過失割合は、過去の裁判例を参考にしながら、スピード違反などの個々の事情を考慮に入れて決定します。しかし、客観的な証拠がなければ、過失割合の算定は容易ではありません。

交通事故の過失割合とは?
交通事故が発生した原因について、当事者双方の過失(責任)がどれくらいあったかを割合で示したものを過失割合といいます。
交通事故のほとんどは、当事者の過失によって引き起こされます。もっぱら加害者のみに責任があるケースも存在しますが、多くの場合は、加害者と被害者の双方に過失が存在します。このとき、当事者双方の落ち度の程度を「80:20」「70:30」といった過失割合で表します。
示談交渉の中で過失割合や示談金の受け取り金額を取り決めていく中で、証拠の不確かさや法的基準の解釈の違い、利益や責任の関心の違いなどから、当事者同士が言い争い交渉がまとまらずに、もめる場合があります。
過失割合は何に影響するのか
過失割合の大小は示談金の受け取り金額に影響します。交通事故で発生した損害は、当事者双方の責任に応じて負担するのが公平であるからです。
例えば、被害者に過失が一切なく、加害者のみに責任がある場合は、過失割合は100:0となり、被害者に生じた損害を全て加害者に請求できることになります。
一方で、過失割合が70:30の事例では、被害者が本来請求できるはずの賠償金のうち、30%の金額が減額されてしまいます。このように、過失割合に応じて賠償金の受け取り額が引かれる処理のことを「過失相殺」といいます。
誰が過失割合を決めるのか
過失割合は、当事者同士が話し合い(示談交渉)を行うことで決まります。この当事者には、任意保険会社や弁護士などの代理人も含まれます。一般的には、相手方の保険会社が、今回の事故状況に合わせて過失割合を提示してきます。
間違いやすい点としては、警察が実況見分をした上で過失割合が決まるわけではありません。警察には「民事不介入の原則」があるため、示談交渉などの民事上の手続きには関与できないのです。
過失割合はどのように決まるのか
上記のように、示談交渉では、相手方の保険会社が過失割合を提示してくるのが一般的です。では、保険会社は、何を基準に過失割合を算定するのでしょうか。
任意保険会社や弁護士は、過去の裁判例を参考にしながら過失割合を算定します。
判例タイムス社が出版している「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という書籍には、過去の判例や交通事故の類型がまとめられており、過失割合を算定する際の参考資料となります。
「別冊判例タイムズ」を参考にすれば、過去に発生した類似事件において、裁判所が認定した具体的な過失割合を知ることができます。

過失割合には修正要素がある
過去の裁判例を基に、事故のパターンごとでまとめた過失割合を「基本過失割合」といいます。ただし、全ての類似事件で同様の基本過失割合が当てはまるわけではありません。
例えば、過去の判例で過失割合が70:30と認定された事例でも、加害者側が著しいスピード違反をしていたならば、加害者の過失割合は高くなります。このように、安全運転義務に違反する行為は、過失割合の「修正要素」として扱われます。
修正要素の具体例
では、過失割合の修正要素にはどのようなものがあるでしょうか。具体例をいくつか紹介します。
著しい過失
脇見運転などの著しい前方不注意、酒気帯び運転、時速15キロ以上30キロ未満の速度違反、著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作など、事故態様ごとに通常想定されている程度を超える不注意のことを著しい過失といいます。原則として、著しい過失の修正割合は10%になっています。
重過失
酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、時速30キロ以上の速度違反など、故意と同視し得る不注意のことを重過失といいます。原則として、重過失の修正割合は20%になっています。
大型車
大型車は危険が大きく、普通車よりも高い運転技術が課せられるため、5%程度の過失割合が加算される場合があります。なお、事故の態様によっては、大型車を理由とする修正がない事例もあります。
ウインカーの合図なし
運転者が進路変更するときは、交差点の30m手前もしくは進路変更の3秒前に、「指示器による合図(ウインカーの点滅)」をしなければなりません。ウインカーの点滅を怠ったことで事故が発生した場合、過失割合が20%加算されます。
既右折
既に右折している車両と衝突したときは、直進車に過失割合が10%加算されます。右折車が右折を完了しているにもかかわらず、直進車が無理に交差点に進入すると接触する危険が高くなるからです。
道路交通法50条違反の直進
通常、交差点では直進車が優先されます。ただし、直進車が交差点内で停止してしまい、他の車両の通行妨害になるケースでは、直進車は交差点に進入してはいけません(道路交通法50条1項)。道路交通法50条違反の直進によって事故を起こすと、直進車の過失割合が10%加算されます。
早回り右折
交差点中心の直近の内側を進行せず、早い段階で右折することを早回り右折といいます。早回り右折をすると、他の車両から見て、その車が右折することを予測することが難しく、右折先の対向車と衝突してしまうおそれがあります。原則として、早回り右折の修正割合は5%になっています。
大回り右折
あらかじめ道路の中央に寄らずに右折することを大回り右折といいます。他の車両としては、道路の中央に寄っていない車両の右折は予測が難しく、対応できなくなるリスクがあります。原則として、大回り右折の修正割合は5%になっています。
直近右折
対向直進車が停止線を越えて交差点に進入しているにもかかわらず右折を開始することを直近右折といいます。直近右折をすると、直進車が衝突を回避しにくくなります。原則として、直近右折の修正割合は5%になっています。
なぜ過失割合でもめることが多いのか
事故の当事者たちは、示談交渉の中で過失割合や示談金の受け取り金額を取り決めます。しかし、中には「自分は安全運転を怠らなかった」「相手の方が過失の程度が大きい」などと、当事者同士が言い争って交渉がまとまらないケースがあります。

当事者同士の話し合いで決めるから
示談交渉では公平な第三者が存在しないため、法的に正しい過失割合の算定が困難になります。裁判を利用する場合は、裁判官が判決を下すことで、法的に正しい過失割合を算出してくれます。しかし、裁判は時間や費用がかかるため、一般的には当事者による話し合いのみで解決することになります。
また、過失割合の決定に警察は関与できません。警察が関与するのは刑事事件であり、過失割合の算定に干渉するのは「民事不介入の原則」に反するからです。このように、示談交渉は、裁判所や警察のような第三者の力を借りることなく、自分たちの力で解決しなければなりません。
ですが、法律に詳しくない当事者同士で交渉を進めると、適切な過失割合を算出するのは非常に困難です。また、お互いが自分の主張をぶつけ合うため、感情的になってしまい、冷静な話し合いができなくなることもあります。

お金の問題に直結するから
先ほど説明した通り、損害賠償の金額は過失割合の大小によって大きく異なります。
当事者がお互い双方に「相手の方が悪い」と言い合っている場合は、お金の問題でもめているケースがあります。
例えば、被害者に1,000万円の損害が発生したとき、過失割合が100:0であれば、被害者に発生した損害を全て加害者に請求できます。一方で、過失割合が70:30の事例では、加害者に請求できるのは700万円となり、残りの300万円は請求できないことになります。
交通事故の過失割合でもめる事例とは
過失割合の決定でトラブルになる事例は少なくありません。特に、以下の3ケースでは、過失割合の算定でもめてしまう可能性が非常に高くなります。ここからは、過失割合の決定で特にもめやすい事例について紹介します。
客観的な証拠がない
事故状況を裏付ける証拠がない事例では、当事者の証言のみを頼りにして交渉を進めることになります。この場合、当事者双方の証言が食い違ってしまうと、合意に至るまでにかなりの時間を費やしてしまいます。
交通事故の証拠として役立つものには以下のものがあります。
- ドライブレコーダーの記録
- 防犯カメラの映像
- 目撃者の証言
- 警察が作成する実況見分調書
この中では、ドライブレコーダーの記録が最も強力な証拠になります。しかし、2020年に国土交通省が実施したモニターアンケートでは、ドライブレコーダーの普及率は53.3%と、約半数の車両にしかドライブレコーダーが搭載されていないのが実情です。
損害額が大きい事故
交通事故による損害額が高額であると、過失割合による賠償金の増減幅が大きくなります。例えば、損害額が10万円で過失割合が80:20の場合、賠償金が2万円減額されることになります。このとき、2万円程度の減額であれば、被害者の方は妥協できるかもしれません。
しかし、損害額が1000万円になる場合、過失割合が同じ80:20であっても、減額される賠償金は200万円になります。被害者としては、賠償金が200万円も減額されるとたまったものではありません。加害者側としても、自らに過失割合がないことを主張し、賠償金の支払額を減らしたいと考えるはずです。
駐車場内の事故
駐車場内の事故についても、基本的には公道での交通事故と同様の対応がなされます。しかし、駐車場内の事故では、事故状況によって過失割合が大きく異なります。ここからは、駐車場内での代表的な交通事故と基本過失割合について解説します。
事例① 駐車場内の通路で出合い頭に起きた事故
当事者双方の過失割合は50:50になります。交差点を直進する場合でも、右折または左折する場合でも変わりません。
ただし、どちらかの通路が明らかに広い場合は、狭い通路を通行していた車両の過失割合が10%加算されます。また、一時停止の表示を無視したり、通行方向表示に違反していたりした場合は、その車両の過失割合が10%〜20%加算されることがあります。
事例② 通路を進行する車両(進行車)と駐車スペースに進入する車両(進入車)の事故
進行車の過失割合が80%、進入車の過失割合が20%になります。駐車場は駐車するための場所であるため、駐車スペースに進入する車両が優先されるという考えがあります。

事例③ 通路を進行する車両(進行車)と駐車スペースから退出する車両(退出者)の事故
進行車の過失割合が30%、退出車の過失割合が70%になります。駐車スペースから通路部分への退出は、お店や住宅などの私有地から公道へ出るシーンと類似しています。
道路交通法25条の2第1項では、車両は、他の車両等の交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の場所に出るための横断等が禁止されています。よって、駐車スペースから退出するケースにおいても、退出車に大きな過失があるとみなされます。
交通事故の過失割合でもめたらどうする?
示談交渉が難航すると、賠償金の支払い時期が遅くなるため、被害者の負担が増えてしまいます。では、話し合いがうまくまとまらないときは、どうすれば良いでしょうか。示談交渉でもめたときの対応策について紹介します。
相手方の過失割合の根拠を書面で提出してもらう
提示された過失割合がおかしいと感じたときは、相手方の保険会社に対して、どのような根拠で過失割合を算定したかを書面で説明してもらいましょう。
保険会社としては、被害者に支払う保険金をできるだけ抑えたいと考えています。そのため、被害者に不利な過失割合を提示するケースも少なくありません。個々の修正要素を考慮に入れずに過失割合を算定していることも多いことから、書面で根拠の提出を求めることは有効な対処法になります。

片側賠償で妥協する
通常、過失割合は「90:10」や「80:20」など、割合の合計が100%になるのが基本です。
しかし、中には「90:0」や「80:0」など、特殊な過失割合で示談を成立させる手法がとられます。「90:0」や「80:0」などの例外的な過失割合で損害賠償することを「片側賠償」といいます。
過失割合が90:10の場合、被害者は加害者に発生した損害の10%を賠償しなければなりません。しかし、過失割合を90:0にすることで、加害者に損害賠償することなく示談を成立させることができます。

片側賠償のメリット
片側賠償を提案することで示談が成立しやすくなります。被害者が「自らに過失は一切ない」と主張したとしても、加害者が「過失割合は90:10である」と言い張って譲らない場合、交渉がまとまらずに長期化するおそれがあります。
このとき、過失割合を90:0にすることで相手方の合意を得られる可能性があります。被害者は損害額の90%しか賠償請求できませんが、加害者に発生した損害を負担する必要がなくなります。一方で、加害者としても、被害者に対して支払う賠償金を10%減らせることができるため、お互いが納得しやすい結果になります。
片側賠償のデメリット
被害者に過失がなければ、本来は加害者に対して損害額の100%を請求できます。しかし、片側賠償によって90:0の過失割合を提案すると、損害額の10%は請求できないことになります。
総合的に見れば、片側賠償によって被害者が得することも多くあります。交渉のストレスから直ちに解放されますし、裁判に発展して余計な費用や時間をかける必要もありません。
交通事故ADRを利用する
ADRとは、「Alternative Dispute Resolution」の頭文字をとった略語であり、裁判外で紛争を解決する手法を意味します。
交通事故のADR機関としては、「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」などが有名です。ADRを利用すると、ADR機関に所属している弁護士が間に入り、客観的かつ実務的な立場から示談交渉を仲介してもらえます。
ADR手続きは、基本的に無料で利用できます。示談交渉が難航している間、多くの費用を自己負担している被害者にとっては心強い存在になるでしょう。また、手続きが簡便・迅速であり、早ければ3ヶ月程度で和解することができます。

訴訟で解決する
示談交渉やADRを利用しても過失割合が決まらなかった場合は、民事訴訟での解決を検討することになります。裁判を利用すれば、示談交渉で解決できなかったトラブルについても、確実に決着させることができます。裁判手続は、裁判所に訴状を提出することで開始します。訴状提出後、約1ヶ月半後に第一回口頭弁論が開かれ、当事者双方が主張・反論をおこないます。
当事者双方が意見や証拠を出し尽くし、争点が整理されると、ほとんどのケースで裁判所が和解を勧めてきます。お互いに納得すれば和解成立となり、合意した内容で過失割合が決まります。和解が成立しなかった場合は、裁判官の判決によって過失割合が決定します。
なお、判決に言い渡されるまでには、通常1年〜1年半程度の期間がかかります。訴訟費用などもかかるため、基本的には示談交渉で過失割合を決めるのがおすすめになります。
弁護士に依頼する
弁護士は法律問題のエキスパートなので、交通事故についても問題なく相談できます。示談交渉に難航していたとしても、弁護士に依頼すればスムーズに解決できます。
弁護士は、過去の判例を参考にするだけでなく、個々の修正要素も加味して正しく過失割合を算定します。また、客観的な証拠(警察の実況見分調書やドライブレコーダーの映像など)を揃えてから過失割合を主張してくれるため、相手方が任意保険会社であっても交渉を有利に進められます。
さらに、弁護士に依頼すれば、慰謝料の金額を増額させることができます。というのも、任意保険会社は「任意保険基準」と呼ばれる計算方法で慰謝料の金額を算出しますが、弁護士は「弁護士基準」と呼ばれる計算方法で慰謝料を算出します。そして、弁護士基準で算出した慰謝料の金額は、任意保険基準で算出した慰謝料の金額をはるかに上回ります。
このように、弁護士に依頼すれば、正しい過失割合を算出してもらえるだけでなく、弁護士基準で慰謝料請求することで、損害賠償の金額を大きく増やすことができます。

まとめ
示談金の受け取り金額を決定する上で、過失割合は重要な要素になります。しかし、過失割合はお金の問題に直接かかわるため、示談交渉でお互いが言い争ってもめてしまうケースは少なくありません。特に、客観的な証拠がなかったり、損害額が大きいケースでは、過失割合でトラブルに発展することが多々あります。
過失割合でもめたときの対処法はいくつかありますが、弁護士に相談するのが一番有効になります。ゴネ得はさせないよう、困ったときは一度弁護士に相談してみましょう。
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