交通事故の死亡事故の刑罰とは?加害者がとるべき責任について

交通事故の死亡事故の刑罰とは?加害者がとるべき責任について

車で交通事故を起こすと、最悪、被害者を死亡させてしまう場合があります。もし、死亡事故の加害者になってしまったら、どのような刑罰を受けるのでしょうか。

先生
本記事では、自動車による死亡事故の加害者が問われる責任や刑罰、事故を起こしたときの対応を解説します。

交通事故の死亡事故とは

死亡事故」とは、交通事故のうち、車などを運転していて、被害者を死亡させてしまった事故です。交通事故には大きく分けて、人を死傷させる損害を負わせる「人身事故」と人的被害はなく、車などモノが損害を受けるだけの「物損事故」の2種類があります。

車同士の事故はもちろん、車とバイク、バイクと自転車、自転車と歩行者、バイクと歩行者などパターンはさまざまです。ただ、被害者が死亡すれば確実に死亡事故として扱われるわけではありません。

警察における死亡事故の基準

警視庁の交通事故統計における「死亡事故」の定義は、事故発生から24時間以内に死亡した場合のみを指します。そのため、重傷を負って入院し、24時間以上経って亡くなったケースは死亡事故になりません。

 しかし、24時間はあくまでも警察による基準で、加害者の責任や裁判でも同じように適用されるわけではありません。

事故と死亡の因果関係で揉めるケースも

24時間基準は絶対ではないとはいうものの、やはり、事故から時間が経って亡くなるケースだと、因果関係を巡って争いが起こりやすくなります。因果関係とは、事故がなければ被害者は死亡せず、かつ、事故と死亡の関係が相当である状態を指す言葉です。

死亡事故の損害賠償請求において、因果関係の証明責任は被害者側にあります。そして、加害者の賠償責任は事故と因果関係にある損害について発生するため、因果関係が認められなければ賠償請求自体が難しくなります。

POINT
事故時にほぼ即死である場合や事故から数日後に死亡した場合は争いになりにくいのですが、被害者が事故後、長期間の入院を経て亡くなったケースや他の病気を併発して亡くなったケースなどでは因果関係について揉める可能性があります。

死亡事故で問われる加害者の責任と刑罰

死亡事故を起こしてしまった場合に加害者が問われる責任は、刑事・民事・行政の3種類です。この3つは全く別の基準・方法によって決められるため、どれか1つの責任に問われなかった場合でも、他の責任に問われる可能性があります。

女性
それぞれ、どのような責任でどういった刑罰を負うのかをみていきましょう。

刑事責任

刑法などの法律により処罰を受ける責任を刑事責任と呼び、交通事故では「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」で定められた「過失運転致死傷罪(5条)」や「危険運転致死傷罪(2、3条)」をはじめ、さまざまな刑罰に問われる可能性があります。

罪が認められれば、逮捕・起訴によって刑事裁判になり、懲役や罰金、禁錮などの刑事罰を受けます。なお、過失運転致傷罪および危険運転致傷罪は、もともと刑法で規定されていたものですが、交通事故に対する厳罰化のため、2014年5月に施行された自動車運転処罰法2~6条へと移行されました。

過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)

運転中、何らかの過失によって人を死傷させてしまった場合に適用される罪です。

過失とは
故意ではなく不注意による行為で、他人の権利侵害を回避するのに必要な社会生活上の注意義務に違反するものとされています。
重大なものである必要はなく、わき見運転や速度違反、前方不注視など、自分の行為が危険を引き起こすかもしれないと気づけたにもかかわらず、不注意からそれをしなかった場合には過失と判断されます。

過失運転致死傷罪が適用されると、7年以下の懲役もしくは禁錮、100万円以下の罰金に処せられます。

危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2、3条)

飲酒運転や薬物使用、過度のスピード違反、あおり運転など、正常な運転でない危険な状態で事故を引き起こした場合に適用される罪です。

危険運転で人を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役に、アルコール・薬物の影響による事故で人を負傷させた場合は12年以下の懲役、死亡させた場合は15年以下の懲役に処せられます。

業務上過失致死罪(刑法211条)

仕事中などで死亡事故を起こしたときに適用され、罪が認められると5年以下の懲役または禁錮もしくは100万円以下の罰金に処せられます。

重過失致死罪(刑法211条)

重大な過失で人を死亡させた場合に適用される罪で、刑罰は業務上過失致死罪と同じ5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金です。過失運転致死罪・危険運転致死罪が適用されない自転車の事故で用いられるケースが多くなっています。

無免許運転(自動車運転処罰法6条)

事故を起こしたときに無免許運転だった場合は罪がさらに重くなり、過失運転致死傷罪の場合は10年以下の懲役、危険運転致死傷罪では2条に違反した場合、6か月以上の有期懲役、3条に違反して相手を負傷させた場合に15年以下の懲役、死亡させた場合には6か月以上の有期懲役に処せられます。

無免許運転(道路交通法117条の2の2)

無免許運転に関しては道路交通法にも罰則の規定があり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

緊急措置義務違反(道路交通法117条)

いわゆる「ひき逃げ」といわれるもので、道路交通法72条に定められている救護義務を果たさなかった場合は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

通報義務違反(道路交通法119条の10)

事故を起こしたとき、警察への通報を怠った場合、道路交通法72条の通報義務違反となり、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金に処せられます。

民事責任

刑事責任とは別に、民法では交通事故等の不法行為に対して損害賠償を請求できます。民事責任には慰謝料や治療費などの人的損害と車の修理代などの物的損害があり、加害者はお金を払って両方を補償しなければなりません。

死亡事故では、死亡に対する慰謝料である「死亡慰謝料」や死亡しなければ将来入ってくるはずだった収入に対する補償である「死亡逸失利益」などが請求可能です。

被害者が事故後、時間をおいて亡くなったケースは別ですが、即死の場合、被害者はすでに死亡しており、死亡した人間やその遺族が損害賠償を請求できるのかという疑問も生じるかもしれません。

先生
しかし、法律上は死亡までの時間がコンマ数秒であったとしても、被害者には損害場賠償請求権が発生し、死亡後はそれが遺族に相続されるため、民事での賠償金請求は可能とされています。

民事責任による損害賠償の金額などは当事者同士の話し合いである「示談交渉」によって決定されます。交通事故には、事故に対して双方がどれくらい責任をもっているかによって「過失割合」が決められ、被害者にも過失があると認定されれば、請求できる損害賠償が減額される場合があります。

過失割合も示談交渉によって決められ、損害賠償請求など民事責任の決定において警察などの公的機関の介入はありません。ただ、交渉だけで決着が着かず、どちらかが裁判に訴えた場合は裁判所の判決により、損害賠償額や過失割合が決められます。

行政責任

刑事・民事責任とは別に、公安委員会によって決められる運転免許に対するペナルティが行政責任です。行政責任には免許の点数制度と罰則金の2種類があります。

点数制度は交通違反の度合いに応じて点数が加点されていき、一定以上になると免許停止や取り消しなどの処分を受けます。よく「点数が引かれる」といいますが、実際の行政処分は加点制になっており、通常は過去3年分の点数が加算されています。

ただし、これまでの違反点数がゼロの場合であっても、違反点数が6点で免停、15点以上で免許取り消しの処分を受けます。死亡事故における交通事故の被害と付加点数の関係は以下のようになっています。

死亡事故における付加点数および処分

加害者の過失の度合い付加点数処分内容
加害者の不注意による事故20点免許取り消し
それ以外の事故13点免許停止90日

死亡事故の場合は最低でも免許停止の処分を受けることになり、青信号で歩行者を轢いてしまった場合のように大きな過失があるケースでは免許取り消しもあり得ます。

死亡事故を起こして判決が出るまでの流れ

死亡事故の加害者は警察に逮捕され、その後、起訴されれば刑事裁判にかけられます。事故を起こしてから判決が出るまでの流れについて解説します。

①逮捕

死亡事故を起こした加害者は、自動車運転処罰法や刑法上の罪にあたると考えられる場合は、警察により逮捕される可能性があります。しかし、死亡事故を起こせば確実に逮捕というわけではありません。

逮捕の条件として、「逃亡の恐れ」または「証拠隠滅の恐れ」があり、どちらも可能性がないと判断されれば、逮捕されずに在宅のままでその後の手続きが進む「在宅捜査・在宅事件」となるケースもあります。

POINT
どのような対応を行えば逮捕されずに済むのか明確に決まっているわけではないのですが、警察に対して身元をはっきりと明かし、証拠をきちんと提出して捜査にできる限り協力すれば逃亡・証拠隠滅の恐れがないと判断される可能性もあるでしょう。

②送致

逮捕されると留置場に入れられ、はじめは警察から取り調べを受けますが、逮捕から48時間以内に検察へと引き渡しされます。これを「検察官送致」といいます。

検察官は警察の捜査や自らの取り調べの結果をもとに、「勾留」により引き続き被疑者(交通事故の加害者)の身柄を拘束して取り調べを継続すべきか判断します。

先生
勾留が必要と判断した場合は、裁判官に対して「勾留請求」を行い、それを受けた裁判官は被疑者へ勾留質問を実施して勾留が妥当かどうかを決定します。

③勾留

勾留の要件は刑事訴訟法60条1項に定められており、「罪を犯したと疑うに足る相当の理由がある場合」かつ
①住所不定
②証拠隠滅の恐れがある
③逃亡の恐れがある

のいずれかを満たす場合に勾留が決定されます。

送致から勾留までは24時間以内に行われ、1度の勾留請求につき、10日間の勾留が認められています。さらに、勾留は最大10日間延長できるため、逮捕から最大23日間、身体の自由を拘束される可能性があるのです。

④起訴・不起訴の決定

逮捕・勾留による取り調べの結果をもとに検察官は被疑者の勾留中に起訴・不起訴の決定を行います。日本において、被疑者を起訴するかどうか決められるのは検察官のみです。

どのような事故でも起訴されるわけではなく、起訴できる事案であっても、さまざまな事情を加味して起訴しないケースもあります。過失運転致死傷罪の場合、不起訴率は87.8%とされており、逮捕されても9割近くの事故では不起訴になっています。

ただ、起訴された場合の有罪率は99%以上といわれるほど非常に高く、無罪になるのは0.002%程度とされています。

女性
一旦起訴されてしまうと無罪になる可能性は限りなく低いといえるでしょう。

⑤刑事裁判

刑事事件では、起訴されてから1か月~1か月半程度で裁判が行われます。刑事裁判には「正式裁判」と「略式裁判」の2種類があります。

略式裁判は、問われている罪が軽く、刑罰が100万円以下の罰金または科料で済ませられるケースにおいて、加害者の同意のもと、書面のみで裁判を済ませる形式で、「略式起訴、略式罰金」とも呼ばれます。

POINT
略式裁判では、有罪になっても罰金を払って終了になるため、正式裁判と比べて社会生活への影響が少なくて済みます。そのため、できれば略式裁判で終わらせられるようにしたいところです。
ただ、過失運転致死罪だと略式裁判になるケースもあるものの、罰金刑がない危険運転致死罪では正式裁判が行われます。

⑥公判

正式裁判となった場合は法廷で公判が実施され、検察側と弁護側による主張が行われ、最後に裁判官による判決が下されます。裁判は数回の公判を重ねて進んでいき、一般的に自白事件は2~4回、否認事件では7~8回程度で決着します。

軽微な事故なら2回の公判で終わる場合もあり、判決が出るまで2か月程度です。公判は「冒頭手続き」「証拠調べ」「被告人質問」「論告・求刑」「弁論手続き」「最終陳述」などを経て、すべての審理が尽くされた後に「結審」となります。

⑦判決

最終審理終了後に裁判官による判決宣告期日が指定され、当日に「懲役刑」「禁錮刑」「罰金刑」「執行猶予付き判決」「無罪」のいずれかが言い渡されます。

懲役や禁錮刑になると刑務所に入らなければならないため、これまでのような日常生活を送るのは不可能になってしまいます。ただ、すべてのケースで刑務所に入るわけではありません。

基本的に無罪の場合を除いては何らかの罪があると認定されるわけですが、罰金刑の場合はお金を払うだけで身体的拘束はされずに済みます。また、執行猶予がついた場合は、一定期間は刑罰の執行を猶予してもらえるため日常生活を送れます。

執行猶予期間に再犯等を犯さなければ、刑罰権は消滅するため、懲役刑などの判決が出ていても刑務所に入らなくて良くなります。執行猶予がつくかどうかは過失の度合いによる部分が大きく、過失運転致死罪では執行猶予がつく可能性も高くなっています。

 しかし、危険運転致死罪のように過失が大きかったり、故意だとみなされたりする事故では、執行猶予は難しいといえるでしょう。

2019年のデータでは、過失運転致死罪で懲役または禁錮刑の被告人のうち、執行猶予付き判決の割合が約95%となっており、過失運転致死罪であれば、9割以上で執行猶予が期待できます。

交通事故で死亡事故を起こしたらすぐするべきこと

もし自分が交通事故を起こし、死亡事故の加害者となってしまったら、どのような行動をとるべきでしょうか。突然の事故では、気が動転してしまう場合も多いと思われますが、事故後の行動は裁判や量刑にも影響を与える非常に重要なものです。

最優先は被害者遺族への謝罪

まずなによりも優先すべきは、真摯な反省と被害者遺族に対する謝罪です。真面目に反省する態度を見せず、怒りを感じた遺族が厳罰を求めれば求刑もそれだけ重くなり、裁判での判決にも影響を与えます。

死亡事故を起こしたら、遺族への謝罪なしで済ませるのは絶対に避けるべきといえるでしょう。

遺族への謝罪をきちんと行い、民事でも示談が済んでいる事件では、裁判の判決も軽くなる傾向があります。謝罪するタイミングはなるべく早いほうがよく、できれば葬儀にも出席するようにしましょう。断られた場合でも、当日一応は訪ねて行き、香典などを置いて帰るケースが多いようです。

先生
ただ、死亡事故での遺族への謝罪は加害者にとってハードルの高いものですし、非常に繊細な配慮も求められます。場合によっては謝罪文を書くのも1つの方法ですし、自分1人だけで謝罪するのが不安なら、弁護士などに相談するようにしてみてください。

交通事故に強い弁護士へ相談

死亡事故の加害者になってしまったときは、被害者遺族への謝罪はもちろん、逮捕や裁判など、個人では対応できないものがたくさんあります。そのため、交通事故案件に強い弁護士へ依頼することをおすすめします。

経験豊富な弁護士なら、配慮が必要な遺族への謝罪に関する相談に乗ってもらえるだけでなく、逮捕された場合でも早期釈放の実現に尽力したり、執行猶予がつくように弁護活動を行ったりと刑事裁判全般についても対応してもらえます。

女性
刑事裁判では、適切な弁護活動が必要になるため、事故を起こしたら、できる限り早く弁護士に相談するようにしてください。

まとめ

交通事故で被害者を死亡させる死亡事故を起こしてしまうと、刑事・民事・行政責任などさまざまな責任に問われます。なかでも、刑事責任に関しては、警察に逮捕されるケースもあり、刑事裁判になると、最悪の場合、懲役や禁錮などこれまでの日常生活が遅れなくなる刑罰が科せられる恐れもあります。

できるだけ、罪を軽くし、執行猶予などがつくようにするためには、遺族への真摯な謝罪にくわえ、弁護士による弁護活動が欠かせません。万一、死亡事故を起こしてしまった場合は、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

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