IPアドレスとは
IPアドレスは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどのネットワーク通信を行う機器を識別するために割り当てられる番号です。どのコンピューターがネット上でデータを送信したか判明できることから、「インターネット上の住所」とも呼ばれています。
通常、他の機器のIPアドレスを得ることは不可能ですが、SNSや電子掲示板などで誹謗中傷コメントをされた場合は運営サイトに対して開示請求できます。入手したIPアドレスによって、NTT、au、Softbankなどの携帯キャリアを検索でき、さらに、携帯キャリアに対して情報開示請求することで、発信者の身元を割り出すことができます。
このことから、IPアドレスは匿名の発信者の身元を特定する際に必要になります。
発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求は、情報開示に関する制度で、「プロバイダ責任制限法」という法律に規定されています。ネット上で誹謗中傷された場合に、IPアドレスや、氏名や住所などの個人情報について、プロバイダに対して開示を求めることができる制度です。
一般的に、誹謗中傷や名誉毀損発言をされた場合、被害者は加害者に対して、民事上の損害賠償を請求することができます。また、プライバシー侵害が著しかったり、脅迫内容が含まれたりするなど、違法性が高い書き込みについては、名誉毀損罪や脅迫罪等の刑事上の罪を問うことができます。
ただし、SNSや電子掲示板などは匿名で書き込みができるため、加害者の身元を簡単に割り出せません。そこで、プロバイダ責任制限法は、加害者の身元を割り出せるように情報開示請求制度を規定しています。
IPアドレス開示からわかる情報
IPアドレスがあると、国や地域単位でのおおまかな位置や、利用しているプロパイダなどを推定できます。これらの情報は、検索ツールを利用すれば、誰でも調べることが可能です。
ただし、IPアドレスだけで個人を完全に特定することはできません。Webサイトの管理者はユーザーのIPアドレスを知ることができますが、住所などの重要な個人情報を知ることはできないのです。
IPアドレス開示で書き込みの犯人は特定できる?
IPアドレスだけで犯人の身元を特定することはできません。しかし、IPアドレスがあれば、それをもとに、投稿者が契約しているNTT、au、Softbankなどの携帯キャリアを検索することができます。
さらに、検索によって表示された携帯キャリアなどのプロバイダに対して発信者情報開示請求をすることで、犯人の氏名や住所、電話番号などの個人情報を割り出すことができます。
なお、氏名や住所といった個人情報は慎重に扱うべき項目であるため、裁判外でプロバイダが開示してくれることは滅多にありません。
また、暫定的な処置である仮処分も利用することができません。そのため、携帯キャリアなどのプロバイダに開示請求するときは、通常の民事訴訟を経る必要であることを念頭に置きましょう。
犯人を特定できないケース
開示請求することで、基本的に誹謗中傷や違法性がある書き込みをした加害者を特定することが可能です。ただし、ログの保存期間やネット環境の関係で、加害者の身元を割り出すのが困難な場合もあります。
加害者の特定が困難なケースは以下の通りです。
ログが消去されている
インターネットサービスプロバイダにおけるログの保存期間は3〜6ヶ月程度です。
NTT、au、Softbankなどの携帯会社では3ヶ月ほどログを保存しています。プロバイダ側がログを消去していると、せっかくIPアドレスを入手できたとしても、ログの不存在を理由に開示を断られることもあり得ます。
IPアドレスについては仮処分によってすぐに入手できますが、その後の開示請求は本裁判を経る必要があります。通常の裁判は時間がかかるため、ログの保存期間内に手続きを済ますことは困難です。
海外のプロキシサーバー経由である
開示されたIPアドレスが海外プロキシ経由等であった場合、加害者の身元を特定することができません。
例えば、開示されたIPアドレスが、docomoなどの国内の携帯キャリアである場合は、国内法人である株式会社NTTドコモを相手方として開示請求することになります。
しかし、これが海外プロキシサーバーなどであった場合、日本の裁判所で当該海外プロキシサーバー等を相手方として裁判を行うことができないため、加害者の身元を割り出すのが非常に困難になってしまうのです。
公衆無線LANを利用している
公衆無線LANとは、街中で無料で利用できる無線LANを提供しているサービスのことです。フリーWiFi、フリースポットなどとも呼ばれており、観光スポットや空港、飲食店や宿泊施設などでサービスを利用することができます。
公衆無線LANを経由して書き込みが行われた場合、この無線LANのネット回線の契約者は、サービスを提供している空港や飲食店などの施設の運営会社になります。そして、空港や飲食店などの施設の経営会社は、IPアドレスを利用している発信者の個人情報を知ることはできません。
投稿元がネットカフェやインターネットマンションである
投稿者がネットカフェで誹謗中傷を書いていた場合でも、発信者情報開示請求をすれば、ネットカフェを運営する会社名までは開示されます。そして当該会社に弁護士会照会などをすれば、どこの店舗で誹謗中傷が投稿されたかも分かります。
同じように、各住居が個別にインターネット契約をする必要がないインターネットマンションも加害者の特定が困難です。
投稿元がインターネットマンションである場合に発信者情報開示請求すると、マンション管理会社や委託先の会社が開示されます。さらに、管理会社や委託先の会社に弁護士会照会などすると、どこのマンションで書かれたのかまでは判明します。
ただし、どの部屋の人が書いたのかは、多くの場合で記録がなく調べられないのです。
IPアドレス開示請求の流れ
IPアドレスを入手するには、SNSや電子掲示板の運営サイトに発信者情報開示請求を行う必要があります。
なお、裁判外で任意開示請求するという手段もありますが、個人情報にかかわるものですので、サイト側はほとんどの場合で請求に応じてくれないでしょう。
任意開示請求を拒否された場合は、発信者情報開示の仮処分を裁判所に申立てます。
仮処分手続きでは裁判官が申立人と面談し、必要があると判断されるとIPアドレスの開示請求が認められます。
IPアドレス開示請求にかかる費用や時間
IPアドレスを開示請求するときにかかる費用や時間は以下の通りです。
開示請求にかかる期間
発信者情報開示請求の一連の流れは約9か月程度と言われています。仮処分手続によってIPアドレスの開示が認められるのは申立てから約1~2か月程度です。
次に、インターネットサービスプロバイダに発信者情報開示請求をします。この訴訟は本裁判ですので、6か月~8か月程度の期間がかかります。
裁判が長期化した際は、開示請求が認められるまでに1年以上かかる場合もあるので、掲示板などで誹謗中傷されたときはすぐに対応しましょう。
費用の相場
IPアドレスの開示請求をする際にかかる費用は約30万~70万円となります。まず、開示請求の手続を弁護士に依頼する場合には弁護士費用がかかります。
さらに、IPアドレスの開示を求める仮処分が認められた場合には、供託金として10万円〜30万円を法務局に納付する必要があります。供託金とは、誤った情報開示によって相手方に損害が発生した際に支払う担保金を意味します。
仮処分申立ては簡略的な訴訟手続ですので、本裁判ほど慎重な審理がされません。その結果、誤った仮処分で相手方に損害が生じることもあるため、損害賠償の担保として供託金を納付する必要があるのです。
まとめ
IPアドレスは「インターネット上の住所」と呼ばれており、どの機器からデータが送信されたかを識別することができます。IPアドレスは匿名の発信者を特定するのに必要な情報であり、誹謗中傷などの被害にあった場合は、SNSや掲示板の運営サイトに開示請求するすることができます。
この開示請求は、多くの場合で裁判手続きである仮処分手続きを利用することになります。個人で裁判手続きを行うのは大変ですので、弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。