芸能人を誹謗中傷して逮捕された事例は複数あります。では、芸能人への誹謗中傷をした場合、どのような犯罪が成立するのでしょうか。
ネットやSNSで芸能人を誹謗中傷して逮捕された例
ネットやSNSで芸能人を誹謗中傷し投稿者が逮捕されることはあるのでしょうか。
実際にネット上で芸能人を誹謗中傷した投稿者が逮捕されるに至った事件を見てみましょう。
元AKB48のメンバーでタレント・実業家の川崎希さんは数年前からネットの匿名掲示板などで、自身や家族に対する悪質な嫌がらせを受けていました。
川崎さんは本人のブログで、妊娠発表後に「嘘つくな」「流産しろ」といったメッセージが毎日届いたり、インターネット上に自宅の住所を晒されるなどの被害を受けたりしていました。
その後、川崎さんは誹謗中傷の書き込みについて弁護士に相談し、裁判所を通じて発信者情報開示請求を行いました。
その結果、加害者の名前と住所を特定した上で刑事告訴することに成功。加害者の女性2人は侮辱罪の容疑で書類送検されました。
お笑いタレントのスマイリーキクチさんは、1989年に発生した女子高生コンクリート詰め殺人事件の実行犯であるというデマが広がり、10年間以上にわたってネット上に誹謗中傷を書き込まれてきました。
具体的には、ネット掲示板に「人殺しは死ね」「白状して楽になれよ」などの誹謗中傷を書き込まれ、事務所の公式サイトの掲示板にも広がりました。
誹謗中傷を受けた理由は、スマイリーキクチさんの出身地が事件発生地である東京都足立区で、年齢が犯人と同世代というだけであり、ただの憶測にすぎないものです。
デマ情報であるにもかかわらず、多くの人がデマ情報を鵜呑みにして被害が拡散し、脅迫の対象は家族にまで及びました。
改めて警視庁に相談を重ね、悪質な書き込みをしていた男女7人が名誉毀損や脅迫の疑いで、書類送検されました。
女子プロレスラーの木村花さんは、リアリティ番組である「テラスハウス」に出演した際の言動をネット上で激しく中傷され、遺書のようなメモを残して自ら命を絶ちました。
その後、木村さんの母親による告訴を受けた警視庁は、木村さんのスマホのネット閲覧履歴などを復元し、約600アカウントによる約1200件の投稿を精査したうえで、大阪府に住む男性を特定しました。
男性は数回にわたり、木村さんのツイッターアカウントに対して「顔面偏差値低いし、性格悪いし、生きてる価値あるのかね」などの誹謗中傷のコメントを書き込んでいたとされています。
男性は侮辱罪で略式起訴され、東京簡裁は科料9000円の略式命令を出しました。
芸能人への誹謗中傷はどんな罪になる?
芸能人へ誹謗中傷をおこなうと以下の罪に問われるおそれがあります。具体的な罪の内容や成立要件を確認してみましょう。
名誉毀損罪
公然と事実を摘示し、相手の名誉を傷つける書き込みをした場合に適用される犯罪です。
名誉毀損が成立する要件として「公然」と「事実を摘示」する必要があります。「公然」とは、不特定多数が事実を確認できる状態です。特定かつ少数への一斉メールなどの場合でも「伝播可能性」があればここでいう「公然」にあたります。
次に、「事実を摘示」は事実として周囲の人に物事を伝えることを指します。そのため、真実であるかは問題とならず、たとえ本当のことを言っていたとしても罪に問われる可能性があります。
侮辱罪
公然と他人を侮辱するような書き込みをしたときに適用される犯罪です。
侮辱罪も名誉毀損罪と同様に「公然」の要件を満たす必要があります。ただし、名誉毀損罪の成立要件との大きな違いとして「事実を摘示」しているかは問われません。
すなわち、「バカ」「ゴミ」などの抽象的な悪口や「ハゲ」「デブ」などの身体的特徴に関する悪口を投稿した場合は、侮辱罪が成立するおそれがあります。
信用毀損罪
わざと嘘の情報を流すことによって他人の信用を貶めた場合に適用される犯罪です。
この場合の「信用」とは、個人の支払い能力や会社の資産などの経済的な信用を意味しますが、それに限定されず、商品やサービスの品質に対する信用も含まれると解されています。
脅迫罪
相手の生命や身体、財産などを傷つけると言って脅した場合に適用される犯罪です。
「お前を殺す」などネット上での殺害予告は脅迫罪に該当する可能性が高く、相手の家族や親族を対象にした場合も罪になります。
芸能人は誹謗中傷されても仕方がない?
たとえ芸能人であっても、悪意のある誹謗中傷が発覚すると罪に問われるおそれがあります。
歌手やタレントといった著名人への誹謗中傷は「有名税として受け入れるべき」と思う方もいるかもしれません。有名税とは、テレビなどで話題になっているのだから、恋愛や不祥事が報じられてプライバシーが侵害されたりしても、それは税金と同じで受任する義務があるという考え方です。
しかし、有名人であっても個人の尊厳は保護されるべきであり、その尊厳を傷つけた人は誰でも等しく罪に問われます。
誹謗中傷をした投稿者の責任を問う制度の改正が現在進行しています。現行の法制度では手続きの複雑さや訴訟にかかる期間の長さの問題から、裁判は被害者にとって敷居の高いものになっています。
投稿者を訴えるためには、「発信者情報開示請求」という手続きが必要で、裁判上で請求しなければなりません。また、投稿者の身元の特定におよそ半年から1年かかるため、簡単な手続きではないことがわかります。
ただし、近い将来に「プロバイダー責任制限法」の改正が予定されており、発信者情報開示請求の手続きの簡略化が見込まれています。
ネットで誹謗中傷した人が逮捕されるまでの流れ
誹謗中傷の加害者を逮捕する流れとして、まず被害者が被害届を出すことから始まります。届け出をするときには、自らの氏名や住所、年齢、職業のほか、判明している加害者の情報を記載します。
また、該当のサイト名とURL、投稿日時、誹謗中傷記事が掲載されているページの印刷やスクリーンショットがあると、具体的な証拠として情報の信頼性が上がるでしょう。
警察はこれらの提出された情報を確認し、必要があると判断したときに捜査を開始します。そして発信者の特定に成功することで、誹謗中傷をした投稿者が逮捕されます。
誹謗中傷への対処法
誹謗中傷の被害にあったときは、はじめに掲示板やSNSの規約を確認して証拠となる書き込みを保存しましょう。次に、投稿者を特定するための発信者情報開示請求に必要な手続を裁判所で行います。
まず、SNSや掲示板の運営会社にIPアドレスの開示させるための仮処分の申立てをおこないます。さらに、ネット回線提供会社に対して、サイト管理者等から入手したIPアドレスを使っていたところの利用者の氏名や住所について、訴訟により開示請求します。
投稿者を特定したあとは、通常の民事・刑事手続きによって慰謝料・損害賠償請求、ならびに刑事責任追及していきます。さらに、サイト管理者や管理している企業に削除要請します。
芸能人でも一般人でも、このような手順で手続をおこないます。ただし、匿名の発信者を特定するには、IPアドレスを開示させるための仮処分と、訴訟によって氏名・住所についての開示請求をする必要がありますが、これらは裁判所での手続きになります。
個人で申立や訴えの提起をすることもできますが、手続きに手間がかかる上に高度の専門知識を要します。このように、個人で裁判を進めるのは非常に大変なため、弁護士などの専門家に相談するとスムーズに手続きを進められるでしょう。
自分が誹謗中傷をしてしまった場合はどうする?
他人を誹謗中傷したことに心当たりがある場合、すぐに対策をとりましょう。悪意のあるコメントが発覚した場合、被害者の方に住所や氏名を特定され、損害賠償請求される可能性があります。
該当コメントの削除ができないサイトの場合は、弁護士に削除依頼を送ってもらうと良いでしょう。実際に住所や氏名を特定されるに至った場合は、被害者との示談で和解できれば被害届を取り下げてもらえる場合もあります。
名誉毀損などの罪で提訴される危険がある場合は、すぐに弁護士のような専門家に相談しましょう。
まとめ
芸能人への誹謗中傷は、残念なことにネット上でも散見されているため、一般的に犯罪行為でないと思っている方もいると思います。
しかし、芸能人を誹謗中傷した加害者が警察から取り調べを受け書類送検された例は複数あるため、軽い気持ちで他人を貶める発言をするべきではありません。
また、投稿者を特定しやすくなる制度の改正によって、誹謗中傷をした投稿者が逮捕されるケースは増えていくでしょう。
もし自分が誹謗中傷のコメントを書き込んだことに心当たりがある場合は、早期に弁護士に相談するのがおすすめです。