1年の交通事故発生件数は38万件、死亡事故は3000件以上。
発生件数は2018年度よりも減少しているものの、死亡事故は増加しています。
この数字を見ると、運転している人は気を付けなければならないと思うでしょうが、それだけではありません。交通事故の被害者の場合は、歩行者や自転車を運転している方も多いからです。
つまり、誰もが被害者そして加害者になりうるのが交通事故です。
過去の事例ではどんな形で和解できたのかについてまとめた記事になります。
交通事故の和解事例
過去に起きた交通事故ではどのように和解されたのか事例を挙げて説明します。
大学生死亡事故
(山口県)
当時大学生であった男性が、原動機付自転車を運転中に車線をはみ出した対向車と正面衝突し死亡した事故。
2018年に和解が成立し9600万円の慰謝料及び損害賠償金の支払いが確定。
逸失利益 | 5300万円 |
慰謝料 | 3000万円 |
その他 | 1100万円 |
調整金 | 200万円 |
合計 | 9600万円 |
【加害者の主張】
逸失利益について、被害者は事故で亡くなった当時、大学に在学中であったため、逸失利益として、大卒の賃金を基礎とするべきではなく、大卒の収入よりも低い一般男女の平均収入を基礎として計算すべきと主張。
センターラインをオーバーした事実は認めるものの、原因となったのが携帯電話の使用ということについては認めずに、事故の原因となったことは認めても、加害者の悪質性が高いものではないと主張。
【裁判所の見解】
逸失利益について、死亡した当時被害者は大学生であったものの、被害者の成績や出席状態などを確認すると、特筆すべき問題点は見当たらず、事故がなければ大学を卒業して就職している可能性が高いと判断。
大学2年生ということで、その後の大学生活は予測されるものではないと加害者は対抗したが、裁判所は大卒の収入を基礎とすることが妥当であると考えた。
加害者側の主張では、携帯電話を使用した事実について認めていなかったが、センターラインを大きくオーバーした原因は携帯電話の使用もしくは、注意が携帯電話にあった可能性が高いと判断し、通常の死亡慰謝料の平均金額である2500万円を大幅に上回る3000万円という慰謝料を認定しました。
自転車運転で死亡した高齢女性の過失割合がゼロになった事例
(東京都)
68歳の高齢女性がT字路交差点直線路を自転車で横断中に、後方から自動車に衝突されて死亡した事故。
2012年に和解が成立し、6200万円の支払いが確定。
逸失利益 | 1610万円 |
逸失利益(年金分) | 950万円 |
死亡慰謝料 | 3000万円 |
その他 | 80万円 |
調整金 | 560万円 |
合計 | 6200万円 |
【加害者側の主張】
交差点での車と自動車の交通事故の過失割合は、通常時の80対20での計算を主張。
【裁判所の見解】
通常は80対20の過失割合になるところだが、加害者の男性は速度制限30キロのところを70キロ以上で走っていたことや、夜間ではあるものの、街灯が設置されており、被害者を認知することは難しくなかったこと、そして被害者が69歳という高齢者であることを踏まえて被害者の過失割合はゼロとなり和解しました。
事故を起こした後、刑事判決の予定日に加害者が酒気帯び運転及び、速度超過で逮捕されたこともあり、死亡事故を起こしたにも関わらず、全く反省の色が見られなかったということも考慮されて通常の死亡慰謝料よりを大きく上回る3000万円の支払いが認められています。
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交通事故裁判とは?
民事裁判で交通事故の案件をことを交通事故裁判と言いますが、他の民事裁判とは違うところもあります。通常の民事訴訟では原告と被告の訴えのどちらの言い分を裁判所が認めるかどうかというものですが、交通事故裁判の場合、基本的にどちらの言い分が正しいか争うというものだけではなく、並行して両者がお互いに譲歩できることはないか?譲歩することで示談でまとまることはできないかなどを模索して進行します。
そのため、通常の民事訴訟とは違い裁判の結審前に和解が成立して裁判が終了することも多いです。
交通事故裁判の流れ
どのような流れで裁判になってしまうのか?交通事故裁判に至る流れについて説明します。
加害者の保険会社からの示談提案
多くの交通事故については裁判まで至らずに、加害者側の保険会社から被害者に対して示談の提案を行い、被害者と示談することで解決に至ります。
物損事故や軽傷などの場合は保険会社からの示談提案で解決することができても、死亡事故などの重大事故や、治療しても元の体に戻ることのない後遺症が残った場合は、保険会社からの示談提案で被害者が納得することができずに、紛争となることがあります。
交通事故紛争センターの和解の斡旋
紛争の相手が、加害者か加害者の加入する保険会社であれば、交通事故紛争処理センターに相談してアドバイスをもらったり、両者の間に入っての和解あっせんを行ってもらえます。
被害者という立場ではあっても、紛争処理センターはあくまでも中立の立場を維持しながら両者の言い分を聞き、法律的な見解から和解案を提示してくるので、和解の結果がこちら側に有利なものになるとは限りません。
対象になる任意共済は、JA共済、全労済、交協連、全自交、日火連になります。これ以外の任意共済の場合は取り扱うことが原則的にできませんが、加害者が和解へ向けた協議を行うことについて同意した場合は申し立てを受けてくれる可能性があります。
和解へ向けた協議は数回にわたり行われますが、何度行っても和解には至らない場合、紛争処理センターの上位機関である審査会に案件が渡されます。
審査会では、和解へ向けた協議の際に双方から聞き取った言い分を元にして、裁定が下されます。紛争の相手が加害者の保険会社の場合は、審査会の裁定を尊重するという原則があるため、被害者が不服を申し立てない場合以外は、審査会の裁定で解決となります。
交通事故裁判
飲酒運転やひき逃げ、死亡事故などの重大な交通事故には刑事裁判が行われますが、刑事裁判はあくまでも加害者に対して法的な量刑を与えるものであるため、被害者に対して賠償金を支払う命令などが出されることはありません。
例え、加害者に罰金刑が求刑されたときであっても、罰金として徴収したお金は国庫に納付されるため、罰金から被害者に渡るお金は一銭もありません。
被害者と加害者が交通事故裁判として民事訴訟で争うのは、主に、損害賠償金の慰謝料などの金額についてです。刑事裁判と並行して民事裁判は行われていきます。
民事訴訟では原告と被告の主張のどちらが正しいかを裁判所が裁定する流れになりますが、交通事故の裁判の場合は、裁判の途中で双方に対して裁判所が和解を提示してくる場合もあり、結審までいかずに途中で和解や示談という形で解決することも多いです。
交通事故裁判が行われる裁判所は、賠償金や慰謝料の請求額によって変わってきます。
相手側に求める訴額(慰謝料や損害賠償の請求額)が140万円を超えるのであれば、地方裁判所で裁判が行われますが、140万円以下の場合は、簡易裁判所になります。
140万円を超える・・・地方裁判所で裁判
140万円以下・・・簡易裁判所で裁判
また、訴額がかなり少ない場合(60万円以下)は、少額訴訟での解決も選択できます。その日のうちに結審となる少額訴訟の早さは魅力的ではありますが、双方の意見を聞く機会が原則1回、取り調べに対しての証拠の制限などもあるため、完全に審議尽くしたということにはならないことが多く、その後、地方裁判所などに上訴するという流れになることも少なくありません。
裁判所の和解案
交通事故裁判の途中で裁判所が和解案を提示してくることが多いと書きましたが、この和解案は判決と同様に法的拘束力を持つものです。
双方が和解案を受け入れた後に、賠償金などを支払わなかった場合は強制執行することが可能です。
交通事故裁判の費用
交通事故裁判で民事訴訟を起こすときにかかる裁判費用は、収入印紙代と郵送切手代です。収入印紙の必要金額は訴額の大きさによって変わってきます。
100万円以下であれば収入印紙代は1万円。300万円ならば2万円と、訴額の金額が増えるごとに収入印紙代が高くなっていきます。
裁判所に支払う費用は目安として1万円~5万円程度になるので、被害者自身が裁判を起こし、自身だけで戦う「本人訴訟」であれば費用は安く済みます。
交通事故裁判で弁護士は必要か?
本人訴訟で戦う場合、相手側も弁護士をつけないで戦うということはほぼないと思っていいでしょう。相手が保険会社などの企業ならば当然のこと、加害者であっても弁護士がついています。
全く法律知識のない人でしたら、相手の弁護士に対して有利に裁判を進めていくということは難しいです。
また、裁判のための資料や証拠集めもどのようなものが必要なのかわからない人も多いと思います。
裁判に勝つためには弁護士の力が必要であるとわかっていても、訴額が少ない場合、裁判に勝っても支払う費用が大きくて、裁判に勝った意味がなくなる可能性もあります。
弁護士費用がどのくらい必要なのか?ケースによって変わってきますので、無料相談などの機会を利用して、どのような解決方法が自分にメリットがあるのかアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
解決が裁判にまでもつれてしまうと、訴訟費用や弁護士費用などの掛かる費用も大きくなります。できれば訴訟の前に示談や和解で解決しておきたいところですが、被害者自身だけでの和解や安易な示談は損になってしまう可能性も低くありません。