誹謗中傷した人は逮捕される?ネットやSNSでの悪口も罪になる?

誹謗中傷した人は逮捕される?ネットやSNSでの悪口も罪になる?

女子プロレスラーの自殺事件などをきっかけに特に注目されるようになった誹謗中傷問題。

ネットなどで誰かを誹謗中傷した人は逮捕されるのでしょうか。

この記事では、誹謗中傷が何の罪に問われるか、どのような投稿が誹謗中傷にあたるのかを解説していきます。

誹謗中傷は罪になる?

ネット上などで誹謗中傷を行ってしまった場合、法律上、罪に問われることになるのでしょうか。まずは、過去に起こった誹謗中傷事件の実例を紹介します。

木村花さん誹謗中傷事件

2020年5月、女子プロレスラーの木村花さんが出演したテレビ番組での発言をきっかけにSNSで誹謗中傷を受けるようになった事件です。

彼女のもとにはSNSに1日100件を超える中傷コメントが送られ、木村さんは遺書のようなメモを残して亡くなりました。

 この事件では、木村さんの母親からの告訴により、コメントを書き込んだ男性が書類送検されています。

スマイリーキクチさん誹謗中傷事件

お笑いタレントのスマイリーキクチさんが過去に起きた殺人事件に関与していたといわれ、1999年頃からネット上で長期間にわたる誹謗中傷を受けた事件です。

本人だけでなくテレビ局やスポンサーにまで誹謗コメントが寄せられ、仕事が減るなど経済的な影響もありました。

ネット上に中傷コメントを書いた人の数は1000人以上に上り、そのうち特に悪質な19人が検挙されました。

誹謗中傷で複数人が摘発された初の事件として、社会的にも大きく注目されました。

西田敏行さん誹謗中傷事件

俳優の西田敏行さんが2016年3月頃からネット上で「違法薬物を使用し、女性に対して日常的に暴力をふるっている」など事実無根の記事や書き込みを投稿され誹謗中傷を受けた事件です。

この事件では自身のサイト上で誹謗中傷を拡散していたとして、男女3人が書類送検されました。

彼らは注目を集める記事を載せて閲覧数を伸ばしたかったと供述しており、広告収入のため嘘と知りながら誹謗中傷を掲載する悪質さがうかがえます。

被害を受けるのは芸能人だけではない

前項では、おもにタレントやスポーツ選手、芸能人などに起きた誹謗中傷の事例を上げましたが、有名人だけが被害者になるわけではありません。

過去にはあおり運転事件の同乗者として全く関係のない一般女性の写真を使ったデマが拡散された事件や、知人を誹謗中傷するビラをトイレに貼って逮捕された事件も起こっています。

ネットやSNSが発達した現代では、芸能人だけでなく、主婦や会社員といった一般の人から企業まで、誰でも誹謗中傷の被害者になる可能性があります。

誹謗中傷はどんな罪になる?

もしも誹謗中傷を行った場合、法律上はどのような罪に問われるのでしょうか。

侮辱罪

侮辱罪は、公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪です。侮辱とは、相手をばかにして辱めたり、相手の名誉を傷つけたりすることです。

  • 「バカ」「ゴミ」といった悪口。
  • 「デブ」など相手の肉体的特徴を馬鹿にするもの。
  • 「死ね」「消えろ」など相手の人格を否定するような書き込み。
  • 企業に対して「悪徳商法で儲けている」「ブラック企業」といった事実無根の批判を行うこと。

などは侮辱罪に該当すると考えられます。

脅迫罪

脅迫罪は、生命や身体、自由、名誉、財産などに危害を与えることを告知して相手を脅した場合に成立する犯罪です。

相手を畏怖させるに十分と判断されれば、相手が実際に恐怖心を抱いたかどうかに関係なく脅迫罪が成り立ちます

  • 「殺してやる」「死ね」といった書き込み。
  • 特定の女性を指名して「レイプしてほしい」と依頼するような書き込み。

などが脅迫罪に該当すると考えられます。

威力業務妨害罪

威力業務妨害罪は、威力を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。

主に企業や商店などが対象になり、威力とは暴力など相手の自由な意思決定を阻む行為を指します。

 例として、「爆弾を仕掛けた」「無差別殺人を起こす」といった犯罪を予告する書き込みなどは、相手に必要以上の警備を強要し、相手の業務を妨害したと判断できることから、威力業務妨害罪に該当する可能性が高くなります。

名誉毀損罪と侮辱罪の違いとは?

ちなみに、侮辱罪とよく似た犯罪として名誉棄損罪が存在します。名誉毀損罪は事実を示して相手の名誉を貶めた場合に成立します。

POINT
「金を盗った」「暴力を振るった」など具体的な内容がある場合は名誉毀損罪、「バカ」「ゴミ」など事実の摘示がない単なる悪口は侮辱罪が適用されます。

また、ここでいう「事実」とは真実のことではなく、真偽に関係なく罪が成立します。

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪

侮辱罪・名誉毀損罪はどちらも親告罪にあたります。親告罪とは、被害者の告訴がなければ検察官が起訴(刑事裁判を起こすこと)することができない犯罪をいいます。

これらの犯罪は、事実が公になることで被害者自身に不利益が生じる可能性があるためこうした決まりになっています。

被害者の告訴がない限りは刑事裁判にかかることもなく、有罪になって前科がつくことはありません。

ただし、脅迫罪・業務妨害罪は非親告罪のため、被害者の告訴がなくても起訴される場合があります。

逮捕だけでなく民事訴訟の対象になることも

誹謗中傷の加害者になってしまうと、被害者の告訴によって逮捕・起訴される場合があるだけでなく、民事でも訴訟を起こされる場合があります。

同じ誹謗中傷事件でも、刑事事件と民事事件は法律上それぞれ別個に手続きが行われるため、被害者は告訴と民事訴訟の両方を行うことができます。

そのため、刑事裁判とは別に、民事訴訟で慰謝料や損害賠償を請求される可能性があります。

誹謗中傷で逮捕された事例

誹謗中傷事件の加害者になって逮捕にまで至るにはどのような場合があるのでしょうか。ここでは、誹謗中傷で実際に逮捕された事例を紹介します。

実際に誹謗中傷で逮捕されたケース

男子高校生への誹謗中傷事件

2015年頃、SNSで滋賀県内の男子高校生に対して、誹謗中傷する内容の書き込みを行ったとして東京都に住む少年が逮捕された事件です。

加害者の少年は嘘の書き込みを行い、結果的に男子高校生が自殺するという痛ましい事件に発展しました。

キャンプ場行方不明事件に関する誹謗中傷事件

2019年9月、山梨県のキャンプ場で小学生の女の子が行方不明になった事件では、母親のSNSに対して「お前が犯人だろう」「殺す」など誹謗中傷するメッセージを行ったとして、30代の男性が名誉毀損と脅迫の容疑で逮捕されています。

川崎希さん誹謗中傷事件

元AKB48でタレントの川崎希さんが匿名掲示板やSNS上での誹謗中傷被害を受けた事件です。

この事件では、2020年3月、主婦ら2人の女性が書類送検されており、川崎さんがそのことをブログで発表すると、以前は一日100件以上あった誹謗中傷の投稿が止んだそうです。

この事件では、加害者が反省していたことから、後に川崎さんが刑事告訴を取り下げています。

誹謗中傷で逮捕される場合とは

名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪のため、通常は被害者からの告訴がなければ逮捕されることもありません。また、告訴があっても、逮捕によって身柄を拘束されることなく、書類のみを検察に送致する書類送検になる場合も多いです。

しかし、警察が逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断した場合には、これらを未然に防止する目的で逮捕に至るケースもあります。

誹謗中傷でどんな刑罰を受けるのか

起訴されて有罪が確定すると、刑事罰を受けることになります。

例えば名誉毀損の場合は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金となっており、刑が確定すれば、懲役など重い罰を受ける可能性もあるのです。

誹謗中傷を積極的に取り締まる流れ

警察は誹謗中傷を積極的に事件化する流れに

木村花さんの事件が社会的な注目を集めた影響もあり、現在、警察ではネット等の誹謗中傷を積極的に事件化する流れになっています。

警察では、こうした書き込みを犯行予告や犯罪の前兆事案と捉える傾向にあります。過去に起こった通り魔事件ではネット上に犯行予告とみられる書き込みが行われていました。

また、実際の犯行に結びつかなかったとしても、悩んだ被害者が自殺する事例もあることから、社会的に誹謗中傷を許さない空気が形成されつつあり、こうした流れは今後も変わることはないでしょう。

誹謗中傷するとどうなってしまうのか

最近は社会的に誹謗中傷への注目が高まっており、投稿者が逮捕され、犯罪として立件される可能性は高くなっているといえます。

大手芸能事務所の中には、あらゆる法的措置を含めた厳正な対応を取ると宣言しているところもあり、これまでは有名税といわれていた有名人に対する誹謗中傷にも今後は厳しい対応がとられるとみられます。

誹謗中傷はどの時点から犯罪なのか?

誹謗中傷が犯罪として認められるのは、被害者に対してSNSやブログのコメント欄などに書き込みを行ったり、ダイレクトメッセージを送ったりしたとき、あるいは口頭や文書で誹謗中傷を行ったときになります。

誹謗中傷の証拠隠滅はできない

証拠はデジタルタトゥーとして残る

ネット上では、一度行った書き込みや投稿は後から取り消すことが難しくなっています。特に、ツイッターのリツイートなどで拡散したり、ウェブ魚拓といわれる方法で保存されると簡単に消すことはできません。

こうした特徴は、入れ墨を完全に消すのが難しいことに例えてデジタルタトゥーと呼ばれています。

また、過去の事件では、誹謗中傷する投稿を問題視したユーザーがデータを残していた例もあり、一度誹謗中傷を行ってしまうと、後から証拠隠滅するのは困難となり、加害者の視点から見れば、自分の犯罪の証拠が残り続けることになるとも言えるのです。

匿名だからといって好き勝手できるわけではない

ネット上で匿名が基本ですが、だからといって何を書いてもいいわけではありませんし、プロバイダに情報開示を請求することで個人を特定することも可能ですが、多くの人は知りません。

匿名を隠れ蓑にできるため、加害者は個人を特定されることはないと高を括っている場合がほとんどで、それが誹謗中傷をさらにエスカレートしていきます。

ですが、加害者は軽い気持ちで投稿を行っていることがほとんどのため、被害を受けた側が損害賠償など法的措置に踏み切ると表明すると、慌てて謝罪する場合も多くあります。

誹謗中傷をしてしまったらどうする?

刑事と民事両方の責任を追及されるおそれあり

ネットやSNS・掲示板等で誹謗中傷を行ってしまった場合、刑事上と民事上両方での責任を問われるおそれがあります。

刑法上の犯罪にあたると判断されれば、逮捕・起訴されて刑事罰が科せられることになりますし、それとは別に民事訴訟で損害賠償・慰謝料の請求も行われることになります。

逮捕・起訴の防止には示談交渉が有効 弁護士など専門家への相談を

もしSNSや掲示板などで誹謗中傷してしまい、逮捕されるか不安な場合、弁護士など法律の専門家に相談するようにしましょう。

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪のため、被害者に謝罪するとともに、示談交渉や和解を行うようにすることで、逮捕・起訴を防止することにつながります。

しかし、普通の人がいきなり示談交渉といわれてもどうすればいいかわからないことでしょう。そんな時、法律の専門家なら、あなたの行為が名誉毀損に該当するか適切な判断が得られますし、示談交渉でも相談に乗ってもらえます。

POINT
依頼する際は、これまでも誹謗中傷事件を扱ってきた実績ある弁護士事務所を選ぶようにしましょう。

まとめ

最近、特に問題となっているネットでの誹謗中傷は、証拠も残りやすく、一度やってしまうと逃げるのは困難であるといえます。

誹謗中傷を行うと、名誉毀損や侮辱罪などに該当し、逮捕・起訴のおそれもあります。しかし、これらは親告罪のため、早期に被害者に謝罪して示談交渉を行えば最悪の事態を避けることができます。

過去に起こしてしまった誹謗中傷に悩んでいる方は、迷わずに弁護士など法律の専門家に相談するようにしてください。

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