誹謗中傷で訴えられると、罰金に処されるだけでなく前科がついてしまい、今後の人生に影響が生じます。
そのため、刑事訴訟に発展させないための対策が必要です。
罰金とは
罰金とは、刑法に規定されている刑事罰の一種で、行為者から強制的に金銭を徴収する財産刑です。
罰金は、自然人だけでなく、法人にも科すことができます。罰金刑を科された場合、検察庁保管の前科調書に記載され、前科がつきます。なお、罰金は、徴収される金銭額の範囲が1万円以上の場合の金銭を指します。
そして、金銭が徴収される制度には、他にも様々な種類があります。以下では、豆知識として、それらの制度についても罰金との違いを踏まえながら説明します。
科料
科料とは、罰金と同様に刑事罰の一種であり、行為者から金銭を徴収する財産刑です。日本の現行刑法における刑罰では最も軽く、侮辱罪などの軽微な犯罪に対して科されます。
金銭を支払うという点で罰金と似ていますが、罰金の徴収額が1万円以上であるのに対して、科料の徴収額は1,000円以上1万円未満になります。
過料
過料とは、国または公共団体が、行政上の義務違反をした国民に対して課する金銭罰です。身近なもので言えば、路上喫煙禁止の場所における歩きたばこは過料の対象になります。
科料と読み方が同じですので、分類を明確にするのに、過料を「あやまちりょう」、科料を「とがりょう」と読むこともあります。
科料が刑事罰の一種であるのに対して、過料は行政上の義務違反の際に課せられる行政処分の一種です。そのため、刑事罰である罰金や科料と違って前科がつくことはありません。
反則金
反則金とは、道路交通法違反をしたときに、行政上の交通反則通告制度に基づいて課される制裁金のことです。
軽微な交通違反は反則行為に該当し、反則金の対象になります。例えば、駐停車違反、信号無視、一時停止違反、速度超過(30km/h未満)、整備不良をした場合は、反則金が徴収されます。
反則金も、過料と同様に行政処分の一種ですので、罰金や科料と違って前科はつきません。
慰謝料
慰謝料とは、被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金を指します。
民法710条には、「財産以外の損害」における損害賠償を定めており、被害者が受けた精神的苦痛は「財産以外の損害」にあたります。すなわち、慰謝料とは、被害者が受けた恐怖心や屈辱心に対して賠償金を支払うものです。
慰謝料は民事上で請求します。罰金の支払い先は国ですが、慰謝料は被害者に対して支払います。また、罰金の額は裁判で確定するのに対して、慰謝料の支払い額は当事者同士の話し合いで決めることができます。
誹謗中傷で罰金に処される可能性がある罪名
インターネットで他人を誹謗中傷すると、被害者に訴えられて刑事上の責任が発生するおそれがあります。
誹謗中傷によって成立する犯罪には、罰金刑を規定している場合が多く、50万円以下の範囲で金銭の支払いを求められます。ここからは、誹謗中傷によって罰金に処される可能性がある罪について説明します。
名誉毀損罪
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した際に、その事実の有無にかかわらず成立します。名誉毀損罪が成立する要件として、「公然」と「事実を摘示」して「人の名誉を毀損」する必要があります。
まず、「公然」とは、多くの人が容易に視認できる環境を意味します。インターネットの投稿は、一般の人が簡単に見ることができるので、「公然」と情報を発信していることになります。
次に、「事実を摘示」とは、何か具体的な内容を、事実として発信することを指します。例えば、「上司の◯◯さんは不倫をしている」などの具体的な情報を拡散した場合は、「事実を摘示」したことになります。反対に、「バカ」「間抜け」などの抽象的な悪口は、具体的な事実を述べていないので、名誉毀損ではなく侮辱行為に当たります。
最後に、「人の名誉を毀損」とは、自然人だけでなく法人の名誉を毀損した場合も成立します。また、「名誉」とは、世間からの信用や評判などの客観的評価を指します。プライドなどの主観的評価は、名誉毀損における「名誉」には含まれません。
脅迫罪
脅迫罪は、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に成立します。例えば、「刃物で刺して殺す」「家に火をつける」などは脅迫となり得る文言になります。
脅迫罪は、相手に向けた脅迫だけなく、相手の家族や親族を対象にした場合も罪になります。相手を畏怖させるのに十分と判断されれば、相手が実際に恐怖を感じたかどうかに関係なく罪に問うことができます。
脅迫罪には、未遂処罰規定がないので、脅迫の対象となった相手が、実際にその書き込みを認識した時点で犯罪が成立します。
信用毀損罪
信用毀損罪は、デマ情報を拡散し、人の信用を毀損した場合に成立します。信用毀損罪の保護法益は人の経済的な評価とされており、「信用」とは個人の支払い能力や会社の資産などの経済的な意味での信用を意味します。
例えば、「あの会社は未払い金も多額になっていて信用できない」というような虚偽の情報を流した場合は信用毀損罪にあたる可能性があります。
誹謗中傷で罰金に処されたケース
実際に誹謗中傷で罰金に処されたケースを紹介します。具体的な金額についても記載するので参考にしてみてください。
東名あおり運転に関するデマ投稿をした事例
2020年12月10日、東名高速道路で発生したあおり運転事件に関して、無関係の会社の情報が掲示板に投稿され、名誉毀損罪の成否が問われた事例です。
あおり運転をした加害者が逮捕された後、インターネット掲示板で「親って八幡西区で建設会社社長してるってマジ?」との書き込みがされた後、「これ?違うかな」と、事件とは無関係である会社の住所、電話番号が掲載されたWebページのURLが投稿されました。
あたかも犯人の父親が勤務している会社であると書き込みした行為は名誉毀損とみなされ、投稿者に対して有罪判決(罰金30万円)が言い渡されました。
ラーメン店のフランチャイズに誹謗中傷した事例
ラーメン店を経営するフランチャイズに対して、「飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」等の虚偽の内容を、自身が開設したホームページに投稿し、名誉棄損罪の成否が問われた事例です。
投稿者は、フランチャイズシステムについて記載された資料に対して十分な理解がなく、関係者に事実関係を確認することも一切ありませんでした。そのような投稿者が、名誉を毀損する虚偽の内容を投稿したため、投稿者に対して有罪判決(罰金30万円)が言い渡されました。
市議会議員がネット上で飲食店を誹謗中傷した事例
石川県加賀市の市議会議員が、市内の飲食店に対しネット上で中傷する内容の書き込みをして、名誉毀損罪に問われた事例です。
市議会議員は、知人の飲食店について「消費期限切れを提供」「ゴキブリ入りの料理」などと匿名でネットの投稿サイトに10回ほど書き込みをしました。
これらの行為は名誉毀損行為として略式起訴されました。その結果、小松簡易裁判所から罰金30万円の略式命令が出されました。
誹謗中傷で訴えられた場合の最善策は?
誹謗中傷で訴えられると、民事上で慰謝料請求されたり、刑事告訴によって罰金などの刑事罰を受けるおそれがあります。
特に、刑事裁判によって有罪が確定してしまうと、刑事罰を受けるだけではなく、前科がついてしまいます。前科は一度ついてしまうと今後の人生に大きく影響を及ぼすので、刑事訴訟に発展しないためにも早急に対処する必要があります。
該当の書き込みを削除する
まずは、誹謗中傷してしまった際の該当の書き込みを削除しましょう。投稿が削除されない限り、被害者は誹謗中傷による損害を受け続けることになります。
SNSにはTwitterのリツイート機能のように、簡単に投稿を拡散できる機能が備わっています。時間が経過するほど相手に与える損害は大きくなってしまうため、罪も重くなってしまう可能性があります。
被害者に訴えられる可能性は決してなくなりませんが、事態が深刻化する前に自身の判断で投稿を削除しましょう。
ただし、掲示板サイトの投稿では、自分の手で投稿を削除できない場合があります。そのような場合は、弁護士などの専門家が、掲示板サイトに投稿の削除依頼をしてくれますので、積極的に弁護士に相談してみましょう。
示談交渉する
該当する書き込みを削除しても、被害者がそれだけで許してくれるとは限りません。被害者に訴えられて、損害賠償請求されたり刑事告訴されたりするおそれがあるときは、「示談交渉」によって、少しでも穏便にトラブルを解決することを目指しましょう。
示談交渉とは、裁判をする前に当事者同士で話し合うことです。示談が成立すると、刑事事件に発展するのを防げるので、罰金などの刑事罰を受けることはありません。もちろん、前科もつかなくなります。
また、慰謝料の額についても、交渉によって通常よりも低くすることができる場合があります。
ただし、示談交渉を進めるためには一定の法律知識が必要になります。自身で交渉を進めるのは大変ですので、困った時は弁護士などの専門家に相談しましょう。
まとめ
インターネットで他人に向かって誹謗中傷すると、被害者に訴えられる危険があります。刑事告訴によって有罪が確定してしまうと、罰金刑を含む刑事罰が科されるので、安易に他人を中傷する発言は控えるべきです。
もし、自分が誹謗中傷してしまったことに心当たりがある場合は、投稿を削除するなど、自分ができる範囲で可能なことをしましょう。被害者が法的手続きに踏み込んだ場合は、刑事事件に発展する前に、弁護士に相談しましょう。