交通事故の過失割合は誰がいつ決める?決め方や不満があるときの対処法

交通事故の過失割合は誰が決める?割合に納得できないときの対処法

交通事故の過失割合を提示するのは保険会社ですが、最終的に決めるのは被害者と加害者による示談交渉です。過失割合は受け取れる損害賠償の金額に大きく影響を及ぼすため、示談でもめる要因になりやすいため要注意です。

”豊川弁護士”
本記事では、交通事故の過失割合は誰が決めるのか、そして相手方が提示する過失割合に不満があるときの対処法について詳しく解説します。

過失割合とは双方の責任を数値化したもの

過失割合は交通事故発生の責任の割合を数値化したものです。「加害者の過失(不注意)」と「被害者の過失(不注意)」を「80対20」や「70対30」といったように表します。

交通事故では加害者が100%悪いのではなく、被害者側にも一定の過失があるのが通常です。いずれか片方のみが悪い事故はほとんどないため、加害者のみが全ての責任を負うのは不公平ということで被害者も過失の分だけ請求できる損害賠償の金額が差し引かれることになります。

過失割合が80:20で被害者の損害額の合計が1,000万円となる事例では、被害者の過失分(20%)が賠償金額から減額されます。結果、損害額の合計である1,000万円のうち200万円が差し引かれ、加害者に請求できる損害賠償の金額は800万円になります。

被害者の責任の割合に応じて賠償額が減額されることを「過失相殺」といいます。交通事故の損害賠償では過失割合によって過失相殺される金額が変わるため、示談交渉でもめる大きな原因になると言われています。

過失割合は誰が決めるのかを解説

過失割合は誰が決めるのかですが、最終的には事故を起こした当事者同士で決定します。

事故の当事者が過失割合を決める

交通事故の過失割合を決定するのは当事者同士です。しかし、一般的には当事者の代理人が行います。代理人とは交通事故の当事者に代わり過失割合の決定に関与する者であり、具体的には任意保険会社や弁護士となります。

そのため、相手方が任意保険に加入してれば、基本的に被害者は加害者の代理となる保険会社の担当者と示談交渉しなければなりません。

”女性”
自分だけで示談交渉をして過失割合を決めることは可能です。しかし自身が有利になるよう進めるためには、交通事故の法律に熟知している必要がありますので弁護士に対応を一任するのが良いでしょう。

警察は関与しない

事故の過失割合は警察が決めるわけではありません。

交通事故が発生すると、現場に駆けつけた警察官が事故状況の調査や確認を実施します。その後、警察官は当事者や目撃者の証言などから「実況見分調書」という書類をまとめます。この実況見分調書に記載された内容が過失割合を算定する際の参考資料となります。

ただ、警察は実況見分調書の作成を行うだけで過失割合の決定に直接関与することはありません。警察には「民事不介入の原則」があり、示談交渉や過失割合の決定などの民事トラブルには原則として介入できないのです。

そもそも実況見分調書は今回の事故が刑事事件に発展した際に、加害者の処分内容を決める際の証拠となるものです。示談交渉には関係ないと言えるのですが、過失割合を正しく算定するための重要な資料にはなります。実況見分所書は開示請求すれば閲覧可能ですので、事前に取り寄せてから示談交渉に臨むと良いでしょう。

過失割合はいつどうやって決まる?

最終的に過失割合が決まるのは示談成立後か判決確定後になります。人身事故であれば示談開始から示談成立までに2ヶ月〜1年程度かかると思って良いでしょう。裁判になると事故発生から判決確定までに1年以上など長い期間かかることが予想されます。

事故の過失割合はいつ決まるのか、流れを示談交渉と民事裁判で分けて説明します。

示談交渉で過失割合を決める場合

事故の示談交渉で過失割合を決めるときの流れを見ていきましょう。

1損害額の確定

示談交渉が始まるのは被害者の損害が確定してからです。

物損事故であれば1ヶ月程度で修理費などの見積もりが終わります。一方、人身事故は怪我の治療が終了した後に損害額が確定します。軽傷であれば2週間〜1ヶ月程度で治療が終わりますが、重傷であれば1ヶ月以上の治療が必要になる事例もあります。また、後遺障害が残れば後遺障害等級認定を申請し、その結果がわかった後に損害確定となります。

2示談開始

被害者の損害が確定したら、示談交渉によって過失割合を決めていきます。

示談を成立させるためにはお互いの合意が必要となり、両者がすぐに納得できれば示談開始から3ヶ月以内に解決できることがあります。

 人身事故など損害が大きい事故は過失割合によって賠償金が大きく異なってしまいます。加害者側は損害賠償の金額を少なくするために、被害者にも何らかの責任があると主張してくるのが普通です。どちらも納得できず過失割合の決定でもめることは多く、示談成立までに半年〜1年以上かかった事例は珍しくはありません。

裁判で過失割合を決める場合

示談交渉で被害者と加害者の意見が食い違い過失割合が決まらないと、最終手段として民事裁判で決着をつけることになります。事故の内容にもよりますが、裁判に発展すると判決確定までには約6ヶ月〜2年程度と長期間かかると予想されます。

1訴状の提出

訴えを起こす者(原告)が請求の趣旨を記載した訴状を裁判所に提出します。裁判所が訴状を受け取ると訴えを提起された者(被告)に訴状が送付されます。

2口頭弁論

裁判所は第1回口頭弁論の期日を指定し、原告と被告の双方に出廷を呼びかけます。第1回口頭弁論では、原告と被告が自身の主張を裁判官に説明します。第2回口頭弁論以降では、争点を整理しながら証拠調べや証人尋問などを行います。

3和解勧告

民事裁判は必ずしも判決で決着する訳ではありません。当事者の主張が明らかになった後は、裁判所から和解を勧められることがあります。当事者が和解すればその時点で裁判は終了します。

4判決

和解が成立しなければ裁判官の判決を言い渡しが行われます。なお、判決に不服があるときは、控訴し上級裁判所に新たな判決を求めることができます。

過失割合はどう決める?算出する方法

交通事故の過失割合は誰が決めるのかですが、通常は相手側の任意保険会社が提示してきます。示談交渉で被害者側に提示する「示談案」に、当事者の過失割合や治療関係費、慰謝料の賠償項目の内訳やなどが記載されています。

ではどのように決めるのか過失割合の算出方法について解説します。

過去の裁判例が参考にされている

交通事故の過失割合は過去の裁判の事例により算出されています。参考にされているのは判例タイムズ社出版の「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という書籍で、典型的な交通事故の類型と過去の裁判でどのくらいの過失割合になったかが記載されています。

”豊川弁護士”
任意保険会社や弁護士は「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」を参考にし、今回発生した交通事故のパターンを裁判の判例と当てはめて過失割合を算出するのが一般的です。

修正要素を加味する

過去の判例は有用な参考資料となりますが、すべての事故に当てはまるとは限りません。例えば、加害者側が飲酒運転していたな個々の事情があるパターンの事故では、特別に過失割合が加害者側に加算される「過失割合の修正要素」が実施されます。

過失割合の加算・減算事由になる代表的な修正要素にはわき見運転、スピード違反、酒気帯び運転などがあります。

保険会社の示談案は最終決定ではない

相手方の任意保険会社が提示してくる示談案には必ずしも従う必要はありません。過失割合の算定は専門知識を要するため、法律のスペシャリストではない保険会社が算出した金額が正しいとは限らないためです。

特に事故の修正要素は膨大な種類があり、法律家でない保険会社が全て適用するのは簡単ではありません。そして、保険会社は被害者に保険金を支払う立場ですのでわざと保険金を少なめに設定していることにも注意が必要です。納得できない点が少しでもあれば、妥協せずに交渉を重ねましょう。

POINT
保険会社が提示してきた金額に安易に従うのは得策ではありません。少しでも不満や疑問があり納得できなければ弁護士のような専門家へ相談しアドバイスをもらいましょう。

過失割合に納得できないときの対処法

交通事故の過失割合は賠償金の受け取り金額に直結するため、当事者間でもめる事例が後を絶ちません。過失割合に納得できないときの対処法を紹介します。

片側賠償で妥協する

事故の過失割合は「80:20」や「70:30」といったように、割合の合計が100%になるのが原則です。しかし、「90:0」や「80:0」など、例外的な割合で示談が成立する事例はあります。通常、被害者側にも過失がある事故では、被害者は加害者に生じた損害の一部を賠償する義務があります。

過失割合が80:20で加害者にも100万円の損害が発生した事例では、被害者は加害者に対して20万円の賠償義務が生じます。

そこで、片側賠償を提案すると被害者の過失割合が0になり、加害者に対する損害賠償義務がなくなります。加害者側の過失割合を減らす代わりに、被害者側を0%にして損害賠償請求するのが「片側賠償」です。

片側賠償のメリット

片側賠償は加害者側の合意を得やすくなります。

加害者としては本来なら100%の損害賠償義務が、片側賠償によって賠償金の支払い金額を90%まで減らすことができます。被害者としては自身の過失割合は0%のままなので、相手方に賠償金を支払わずに済みます。

当事者同士が過失割合で言い争っていて決着しそうもないときは、折衷案として片側賠償の提案は有効でしょう。

”女性”
片側賠償は加害者にとってもメリットがあり納得してもらいやすく、早期に示談を成立できる可能性が高くなります。

片側賠償のデメリット

片側賠償はあくまで加害者の合意を得やすくするための妥協案に過ぎません。納得できるまで根気よく交渉を続ければ100%の金額を受け取れたはずなのに、片側賠償により90%や80%の金額の損害賠償金しか受け取れなくなるような事態が起こる可能性があります。

また早く決着が付けば示談交渉などの手続きから解放されるため、精神的な負担が軽くなります。しかし、本来ならば受け取れるはずだった金額よりも賠償金が減ってしまうのは、大きなデメリットになってしまうでしょう。

弁護士に依頼する

最も確実に過失割合を決める方法が弁護士への依頼です。実は過失割合のトラブルは交通事故の中でも専門性が高く、当事者のみで解決するのは困難です。たとえ百戦錬磨の保険会社であっても、修正要素を見落とし誤った算出をすることがあります。

POINT
交通事故に詳しい弁護士では過去の判例や修正要素についての知識が豊富にありますので、正確な過失割合を算出してくれます。もし相手方が間違った数字を提示してきたとしても、依頼者の有利になるような交渉をしてくれるでしょう。

高額の慰謝料を請求できる

交通事故の被害者はケガの治療費の他、精神的苦痛を賠償してもらうための「慰謝料」を請求できます。

任意保険会社に示談金の算定を任せると、慰謝料の算出は「任意保険基準」という計算方法で行います。しかし、任意保険基準で算出された慰謝料の金額は低く、事故による被害者の精神的苦痛を十分に補償することは難しくなってしまいます。

弁護士は「弁護士基準」という計算方法で慰謝料を算出し、裁判で認められる金額と同じ高額な慰謝料を請求できます。事故に夜精神的苦痛を補償するために納得できる賠償金を加害者に支払ってもらうためには弁護士基準を使用する必要があります。

”豊川弁護士”
弁護士に相談すれば適切な過失割合を算出できるだけでなく、慰謝料の金額を増やすことが可能です。

弁護士特約があれば実質無料で相談できる

弁護士特約があれば、実質無料で弁護士に事件の解決を依頼できると思って良いでしょう。

弁護士特約とは保険加入者が交通事故に遭い弁護士に問題解決を依頼したときに、保険会社が代わりに弁護士費用を負担してくれるサービスです。加入している任意の自動車保険にオプションとしてついていることがありますので、いま一度、自分が加入している保険を確認してみるのがおすすめです。

弁護士に依頼を検討したいと思っても費用が心配という意見は多くあります。しかし交通事故のトラブルを法律の知識がない一個人で解決するのは、非常に難しいのが現状です。弁護士特約を利用して法律の専門家に相談するのは賢い選択と言えます。

弁護士特約で負担してもらえる金額は300万円までと上限が設けられており、高次脳機能障害など重度の後遺症が残った事故などでは上限を超えてしまうことはあります。しかし多くの事故では上限を超える弁護士費用は発生しませんので安心してください。

弁護士に相談して過失割合が有利に変わった事例

実際に弁護士が対応することにより、過失割合を有利にできた事例を紹介します。弁護士に依頼しなければ過小な過失割合により受け取れる賠償金が減り、損をしていたケースは多々あるといって良いでしょう。

保険会社が提示してきた過失割合が正しいのか弁護士にしっかり判断してもらい、おかしな点があれば弁護士に対応してもらうのがおすすめです。

1ドライブレコーダーの映像を元に過失割合が有利になった事例

信号のない交差点において被害者の車が右折したところ、交差道路右方向から相手方の車が直進してきて衝突した交通事故です。事故の被害者は頚椎捻挫(むちうち)等の傷害を負いましたが、相手方の保険会社からは基本割合として80:20の過失割合が提示されました。

しかし、被害者の車に搭載されていたドライブレコーダーの映像記録をもとに、弁護士が過失割合の修正要素について相手方保険会社と交渉を重ねた結果、最終的には90:10で合意に至ることができました。人身についても後遺障害等級14級9号が認定されたため、後遺障害慰謝料の請求が認められました。

2ドライブレコーダーの映像を元に過失割合が有利になった事例合図なしの車線変更に修正要素が認められた事例

追い越し車線を走行していた車が突然幅寄せしたため、避けるために左にハンドルを切った被害者の車が縁石にぶつかった交通事故です。相手方の保険会社からは、はじめ70:30の過失割合で示談案が提示されました。判例タイムズによると基本過失割合が70:30の事故類型であったからです。

しかし、本件では合図なしに車線変更してきたという特別な事情がある事故でした。弁護士が粘り強く交渉した結果、85:15の過失割合で合意を得ることに成功しました。

3ドライブレコーダーの映像を元に過失割合が有利になった事例刑事記録の取り寄せによって相手方の過失が判明した事例

被害者が原動機付自転車(原付バイク)に乗っていたところ、交差点で対向車のタクシーが急に右折してきたために衝突した交通事故です。被害者は右股関節脱臼の傷害を負いました。双方の車両が動いていたことから被害者にも15%の過失があると相手側の保険会社から指摘を受けましたが、被害者は納得できず弁護士への依頼を決めました。

弁護士は事故状況について客観的な資料を得るために、弁護士会照会制度により刑事記録の取り寄せを行いました。結果、加害者の車が本来右折するべきタイミングよりも早い段階で右折している(早回り右折)ことが判明しました。

POINT
弁護士の指摘により最終的に95:5の過失割合で示談を成立できました。また、後遺障害についても10級11号が認定され。最終的には訴訟をせずに1300万円以上の賠償金を得られました。

まとめ

交通事故の過失割合は警察ではなく当事者同士が決めることになります。しかし相手方の保険会社が提示する過失割合は、正当ではない事例は多いのが現実です。鵜呑みにせずにきちんと確認し、納得できない不満な点があれば反論することが大切といえるでしょう。

ただ法律に詳しくない個人が保険会社と対等に話し合いするのは難しい面があります。交渉を有利に進め納得できる結果を得るためにも、交通事故の案件に強い弁護士に相談してください。

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