交通事故の慰謝料は自賠責保険と任意保険の両方もらえる?早くもらう方法は?

交通事故の被害者になったとき、慰謝料は自賠責保険と任意保険の両方からもらえることはご存じでしょうか。2種類の保険にはそれぞれ特徴があり、仕組みを正しく理解していれば、手元に必要な保険金を早期に受け取る方法もあります。

この記事では、交通事故の賠償に深く関わる自賠責保険と任意保険の違いや、知っておくと安心な「保険金をスピーディーに受け取るための手続き」について分かりやすく解説します。

執筆・監修者

執筆・監修:豊川祐行

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。 あまた法律事務所へのお問い合わせはこちら

自賠責保険と任意保険の違いとは

交通事故における対人賠償の仕組みを支える自動車保険には、「自賠責保険」と「任意保険」の2種類が存在します。
それぞれの名前はよく知られていますが、法的な位置づけや役割にはどのような違いがあるのでしょうか。

自賠責保険と任意保険は加入義務が違う

この2つの保険における決定的な違いは、法律によって加入が義務付けられているかという点です。

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(自賠法)の定めにより、公道を走るすべての自動車やバイクに契約が義務付けられている保険です。運転にあたって加入を避けることはできないため、一般に「強制保険」と呼ばれています。

もし自賠責保険の期限が切れた状態で車を運転すると、たとえ事故を起こしていなくても「無保険車運行」という重い法律違反になり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるほか、一発で免許停止(違反点数6点)の行政処分を受けます。また、車内に自賠責の証明書を携帯していなかっただけでも、30万円以下の罰金となるケースがあります。

さらに、自賠責保険の未加入車は車検を通すことができないため、有効な車検がないまま運転する「未車検車運行」の罪(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)も重なり、非常に重いペナルティが課されることになります。

これに対して任意保険は、その名の通りドライバーの自由な意思で加入を選択するものです。未加入であってもそれ自体で法律違反に問われたり、行政処分を受けたりすることはありません。

自賠責保険と任意保険には他にも違いが

加入義務の有無だけでなく、保険が用意されている目的や補償の対象、支払われる上限額、過失割合による減額のルール(過失相殺)など、運用面でも多くの違いがあります。

保険の目的と補償対象

自賠責保険は、交通事故の被害者に対して最低限の救済を行うことを目的とした保険です。そのため、補償の範囲は「対人(怪我や後遺障害、死亡)」という被害者の身体に関する損害のみに特化しています。

一方の任意保険は、自賠責保険の補償だけでは到底カバーしきれない巨額の賠償リスクに備えるためのものです。補償のバリエーションも豊富で、対人賠償だけでなく、相手の車や建物を壊したときの「対物賠償」、自身の車を守る「車両保険」などから必要なプランをオーダーメイドで組み合わせて契約します。

補償金額

自賠責保険は被害者の最低限度の保障を想定しているため、法律によってあらかじめ明確な支払上限額が定められています。そのため、被害が深刻な大事故では、自賠責だけでは全額を賄えないケースが多々あります。

任意保険では、契約者が選んだプランに応じて限度額が決まります。多くのドライバーは上限を「無制限」に設定しており、自賠責保険の限度額をオーバーしてしまった残りの賠償金については、この任意保険からスムーズに支払われる仕組みになっています。

過失相殺(減額)

事故において被害者側にも不注意(過失)があった場合、その責任の割合に応じて賠償額を差し引く手続きを過失相殺(または過失減額)と言いますが、この計算ルールにも2つの保険で違いがあります。

自賠責保険では、被害者救済という基本理念があるため、被害者の過失割合が70%未満であれば過失による減額を一切行いません。明らかな重過失がない限り、最低限の補償額をキープしてくれます。しかし、任意保険では過失割合が1%単位で厳密に査定され、その割合の分だけ容赦なく賠償金がカットされます。

免責事由

保険会社が「このケースでは保険金を支払わない」とする特例を免責事由と言います。自賠責保険は被害者を守るための公的な性格が強いため、免責とされるケースは「重複契約の場合」や「保険契約者や被保険者が故意に(わざと)事故を起こした場合」など、極めて限定的です。

これに対し、民間企業が運営する任意保険では免責事由の規定が細かく設定されており、自賠責保険に比べて支払いの審査基準が厳しくなっています。

示談代行

任意保険には、事故対応のサービスとして、保険会社の担当者が被害者側と直接交渉をしてくれる「示談代行サービス」が標準で付帯しているケースがほとんどです。しかし、自賠責保険にはこのような交渉を代行してくれる窓口やサービスは存在しません。

また、任意保険では、トラブル時に弁護士費用をカバーしてくれる「弁護士費用特約」や、車のトラブルに駆けつける「ロードサービス」といった付帯オプションが充実しているのも大きな強みです。

自賠責保険任意保険
加入条件すべての自動車・バイクに加入義務ありドライバーの任意(個人の判断)
保険の目的被害者への最低限度の人身救済自賠責保険ではカバーしきれない大きな損害を補う
補償範囲被害者の身体的な損害(人身被害)のみ対人賠償のほか、対物賠償、車両保険、搭乗者傷害保険など、ニーズに合わせた多彩な補償メニュー
補償金額法律による一律の限度額あり
傷害:120万円
後遺障害:3000万円(常時介護は4000万円)
死亡:3000万円
契約時のプランに準じる
加入者が任意で設定でき、対人・対物は「無制限」とするのが主流
過失相殺被害者の過失が70%を超える重過失の場合のみ減額双方の過失割合に応じて厳密に相殺される
免責事由・重複契約の解消
・契約者や被保険者の故意による事故(悪意の損害)
保険会社の約款に基づき、細かな免責条項が多数規定されている
示談代行なし(手続きはすべて自身で行う)あり(相手方との交渉を保険会社に任せられる)

交通事故が起きた際にはどう保険を使うのか

車を運転する人の多くは自賠責保険と任意保険の双方に加入していますが、実際の事故現場ではこれらをどう使い分けるのでしょうか。

この2つは「どちらか片方を選んで使う」という性質のものではありません。いわゆる「二階建て構造」になっており、ベースとなる一階部分(自賠責保険)でまず最低限の補償を行い、そこからあふれてしまった二階部分(不足額)を任意保険がカバーするという流れで連動します。

そのため、治療費や慰謝料が自賠責の枠内に収まる極めて軽微な事故を除けば、基本的には両方の保険を組み合わせて使うことになります。なお、任意保険は契約内容によっては、加入者本人だけでなく同居の家族が起こした事故にも適用できる場合があります。

自賠責保険しか入っていないとどうなるか?

加害者が任意保険を解約していたり、自賠責保険しか入っていなかったりした場合、損害賠償の総額が自賠責の限度額を超えた時点で保険からの支払いはストップします。超過した分の賠償金は、すべて加害者個人が自腹(自己財産)で負担しなければなりません。慰謝料や逸失利益が高額になれば、個人で支払いきれる金額ではなくなります。加害者に経済力がなければ、被害者自身が正当な賠償金を受け取れなくなるという最悪の事態も起こり得ます。

POINT
被害者への誠意ある補償と、自分自身の人生破滅を防ぐという意味でも、任意保険は「任意」という名称ではあっても、車を運転する以上は必ず加入しておくべき必須の保険と言えます。

交通事故の被害者に支払われる保険金

ここからは、交通事故に遭った被害者に対して、それぞれの保険から実際にどの程度の保険金が支払われるのか、基準や内訳を具体的に見ていきましょう。

自賠責保険の保険金

交通事故の慰謝料を算出するアプローチには3つの基準(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)がありますが、最低限の補償を前提とする自賠責保険の計算(自賠責基準)は、3つの中で最ももらえる金額が低くなります。

自賠責保険には厳格な支払い限度額(枠)が設けられており、怪我(傷害)による損害は120万円まで、後遺障害は最高3000万円(常に介護が必要な場合は4000万円)まで、死亡事故の場合は3000万円までと一律で上限が定められています。

 いかに実害が大きくても、この限度額を超えた分は自賠責保険の窓口から受け取ることはできません。

では、怪我や後遺障害といった個別のシチュエーションにおいて、自賠責保険からどのようなお金が支払われるのか、細かく掘り下げてみます。

傷害による損害(120万円まで)

自賠責基準で怪我の慰謝料(傷害慰謝料)を計算する場合、入通院にかかった日数に対して1日あたり4300円を掛け合わせて算出します。
その際、以下の2つの計算式で出た結果のうち、「金額が低い方」が採用されるルールになっています。
① 4300円 × 総通院期間(治療開始から終了までの日数)
② 4300円 × 実際の通院日数 × 2

例として、通院期間が3ヶ月(90日間)で、そのうち週3日ペース(月12日×3ヶ月=計36日間)で実際に病院へ通った場合の慰謝料を計算してみます。
① 4300円 × 90日 = 38万7000円
② 4300円 × 36日 × 2 = 30万9600円

この2つを比較すると②の方が低くなるため、実際に支払われる慰謝料の額は30万9600円となります。

自賠責保険からは、この慰謝料以外にも、病院への実費支払いや怪我で仕事を休んだことへの補填として、以下のような名目のお金が支払われます(すべて合算して120万円の枠内となります)。

治療費病院やクリニックなどの医療機関で診察・加療にかかった実費。必要かつ妥当な治療行為と認められる範囲において、実費の全額が対象。
休業損害怪我の治療のために仕事を休み、給与や売上が減少したことに対する補填。原則として1日あたり一律6100円。(これ以上の確実な減収を証明できる資料があれば、上限19000円まで引き上げ可能)
看護費入院中や通院にあたって、家族や専門家による付添サポートが必要だった場合の費用。入院時の付添:1日につき6100円
通院時の付添:1日につき2100円
通院交通費病院へ通うために利用した電車、バス、マイカーのガソリン代など。最も経済的かつ合理的なルートを基準に、実費が支払われます。
雑費入院生活を送る上で必要となった、消耗品や日用品の購入費用など。原則として1日あたり一律1100円。
義肢などの費用事故が原因で、義手・義足・義眼・松葉杖・車椅子・眼鏡などの補助具が必要になった費用。今後の生活に不可欠と認められる範囲において、購入やレンタルの実費。
後遺障害による損害(3000万円まで)

適切な治療を続けても症状が完治せず、身体や精神に何らかの後遺症が残ってしまった場合は、等級の認定を受けることで後遺障害慰謝料を別途請求できるようになります。後遺障害は最も重い1級から比較的軽度な14級までの等級に区分されています。

自賠責基準における後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のように等級ごとに固定で定められています。

等級慰謝料額(単位:万円)
1級(要介護)1650
1級1150
2級(要介護)1203
2級998
3級861
4級737
5級618
6級512
7級419
8級331
9級249
10級190
11級136
12級94
13級57
14級32

また、後遺障害が認められると、慰謝料に加えて、「もし後遺症がなければ、将来健康に働いて得られたであろう収入の目減り分」を補償する逸失利益(いっしつりえき)も受け取ることができます。逸失利益は以下の算式で導き出されます。

逸失利益の計算式
基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 就労可能期間に応じたライプニッツ係数

・基礎収入額……事故に遭う前の基準年収(主婦などの場合は平均賃金などを用いる)。
・労働能力喪失率……障害によって、働く能力がどれくらい制限されてしまうかを示す割合(等級ごとに目安あり)。
・就労可能期間……これから先、何年間にわたって働けたかという期間。原則として「67歳」をゴールとして計算。
・ライプニッツ係数……将来得るはずだったお金を前払いで受け取るため、その利息分(中間利息)をあらかじめ差し引くための国が定めた係数。

例えば、年収350万円の35歳の男性が、むち打ち等で12級(労働能力喪失率14%)の認定を受けた場合の逸失利益は、次のように計算されます。
350万円 × 14% × 20.389(32年の就労期間に対するライプニッツ係数)= 999万610円

死亡による損害(3000万円まで)

命を落とされた場合の死亡慰謝料には、亡くなられた被害者本人への無念に対する補償と、大切な家族を失った遺族自身の深い精神的苦痛に対する補償の2つが用意されており、自賠責の規定に沿って支払われます。これらに加え、死亡に伴う損害として次の費用が認められます。

葬儀費用お通夜、告別式、火葬、埋葬、墓石の建立やお布施にかかった一連の費用。自賠責基準では、原則として100万円が上限として支払われます。
死亡逸失利益もし事故に遭わずに生きていれば、将来的に稼いで家族に残せたはずの生涯収入の補償。「基礎収入額 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能期間に応じたライプニッツ係数」で算出。
※生活費控除:本人が生存していればかかったはずの食費などの生活費分を差し引く考え方。

任意保険の保険金

自賠責保険には上記のような上限枠があるため、人身損害が大きくなった場合にその不足分を穴埋めするために任意保険が稼働します。実際の賠償実務では、まず一階部分の自賠責保険からお金が出され、そこからあふれた請求額が任意保険会社から支払われる形をとります。

また、人間の怪我(人身被害)しかカバーしない自賠責保険とは違い、相手の車の修理代や壊した物に対する「物損」の補償をカバーしてくれるのも任意保険の役割です。

任意保険会社との示談交渉において用いられる算定方法は、任意保険基準と呼ばれます。3つの基準の中では2番目に位置しますが、実際のところ、保険会社が提示してくる金額は自賠責基準に毛が生えた程度であることも多く、劇的な高額化が最初から期待できるわけではありません。

任意保険基準の計算プログラムは各保険会社が独自に設定しており、外部には一切公開されていないため、事前に正確な額を知ることは困難です。ここでは、かつてすべての保険会社で統一基準として使われていた「旧任意保険支払基準」の入通院慰謝料表を目安として紹介します。

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月25.250.475.695.8113.4128.5
1か月12.637.86385.7104.6121134.8
2か月25.250.473.194.5112.2127.3141.1
3か月37.860.581.9102.1118.5133.6146.1
4か月47.969.389.5108.4124.8138.6151.1
5か月56.776.995.8114.7129.8143.6154.9
6か月64.383.2102.1119.7134.8147.4157.6

単位:万円

この旧基準を当てはめると、例えば「1ヶ月入院して、その後2ヶ月通院した」場合の慰謝料は50万4000円になります。前の自賠責基準の例と同じく「3ヶ月間通院(入院なし)した」場合の慰謝料は37万8000円となり、自賠責基準の30万9600円と比較すると、少しだけ高めにスライドしていることが分かります。

その他、休業損害などの各種項目についても、任意保険会社の算出規定に合わせることで自賠責よりは幾分色をつけられるケースがあります。しかし、保険会社も支出を最小化して利益を残したい営利企業であるため、被害者が何も言わないのをいいことに、可能な限り低いラインで示談をまとめようとする傾向がある点は、被害者として知っておくべき警戒ポイントです。

保険会社の最初の言い値にそのまま合意してしまうと、後から後悔することになりかねません。提示された金額に少しでも疑問があれば、サインする前に弁護士などの専門家にアドバイスを求めるのが賢明です。

交通事故で被害者が使える保険

交通事故の解決においては、加害者側が加入している保険に目がいきがちですが、実は被害者ご自身が契約している保険や社会保険などを活用できるケースもたくさんあります。
いざという時に役立つ、被害者側が使える保険の選択肢を整理しておきましょう。

加害者の保険

賠償のメインとなるのは、相手方の「自賠責保険」と「任意保険」です。加害者が任意保険を未契約であるといった特殊な不運を除けば、原則としてこの双方のルートからきちんと保険金が支払われます。

被害者側の任意保険

ご自身が加入している自動車保険の特約やプラン内容によっては、被害者でありながら自分の保険からお金を受け取れることがあります。
例えば、ご自身の任意保険に、
・搭乗者傷害保険……自分の車に乗せていた家族や友人が事故で死傷した場合、定額の保険金が出ます。
・人身傷害補償保険……過失割合に関係なく、自分や同乗者の怪我・死亡の実損害額をカバーして保険金が支払われます。
といった項目がセットされている場合、加害者からの賠償とは別枠、あるいは先行して保険金が下りる可能性があるため、契約している保険の代理店や窓口に一度確認してみる価値があります。

健康保険

交通事故による怪我の治療であっても、普段風邪を引いたときなどと同様に、自分の健康保険(保険証)を提示して3割負担などで受診することができます。通常は、加害者側の保険会社が「一括対応」として病院へ直接治療費を支払ってくれますが、過失割合で揉めて支払いを拒否されたり、途中で「治療費の支払いを打ち切る」と宣告されたりした場合は、健康保険に切り替えて治療を継続します。

保険会社による治療費の直接支払いはあくまで内々のサービスに過ぎないため、こちらの意向を無視して打ち切られるトラブルが多発します。病院の窓口によっては「交通事故は健康保険が使えません(自由診療になります)」と誤った案内をされることもありますが、法律上、交通事故で健康保険を使うことは何の問題もありません。自己負担額を低く抑えるために非常に強力な手段となるため、必要に応じて健康保険を使いたい旨を病院へしっかり伝えましょう。

POINT
交通事故で健康保険を利用する際は、加入している健保組合や市区町村の窓口へ「第三者行為による傷病届」という書類を提出する必要があります。本来は加害者が払うべき医療費を健康保険側が一時的に立て替える形になるため、「後から健保が加害者(保険会社)へ立て替え分を請求する」ために必要な手続きとなります。

労災保険

仕事中(業務災害)や、会社への行き帰り(通勤災害)の途中で事故に遭遇した場合は、労災保険を優先して適用することができます。労災保険を使うと、被害者の自己負担ゼロ(実費全額支給)で治療が受けられるほか、怪我のために仕事を連続して4日以上休まざるを得なくなった場合、4日目以降の休業に対して手厚い「休業補償給付」が支給されます。ただし、同じ休業期間に対して相手方の任意保険会社へ休業損害を重ねて二重取りすることはできません。

しかし、任意保険会社からの休業損害は、保険会社の独自の判断で途中でストップされてしまうリスクがあります。その点、国の制度である労災保険であれば、怪我で働けない客観的な事実が認められる限り安定して給付が続くため、治療に専念できる大きな安心材料となります。

なお、第三者(加害者)の不法行為によって労災保険が出動した場合も、健康保険と同じく、国(労働基準監督署)が後から加害者側に対して支払った給付金分をそっくり請求(求償)する流れになります。

保険金を早く受け取るためにできること

利用可能な保険や賠償金の概要を把握したところで、ここからは「手元に必要な保険金をできるだけ前倒しで早く受け取るための具体的なテクニック」について解説します。

交通事故の被害に遭うと、日々の通院費の支払いが重なるだけでなく、仕事を休むことで生活費の原資となる収入が減ってしまうため、示談が成立するのを待たずにお金を受け取りたい事態に直面します。

通常、任意保険会社からの最終的な示談金支払いは、治療がすべて終わり、示談内容に双方が合意してハンコを押した「後」になるため、数ヶ月〜1年以上先になるのが一般的です。お金のやり繰りに困った際、被害者が自らのアプローチで早期に現金を確保する手段を見ていきましょう。

被害者請求

加害者側の任意保険会社を通さず、被害者が直接、相手が加入している自賠責保険会社に対して「自賠責の上限枠(120万円)の範囲内で先に賠償金を支払ってほしい」と請求をかける制度を「被害者請求」と呼びます。このルートを踏むことで、加害者側との示談交渉が難航して真っ最中の段階であっても、先行して保険金を自分の口座に振り込ませることができます。

受け取れるのはあくまで自賠責の規定内(傷害の場合は120万円が上限)ですが、話し合いが決着していなくても当座の現金が入ってくるため、医療費の支払いや当面の生活費が厳しくなった際には非常に有効なアプローチとなります。

計算にはもちろん自賠責基準が適用され、支払いの天井は120万円となるため、実際の総損害がそれ以上に見込まれる場合でも、この手続きで一度に受け取れるのは120万円までとなります。

被害者請求を実行に移すためには、主に以下の書類を被害者自身で揃え、加害者の自賠責保険会社の窓口へ郵送します。

送付書類
・保険金、損害賠償額支払請求書(専用の用紙)
・交通事故証明書(自動車安全運転センター発行のもの)
・交通事故発生状況報告書
・医師が作成した診断書
・診療報酬明細書(病院から取り寄せる)
・通院交通費明細書
・付添看護自認書(実際に付き添いが必要だった場合)
・休業損害証明書(仕事を休んで減収があった場合)
・請求者本人の印鑑証明書
・委任状および委任者の印鑑証明書(弁護士などに手続きを代行してもらう場合)
・後遺障害診断書やレントゲン・画像データ一式(後遺障害分の先行請求を行う場合)
・戸籍謄本など(不幸にも死亡事故となった場合)

書類の審査がスムーズに進めば、一般的には1週間〜数週間程度で指定口座にお金が振り込まれます。なお、上限の120万円に達するまでであれば、治療の進捗に合わせて複数回に分けて請求をかけることも可能です。

 ただし、被害者請求を個人で勝手に行うと、任意保険会社がこれまで行ってくれていた「一括対応(病院への治療費直接支払いサービス)」を打ち切られてしまい、以降の通院費をすべて一度窓口で自己負担しなければならなくなるデメリットが生じるため、実行前のタイミングには注意が必要です。

仮渡金の利用

早期に現金を手に入れるもう1つの選択肢として、自賠責保険の「仮渡金(かりわ渡しきん)」という制度が用意されています。これは、事故によって急に困窮し、日々の医療費や生活費の工面に重大な支障が出ている被害者を救済するため、事故の損害が最終的にいくらになるか確定する前の段階で、まとまったお金を文字通り「仮渡し」してくれるシステムです。

仮渡金として一度に受け取れる金額は、怪我の具体的な症状や程度に応じて、以下のように一律の定額で定められています。

ケガの程度金額
・死亡事故の場合290万円
・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと明確に認められるもの
・上腕または前腕の骨折で、複雑な合併症を伴うもの
・大腿(太もも)または下腿(すね)の骨折
・内臓の破裂で、腹膜炎を併発したもの
・14日以上の入院を要する怪我で、かつ医師による治療期間が通算30日以上に及ぶもの
40万円
・脊柱の骨折
・上腕または前腕の骨折
・内臓の破裂(合併症なし)
・医療機関への入院を伴う怪我で、かつ医師による治療期間が30日以上に及ぶもの
・結果として14日以上の入院が必要となった怪我
20万円
・医師による治療期間が通算11日以上に及ぶ怪我5万円

治療期間が10日以内のごく軽微な怪我など、この表の基準に合致しない軽傷の場合は、残念ながら仮渡金を申請することはできません。仮渡金の申請には、主に以下の書類が必要となります。

必要書類
・仮渡金支払請求書
・交通事故証明書
・事故発生状況報告書
・医師による初期の診断書
・請求者の印鑑証明書
・委任状および委任者の印鑑証明書(代理人に委託する場合)
・戸籍謄本(遺族が死亡事故の仮渡金を請求する場合)

こちらも申請から支払いまでのスピードは早く、おおむね1週間程度で現金が調達できます。ただし、仮渡金の申請ができるのは、1回の事故につき最初の1度きりと決められている点に注意が必要です。

また、これはあくまで「賠償金の前払い」という位置づけであるため、最終的な示談が成立した後に受け取る確定示談金からは、この時もらった仮渡金の額がそっくり差し引かれます。さらに、過失相殺などの計算の結果、最終的に確定した全体の賠償額が、先にもらった仮渡金の額を下回ってしまった場合は、差額を後から自賠責に返金しなければならないというシビアなルールもあるため、もらいすぎには注意が必要です。

自分で手続きが難しいときは弁護士に相談を

被害者請求や仮渡金の申請は、不慣れな一般の方にとっては集めるべき書類のボリュームが多く、手続きのハードルが非常に高く感じられるものです。また、こうした先払い制度を無事に使えたとしても、その後の任意保険会社との本番の示談交渉において、被害者一人で立ち向かうと、保険会社のペースに飲まれて相場よりもかなり低い金額(任意保険基準)で強引に合意させられてしまうリスクは消えません。

少しでも手続きに煩わしさを感じたり、保険会社の対応に不信感を抱いた場合は、無理をせず弁護士などの法律のプロを頼るのが最も確実です。弁護士に依頼すれば、こうした面倒な先払い手続きの代行を任せられるのはもちろん、最終的な示談交渉において、自賠責基準や任意保険基準をはるかに凌駕する、最も高額な「弁護士基準(裁判基準)」を強制的に適用させて交渉を進めることができるようになります。

適用する計算基準が弁護士基準に変わるだけで、最終的な慰謝料の金額が2倍から3倍近くまで跳ね上がるケースも日常茶飯事です。目先の資金繰りだけでなく、最終的な受取額を最大化するためにも、ぜひ弁護士への相談を前向きに検討してみてください。

慰謝料についてまとめ

交通事故の被害者となった際、加害者が契約している自賠責保険と任意保険の双方から、それぞれの役割に応じてしっかりと保険金を受け取る権利があります。ただし、最終的な示談金全額が手元に届くのはすべての話し合いがまとまった後になるため、治療中の医療費や休職による生活苦に直面した場合は、この記事でご紹介した「被害者請求」や「仮渡金」のシステムを利用して賢く先払いを受けるのもおすすめの防衛策です。

こうした早期受給のための複雑な書類集めや、その後に控える保険会社とのシビアな金額交渉に不安を覚える方は、まずは交通事故問題に強い弁護士の無料相談を利用し、専門家のサポートを受けることから一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

執筆・監修者、豊川祐行弁護士

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。

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