交通事故により損害を受けた被害者は、加害者に対し損害賠償を請求することができます。
しかし、被害者は、自分が受けた損害のすべてについて、加害者から支払いを受けられるとは限りません。
一般的に、交通事故では、いずれかが一方的に悪いというケースだけでなく、被害者側にも多少なりとも落ち度があることもあります。
被害者側の落ち度は、被害者が受け取れる損害賠償金に大きく影響を及ぼします。
1 「過失割合」とは?
「過失割合」とは、交通事故の結果に対し、被害者・加害者の双方が負う責任の割合のことをいいます。
一般的に、交通事故では、いずれかが一方的に悪いというケースだけでなく、被害者・加害者ともに過失が認められることもあります。
たとえば、過失割合が20(被害者):80(加害者)の場合は、発生した交通事故について、被害者が20%、加害者が80%の責任を負うということを意味します。
この場合、交通事故により被害者が被った損害の総額が1000万円であった場合には、被害者は、加害者に対して800万円を請求することができることになり、残りの200万円は被害者が負担することになり、1000(万円)×80(%)=800(万円)にまで減額されることになります。
ここで注意が必要なのは、過失割合は総損害額に影響を及ぼすので、治療費やその他費用の全額を保険会社が支払っている場合には、最終的に示談の際に受け取る損害賠償額は、過失割合以上に少なくなってしまうことです。
たとえば、損害の総額が100万円、そのうち治療費が40万円、慰謝料が60万円で過失割合が20(被害者):80(加害者)の場合で、保険会社が治療費全額を支払っていた場合であれば、慰謝料を被害者は60万円の80%である48万円を受け取れるように考えると思われます。
しかし、治療費全額の支払い済みなので保険会社は40万円の20%である8万円を多く払っている計算になります。ですので、実際の示談時に被害者が受け取る金額は治療費の分だけ減ることになります。
このように、被害者の過失割合が大きくなればなるほど、被害者が受け取れる損害賠償金は減額されるため、過失割合の認定は大変重要な要素です。
2 過失割合の認定方法
過失割合は、いつ、どのようにして決められるのかについて、以下で見ていきたいと思います。
(1)いつ決まるの?
過失割合を決める時期に特別な決まりはありませんが、一般的には、被害者が受けた損害の額が確定した後に、過失割合を決めることが多いです。
もっとも、交通事故による損害賠償請求は、3年という期間が経過することにより、時効で消滅してしまうため、注意が必要です。
被害者が加害者に対し、損害賠償を請求するためには、当事者間で合意した過失割合に基づいて、最終的な損害賠償額を確定する必要があります。
しかし、先に見たように、過失割合は、損害賠償金に大きく影響を及ぼす要素でもあるため、被害者・加害者間で揉めるケースが少なくありません。
(2)認定の仕方
交通事故の被害者は、自分が受けた損害を賠償してもらうために、加害者と示談交渉を行うことになります。
被害者・加害者がともに任意保険に加入している場合には、保険会社が当事者に代わって示談交渉を行ってくれます。また、いずれか一方が保険会社に加入していない場合には、本人と保険会社が示談交渉を行うことになります。
このように、過失割合は、任意保険会社が代行することもありますが、当事者間の交渉で決められます。
具体的な過失割合については、「過失割合認定基準」という基準が用いられます。
「過失割合認定基準」とは、過去の判例の蓄積により設けられた基準のことをいいます。
交通事故には、自動車同士、自動車と歩行者、そして、自動車とバイクといったように、さまざまなパターンがあります。また、事故態様についても、信号機のある交差点・信号機のない交差点などといったようにさまざまです。
過失割合認定基準は、こうした事故のパターンに応じて決められており、「別冊判例タイムズ第38号」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)にも掲載されているため、一般人でも見ることができます。
ここで、注意する必要があるのは、被害者が任意保険に加入しておらず、自身で加害者側の保険会社と交渉するケースです。
一般的に、過失割合認定基準を詳しく理解している人はほとんどいないといっていいでしょう。他方で、保険会社は、そのほかにも類似する案件を多く扱っており、交通事故における示談交渉の熟練者です。
そのため、過失割合認定基準に従った過失割合よりも被害者に不利な過失割合を提示してくるケースが少なくありません。この点の対策は、後ほど詳しく解説します。
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3 ケース別の過失割合
交通事故の態様はさまざまであるため、ここでは、典型的なケースをいくつか紹介したいと思います。
(1)自動車同士の交通事故
自動車同士の交通事故は、事故状況が単純ではないケースが多いため、過失割合の認定をめぐって交渉が決裂することも少なくありません。
たとえば、一方の道路に一時停止の規制がある交差点において、いずれも直進してきた自動車が同じ程度の速度で衝突した場合、交通事故の過失割合は、8(一時停止の規制を受ける側):2(一時停止の規制を受けない側)になります。
これはあくまでも基本割合なので、見通しのよい交差点だったり、夜間だったり、どちらかに著しい過失になる行為があったり等で割合は変動します。
(2)自動車とバイクの交通事故
自動車とバイクの交通事故は、自動車同士の場合とあまり変わりはないと考えていいでしょう。
たとえば、広い道路を直進するバイクと狭い道路を直進する自動車が衝突した場合、8(自動車):2(バイク)の過失割合になります。
もっとも、自動車とバイクの交通事故が起きると、バイクに乗っている人が怪我を負うことは避けられません。そのため、自動車同士の交通事故に比べ、バイク側に有利に過失割合を認定される可能性があります。
その他、どちらかに著しい過失になる行為があったり等で割合は変動します。
(3)自動車と歩行者の交通事故
被害者と加害者がハッキリし、なおかつ加害者の過失割合がどうしても高くなってしまうのが、自動車と歩行者の交通事故です。
自動車と歩行者の交通事故では、過失割合のほとんどが自動車側に科せられる傾向になりますが、条件によっては歩行者側の過失が認められることもあります。
(4)自動車と自転車の交通事故
自転車は、車道を走行することが原則となっているため、自動車との交通事故が非常に多く発生しています。
特に、自動車・自転車ともに信号機のない交差点での交通事故は非常に多いケースです。このケースにおいて道路幅がほとんど同じである場合、8(自動車):2(自転車)が基本過失になります。
このように、過失割合は交通事故の態様によっておよその基準が決められていますが、あくまで基準に過ぎませんので、加害者・被害者の過失の程度によっては、認定される過失割合も上下する可能性があります。
4 示談交渉における注意点
交通事故の当事者がいずれも任意保険に加入している場合で双方に過失が生じる場合は保険会社同士で交渉が行われます。
しかし、保険会社に交渉を任せきりにしていると、かえって被害者に不利な結果に終わる場合があります。
保険会社の担当者は、多数の案件を抱えているため、可能なかぎり案件をスピーディに処理していかなければなりません。保険会社は営利団体であり利益を上げることを目的とし、多くの利益を上げることが企業価値に繋がり、担当者も会社員です。そのため、早く案件を終わらせたいと考える保険会社もあります。
このように、双方に過失が生じる場合で保険会社が自分に代わって示談交渉をしてくれているとはいえ、自分に有利になるようにきちんと交渉を進めてくれるとは限りません。
そのため、被害者は加入保険会社に進捗の報告を求めるなどして、状況を把握しておくことが大切です。
5 適正な過失割合を勝ち取るためには?
過失が生じる交通事故の被害者が、納得のいく示談を成立させるためには、自分の過失割合をできるだけ小さくすることが必要になってきます。
(1)過失割合認定基準を理解する
過失が0の場合と被害者が任意保険に加入していない場合、加害者側の保険会社と直接示談交渉を行わなければなりません。
この場合、加害者側の保険会社は、被害者に知識がないことをいいことに、過失割合認定基準に従った過失割合よりも被害者に不利となる過失割合を提示して可能性が高いです。
そのため、保険会社と対等な立場で交渉を進めるためには、少なくとも過失割合認定基準を理解していることが必要です。
過失割合認定基準を理解していることで、保険会社から適正とはいえない過失割合を提示されても、その点について反論し、適正な過失割合を自分から提示できるようになります。
(2)弁護士に依頼する
被害者が自分で保険会社と示談交渉をしようとすると、どうしても経験や知識において勝る保険会社が有利に示談を進めることが多いです。
また、ほとんどの被害者が、示談交渉をすること自体初めての経験であるため、大きな不安を覚えるでしょう。
また、交通事故による示談交渉で問題となるのは、過失割合だけでなく、そのほかにも、慰謝料の額であったり、被害者に後遺障害が生じた場合には、その等級についても問題となります。
このように、事故態様によっては、複雑な問題が生じることもありますので、可能な限り早めに弁護士に相談し弁護士に示談交渉を依頼することをお勧めします。
弁護士に依頼するタイミングとしては、「交通事故発生後できるだけ早く」が理想ですが、示談書を締結する前の段階であれば、弁護士に依頼するタイミングとして遅すぎるということはありません。
いったん示談書を締結してしまうと、その後、「過失割合に納得いかない」などといった理由で示談書の内容を覆すことはできなくなります。
そのため、示談書を締結する際には、署名・押印などをする前に、弁護士に依頼するなどして、示談書の内容を細かく精査する必要があります。
5 まとめ
交通事故における過失割合は、最終的に被害者が受け取れる損害賠償金に大きく影響するため、当事者間で揉めやすい要素にもなっています。
しかし、過失割合を有利に認定してもらうためには、過失割合認定基準を始め、一定の法的な知識や経験が求められます。