後遺障害12級の認定率はどのくらい?認定されない場合の理由は?

後遺障害12級の認定率はどのくらい?認定されない場合の理由は?

交通事故の被害に遭い、後遺症が残ったために後遺障害12級の申請をしたのに認定を受けられなかった。そんな時はどうすればいいのでしょうか。

先生
本記事では、後遺障害12級の認定率や認定を受けられない理由、審査に納得できない場合の対処法などを解説します。

後遺障害12級の認定率はどれくらい?

日本における後遺障害の認定率は決して高いとはいえず、損害保険料率算出機構の統計(自動車保険の概況 2021年度)によれば、全体では5%程度となっており、申請しても必ずしも認められるわけではありません。これは、後遺障害等級の認定において、12級は軽度から中程度の障害とみなされ、認定が慎重に行われるためです。認定率は事案ごとに異なり、事故の状況や医学的証拠の有無、保険会社の対応によっても影響を受けます。
自動車保険の概況 2021年度

POINT
2020年度の後遺障害認定件数は49267件で、そのうち、12級は8036件と約16.31%を占めています。等級の中では14級の58%に次いで高い数字ですが、全体の認定率を考慮すれば交通事故の被害に遭って後遺症が残った場合、12級に認定される確率は1%以下であり、申請しても認められないケースも考えておかなくてはならないでしょう。

交通事故による後遺障害とは

交通事故に遭い、ケガの治療後も完全には治りきらず、身体に何らかの症状が残ってしまったものを「後遺障害」といいます。日常生活でも後遺症という言葉をよく使いますが、後遺障害は少し意味が異なり、交通事故による後遺症のみに限って使用される用語です。

後遺障害には定義がある

交通事故の後遺障害は、事故による後遺症が残っていれば、どういったケースでも認められるわけではありません。後遺障害には明確な基準と定義があり、以下の条件全てを満たす必要があります。

  1. 交通事故による肉体的・精神的な傷害が治療を終えた後まで残存している。
  2. 後遺症の存在が医学的に認められる。
  3. 事故と後遺症の間に相当因果関係が認められる。
  4. 後遺症は将来においても回復困難と見込まれる。
  5. 後遺症の存在により労働能力の喪失を伴う。
  6. 「自賠責施行令(自動車損害賠償保障法施行令)」に定められる後遺障害等級に該当している。
POINT
まとめると、治療後も将来の回復が難しいとみられる何らかの障害が残っており、症状と事故との間に医学的な因果関係があって、労働に影響を及ぼす後遺症のみが後遺障害として認定される可能性があるのです。

後遺障害の等級とは

交通事故の後遺障害は、自賠責施行令の別表により定められた、1級〜14級までの等級に分けられています。数字が小さいほど障害が重く、1級が最も補償が手厚くなります。また、2つ以上の症状が残った場合には、最も重い症状の等級を繰り上げる「併合」の制度が適用されるケースもあります。

後遺障害の認定を受けると、加害者に対して「後遺障害慰謝料」および「後遺障害逸失利益」の請求が可能になります。

慰謝料とは他人の不法行為による精神的苦痛に対する損害賠償で、後遺障害慰謝料の場合は、交通事故により将来にわたる障害が残ってしまったことに対して請求できます。

後遺障害逸失利益は、後遺障害による労働能力低下により、現在の仕事を続けられなくなった場合など、将来得られるはずだった収入が得られなくなった損失(逸失利益)に対する補償です。後遺障害12級の逸失利益は、「基礎収入 ✕ 14% ✕ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式で算出することができます。

後遺障害等級の認定を受けるには

後遺障害は単に症状が残っているだけでは認められず、専門の機関に申請を行い、認定を受けてはじめて慰謝料などの補償が受けられるようになります。

後遺障害等級の認定を取得するには、まず、医師からこれ以上治療を続けても症状が改善しない「症状固定」の状態と診断を受けた後、医師に「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があります。診断書を損害保険料率算出機構など所定の機関に提出して申請を行うと審査が実施されます。

女性
後遺障害は症状が残っても自動的に認定を受けられるものではなく、申請をしなければなりません。

後遺障害等級の申請方法は2種類ある

後遺障害の認定を受けるには「事前認定」と「被害者請求」の2つの申請方法があります。

申請方法と特徴メリットデメリット
【事前認定】
加害者の加入している任意保険会社に手続きの仲介を行ってもらう方法。
・面倒な申請は保険会社が代理で行ってくれるため、書類や資料を作成する手間がかからない。
・ミスをする恐れがなく、申請方法がよくわからない方でも安心。
・必要な資料を入手するための費用を保険会社に負担してもらえる。
・保険会社はなるべく低い等級にして支払う保険金を抑えようと考える傾向にあるため、納得のいく等級で認定を受けられない恐れがある。
・保険料の支払いが一括になり、先に自賠責保険だけを受け取る方法が使えなくなる。経済的に余裕がない場合は注意が必要。
【被害者請求】
加害者の自賠責保険会社を通じて自分自身で申請を行う方法。
・加害者との示談が成立する前でも、保険料のうち、自賠責分のみを先払いで受け取れるようになる。・申請のための必要書類を全て自分で用意しなければならなくなり、手間と時間、費用がかかる。

後遺障害12級の症状とは?

後遺障害等級12級は、交通事故の後遺障害の中で下から3番目に軽い等級に当たります。
以下のような症状に当てはまる場合、後遺障害12級の認定を受けられます。

1、片目の眼球に著しい調節機能障害(調節力が半分以下の状態)または運動障害(眼筋の注視野が半分以下の状態)を残すもの。
2、片目のまぶたに著しい運動障害(まぶたを開けた際に瞳孔が完全に覆われる状態、またはまぶたを閉じても角膜を完全に覆えない状態)。
3、7本以上の歯に対して歯科補綴(歯が欠けたり無くなったりした部分を入れ歯やクラウンで補う治療)を行った状態。
4、片方の耳殻(耳介。外耳孔から外側の後方に突き出ている外耳の軟骨に支えられた部位)の大部分を欠損した状態。
5、鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤の著しい変形。
6、片方の上肢(肩から手指にかけての部位)の三大関節(肩・肘・手首)のうち1つに機能障害が残った状態。
7、片方の下肢(股関節から足先にかけての部位)の三大関節(股関節・膝・足首)のうち1つに機能障害が残った状態。
8、長管骨(四肢にある長い管状の骨)の変形。
9、片手の小指を失った状態。
10、片手の人差し指、中指、薬指の用を廃した状態(末節骨の半分以上を失った状態、または中手指節関節もしくは近位指節間関節の可動域が半分以下に制限された状態、または手指の末節の指の腹および側部の深部・表面の感覚が無くなった状態)。
11、片方の足の第2の足指(手で言う人差し指)を失った状態、または第2の足指を含んで2本の足指を失った状態、または第3の足指(手で言う中指)以下3本を失った状態。
12、片方の足の第1の足指または他の4本の指の用を廃した状態。
13、局部に頑固な神経症状が残った状態(いわゆる「むちうち」に該当する)。
14、外貌(頭や顔面、首のように上肢、下肢を除いて日常的に露出する部位)に醜状が残った状態。
・頭部……鶏卵大以上の瘢痕(傷跡)、または鶏卵大以上の頭蓋骨の欠損。
・顔面……10円玉以上の傷跡、または長さ3cm以上の線状痕。
・頸部……鶏卵大以上の瘢痕。

例えば、以下のような事例ではそれぞれ12級の各号に該当します。

ケース①……自転車で横断歩道を渡っていたところ、曲がってきた車と接触して転倒。顔に線状痕が残った→12級14号

ケース②……車を運転中、信号待ちで停車していたところ、後ろから追突される事故に遭い、頸部の受傷により、治療後もめまいの症状が残った→12級13号(むちうち)

ケース③……交通事故に遭い、片足を骨折して入院。治療後も、股関節が思うように動かせなくなり、歩くのにも困難が生じるようになってしまった→12級7号

ケース④……交通事故により片手を骨折。治療後も手首が元の通り動くようにならず、機能障害が残ってしまった→12級6号

後遺障害12級に認定されたら障害者手帳が発行される?

後遺障害12級に認定された場合に障害者手帳が取得できるかどうかは、後遺障害認定と障害者手帳の交付基準が異なるため、必ずしも取得できるとは限りません。
後遺障害12級は、交通事故などによる後遺症に対して認定されるもので、自賠責保険や任意保険の補償額に影響します。一方、障害者手帳(身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳など)は、身体や精神の障害が一定の程度に達した場合に交付されるもので、手帳の等級は福祉サービスや税制優遇などの受給資格に関連します。障害者手帳の交付基準は、各自治体や診断される障害の種類によって異なるため、必要に応じて自治体の窓口で確認し医師の診断を受けることが重要です。

後遺障害の12級が認定されない理由

後遺障害の申請を行ったのに認定を受けられないケースが多くなってしまうのは、どのような理由があるのでしょうか。後遺障害の12級が認定されない場合に考えられる原因について解説します。

1、後遺障害診断書が不十分

後遺障害の認定や等級決定に重視されるのが医師の作成する後遺障害診断書です。診断書はA4サイズの書類で作られ、1枚の中に裏付けとなる医学的所見や症状の整合性などを過不足なく記載する必要があります。診断書の内容が不十分だったり、不備があったりすれば、当然、非該当の可能性が高くなります。

後遺障害診断書を書いてもらう場合、医学的に正しい内容を記載するだけでなく、認定で必要なポイントを押さえておかなくてはなりません。ただ、医師によっては事故の診断書を書き慣れていなかったり、重要性を理解していなかったりするケースもあります。

先生
そこで、診断書を作成する際には、医師はもちろん、交通事故に詳しい弁護士など後遺障害認定に詳しい相談員などにも相談し、意見やアドバイスをもらうようにすると良いでしょう。

2、症状を裏付ける他覚的所見・検査が不足

後遺障害を証明するための他覚的所見や検査結果などが不足している場合にも認定を受けにくくなってしまいます。身体の一部に傷が残ったり、欠損が生じたりしたケースでは、外見からも分かりやすいのですが、むちうちや機能障害のように一目で障害の程度がわかりにくいものでは客観的な証拠や資料が重要になってきます。

カルテや医師の意見書、レントゲンやCT、MRIなどの画像資料、ジャクソンテストやスパーリングテストなどの神経学的検査の結果などの書類を添付すれば、より認定の可能性が高まります。

 注意が必要なのは、神経学の検査を受けるとしても、医学的に必要な検査と後遺障害に必要な検査が異なっている場合がある点です。そのため、ここでも、医師だけでなく、できれば弁護士などの意見も聞くようにしてください。

3、通院期間・通院日数が足りていない

後遺障害は治療が終わってからも残っている症状に対して認定を受けるものですが、治療自体が十分でないと判断されると認定を受けるのが難しくなってしまいます。

通院期間が短いと「たいしたケガでないのでは」「もっと治療を続ければ治るのでは」と考えられて非該当になってしまう恐れがあるのです。なかには、「仕事が忙しい」「家庭の事情がある」などを理由に個人の判断で病院に行かなくなってしまう方もいますが、後遺障害の認定を考えれば絶対に避けるべきといえるでしょう。

女性
治療中はきちんと医師の指示に従い、症状固定の診断を受けるまで通院を続けるようにしてください。

4、症状に連続性・一貫性がない

症状の連続性・一貫性がないと判断される場合にも、認定を受けるのが難しくなります。

  • 医師に訴える症状の内容が途中で変わる。
  • 治療の最中で症状を訴えるようになる。
  • 一度治ったと言ったのに後から再び症状を訴える。

など、内容に一貫性のないと事故と後遺症の因果関係を疑われる可能性があるのです。治療中は、どんな小さな自覚症状でも全て医師に伝えるようにして、完全に治りきるか症状固定になるまで主張を変えないようにしてください。

POINT
自覚症状を正確に説明できるか不安な場合は、自分自身でメモなどをつけておき、それをもとに医師に話をするとコミュニケーションがやりやすくなって、誤解も生じにくくなります。

5、交通事故の規模が小さい

事故の規模が小さかった場合も、後遺障害認定を受けにくくなるケースがあります。後遺症が残るほどのケガといえば、一般的には大きな事故で起きる場合が多く、小規模な事故では後遺障害にもなりにくいと考えられるためです。

しかし、軽いケガでもむちうちになって頑固な神経症状が残るケースも存在するため、自覚症状があれば、医師にきちんとそのことを伝えて申請を行うようにしましょう。

後遺障害等級に納得できないときはどうする?

後遺障害等級の申請を行ったのに認定を受けられず納得できない場合、どのような対応をとればいいのでしょうか。ここからは、非該当になってしまったときにできる「異議申し立て」「ADR機関の利用」「訴訟の提起」の3つの方法について解説します。

1、異議申立て

損害保険料率算出機構」へ書面で異議申立てを行い、再審査を求める方法です。異議申立ては無料で利用でき、回数制限も設けられていません。異議申立ての方法にも「事前認定」と「被害者請求」の2種類があり、どちらで行うかは最初の申請でどちらの方法を採ったかによります。

初回が事前認定であれば、今回も事前認定にする、もしくは被害者請求にするかを選択できます。しかし、初回が被害者請求の場合は、今回も被害者請求で行わなければならず、事前認定への変更はできません。結果が出るまでの期間は2~3か月程度で、長い場合には6か月ほどかかるケースもあります。

先生
異議申立て自体は「異議申立書」を提出すれば行えますが、そのままでは最初と同じく非該当になってしまう可能性が高く、結果を覆すには、新たな医学的資料などを用意する必要があります。

2、紛争処理手続き

「ADR機関(裁判外紛争処理手続き)」を利用して解決を図る方法です。

ADRとは
裁判以外の方法で法律上の問題を解決する手段を意味しており、専門機関や調停人を通して仲裁や調停、斡旋などを行います。後遺障害認定では、知識をもち、中立的な観点から物事を判断できる第三者(医師、弁護士、学識経験者など)で構成されたADR機関(紛争処理委員会)への申請を行い、非該当の妥当性について審査を実施してもらいます。

異議申立てと同様に無料で利用可能ですが、こちらは1回だけと決まっているため、いつ利用すべきかの判断は慎重に行ってください。結果が出るまで3か月程度と裁判に比べればスピーディな解決が期待できるのもメリットです。

女性
ADR機関には複数あるため、後遺障害認定の際は、交通事故に強いところを選ぶようにしましょう。

3、訴訟の提起

裁判所に民事訴訟を提起して非該当の妥当性を判断してもらう方法です。通常の裁判と同様に結果が出るまで半年から1年、長ければそれ以上の期間がかかり、裁判費用も必要になります。

上2つの方法と比べてハードルは高いものの、裁判所は自賠責損害調査事務所やADR機関とは異なる独立した判断を下すため、非該当だったものが認定を受けられたり、高い等級で認定されたり、結果を覆せる可能性があります。ただ、そのためには、裁判官を納得させられるだけの新しい証拠や資料などを提出しなければなりません。

それ以外にも、訴訟の提起には一般の方には難しい部分も多く、専門的な知識も求められるため、裁判を起こす際には弁護士などの有資格者に相談するようにしてください。

認定が難しい理由とは?

後遺障害12級の認定が難しい理由は、具体的な症状の証明や因果関係の立証が求められること、症状の一貫性や通院履歴、医師の診断書の質が重要であること、さらに保険会社が基準を厳格に運用する傾向があるためです。これらの要素を確実に揃えることが認定のカギとなり、認定が難しい場合は弁護士に相談するなど、意見を仰ぐことが推奨されます。

非該当の結果を覆すためには

後遺障害の異議申立てを行った場合に非該当が覆り、認定を受けられる確率は2019年のデータによると12%程度です。後遺障害自体の認定率だけでなく、再審査の認定率も決して高いとはいえません。

そのため、一度出た結果を変えたいなら、単に異議申立てを行うだけでなく、当初の申請で不足していた資料などを追加し、きちんとした根拠を示す必要があります。

POINT
再審査に不安がある場合は、交通事故に詳しい弁護士などに相談・依頼して、どのような対策を行えばいいのか、アドバイスをもらうようにしてみてください。

まとめ

交通事故によるケガが原因で腕や脚の機能障害、むちうちなどの神経障害が残った場合、後遺障害の申請を行うと、12級の認定を受けられる可能性があります。しかし、後遺障害の認定率は全体でも5%程度と決して高くはなく、非該当になってしまうケースも十分に考えられるでしょう。

審査結果に納得できない場合は、異議申立て等の対応を行えますが、結果を変えるには新しい資料などを提示する必要があります。交通事故に強い弁護士などに依頼すれば、最初の申請ではどのような点が悪かったのか、次はどういった資料を用意すればいいのか、などのアドバイスをもらえ、再審査に向けた適切な対応をとれるようになります。

後遺障害等級の認定に納得できずに悩んでいる方は、あきらめず、一度弁護士に相談してみてください。

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