交通事故の損害賠償を相手が払えないときはどうなる?ケースや対処法について

交通事故の損害賠償を相手が払えないときはどうなる?ケースや対処法について

交通事故の損害賠償を相手が払えなかった場合はどうなるのでしょうか。

交通事故の被害者が加害者に請求できる治療費や慰謝料などの損害賠償は、高額になると払えない心配も出てきます。

本記事では、相手が損害賠償を払えないケースや対処法を解説します。

交通事故の損害賠償とは

交通事故に遭ったとき、被害者が加害者に対して請求できる治療費や慰謝料などの賠償金を損害賠償といいます。

不法行為による被害には損害賠償を請求できる

民法709条では「故意または過失によって他人の権利や法律上の権利を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められています。こうした侵害行為は法律上、不法行為と呼ばれ、これを金銭で補償するのが損害賠償です。

また、道路交通法70条では、車を運転する場合、「他人に危害を及ぼさない速度と方法で運転しなければならない」と定められています。

POINT
交通事故を起こして他人にケガを負わせたり、車や物を壊したりする行為は安全運転の義務違反に該当し、不法行為によって他人に被害を与えていることになるため、損害賠償の支払い義務が生じます。

交通事故の損害賠償にはどのようなものがあるか

交通事故で請求できる損害賠償には、

  • ケガの治療費
  • 車の修理代
  • 「休業損害」……事故によって仕事を休んだ分への補償
  • 精神的苦痛に対する慰謝料
  • 「後遺障害慰謝料」……後遺障害が残ってしまった場合に請求できる慰謝料
  • 「後遺障害逸失利益」……後遺症が残ったために将来入るはずだった収入などが得られなくなることへの補償である後遺障害逸失利益

などがあります。

慰謝料と損害賠償は似ているので 同じものと考えている方もいるかもしれませんが、この2つは厳密には異なります。

民法710条には、「他人の身体・自由・名誉・財産権」を侵害した場合、財産に対する損害賠償だけでなく、「財産以外の損害についても賠償しなければならない」と定められており、交通事故の被害者は事故でケガなどを負ってしまった精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。

交通事故の損害賠償金の種類

損害賠償について理解したところで、交通事故で損害賠償を請求する際には1つ注意しなければならないことがあります。

それは、交通事故の賠償金は算定方法により「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3種類があることです。このうち、自賠責基準が賠償金が最も安く、弁護士基準が最も高額になります。

それぞれの算定方法の特徴と計算方法について詳しく説明します。

自賠責基準

運転を行う上ですべての車に加入が義務づけられている自賠責保険による損害賠償算定方法です。

自賠責保険には限度額が定められており、支払い金額は死亡・後遺障害3000万円(介護を要する場合4000万円)、傷害120万円までになります。ですが、限度額を超えた分は払ってもらえないわけではなく、加害者が加入している任意保険から超過分を支払ってもらえます。

自賠責基準は、交通事故による損害の最低限の補償を目的としているため、受けとれる賠償金は3つの基準のなかで最も低額になっています。

自賠責基準では入通院1日に対して支払われる金額が4300円と決まっており、後は何日病院に通ったかで賠償金が決まります。計算方法は以下の2通りで、このうち金額の安いほうが実際の損害賠償になります。

計算方法
①4300×通院期間
②4300×実通院日数×2

例えば、ケガで1か月入院・2か月通院(1か月の実通院日数は12日)とすると、
①4300×90日(30日×3か月)=38万7000円
②4300×54日(入院30日+通院12日×2)×2=46万4400円

となり、金額の安い①の38万7000円が実際に支払われる損害賠償になります。

任意保険基準

加害者が加入している任意の自動車保険による算定基準です。任意保険基準の計算方法は保険会社によって異なり、算定方法は各保険会社が自由に決めてよいとされています。

外部に対しては非公開とされているため詳しい基準を知ることはできなくなっています。一般的には自賠責基準よりは高額になるといわれますが、実際には大きな違いはありません。

また、保険会社は通常、支払う保険金の額を少しでも減らしたいと考えるものであり、相手方の言いなりになっていると低い金額で示談させられてしまう可能性もあります。

正確な金額は不明ですが、相場の目安として、以前に全ての保険会社が共通の基準として使用していた「旧任意保険支払基準」を以下に掲載します。

旧任意保険支払基準による入院および通院の慰謝料算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月025.250.475.695.8113.4128.5
1か月12.637.86385.7104.6121134.8
2か月25.250.473.194.5112.2127.3141.1
3か月37.860.581.9102.1118.5133.6146.1
4か月47.969.389.5108.4124.8138.6151.1
5か月56.776.995.8114.7129.8143.6154.9
6か月64.383.2102.1119.7134.8147.4157.4

単位:万円

自賠責基準の例と同じく、1か月入院・2か月通院の例を見てみると、表より賠償金は50万4000円となります。自賠責基準よりは高額なものの、大きく金額が変わるわけではありません。

弁護士基準

弁護士基準は弁護士に示談交渉を依頼したときに適用される算定基準で、受け取れる損害賠償の額が3つのなかで最も高額になります。

訴訟を起こした場合にもこちらの基準が適用されるので裁判基準とも呼ばれますが、裁判に訴えなくても弁護士に依頼するだけで弁護士基準での算定が可能です。

弁護士基準は公益社団法人「日弁連交通事故相談センター」から発刊されている「交通事故損害額算定基準」(通称:青本)や日弁連交通事故センター東京支部から刊行されている「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)などをもとに計算されます。

具体的な金額は任意保険基準と同様に算定表から求められ、弁護士基準の場合は軽症用と重症用の2種類の表があります。

弁護士基準軽症用算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月0356692116135152
1か月195283106128145160
2か月366997118138153166
3か月5383109128146159172
4か月6795119136152165176
5か月79105127142158169180
6か月89113133148162173182

単位:万円

弁護士基準重傷用算定表

入院→
通院↓
0か月1か月2か月3か月4か月5か月6か月
0か月053101145184217244
1か月2877122162199228252
2か月5298139177210236260
3か月73115154188218244267
4か月90130165196226251273
5か月105141173204233257278
6か月116149181211239262282

単位:万円

上と同じく入院1か月・通院2か月の場合を見てみると、軽症用の表で受け取る金額は69万円となります。

弁護士基準では自賠責基準と比べると金額が2倍~3倍になることも多く、弁護士基準こそ交通事故の被害者が本来受け取るべき損害賠償といえるでしょう。

交通事故の損害賠償を請求するなら弁護士への依頼を

このように、交通事故の損害賠償には3つの算定基準がありますが、交通事故の損害賠償は今後の治療や生活に必要となる大切なお金ですから、できれば一番高額になる弁護士基準での損害賠償を受け取るのが望ましいといえます。

交通事故の被害に遭われて加害者に損害賠償請求を考えている方は、ぜひ弁護士基準で賠償金を請求するために弁護士への依頼を検討されることをおすすめします。

交通事故の損害賠償金を加害者が支払えないケースとは

交通事故の損害賠償は算定基準によって金額が大きく変わることが分かりましたが、例え弁護士基準で請求できても、加害者が支払えなければお金を受け取ることはできません。

加害者が交通事故の損害賠償金を払えないケースにはどのようなものがあるでしょうか。

加害者が無保険(任意保険に加入していない)の場合

加害者が任意の自動車保険に加入していない場合は、損害賠償が支払えない可能性があります。

加害者が無保険の場合でも、自賠責基準での賠償金を支払ってもらうことはできます。自賠責保険は「自動車損害賠償保障法」により、車を運転するなら必ず加入しないといけません。

強制保険ともいわれており、もし未加入で運転すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。ですから、自賠責保険での慰謝料が受け取れないケースはほぼないと考えていいでしょう。

しかし、自賠責保険は交通事故による損害の最低限の補償を目的としたもののため、補償額に限度が定められていて、傷害の場合は120万円まで、死亡の場合は3000万円までしか支払われません。

後遺症が残った場合にも上限があり、等級によって異なりますが、後遺障害慰謝料や後遺障害遺失利益の支払いは4000万円から75万円までとされています。

通常、自賠責の上限を超えた分は加害者が加入している任意保険で補填してもらえます。しかし、加害者が任意保険に未加入だと、損害賠償の金額が上限を超えてしまった分の支払いが難しくなり、弁護士基準での請求ができても、実際にお金を受け取れない可能性が出てきます。

 現在、日本における任意保険の加入率は7割程度といわれており、多くの場合は自賠責保険の上限を超えても大丈夫と考えられますが、3割程度は任意保険に未加入のドライバーもいるということですから注意が必要です。

任意保険の支払い限度を超えている場合

加害者が任意保険に加入している場合でも、損害賠償の金額が大きいと自動車保険で補償できる範囲を越えてしまい、支払いができないケースもあります。

任意保険の対物・対人賠償保険には支払われる保険金の上限が無制限のものもありますが、そうでない場合は任意保険に関しても上限が決まっています。

 交通事故の損害賠償は、被害の内容によっては1億を超える場合もあり、補償金額に上限のある自動車保険では必ずしも全額を支払ってもらえるとは限りません。

損害賠償金を支払わない加害者が受ける処分

交通事故で高額の損害賠償を請求しても、加害者が支払えないケースがあることがわかりましたが、法律で決まっている賠償金を払えない加害者は何らかのペナルティはないのでしょうか。

損害賠償金を支払わなかった加害者はどのような処分を受けるかを解説します。

遅延損害金を請求される

損害賠償の支払いが遅れると、もともとの賠償金に加えて遅延損害金が発生してしまう恐れがあります。遅延損害金は損害賠償を期限までに支払えないときに請求されるお金で、以下のように計算されます。

計算方法
請求額×利息(取り決めがない場合は3.0%)÷365日×遅滞日数

例えば、200万円の賠償金を2か月滞納した場合の遅延損害金は、
200万円×3.0%÷365×60日(2か月)=9863円
となります。

事前に取り決めがない場合、利息には法定利率の年間3.0%が適用されます。遅延損害金は賠償金の支払いが遅れている限り、日数に応じて増えていくため、滞納が続けば金額はさらに大きくなります。

財産を差し押さえられることがある

損害賠償の支払いが遅れ、督促状が来ても無視を続けていたりすると、財産を差し押さえられる場合があります。加害者に損害賠償を払う意思が見られない場合、被害者は裁判所に申立を行い、強制執行(差し押さえ)を請求できます。

強制執行とは
強制執行は加害者が裁判の判決や示談の内容を守らないときに裁判所が債権者の利益を強制的に実現する方法です。
このうち、金銭の支払いに関するものは金銭執行と呼ばれ、相手の所有している不動産を差し押さえる「不動産執行」、相手の給与や銀行預金などを差し押さえる「債権執行」、相手のもっている家財道具や貴金属、商品などを差し押さえる「動産執行」などがあります。

差し押さえにもルールがあり、例えば差押えの場合、金額の4分の1を決められた損害賠償額になるまで毎月差し押さえることができますが、年金や公的扶助などの差し押さえはできません。

しかし、一度裁判所の判決が出ると加害者は逃げることができず、生活に最低限必要なものを除いては財産や給料などが差し押さえられることになります。

自己破産しても支払いが免除されないケースも

交通事故の損害賠償は、たとえ加害者が自己破産しても支払いが免除されない場合があります。

裁判所に自己破産の申立を行って認められると「免責許可」が出され、借金の返済や未払い税金の納税が免除されます。そのため、加害者にとって自己破産は交通事故の損害賠償からも逃れられる手段のようにも思われます。

しかし、損害賠償の場合は、たとえ自己破産を行っても支払いが免除されないケースがあります。自己破産といってもすべてのお金の支払いが免除されるわけではなく、「非免責債権」は免除の対象になりません。

破産法253条では「非免責債権」として
破産者の故意や重大な過失による他人の生命・身体に対する不法行為の損害賠償請求権
が上げられており、交通事故の損害賠償はこれに当てはまると考えられます。

ただ、ここでの重大な過失とは飲酒運転や無免許運転、危険運転など故意に匹敵するような違反とされています。また、他人の生命・身体に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が対象なので、物損部分は、故意又は重過失が認められない限り免責されてしまいます。

加害者に悪意がなく、過失の度合いが低いとみられる事故では支払いが免除されてしまう場合もあり、判断に裁判所によりケースバイケースといえます。ですが、過去にはスピード超過や無灯火などが原因となった事故で加害者の過失が認められ、非免責債権と判断された事例もあります。

加害者に自己破産されたとしても必ずしも損害賠償を支払ってもらえなくなるわけではありません。

親が子どもの監督責任により賠償金を請求される

未成年者が起こした交通事故に多いので、監督責任のある親が子どもに代わって損害賠償を請求されるケースです。

不法行為の損害賠償では、加害者が小学校高学年(11~12歳未満)程度の場合、法律上は責任能力がない者として扱われ、代わりに親が賠償金請求を受けることがあります。

未成年者は民法上「事理を弁識する能力のない者(責任無能力者)」として扱われ、民法712条では「他人に損害を加えた場合」でも「その行為について賠償の責任を負わない」と定められています。その代わり、民法714条では「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」が賠償責任を負うとされており、親が子どもの損害賠償を支払う義務を負います。

未成年者が責任無能力者かどうかを分ける年齢については、判例によって11歳~14歳と幅があり、中学生でも親の責任が問われる可能性もあります。

未成年者が加害者になる交通事故で多いのが、自転車に乗っていて他人にケガをさせてしまうケースです。未成年者であっても成人と同等の範囲で損害賠償を請求されることになる上、自転車は損害保険にも加入していないことが多いため、こうした事故では親も支払いに困る可能性が高いといえます。

このように、交通事故の損害賠償支払いを拒んでいると督促状が届いたり、遅延損害金により支払い額が増えたりするだけでなく、財産の差し押さえを受ける恐れがあります。

POINT
自己破産をしても支払い責任を逃れられるとは限りませんし、加害者が未成年であれば親にまで請求が行くことも考えられます。万一、交通事故の加害者になってしまった場合には、できる限り速やかに損害賠償を支払うべきといえるでしょう。

加害者が損害賠償金を払えないときにはどう対処すればいい?

交通事故の損害賠償を支払わずにいると、様々な不利益を被ることを解説してきましたが、加害者によっては任意保険に加入しておらず、経済的な理由から賠償金が払えないケースも存在するでしょう。

そうした場合、被害者はただ待っていても必要な補償が受けられるわけではありません。むしろ、放っておけば泣き寝入りになってしまう可能性が高くなるといえますし、自ら行動を起こすことが大切です。加害者が損害賠償金を払えないときに被害者がとれる対処法を解説します。

対処法①:自賠責保険に被害者請求を行う

交通事故の被害者自身が加害者の自賠責保険会社に保険金の支払いを請求するのが「被害者請求」の制度です。支払いが遅れている理由として、加害者が自賠責保険の支払い手続き自体を行っていない場合に有効な手段です。

被害者請求は「自動車損害賠償保障法(自賠法)」16条1項「被害者は保険会社に対し、保険金額の限度において損害賠償の支払いを請求できる」に基づく制度で「16条請求」とも呼ばれます。

示談前でも請求できるので、被害者にとっては示談成立前に賠償金が受け取れるメリットもあります。金額は通常の自賠責基準と同じく1日4300円で計算され、自賠責保険の限度額の範囲内でのみ請求が可能です。被害者請求には以下の書類が必要になります。

被害者請求に必要な書類
・保険金、損害賠償額支払請求書
・交通事故証明書
・交通事故発生状況報告書
・医師による診断書
・診療報酬明細書
・交通費明細書
・付添看護自認書(付添看護があったとき)
・休業損害証明書(休業で収入が減少したとき)
・請求者の印鑑証明書
・委任状(代理人による請求時)
・委任者の印鑑証明書(代理人による請求時)
・後遺障害診断書(後遺障害分の請求時)
・レントゲン写真等(後遺障害分の請求時)
・戸籍謄本課(死亡事故)

被害者請求を行うには、まず「自動車安全運転センター」で発行してもらえる「交通事故証明書」で加害者の自賠責保険会社を調べ、請求書類を取り寄せ、必要事項を記入して返送します。

通常は1週間程度で保険金が支払われ、限度額(傷害であれば120万円まで)に達するまでは何度でも請求可能です。

 ただ、この制度を利用すると、相手方の任意保険会社に自賠責保険と任意保険の支払いをまとめて行ってもらえる「一括対応」の制度が利用できなくなるので注意が必要です。

対処法②:分割払いを交渉する

損害賠償が高額なために加害者に支払いが難しい場合は分割で支払ってもらえないか交渉してみましょう。損害賠償は保険会社から支払われるので一括払いが普通ですが、双方の合意があれば分割での支払いも可能です。

ただ、分割払いにすると被害者がすぐに損失を補填することができませんし、支払いが遅れるリスクもあります。基本的には一括払いのほうが望ましいのですが、相手に支払い能力がないなら、少しずつでも払ってもらえるようにすべきといえます。

分割の金額などもお互いの話し合いで決めることができますし、相手が金額の大きさに困っているようなら、こうした提案も1つの方法です。

対処法③:被害者自身が加入する任意保険から保険金を受け取る

加害者からの支払いがすぐに望めない場合、被害者自身が加入している任意保険への請求が可能であれば保険金を受け取れます。

加入している保険のなかに、

  • 「人身傷害保険」……事故で搭乗者や同乗者が死傷したときに治療費や休業損害などを補償する。
  • 「搭乗者傷害保険」……契約者の搭乗者全員のケガや後遺症に対する補償が受けられる。
  • 「無保険車傷害保険」……相手方が任意保険に加入しておらず、十分な補償を受けられる場合に補償を受けられる。
  • 「車両保険」……契約車に損害が発生したとき、修理代や代車費用を補償してもらえる。

などがあれば、保険金を受け取れる可能性があります。これらも示談成立前に請求できるものがあり、早めに保険金を受け取れるのもメリットです。

POINT
契約内容によって請求基準や受け取る金額が変わってきますし、被害者だけでなく家族の保険でも利用できる場合があるので、保険会社に確認してみましょう。

対処法④:ケガの治療に健康保険を使う

加害者の支払いが遅れていて、治療費が負担になる場合には、ケガの治療に被害者自身の健康保険を利用できます。治療費を軽減できるので、自賠責保険の被害者請求を行う場合でも限られた補償金額が治療費で圧迫される恐れがありません。

交通事故の治療で健康保険を利用する場合には、以下の書類を健康保険組合に提出します。

必要な書類
・第三者行為による傷病届
・事故発生状況報告書
・交通事故証明書
・負傷原因報告書(業務中・通勤中の事故でないことの証明)
・損害賠償金納付確約書、念書(加害者に記入してもらう書類)
・同意書

交通事故によるケガの治療費は本来加害者が支払うべきものですから、被害者に支払われた治療は後日、健康保険組合から加害者への請求が行われます。

 注意点として、保険の適用外になる治療法だと健康保険を使えないので、治療を受ける際には医師や病院に保険が適用できるかどうか確認するようにしてください。

対処法⑤:勤務中・通勤中の事故なら労災保険を使う

業務中または通勤中に事故に遭った場合は、労災保険の利用を検討しましょう。労災保険を利用すれば、治療費が保険から支払われるので被害者による負担がなくなります。

労災保険の治療費は過失割合による減額もなく、かかった費用を全額補償してもらえます。また、事故によって会社を休んだ分の補償として休業給付が受けられるほか、労災保険で独自に後遺障害等級の認定も可能です。

仕事で交通事故に遭ったときは、会社に報告して保険の手続きを進めてもらうようにしましょう。

第三者による交通事故であれば会社の責任ではないので、保険料が上がる心配もありませんが、もし勤務先が労災保険の利用を渋る場合は労働基準監督署へ相談してみてください。

対処法⑥:政府保障事業に請求を行う

加害者が任意保険はおろか自賠責保険すら加入していない場合は、「政府保証事業」への請求を行いましょう。

「政府保障事業」とは
加害者が不明なひき逃げ事故や相手が自賠責保険にも未加入で支払い能力がない場合に、加害者に代わって国(国土交通省)が被害者への補償を行う制度です。

請求できるのは被害者のみで加害者による請求はできず、補償限度額は自賠責保険と同額です。ただ、すでに健康保険や労災保険といった社会保障から給付を受けていた場合には、その分が差し引かれます。

指定の損害保険会社から「政府の保障事業 請求キット」と呼ばれる申請書類を入手し、必要事項を記入の上、診断書や交通事故証明書などの必要書類とともに返送してください。保証事業によって支払われたお金は、後に政府から加害者に対して請求されます。

対処法⑦:ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する

「ADR(Alternative Dispute Resolution)」とは「裁判外紛争解決手続」といわれ、裁判以外の手段で「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」などのADR機関が示談手続きを仲介する制度です。

弁護士や元裁判官など法律の専門家が仲介役を務めて中立の立場から紛争の解決を図り、金銭トラブルや夫婦間の慰謝料請求、交通事故など幅広い法律問題に利用されています。

ADRでは、示談の斡旋のほか、審査会が両者の主張をもとに賠償金を決定する場合もあります。費用は無料で、早ければ3か月程度で結果が出るため裁判に比べるとかかる解決までにかかる期間も短く、訴訟までは起こしたくないという方におすすめです。

 ただ、ADRでは遅延損害金が請求できず、受け取る賠償金も裁判に比べると低額になる可能性があります。

対処法⑧:裁判を起こす

加害者がいつまでも損害賠償を払わず、話し合いにも応じようとしない場合は、訴訟を起こして裁判所に訴える方法があります。最初は内容証明郵便を使った支払いの催告を行い、それでも相手が応じない場合に裁判を起こし、強制執行により財産を差し押さえるという流れが一般的です。

裁判に勝てば、加害者の預金や毎月の給与、不動産などを差し押さえて支払いに充てることができるようになり、損害賠償を受け取れる可能性は飛躍的に高まります。裁判を起こす上で注意が必要なのは、そもそも加害者に全く財産がない場合は、例え強制執行の命令が出ても賠償金を受け取れる見込みが低い点です。

また、交通事故の損害賠償請求には5年間の時効が存在するため、放っておくと裁判自体できなくなる可能性もあります。訴訟により時効の完成が猶予されるため、この点も裁判を起こすメリットの1つといえます。

分からないことは弁護士に相談を

加害者が交通事故の損害賠償を支払ってくれない場合、被害者は様々な手段を採ることができますが、なかには手続きが複雑だったり、裁判のように一般の方には難しい法律知識を求められる場合もあります。もし不安なことや不明な点がある場合には、弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。

弁護士であれば、被害者に代わって示談交渉を代行してくれるだけでなく、各種手続きのサポートやアドバイスも行ってもらえるので、被害者が1人で対応するよりも早期解決が見込めます。

加害者が交通事故の損害賠償を支払ってくれないと悩んでおられる方は、一度弁護士への依頼を検討してみてください。

まとめ

交通事故の損害賠償はケガの治療や生活費となる被害者にとって大切なお金ですが、金額が高くなる分、加害者が払えないケースも発生します。

相手が任意保険に入っていない場合や保険の限度額を超えた場合など理由は様々で、無視し続けると遅延損害金が発生したり、財産を差し押さえられる可能性もあります。相手が払ってくれない場合、被害者は分割払いの請求や自分の保険の利用、裁判を起こすなど各種の対処が可能です。

しかし、どの方法が現状に一番合っているのか、手続きはどうすればいいのか、わからないこともたくさんあると思います。そうした場合は、適切なサポートやアドバイスにより早期解決が望める、弁護士など法律の専門家に相談するようにしてみてください。

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