どの法律を、どのように改正することで、増え続ける誹謗中傷を取り締まるのでしょうか。

インターネットの誹謗中傷に関する法律(刑事・民事)とは?
TwitterなどのSNSや匿名掲示板での誹謗中傷の被害は年々増加しています。ここからは、近年の事例をいくつか紹介しながら、誹謗中傷を取り締まる現行の法律を複数説明します。
2020年5月23日に22歳の若さで女子プロレスラーの木村花さんが急逝しました。原因としては、リアリティ番組「テラスハウス」に出演した後にSNSで受けた誹謗中傷が理由で自ら命を絶ったと考えられています。
匿名書き込みの場合、裁判となると相手を特定して訴えるのに専門知識が求められ、非常に難しい手続きをとる必要があり、時間もかかってしまいます。
それゆえに、番組内の言動をネット上で誹謗中傷された場合、法的対処が追いつかず、このような事件の発生を阻止できなくなります。
元AKB48のメンバーで、現在タレントと実業家をしている川崎希さんは、数年前からネットの匿名掲示板などで、自身や家族に対する悪質な嫌がらせを受けていました。
川崎さんは本人のブログで、妊娠を発表した後に「嘘つくな」「流産しろ」といったメッセージが毎日届いていたことを告白しています。
その後、川崎さんは弁護士に相談して、誹謗中傷の書き込みについて、時間をかけて発信者情報開示請求を行いました。
では、このようなネット上の誹謗中傷を取り締まる法律はあるのでしょうか。結論としては、インターネットで誹謗中傷があった場合は、現行の法律でも犯罪が成立します。

名誉棄損罪(刑法230条)
公然と事実を摘示し、他人の名誉を傷つけることで、社会的評価を下げた場合、名誉毀損罪が成立します。「公然と事実を摘示」とは、不特定多数が認識できる状態で、具体的な事実を適示することです。
また、ここでいう事実の真偽は問われません。例えば、ある人に不満を抱いた人が、TwitterなどのSNSでその人の評価を下げるような書き込み(例えば、不倫をしている等)をした場合は、名誉毀損罪が成立することがあります。
侮辱罪(刑法231条)
公然と他人を侮辱する発言をした場合、侮辱罪が成立します。名誉毀損罪と異なり、侮辱罪は「事実の摘示」が犯罪成立の要件になりません。
例えば、「バカ」「アホ」などの抽象的な悪口や、「チビ」「デブ」などの身体的特徴に関する誹謗中傷など、具体的な事実を伴わない悪口をした場合でも、侮辱罪が成立することがあります。
信用毀損罪(刑法233条)
わざとデマの情報を流すことによって他人の信用を貶めた場合、信用毀損罪が成立します。「信用」とは、個人の支払い能力や会社の資産などの経済的信用を意味しますが、それに限定されず、商品やサービスの品質に対する信用も含まれると解されています。
例えば、「あの会社は未払い金も多額になっていて信用できない」や「あの飲食店は腐りかけの食材を使って料理を提供している」などの虚偽の情報を流した場合は信用毀損罪にあたる可能性があります。
不法行為責任(民法709、710条)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合、不法行為責任を負うことになります。
ネット上における名誉毀損や侮辱行為は、刑事責任を追及できるだけでなく、民事上の慰謝料請求が可能です。また、プライバシーの侵害にあたる発言や肖像権を侵害した嫌がらせ行為についても、損害賠償請求ができます。
「プロバイダー責任制限法」はいつから改正される?
インターネットの誹謗中傷を取り締まる法律に関連して、「プロバイダ責任制限法」という法律があります。プロバイダ責任制限法は、現在の実務状況に鑑みて今後法律の改正が予定されています。
では、プロバイダ責任制限法とはどのような法律でしょうか。また、いつから改正されるのでしょうか。それぞれ詳しく解説していきます。
プロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法は、ネット上で発生した誹謗中傷のコメントの管理に関して、プロバイダに発生する責任を制限する法律です。
ここでいう「プロバイダ」の定義とは、一般的な接続プロバイダだけでなく、SNSの運営会社や掲示板の管理人といった、ネット上で不特定多数に向けて情報を発信、公開に関与する者や会社も含まれると解釈されています。
インターネットで誹謗中傷があった場合、プロバイダは誹謗中傷のコメントを削除しなければ、誹謗中傷を受けた被害者から損害賠償請求されるおそれがあります。
一方で、削除したコメントが誹謗中傷にあたらない場合、表現の自由の侵害などを理由に、発信者から損害賠償請求されるおそれがあります。

そこで、プロバイダ責任制限法は、一定の条件下でプロバイダの責任を免除する規定を設けました。
また、誹謗中傷を受けた被害者は、不法な情報によって請求者の権利の侵害が明らかであり、損害賠償請求を受けるべき正当な理由がある場合は、プロバイダに対して、加害者のIPアドレスの開示請求とIPアドレスの利用者の氏名や住所の開示請求がおこなえます。
これらの開示請求手続きは、それぞれ裁判上の請求になります。

プロバイダ責任制限法の改正時期
現行のプロバイダ責任制限法は、大きく分けて、誹謗中傷コメントがネット上に流出した際の
- プロバイダに発生する責任の制限
- 発信者の開示請求
について規定されています。
このうち、発信者の開示請求の手続きが複雑なため、現行の法律よりも被害者の負担を減らすための法改正が予定されています。法律を改正する動きはすでにあり、プロバイダ責任制限法の改正案は2021年2月26日に閣議決定されました。
誹謗中傷の発信者は特定できる?
誹謗中傷の発信者を特定することはそう簡単なことではないと思われがちです。しかし、法的な手順を踏めば、匿名で誹謗中傷した相手の特定が可能な場合もあります。
現行法において、誹謗中傷を受けた場合は、まずSNSや掲示板の運営会社にIPアドレスの開示請求をおこないます。
さらに、入手したIPアドレスの利用者の氏名や住所、電話番号について、ネット回線提供会社に開示請求することで、誹謗中傷の発信者を特定することができます。
インターネット上のSNSや掲示板などに誹謗中傷や名誉毀損的な書き込みがあった場合、数回の発信者開示請求をする必要がありますが、これらの手続きは全て裁判上で行わなければなりません。

しかし、近年ネット上での中傷の被害は増加の一途を辿っており、誹謗中傷を受けた芸能人が自殺するにいたる事例も発生しています。また、事実無根の名誉棄損発言をするだけで、店の売上が激減するなどの経済的損害を簡単に与えることができます。
そこで、ネット中傷による被害をより簡易的に救済するためにプロバイダ責任制限法の改正が検討されています。
新たな手続きは、時間がかかる訴訟を経なくても、裁判所が被害者の申し立てにより、投稿者の情報開示をSNSなどの事業者に命じることができます。また、投稿者の情報が消えないよう、情報消去の禁止なども事業者に命じられます。

インターネット上で誹謗中傷されたらどう対策する?
インターネットで誹謗中傷を受けた場合は、まず掲示板やサイト、SNSの規約を確認し、証拠を保存しましょう。
次に、サイト管理者や管理している企業に削除要請し、応じなければ法的手段をとる流れになります。
ただし、投稿サイトが海外サイトの場合は、海外法人が日本の「プロバイダ責任制限法」に従う理由はありません。さらに、海外に拠点をおく会社に法的手段をとる場合は、手続きが複雑になり、審尋や両者のやりとりに時間がかかってしまいます。
誹謗中傷の被害は、できるだけ早い段階で対処することが重要なため、投稿サイトが海外企業であるなど、両者のやりとりが面倒になる場合は、弁護士などの専門家に頼りましょう。
また、匿名の発信者を特定するには、まず掲示板などの運営会社にIPアドレスの開示請求をおこないます。さらに、入手したIPアドレスの利用者の氏名や住所、電話番号について、プロバイダに開示請求する必要があり、最低でも2回の裁判をしなければなりません。
まとめ
インターネットでの誹謗中傷は年々増えており、誹謗中傷を取り締まる法律を厳しくするべきと考えている人は多いと思います。
このような誹謗中傷に対処すべく、発信者を特定するためのプロバイダ責任制限法は、非常に重要な法律です。
そして、プロバイダ責任制限法は、今よりも被害者救済に貢献できるよう、近い将来に法改正が予定されています。
