インターネットの誹謗中傷は裁判に持ち込める?判例や弁護士費用について解説

インターネットの誹謗中傷は裁判に持ち込める?判例や弁護士費用について解説

悪質な誹謗中傷を受けた被害者は、裁判を希望しても手続が複雑で諦めてしまうケースもあります。

ネットの誹謗中傷では、どのようなケースで裁判に持ち込むことができるのでしょうか?また、実際にどんな裁判例があるのでしょうか?

この記事では、具体的な事例や損害賠償額などもふまえ解説します。

インターネット上の誹謗中傷はどのように解決したらいい?

ネット上の誹謗中傷に遭った被害者は、精神的苦痛を与えられ、悩み続けた結果、自ら命を絶つケースもあり深刻な問題になっています。

匿名性の高いSNSを中心とした悪口や悪質なデマの拡散は、何気ない投稿でも場合によっては、民事上の損害賠償や刑事上の犯罪(名誉毀損罪、脅迫罪、強要罪、信用棄損罪、威力業務妨害罪など)に該当することもあります。

悩みながらも誹謗中傷問題への対処方法がわからないということで何もできずにいる被害者は多くいますので、インターネット上の誹謗中傷はどのように解決したらいいか解説します。

以下では、特に、削除請求と損害賠償請求、どちらも行うことを目指す場合について解説します。

削除請求損害賠償請求、どちらも行いたい場合、どのように手続を進めればよいでしょうか?たしかに、誹謗中傷を含む投稿を一刻も早く消したいということで、削除請求から始めたいという気持ちは理解できます。

しかし、最初に削除請求を行ってしまうと、誹謗中傷を含む投稿と一緒に、発信者のIPアドレスも削除されてしまう可能性があります。

そして、発信者のIPアドレスが削除されてしまうと、プロバイダ等に発信者情報開示請求を行うことができなくなり、発信者の名前や住所を入手できず、損害賠償請求することができなくなってしまうのです。

したがって、あなたが削除請求と損害賠償請求、両方を行いたい場合、まずはサイト運営者等に対して、発信者のIPアドレスを開示するよう請求することからスタートすべきです。

それでは、具体的な手続の進め方を解説します。

①サイト運営者等に対する、発信者情報開示の仮処分命令の申立て

発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷を受けた場合に発信者の個人情報を特定する手続きを指します。プロバイダ責任制限法4条に規定されています。

アクセスログの保存期間がおよそ3~6ヶ月程度であるため、迅速に手続できる「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」を行うことが一般的です。

「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」とは

「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」は、サイト運営者等(サイト管理者やサーバー管理者)に対し発信者のIPアドレスやタイムスタンプ等の開示を求め、暫定的な救済として裁判所に申し立てる方法です。

申立ては、サイト管理者等の住所地を管轄する地方裁判所となります。仮処分命令が認められる要件は、被保全権利が存在すること、および、保全の必要性が存在すること、です。

「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」の審理

「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」の審理では、債権者面接や双方審尋が実施されます。

裁判所が仮処分命令を発令する場合は、債権者に担保を納めさせます。担保の供託後に発信者情報開示の仮処分命令が発令され、決定正本が交付されます。

②サイト運営者等に対する削除請求と、プロバイダ等に対する発信者情報開示請求

発信者に対する損害賠償請求、この2つの手続を同時進行で進めていきます。

サイト運営者等に対する削除請求

サイト管理者やプロバイダ等へ専用フォームや掲示板の報告フォームなどから削除依頼を行います。

管理者等へ削除依頼する場合は、専用のフォームから依頼することがほとんどです。掲載されている箇所やURLを報告します。しかし、実際には削除依頼に応じてもらえることはあまりないとされています。

送信防止措置
削除依頼をしても応じてもらえない場合は、プロバイダ責任制限法3条に基づく「送信防止措置」という方法があります。
送信防止措置を依頼できるのは、権利侵害を受けた本人と代理人となる弁護士です。

送信防止措置はプロバイダ等に対して、「送信防止措置依頼書」を送ります。権利侵害が掲載されている場所、侵害されたとする権利、権利が侵害されたとする理由などを記載します。

その後、権利侵害に該当する投稿かどうかの審査を行います。しかし、必ずしも削除依頼が認められるとは限りません。実際は認められないケースが多いです。

上記の方法で解決できない場合は、裁判所に対して、投稿記事削除の仮処分命令を申し立てることになります。

そもそも、送信防止措置を端折って、仮処分命令の申立てをしてもかまいません。

手続は、裁判所に対して、削除請求が認められるための要件を満たした申立書と、一応確からしいと裁判官が判断するための証拠を提出することからスタートします(通常裁判で求められる「証明」よりは確信の程度が低くてよいとされています)。

提出する証拠としては、投稿記事が記載されたウェブサイトをプリントアウトしたものや、侵害情報を撮影した動画等が挙げられます。

裁判所が仮処分の申立てを認める場合、基本的には申立人に担保金の供託をさせることになります。

プロバイダ等に対する発信者情報開示請求・発信者に対しる損害賠償請求
発信者情報開示請求訴訟
プロバイダに対して、サイト運営者等から開示されたタイムスタンプやIPアドレスを示し、タイムスタンプの日時にそのIPアドレスを使っていた人間が誰なのか、その人間の名前や住所、電話番号を開示するよう求めます。この請求は、一般的には、訴訟で行うことになります。

なお、投稿をした発信者側視点の解説も少ししておきます。発信者情報開示請求をする請求者が訴訟を提起した後、プロバイダ等から、発信者に対して「発信者情報開示に係る意見照会書」が届きます。

「発信者情報開示に係る意見照会書」とは、誹謗中傷などの書き込みを行った人に対し、情報を開示して良いかどうかを確認する書類です。プロバイダ責任制限法4条2項に規定があります。およそ2週間程度内での回答を求められます。

発信者に対する損害賠償請請求
発信者情報開示請求の訴えが認められて発信者の名前や住所が判明すれば、発信者に対し不法行為(名誉毀損、プライバシー侵害など)に基づく損害賠償請求を行います。また、損害賠償請求と合わせて、名誉を回復するため、謝罪文などの必要な措置を求めることもできます。

③刑事上の責任追求

さらに、悪質な誹謗中傷は場合によっては刑法上の処罰対象になります。刑事上の処罰を求める場合は、刑事告訴を行います。

告訴とは、被害者やその代理人が捜査機関(司法警察職員)に犯罪事実を申告し、処罰を求めることをいいます。

インターネット上の誹謗中傷が裁判になった例

・2ちゃんねる投稿によるプライバシー侵害

美容外科医である被告Aが「2ちゃんねる」のスレッド内に、同業者である原告に対し誹謗中傷する内容を投稿したとして、名誉を毀損し、プライバシーを侵害したとして慰謝料請求の一部を認めた事例があります。

 大阪地方裁判所は、 Aの書き込みによりBの社会的評価を下げたなどとして、Aに対し110万円の損害賠償を命じています。

ブログ記事による名誉毀損、損害賠償請求事件

マンションの横を資材置き場にしていたA商店が産業廃棄物処理業を始めていた。マンションの住民から騒音、粉じん、悪臭について苦情が寄せられていた。

このマンションの住人がこれに反発し、自身のブログに誹謗中傷する記事を繰り返し投稿していたところ、A商店は廃業に追い込まれてしまったという事案です。

 この事案で名古屋高等裁判所は、住人Bのブログ記事がA商店の社会的評価を低下させるものであるとして、住人Bに対し100万円の損害賠償を命じました。

インターネット上の掲示板でなりすまし行為による損害賠償請求事件

被告が原告になりすまして、インターネット上の掲示板に顔写真やアカウント名を利用して第三者を罵倒するような誹謗中傷などの投稿を行ったとした事案。

 大阪地方裁判所は、精神的苦痛を負ったとして、原告の名誉毀損及び肖像権の侵害を認め、130万6000円の損害賠償を命じました。

Twitterの無断画像投稿による著作権侵害と損害賠償等請求事件

ある日、被告が原告の描いた似顔絵を無断で画像投稿サイトに投稿しました。これを受け、原告がその削除を求めていたが、被告があたかも殺害予告を受けたかのような内容をTwitterに投稿した事案。

 東京地方裁判所は被告に対し、著作権侵害の損害20万円の支払い、著作者人格権および名誉毀損に対する慰謝料30万円の支払いなどを認めました。

誹謗中傷で罪が認められない場合はある?

名誉毀損が認められる3つの要件

名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を傷つけたときに成立する犯罪です。刑法第230条に規定されています。つまり、他人の名誉を傷つける行為、社会的評価を下げることを指します。

名誉毀損は「公然」「事実を摘示」「人の名誉を傷つける」の3つの要件が必要です。

公然」とは、不特定多数が認識できる状態をいいます。その表現を目にした不特定多数者が特定の人物に関する表現であることを認識できれば名誉毀損が成立する可能性があります。

事実を摘示」とは、具体的な事実や他人の社会的評価を害する事実を指摘することを指します。「人の名誉を傷つける」とは、人の社会的評価を下げるおそれがあることをいいます。

名誉毀損の違法性が阻却されるための要件
  • 公共の利害に関する事実」は、一般人が関心を寄せるのが正当といえる事実を指します。
  • 公益を図る目的」とは、ある事実を広く一般に知らせようとする正当な目的があることをいいます。
  • 真実であることの証明がある」とは、その内容が真実であるとの証明ができることをいいます。

誹謗中傷の慰謝料はどのくらい?

ネット上の誹謗中傷による損害賠償については、およそ10万円〜100万円程度とされています。被害者が個人の場合には、10~50万円、企業の場合には、50~100万円とされています。

ただし、著名人などの場合は、慰謝料が高額となるケースがあり、事案によって異なります。

慰謝料が認められた判例

インターネットのホームページ上で根拠のない告発による名誉毀損

大学の教授が過去に研究のねつ造ないし改ざんがあるとして、学生らが告発する旨の文書をインターネット上のホームページに掲載した事案。

摘示した事実が真実であるとも真実と信じたことについて相当の理由があるとも認められないとして,裁判所は名誉毀損による慰謝料100万円と弁護士費用の支払いを命じました。

週刊誌が誹謗中傷する記事を掲載したとする損害賠償事件

茨城県の守谷市長が週刊誌と週刊誌のウェブサイトにて誹謗中傷する内容の記事が掲載されたとして、謝罪文や損害賠償請求を求めた事件。

裁判所は、精神的苦痛に対する慰謝料150万円と一部弁護士費用の支払いを命じました。

誹謗中傷で弁護士に相談すると費用はどのくらい?

費用の相場

インターネットの誹謗中傷で弁護士に相談すると一般的には「相談料」、「着手金」、「報酬金」がかかります。

相談料」は、30分5000円と設定しているところが多いです。相談だけなら無料のところもあります。

着手金」「報酬金」については、任意交渉による削除、裁判手続による削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求など、依頼内容で異なります。相談する法律事務所のホームページをご覧になるか、ご相談時にお問い合わせください。

誹謗中傷はひとりで悩まず相談を

インターネットの誹謗中傷は、弁護士以外にも各相談窓口があります。無料で相談できるところも多いので、こうした相談窓口を利用するのもひとつです。

「まもろうよ こころ」(厚生労働省)
電話、メール、チャット、SNSなど、様々な窓口で不安に思っていること、悩んでいることを相談することができます。

違法・有害情報相談センター(総務省)
インターネット上に書き込まれた誹謗中傷など、違法または有害情報を適切に対応していただける相談センターです。どのような対処をしたらいいのかわからない場合に迅速に、様々なアドバイスを受けることができます。

インターネット人権相談受付窓口(法務省)
法務省の人権相談窓口では、個人で削除請求を行う場合の助言や人権侵害について調査を行います。侵害行為に該当すると、法務局がプロバイダへの削除要請を行う場合があります。

誹謗中傷ホットライン(民間機関)
一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が運営しています。国内・国外にかかわらず、対象サイトに対して削除等の対応を促す通知を行います。

SIAが定める判断基準を満たす投稿に対し、運営サイトなどに削除の措置依頼を行います。しかし、すべての投稿の削除は約束できないとしています。誹謗中傷ホットラインの利用は無料です。(連絡にかかる通信料等を除く。)

まとめ

本記事では、インターネットの誹謗中傷は裁判に持ち込めるのかどうか、誹謗中傷に関する判例はどのようなものがあるのか、裁判すると弁護士費用はいくらかかるのかなどを具体的に解説しました。

個人で解決することが難しく、1人で悩み泣き寝入りするといったケースも多くあります。まずは、法律の専門家である弁護士に相談することにより、誹謗中傷被害の早期解決が期待できます

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