交通事故の損害賠償で請求額に大きな影響を与える過失割合。8対2の場合には、当事者にどのような影響があるのでしょうか。
過失割合とは?
「過失割合」とは、交通事故においてどちらにどれだけの責任があるかを数字で表現したものです。相手のある交通事故では、どちらか一方だけが悪いと判断されるケースはまれで、大抵はどちらにもある程度の過失が認められます。
過失割合の影響
過失割合は交通事故で相手方に請求する損害賠償の金額に影響を与えます。過失割合は0〜10の数字で表され、9対1や8対2のように表記されるのが一般的です。
通常、数字が小さい側が「被害者」、大きい側が「加害者」と呼ばれます。しかし、被害者だからといって全く過失がないわけではなく、請求できる金額は過失に応じて減額されます。
過失割合はどのように決められるか
過失割合は交通事故で損害賠償を決めるための話し合いである「示談交渉」によって決定されます。法律上の紛争を話し合いによって解決する方法を「示談」といい、交通事故では被害者と加害者双方の話し合いである「示談交渉」でそれぞれの損害賠償項目や金額、過失割合などを決めるのが一般的です。
交通事故の示談交渉は、本人同士が直接話し合いを行うケースはほとんどなく、普通はそれぞれが加入している保険会社の担当者が代理で行います。過失割合の決め方に絶対のルールはなく、過去に起きた事故の判例を基準として、個々の事故の態様を加味して決定されます。
ただ、保険会社の担当者は弁護士のような法律の専門家ではないため、最初に「示談案」で提示してくる過失割合は、専門家から見て必ずしも正しいとは限りません。もし過失割合に不満に思う部分があれば、変更してもらえないか交渉するようにしましょう。
示談は一度成立すると、後から覆すのが難しいため、示談交渉は慎重に行わなくてはいけません。
交通事故の加害者が受ける処分
交通事故で人身事故の加害者は、刑事・民事・行政の3種類の責任に問われます。交通事故には「人身事故」と「物損事故」の2種類があり、人にケガをさせたり、死亡させたりする事故を人身事故といいます。逆に人的被害はなく、車や塀などモノが壊れただけの事故は物損事故と呼ばれます。
ここからは交通事故の加害者が受ける処分について、物損事故との違いも交えて説明していきます。
人身事故の3つの責任
人身事故の加害者になると、以下の3つの責任・罰則に問われます。
刑事責任
交通事故で他人を死傷させた場合、刑法に定められた犯罪に該当する恐れがあり、罪が認められると罰金や科料、懲役など刑罰の対象になります。
人身事故の加害者の場合、「自動車運転処罰法」に定められた「過失運転致死傷罪(5条)」や「危険運転致死傷罪(2条)」などの罪に当てはまる可能性があり、罪があると判断されれば懲役や罰金、禁錮といった刑事罰を問われます。
民事責任
交通事故で他人にケガを負わせたりすると、民法上の不法行為に該当し、民法または自動車損害賠償保障法をもとにした損害賠償責任が生じます。賠償金には、ケガの治療費など人的損害と車の修理費などの物的損害の2種類があり、民事責任では、双方についてお金を支払って補償する必要があります。
行政責任
刑事・民事責任とは別に、公安委員会によって行われる運転免許に対するペナルティです。行政責任は免許の点数制度と反則金の2種類に分けられます。
免許ではよく「点数を引かれる」といわれますが、実際には運転免許の点数制度は加算制で、点数が積み上がっていき、一定以上になると免許停止や取り消しなどの処分を受けます。人身事故の場合、被害の度合いによっては一発で免許停止や取り消しなど重い処分を受ける場合もあります。
人身事故と物損事故による責任の違い
交通事故では、人身事故と物損事故で問われる責任が異なり、物損事故の場合は、基本的に刑事・行政責任には問われず、民事の損害賠償のみ対象になります。
人身事故 | 物損事故 | |
---|---|---|
行政責任 | 必ず免許点数が加算される。 | 違反点数が付くのは人身事故のみのため、基本的に点数加算はない。 |
刑事責任 | 危険運転致死傷罪など犯罪に問われる恐れがある。 | 刑事罰の対象にはならない。 (刑法における「器物損壊罪(261条)」は故意に他人の物を壊した場合のみ適用されるため、物損事故は対象外) |
民事責任 | ・ケガの「治療費」や事故で仕事を休んだことに対する補償である「休業損害」のほか、後遺障害が残れば「後遺障害逸失利益」など様々な種類の賠償金を請求できる。 ・ケガに対する「傷害慰謝料」や後遺症に対する「後遺障害慰謝料」など慰謝料請求も可能。 | ・請求できるのは車の修理費や代車費用など一部の賠償金に限られる。 ・自賠責保険の適用対象外。 ・ほとんどのケースでは慰謝料請求は認められない。 |
上記のように、物損事故では人身事故と比べると問われる責任が軽いため、加害者に請求できる損害賠償金額も小さくなります。
過失割合が8対2になる交通事故とは?
過失割合が8対2になる交通事故とは、事故の責任の2割は被害者にあると判断されるケースです。では、過失割合はどのようにして決められ、8対2になるとどんな影響を及ぼすのでしょうか。
過失割合8対2になるとどうなるか
交通事故では、双方が損害を公平に負担するため、過失割合に応じて「過失相殺」が行われます。これにより、責任の分だけ損害賠償が減額され、8対2の場合は被害者が請求できる金額は本来の8割になります。
8対2の割合はどのようにして決まるのか
保険会社が示談案で提示する過失割合を決める際、参考にするのは過去の事故における判例です。なかでも、資料として大きな役割を果たしているのが「別冊判例タイムズ」、通称「緑本」と呼ばれる書籍です。別冊判例タイムズは法律の月刊誌「判例タイムズ」を出版している会社から不定期に出されている別冊版で、1冊ごとに「後見の実務」や「過払金返還請求訴訟の実務」など法律のワンテーマを扱っているのが特徴です。
このなかの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」が保険会社に最も多く使われている参考書で、様々な事故における過失割合のパターンが掲載されています。実務では、この緑本が実質的なスタンダードになっているため、保険会社が8対2を主張してきた場合、ほとんどのケースではこの本が根拠になっていると考えられます。
ただ、交通事故はそれぞれのケースで事故の状況や双方の事情が異なっているのが普通で、全く同じ事故が2度起きることはありえないため、緑本の内容をそのまま当てはめるのは注意が必要です。実際、弁護士など法律の専門家から見ると、保険会社の提示してくる過失割合は必ずしも正しくない場合があります。
過失割合が8対2になる事故の事例
では、どのような事故だと過失割合が8対2だと判断されるのでしょうか。8対2になる代表的な事例には次のようなものがあります。
事例①:交差点での直進車と右折車の事故
信号が設置されている交差点で直進しようとしたA車と対向車線から右折してきたB車がぶつかった事故で、割合はA車が2に対してB車が8になります。
事例②:交差点で青信号での車同士の事故
信号が設置してある交差点において、対向車線同士で進入してきたA車とB車で、A車が直進、B車が右折しようとしてぶつかった事故です。割合はB車が8、A車が2となるのですが、こうした事故は信号が赤や黄色、青のどれだったかで割合が変わってくるため、お互い主張が食い違って揉め事になりやすいケースといえます。
事例③:交差点での赤信号と黄色信号での車同士の事故
信号が設置されている交差点において、直進車同士が出合い頭に起こした事故。片方が赤信号、もう片方が黄色信号だった場合、赤信号の車が2、黄色信号の車が8になります。
事例④:交差点での一方が減速しなかった場合の出会い頭事故
信号が設置されていない交差点において、進入してきたA車とB車の出会い頭の事故。A車が事前に減速していたのに対し、B車が減速していなかった場合、B車の過失が大きくなります。
事例⑤:道路外から道路に進入する右折車の事故
道路外の駐車場などから道路に進入しようと右折したA車と直進してきたB車の事故で、右折車が過失8とされます。A車が左折の場合も同様の割合になります。
事例⑥:交差点での左折車とバイクの事故
交差点で左折しようとした車が後ろから直進してきたバイクを巻き込んでしまった事故で、車のほうが8割になります。また、直進道路で進路変更しようとした車が後ろのバイクを巻き込んだ事故でも割合は同じです。
事例⑦:広い道のバイクと狭い道の自動車が起こした事故
広い道路を走ってきたバイクと狭い道路を走ってきた車が同じ位の速度で衝突した場合、バイクの過失が低いとされ、車8対バイク2になります。ただ、どちらかが直前にスピードを落としていた場合は、減速側に有利な割合へと修正される可能性があります。
事例⑧:交差点における自転車と車の事故
道幅が同じくらいの交差点での自転車と車の出会い頭事故で、車が8割になります。
事例⑨:右側通行の自転車と車の事故
道路の右側を直進してきた自転車と対向車が衝突した事故です。車道は左側通行とされているため、右側を走っていた自転車にも2割の過失が認められます。
事例⑩:道路を横断している歩行者と車の事故
信号もなく、交差点でもない道路を横断していた歩行者と直進してきた車の事故です。基本的に歩行者は交通において保護の対象と考えられていますが、大きなルール違反がある場合には一定の過失があると判断されます。
一般的に交差点から10m以上の場所で道路を横断していた歩行者が事故に遭った場合には、2割の責任が認められます。
事例⑪:バックしている自動車と歩行者の事故
バックしている車の後ろを歩行者が横断しようとして衝突した場合、歩行者にも過失が2割あるとされます。
事例⑫:横断歩道を渡っていた歩行者と自転車の事故
信号機が設置されている交差点で、歩行者が青信号で横断歩道を渡り始めたところ、横断中に黄色から赤信号へと変わり、青信号で進入してきた自転車とぶつかった事故です。赤信号で横断していた歩行者にも一定の過失が認められ、歩行者2と自転車8の割合になります。
過失割合が8対2の交通事故だと賠償金はいくらになるか
過失割合8対2の事例では、被害者にも2割の責任が認められるため、損害賠償の金額に影響を与えます。実際に請求できる賠償金はいくらぐらいになるのか、本来の金額との違いをみていきましょう。
過失相殺で請求額はどう変わるか
最初に、双方とも本来請求できる金額は400万円だったケースの計算からみていきます。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 2 |
本来の損害賠償額 | 400万円 | 400万円 |
請求できる損害賠償額 | 400万円×20%=80万円 | 400万円×80%=320万円 |
実際に支払われる賠償金 | 0円 | 240万円(320万円-80万円=240万円) |
10対0であれば400万円全額が請求できるところですが、過失割合に応じて賠償額が変化するため、実際に被害者が請求できるのは8割の320万円です。ただ、ここからさらに過失相殺が行われるため、320万円全額を受け取れるわけではありません。
320万円から過失相殺により加害者の請求分である80万円が減額され、実際に受け取る金額は320万円から80万円を差し引いた240万円となります。つまり、損害賠償が本来の金額から6割まで減らされてしまったことになり、過失割合が如何に賠償金に大きな影響をおよぼすかがわかります。
過失割合8対2に納得できない!割合を有利に変更できる?
さきほど、保険会社が提示する過失割合には、妥当でないものもあると説明しましたが、もし示談案に納得できない場合、変更はできるのでしょうか。
過失割合に納得いかないなら変更交渉しよう
相手方が出してくる8対2の過失割合に納得いかない場合、示談が成立していなければ、交渉によって割合の変更が可能です。ただ、言えばすぐに変更してもらえるというわけではありませんし、保険会社もすぐに修正しようとはしないでしょう。
過失割合を変更するには、きちんと事故の態様と過去の判例を照らし合わせて、保険会社の主張のどこに問題があり、どういった割合に修正するのが正しいかをきちんと説明しなければなりません。
過失割合の変更は弁護士に相談を
過失割合の変更は示談交渉によって可能と述べましたが、実際には一般の方が正しい割合を提示して保険会社と交渉するのは簡単ではありません。保険会社は支払う保険金はなるべく少なく抑えたいと考えるものなので、簡単に変更を認めようとはしないはずです。
また、一般の方であれば、例え納得いかなくても相手方の出してきた過失割合が正しいかどうかがわからないというケースもあるかもしれません。そこで、過失割合に不満がある場合には、一度、弁護士に相談されることをおすすめします。
過失割合を8対0にする
保険会社の提示する8対2に納得がいかず、交渉したものの簡単に修正を認めてもらえそうにない場合、過失割合を8対0にすることもできます。8対0は「片側賠償(片賠)」といわれ、被害者に過失がないものとして、加害者だけが賠償金を支払う方法です。
加害者が8のまま被害者の割合がゼロになる8対0は通常の算定では出てこない数字で、交渉の結果として現れる妥協案といえます。被害者が一定の責任を認める代わりに、加害者は請求を行わず、お互いが譲歩しあうことで妥協点を見出します。
例えば、上で説明した損害賠償400万円のケースでは以下のようになります。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 0 |
本来の損害賠償額 | 400万円 | 400万円 |
請求できる損害賠償額 | 400万円×0=0 | 400万円×80%=320万円 |
実際に支払われる賠償金 | 0円 | 320万円-0円=320万円 |
被害者側の過失がなくなるわけではないので、本来の金額よりは少なくなるのは変わりありません。しかし、過失相殺がないため、8対2のときと比べて請求額が240万円から320万円へと80万円増加します。
8対0には以下のメリットがあります。
- お互いが妥協するため早期に示談が成立する。
- 被害者は保険を利用せずに済むため等級が落ちず、保険料増額の心配がない。
- 加害者が高級車に乗っていたり、大ケガしたりした場合など、相手方の請求額が高額で過失相殺での減額が大きくなりそうなときには、特に片側賠償にするメリットが大きい。
弁護士への依頼で過失割合が変更できた事例
相手方の提示する8対2の過失割合に納得がいかず、変更したいと思っている方はなるべく早くから弁護士に相談するようにしてください。示談交渉は過失割合に沿って進められるため、時間が経過するほど変更を認めさせるのが難しくなっていきます。
納得いかない点があれば、早めに弁護士に修正できる見込みがあるかどうかを確認するようにしましょう。以下、実際に弁護士への依頼で有利な過失割合に変更できた事例を紹介しますので、依頼の際に参考にしてください。
ケース①:後遺障害が残る事故で8対2から9対1への変更
車で信号が設置されていない交差点を走っていたAさんは、左側からやってきた加害車両と衝突事故を起こしてしまいます。8か月後に病状固定と診断されたAさんは相手方の保険会社と示談交渉をはじめますが、提示された過失割合8対2に納得できませんでした。
Aさんはまだ首に痛みが残っており、後遺症の疑いがあるのに示談してしまっていいのか迷った末に弁護士に相談することを決めます。相談を受けた弁護士はすぐに後遺障害等級認定の手続きを行い、Aさんは「むちうち」で後遺障害14級の認定を受けることができました。
その後、保険会社と過失割合についての交渉が行われ、弁護士が警察の捜査資料を取り寄せた結果、加害者に保険会社が見落としていた過失が認められる可能性があることが判明しました。
ケース②:信号のない交差点での事故で8対2から9対1へ変更
車を運転して帰宅していたBさんは、直進しながら信号が設置されていない交差点に差し掛かったとき、後からやってきた左方車と衝突する事故を起こしました。幸い、大きなケガはなかったものの、Bさんは示談交渉で相手方の保険会社が提示してきた8対2の割合に納得できませんでした。
加害者の車は自分より後から来ていたと確信があったうえ、Bさんの側にはなかった一時停止のラインが相手側の道路には敷かれており、さらに相手が一時停止したようにも見えなかったのです。どうしてもこのままでは示談できないと感じたBさんは弁護士に相談。
このような交差点の事故では、加害者の車が一旦停止していた場合、6対4の割合もあり得ます。しかし、今回、保険会社はそうした主張をしておらず、加害者も停止したかどうか曖昧にしか答えられませんでした。
そこで、加害者の一時停止違反や前方不注意などを主張して割合の修正を求めたところ、最終的に9対1で示談することができました。今回は示談で済ませましたが、こうしたケースは裁判になれば10対0が認められる可能性もあります。
まとめ
交通事故では、双方が事故に対してどれだけ責任をもっているかで過失割合が決められます。8対2になると慰謝料や車の修理代など請求できる賠償金額が通常と比べて2割減額されるとともに、場合によっては被害者であっても点数の加算など行政処分を受けてしまいます。
しかし、保険会社が提示してくる過失割合は法律の専門家である弁護士から見ると、誤っているケースも多く、示談交渉により変更の余地があります。交通事故の過失割合に納得がいかないと思っている方は、ぜひ示談の前に一度、弁護士に相談するようにしてみてください。
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