目的としたもののため、相手が任意保険に入っていなければ不十分な額の示談金しか受け取れなくなります。

たとえば、自賠責保険は対人賠償のみのため、壊れた車の修理代など対物賠償に関しての補償は受けられません。また、支払われる分についても金額的には決して十分とはいえないものです。

 加害者が自分のお金で補償してくれるならいいのですが、払う気がないケースでは、裁判を起こさなければ補償が受けられなくなってしまいます。

4、損害賠償請求権の時効が近づいている

4つ目は、損害賠償請求権の時効が迫っているケースです。

交通事故の損害賠償請求には時効が存在し、人身事故なら5年、物損事故なら3年を過ぎると賠償金を請求する権利が失われます。そのため、時効にならないようなるべく早いうちから示談交渉を進めるべきなのですが、なかには予想以上に時間がかかってしまい、時効が近づいてくるケースもあります。

そうしたとき、自分の権利を主張して時効のカウントを中断させる方法を「請求」といい、裁判を起こすのがその1つの方法です。加害者への訴訟が起きると、時効は中断され、判決が出た後に、これまでの時効を無効として新たに時効が開始されます。

裁判を起こせば、たとえ判決により権利が確定しなくても、時効期間が6か月猶予されるため、時効が迫っている場合には有力な方法といえます。

交通事故裁判のメリット

ここまで、交通事故では、過失割合で揉めた場合や賠償額に納得できない場合などに訴訟を起こすケースがあることを説明してきました。では、訴訟を起こした場合、被害者にはどのような影響があるのか、交通事故裁判のメリットをみていきます。

メリット①:裁判基準で賠償金を受け取れる

1つ目は、裁判を起こすと「裁判基準」での賠償金が受け取れるようになることです。

交通事故の損害賠償を計算するために使用される算定基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準(弁護士基準)」の3種類が存在します。

「自賠責基準」は加入が義務になっている自賠責保険による算定基準で賠償額が最も安く、「任意保険基準」は加害者が加入している任意保険会社の算定基準ですが、こちらも自賠責基準と大きな差はありません。

3つ目の「裁判基準」は別名「弁護士基準」と呼ばれ、裁判を起こした場合または弁護士に依頼した場合に適用され、3つの基準のなかで最も賠償金が高額になります。

POINT
裁判基準と自賠責基準では受け取る金額が2倍~3倍になるケースもあり、裁判基準での賠償金こそ、交通事故の被害者が本来受け取るべき金額といえるでしょう。裁判を起こせば裁判基準が適用されるため、示談交渉のみの場合と比べて賠償金の大幅な増額が見込めます。

メリット②:遅延損害金・弁護士費用の請求ができる

2つ目は、加害者に「遅延損害金」「弁護士費用」を請求できるようになることです。

民法における金銭債務の支払いが遅れた場合に、遅延による損害を補償するための金銭を相手に請求でき、これを「遅延損害金」といいます。遅延損害金を請求できるのは、裁判を起こした場合のみになるため、示談交渉では請求できないお金になっています。

また、同様に、裁判になると「弁護士費用」の一部(10%程度)を加害者に請求できるようになります。

このため、裁判を起こした場合のほうがそうでない場合と比べて請求できる賠償金が増額されます。

メリット③:過失割合が有利に変更される可能性がある

3つ目は、過失割合を有利に変更できる可能性があることです。過失割合に関して相手方と争っており、示談交渉だけでは決着がつかないケースでは、裁判所に訴えると被害者に有利な割合へと修正できる場合があります。

保険会社が提示してくる割合は、通称「緑本」といわれている市販の書籍などを参考にしたもので、法律の専門家の視点からみると、誤りや不適当なものも多いのです。過失割合は損害賠償額に大きな影響を与えるため、話し合いだけでは相手の主張を変えられない場合も多く、裁判で変更できれば賠償金が増額される可能性もあります。

メリット④:交通事故の紛争を必ず解決できる

4つ目は、交通事故に関する紛争を必ず解決できることです。示談が成立するためには、交渉による相手方との合意が必要になります。しかし、過失割合などで揉めると妥協点を見出すのは簡単ではないでしょう。

裁判なら、判決が出れば、相手の合意がなくても効力を発揮できますし、加害者が支払いを拒否しても強制執行により相手の車や不動産などを競売にかけ、強制的に損害賠償を払わせられるようになります。どうしても話し合いだけで示談できなさそうな場合には、裁判を起こすのも有効な手段といえるでしょう。

交通事故裁判のデメリット

交通事故裁判にはさまざまなメリットがあることを紹介してきましたが、反対に、訴訟にはデメリットも存在します。

1、判決までに時間がかかる

1つ目は、解決までに時間がかかってしまうことです。裁判所の統計によると、交通事故裁判の審理期間は平均12.4か月とされています。このうち、約20%は6か月以内に終結しているものの、裁判を起こすと判決が出るまでに半年から1年以上の時間を要する可能性があるのです。

 結果が出るまでは賠償金を受け取れないため、経済的に負担になる方もいるかもしれません。早期解決を望むなら、裁判を起こす選択肢が逆にデメリットになってしまう恐れもあります。

2、賠償額が減額される恐れがある

2つ目は、示談交渉の場合と比べて賠償金が減額されてしまう恐れがあることです。裁判を起こしたからといって、必ずしも自分に有利な判決が出るとは限りません。裁判になれば、当然、相手方も弁護士に依頼して反論してくるでしょう。

しっかりと証拠を揃え、法廷で自分の主張が客観的に正しいと立証できなければ、示談交渉よりも過失割合や賠償金で不利な判決が出る恐れもあります。裁判を起こす際は、裁判で敗訴する可能性があることも考慮に入れて判断する必要があります。

ただ、一般の方に裁判の結果が自分にとって有利・不利のどちらになるか予想するのは難しいため、訴訟を検討するにあたっては、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

3、弁護士との打ち合わせや出廷などに手間がかかる

3つ目は、弁護士との打ち合わせや出廷など、さまざまな手続き・準備に時間がかかることです。裁判では訴状などの書面をしっかり準備するのが大切です。弁護士に依頼すれば、訴状等の作成は弁護士に行ってもらえますが、そのための打ち合わせの時間が必要になります。

こうした打ち合わせは最初の1回で済むとは限らず、裁判を進めていく過程で随時必要になる可能性があります。また、裁判の日に出廷するのであれば、会社を休んだりする必要もあるかもしれません。

 裁判を起こせば、裁判手続きのためにそれなりの手間と時間をかける必要が生じるため、被害者にとっては負担になってしまいます。

4、裁判費用がかかる

4つ目は、訴訟費用が必要になることです。訴訟を起こすには裁判費用や弁護士に支払う報酬など、次のようにさまざまな費用が必要になります。

・訴訟費用……裁判を起こすときに発生する費用。裁判の手数料としての「収入印紙代」と郵便物の送付に必要な「郵便代(切手代)」の2種類です。収入印紙代は訴状の請求額により、以下のように金額が決められています。

訴額(請求する損害賠償額)収入印紙代
100万円まで10万円増えるごとに1000円
500万円まで20万円増えるごとに2000円
1000万円まで50万円増えるごとに2000円
10億円まで100万円増えるごとに3000円

郵送代は原告・被告1名ずつの場合が6000円で、どちらか1名増えるごとに2000円プラスされます。

・弁護士費用……裁判手続きに移行する場合は弁護士に依頼するため、弁護士費用が発生します。弁護士費用には次のような費用項目があり、金額は事務所によって異なりますが、目安は以下のようになります。

費用項目費用の内容金額の目安
相談料弁護士に法律相談を行う費用。30分~1時間ごとに料金が決まっている。5000~10000円
着手金正式に依頼する際に発生する費用。10万円~
成功報酬依頼が成功した後に支払う費用。「経済的利益」とは弁護士の介入により得られた利益を指す。経済的利益の10~30%(+数万円)
その他弁護士の交通費や通信費、事務所外での活動に対する日当など日当は移動距離や活動日数による。その他は基本的に実費請求。

弁護士費用は一部を加害者に請求でき、訴訟費用ははじめ原告が支払い、裁判後に敗訴した側が負担します。しかし、必ず裁判に勝てる保証はなく、金銭負担が発生するリスクは存在しています。また、弁護士費用については全額請求できないため、依頼すれば必ず費用の支払いが生じます。

交通事故裁判の流れ

ここからは、実際に交通事故で裁判を起こした場合の訴訟の流れについて解説します。交通事故の裁判は以下の流れに沿って進んでいきます。

1、裁判所に訴状を提出

訴える側である「原告」が管轄の裁判所に「訴状」を提出し、訴訟の提起を行います。裁判には大きく、損害賠償請求に関する「民事裁判」、刑法等に定められた犯罪を裁く「刑事裁判」、免許停止や罰金に関わる「行政裁判」の3種類があります。

示談交渉が決裂した場合の裁判は、このうちの民事裁判(民事訴訟)にあたります。

民事裁判の訴状には、当事者の住所・氏名や訴えの内容・理由、裁判所名などが書かれており、相手方に郵送する分と合わせて2部作成します。訴状のひな型は多くの裁判所でホームページからダウンロードでき、弁護士に依頼すれば1か月程度で作成可能です。

また、警察から出される交通事故証明書や、症状・後遺障害の等級などが書かれた医師の診断書など証拠となる書類も一緒に提出します。提出した書類は裁判所から相手方に送達され、加害者は訴状の内容に対して、自分の主張を書いた「答弁書」を裁判所に提出します。

答弁書は裁判所から原告へと送達されてくるため、裁判までに内容を確認しておきましょう。

2、口頭弁論

訴状に問題がなければ、平均3か月以内に第1回の裁判期日が決定され「口頭弁論」が実施されます。「口頭弁論」とは、当事者または代理人が法廷に出向いて、裁判官に対し、それぞれの主張を述べる手続きです。主張に不備がある点については裁判長が質問を行い、次回以降明らかにするよう指示されます。

POINT
このように、裁判は口頭弁論を繰り返し、争点を明らかにしながら進められます。口頭弁論は代理人による出席が認められているため、弁護士だけが出席すればよく、被害者本人が法廷に足を運ぶ必要はありません。

加害者(被告)は第1回口頭弁論では、答弁書の提出のみとなるため、欠席するケースが多くなっています。初回の口頭弁論は、訴状や証拠書類、答弁書などの確認が行われるのみで、5~10分で終わる場合も少なくありません。

民事訴訟では書類手続きが重視されるため、以後の口頭弁論を含めて、期日自体はそれほど時間をかけない場合も珍しくはないのです。交通事故裁判での口頭弁論は平均1.7回、間隔は平均1.9か月となっており、口頭弁論が1回のみで終了するケースもみられます。

3、証拠調べ・証人尋問

口頭弁論で明らかになった争点をもとに、それぞれの主張を裏付ける証拠の提出や証言の尋問を行う場合もあります。証拠として提出されるのは、病院のカルテや警察の捜査資料などが多く、警察・検察の文書等を証拠として取り寄せる「文書送付嘱託」「調査嘱託」の手続きも多用されます。

尋問では、医師や事故の目撃者、保険会社の担当者などが証人になります。ただ、尋問は実施されないケースもあり、平均回数は1.1回、平均人数0.4人となっています。

4、和解協議

裁判を進めていくなかで、裁判所から判決ではなく、「和解」を勧められるケースがあります。交通事故裁判では和解が73.1%、判決が18.5%、その他(取り下げなど)が8.4%とのデータもあり、和解によって裁判が終結するケースも少なくありません。

裁判官も判決より和解のほうが望ましいと考えているとされ、判決にこだわりすぎると心証を悪くするともいわれます。裁判所から示される和解案をもとに双方が和解を受け入れれば裁判は終結し、判決と同等の効力をもった「和解調書」が作成されます。

5、判決

和解が成立しなかった場合は、口頭弁論や証拠調べの後、双方が最終準備書面を提出して審理は終了となり、判決の期日が決められます。

判決には、原告の請求を全て認める「全部認容判決」、原告請求の一部を認める「一部認容判決」、原告請求をすべて棄却(不適法として訴えを退ける)する「請求棄却判決」の3種類があります。

6、不服申立て

裁判所の判決に不満がある場合は、上級裁判所に不服申し立てを行い、上訴ができます。一審判決に対する上訴を「控訴」、二審判決に対する上訴を「上告」といいます。ただ、実際には上告は重大裁判に限られ、たいてい上訴は一度だけになります。

交通事故裁判における上訴の割合は約40%とされています。

交通事故で裁判を検討するなら弁護士にまず相談を

交通事故で裁判には、メリットが多い反面、デメリットも多数存在しています。裁判を起こすと、裁判費用や弁護士費用などのコストに加え、半年以上の時間もかかるため、始める前にはよく検討する必要があります。

そこで、交通事故の示談交渉に納得がいかず、裁判を起こそうか迷っている方は、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。弁護士ならメリットとデメリットを考慮して訴訟を起こすべきか適切な判断をくだせるだけでなく、さまざまな部分で効果的な対応を行ってもらえるため、過失割合を有利に変更でき、良い結果になる可能性が高まります。

また、弁護士基準での賠償金請求が可能になるため、示談交渉や和解での解決を目指す場合にも、損害賠償の増額も見込めるでしょう。

無料相談を実施している事務所もたくさんありますので、裁判を検討されている場合は、なるべく早い段階で弁護士の意見を聞いてみてください。

まとめ

交通事故の損害賠償請求において、過失割合や賠償金などで折り合いがつかず、示談交渉だけで決着が着かない場合には、訴訟を起こして裁判による解決を目指すことができます。

裁判には有利な過失割合への変更や賠償金の増額などのメリットがある一方、手間や時間、費用がかかったり、逆に賠償金が減らされてしまったりするデメリットもあります。裁判すべきかどうか、わからない方は、一度、専門家である弁護士に相談してみてください。

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