交通事故の示談交渉は長引くと損害賠償の支払いも遅れるため、早期解決が望ましいのですが、実際にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
交通事故の示談交渉とは
交通事故に遭うと、ケガの治療費や慰謝料など、加害者に対して民事で損害賠償を請求することになりますが、このとき、損害賠償額を決めるための話し合いとして「示談交渉」が実施されます。
「示談」とは、民事での紛争を裁判によらず両者の話し合いによって解決する方法です。似た言葉に「和解」がありますが、こちらは双方が譲り合って合意を目指すという意味があるのに対し、示談の場合は犯罪など、どちらか一方が悪い場合に加害者側だけが賠償に応じるときにも使われます。
交通事故における賠償金額は両者の話し合いと合意によって決定され、示談で決められた内容は示談書と呼ばれる書面を作って双方で約束を取り交わします。
示談書には法的な効力があるため一度決められた内容を覆すのは難しく、交通事故では基本的に示談で決まった金額以上の賠償金を請求することはできません。
もし、示談だけで双方が合意できなかった場合は、交通事故紛争処理センターなどや裁判所に訴えて民事裁判へと移行することになります。
交通事故の示談交渉の流れ
交通事故の示談交渉にかかる時間は、物損事故の場合で2~3か月が目安となり、人身事故では1年以上かかることもありますが、実際の示談交渉はどのように行われるのでしょうか。事故の発生から示談交渉に至るまでの流れを注意すべきポイントと一緒にみていきましょう。
1、事故の発生
突然事故に遭うと、慌ててしまうかもしれませんが、まずは落ち着いて行動することが大切です。
事故に遭ったときは、どんな小さな事故でも必ず警察を呼ぶようにしてください。
警察に通報して届出を行わないと、人身事故として処理されなくなり、「自動車安全運転センター」から発行される「交通事故証明書」をもらうこともできないので、示談交渉で不利になる恐れがあります。
加害者の中には、警察に通報しないでほしいと言ってくる人がいるかもしれませんが、損をするのは被害者であるあなた自身です。もし、事故当日に通報できなかった場合は、後日届け出ることは可能ですので、どんな状況でも届け出を行う事が重要です。
加害者の氏名や連絡先を確認しておきます。このとき、加入している保険会社についても教えてもらうと良いでしょう。
警察が到着すると、事故現場の実況見分(いわゆる現場検証と同義です)が行われるので、ケガですぐに病院に行かないといけないなどの理由がなければ、立ち合って協力してください。
実況見分の内容は実況見分調書として書面に残り、あとで相手方と意見が食い違ったときの証拠になります。ただ、事故当日に立ち会えなかったとしても、後日、実況見分を行うことも可能です。
当日は軽症でも病院で診てもらう
事故当日は例えどんな軽症であっても、医療機関で診療してもらうようにしてください。もし、自力で病院へ行けなさそうな場合は救急車を呼びましょう。
交通事故のケガは、そのときはなんともないと思っても、あとから痛みやしびれなどが出てくることがあります。事故後、時間が経ってから病院に行くと、ケガと事故の因果関係を証明するのが難しくなります。
また、相手方からも「本当は大したことのないケガなのではないか?」と思われてしまい、示談交渉で不利になる恐れがあります。病院を受診する際は、いつ起きた交通事故のケガであるかをきちんと医師に伝えましょう。
事故直後、相手から口頭で示談を求められても、決して応じないようにしてください。当日ではケガの度合いもはっきりしておらず、適切な損害賠償がわかりませんし、書面を残さないと内容も不明瞭になり、あとで揉める原因になります。
2、通院または入院
事故後は怪我が治るまで病院での通院・入院を継続します。
受診先は病院を選ぶ
病院は「医師」のいる外科または整形外科を選びましょう。整骨院・接骨院は医師の指示による場合でなければ、治療とみなされずに費用が自己負担になる恐れがあります。
治療費に関する話し合い
治療費に関しては多くの場合、示談交渉成立前から保険会社とやり取りを行って支払いが行われます。
交通事故の損害賠償はケガの治療がどれくらいかかるか分からないと決められませんが、車の修理代や双方の過失割合など金額の分かりそうなものは早い段階から話し合われる場合が多いです。
通院はきちんと行う
仕事が忙しい、家庭の事情がある、などの理由で通院回数を減らしたり、途中で治療をやめたりしてしまう方がいますが、通院は最後まできちんと行うようにしてください。
3、完治または病状固定
治療は医師から完治または症状固定と判断されるまで続けましょう。病状固定とは、これ以上治療を継続しても症状が改善されることのない状態をいいます。
完治または病状固定になると、それまで保険会社からの「入通院慰謝料」や「治療費」、ケガで仕事を休むことに対する補償である「休業損害」などの支払いは終了します。
保険会社に病状固定をすすめられても応じない
保険会社が治療費や損害賠償額を減らすため、早期の病状固定をすすめてくる場合がありますが、応じないようにしてください。通院期間が長いとそれだけもらえる傷害慰謝料も増えますし、病状固定後に何らかの症状が残ってしまったときにも後遺障害の認定が受けやすくなります。
保険会社に病状固定をすすめられても、医師の診断があるまでは治療を続けるようにしましょう。もし、治療費が打ち切りになった場合は、自身の健康保険を利用して治療を続けるようにしてください。
4、後遺障害の認定
治療が終わったあとも、何らかの後遺症が残る場合は後遺障害の認定を受けて後遺障害慰謝料等の請求が行えます。
後遺障害慰謝料を請求するためには、どのような後遺症でも認められるわけではなく、「損害保険料率算出機構」へ申請を行って後遺障害等級の認定を受けなければいけません。後遺障害には1級から14級までの等級があります。
1級が一番重傷で、数字が大きくなるにつれ軽症という扱いになり、等級によって請求できる慰謝料が決まります。医師に後遺障害診断書を書いてもらう必要があり、結果が出るまでには調査期間として通常1~2ヶ月かかります。
5、示談交渉
相手方の保険会社との間で示談交渉がはじまります。交通事故では、いつ示談交渉を開始しなければいけないという具体的に決まっているわけではありません。治療費や物損の賠償についてはもっと早い時期から話し合いをはじめることができます。
しかし、ケガの治療に対する傷害慰謝料や後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益などに関しては治療が終わらなければ正確な損害賠償額が計算できません。早い段階で交渉をはじめても具体的な話ができないのでスムーズに進みませんし、相手から不当に低い慰謝料を提示されて不利になる恐れもあるのでおすすめできません。
示談交渉は、損害賠償額がはっきりする
- 「ケガが完治したとき」(後遺障害がない場合)
- 「後遺障害等級が認定されたとき」(後遺障害がある場合)
のいずれかに開始するのがベストなタイミングといえます。
被害者が事故で亡くなってしまう交通死亡事故の場合、葬儀が終わり、四十九日法要を済ませてから加害者との示談交渉をはじめるのが一般的です。
死亡事故では、四十九日法要にかかったお金までを葬儀費用として請求できる可能性があるので、それまでは請求金額を確定しにくいという事情があります。ただし、香典返しは損害と認められず請求は非常に困難です。
6、示談成立
交渉の結果、双方が合意できた場合は示談成立です。数日から1週間ほどで保険会社から示談書が送られてくるので、書名・捺印して送付します。通常、示談金は示談成立から2週間程度で支払われます。
示談交渉でもめてしまい、双方が合意に至らなかった場合には、民事訴訟を起こして裁判による解決を行います。
交通事故の示談交渉にかかる時間
上では、交通事故が起きてから示談が成立するまでの流れを説明しましたが、ケガの治療や示談交渉など過程が多く、時間がかかりそうだと感じた方も多いのではないでしょうか。
それでは次に、実際に交通事故の解決(示談成立)までにはどれくらいの期間がかかるかをみていきましょう。
交通事故の示談交渉にかかる時間の目安
交通事故の示談交渉にどれくらいの期間が必要になるかの目安は、
「治療日数+示談交渉の期間」
によって決まります。
交通事故では、治療が終わって完治・病状固定と診断されないとケガに対する傷害慰謝料や後遺障害慰謝料の算定ができません。早くから示談交渉を進めたとしても治療が完了するのを待つことになるため、示談成立までにはそれなりの時間が必要になります。
示談交渉の期間は、事故の種類やケガの程度により異なりますが、通常、示談交渉そのものは1~3か月程度で終わります。
物損事故 | 事故発生から2~3か月 |
---|---|
人身事故 打撲 通院1か月 後遺障害なし | 治療期間 1か月 示談交渉 1か月~半年程度 示談成立までの期間:2か月~半年程度 |
人身事故 むちうち 通院3か月 後遺障害あり | 治療期間 3か月 後遺障害等級認定 1~2か月 示談交渉 1か月~半年程度 示談成立までの期間:半年~1年程度 |
人身事故 骨折 入通院6か月 後遺障害あり | 治療期間 6か月 後遺障害等級認定 1~2か月 示談交渉 1か月~半年程度 示談成立までの期間:8か月~1年以上 |
死亡事故 | 四十九日法要・相続関係の手続き確定後1か月~半年程度 |
物損事故や死亡事故を除くと、人身事故では、治療期間や後遺障害認定がスムーズにとれるかどうかが示談成立までの時間に大きく影響してくるため、被害者がどのようなケガを負ったかで示談交渉の期間が変わってきます。
交通事故の手続きでは、後遺障害の認定のようにこちらの努力ではどうにもならず、必ず数週間から数か月待たされるものもあるので、どうしても時間がかかってしまいます。
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
交通事故の示談交渉にはある程度の時間がかかるのは仕方ないとしても、生活費などの事情もあり、事故から示談金の支払いまであまりに待たされるのは困るという方もおられると思います。
示談交渉を滞りなく迅速に進めたいと考えている方は、弁護士に依頼すると早期に示談が成立する場合があります。交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット、デメリットを説明します。
メリット1:慰謝料が増額される
弁護士に依頼する大きなメリットは、弁護士基準での慰謝料計算が行えるようになるので、もらえる慰謝料が増額されることです。
交通事故の慰謝料を算定する方法には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つがあり、どの基準を採用するかで受け取る慰謝料の金額が異なります。
自賠責基準はすべての車が加入を義務付けられている自賠責保険での慰謝料算定基準です。被害者に対する最低限の補償を目的としているため、3つの中で最も低額になります。
任意保険基準は、加害者が加入している任意保険の保険会社が定めている基準です。自賠責基準よりは高額といわれていますが、実際には大きな差はありません。ほとんど変わらない金額といえるでしょう。
弁護士基準は、弁護士に依頼したときに適用される算定基準で、3つの中でも最も高額の慰謝料が受け取れます。弁護士基準は、訴訟を起こしたときにも適用されるため別名「裁判基準」と呼ばれていますが、裁判でなくても弁護士に依頼するだけでこの基準での慰謝料計算が可能です。
メリット2:示談交渉をスムーズに進められる
弁護士が間に入ることで、相手方の保険会社と直接交渉しなくても良くなり、示談交渉がスムーズに進むと考えられます。弁護士がいないと被害者が自分で保険会社と交渉しなければならず、大きなストレスになります。
保険会社はなるべく支払う示談金の額を低くしたいと考えるものですし、加害者の過失を低く見積もる、強引に交渉を進めようとする、わざと対応を遅くするなどの行動で交渉の主導権を握ろうとしてくることもあります。
そうなると、結果的に交渉に時間がかかってしまう上に、被害者にとって不利な金額で示談が成立してしまいかねません。弁護士が代わりに交渉してくれれば、精神的な負担も軽減されますし、正当な過失割合を主張して不利にならないように交渉を進めてもらえます。
メリット3:損害賠償を正確に計算できる
弁護士に依頼することで休業損害や後遺障害逸失利益などを含めて損害賠償額を正確に計算できるようになります。
交通事故でもらえる損害賠償の項目にはケガの治療費や慰謝料のように一般的によく知られているものもあれば、事故で仕事を休んだときに受け取れる「休業損害」や後遺症で働けなくなったときに将来もらえるはずだった収入の補償として受け取れる「後遺障害逸失利益」など、あまり知られていないものもあります。
自分自身で損害賠償を請求していると、こうしたよく知らない項目について請求漏れを起こすかもしれません。
弁護士に依頼をするデメリット
今度は反対にデメリットをみていきます。弁護士に依頼するとき多くの人が気にするのは費用の問題でしょう。
費用倒れの危険性について
弁護士への費用が依頼によって得られる利益を上回ってしまい、結果として被害者が赤字になってしまうことを費用倒れといいます。
このように、弁護士に依頼しても費用だけがかかって利益が出ない状態が費用倒れです。費用倒れは特に損害賠償自体がもともと少ない軽症の事故で発生しやすくなっています。依頼の前には、弁護士とよく相談して、見積もりをもらい、費用倒れにならないかを確認するようにしましょう。被害者の利益にならなさそうな案件に関しては、依頼前に弁護士から指摘してもらえることも多いです。
また、自動車保険に付帯している弁護士特約を利用すれば、費用倒れの可能性は大きく減らすことができます。弁護士への依頼を考えている場合は特約が利用できるかも確かめておきましょう。
メリットとデメリットの比較
弁護士に依頼すれば、示談交渉をスムーズに進められ、早期の示談成立が期待できるだけでなく、受け取る損害賠償の金額も増額されるなど多くのメリットがあります。
反対に依頼しない場合は、自分自身で保険会社と交渉しなくてはならなくなるため、時間がかかる上、納得のいく条件で示談できるとも限りません。また、弁護士基準が適用されないので、損害賠償は弁護士に依頼したときよりも確実に低額になります。
相手方とすぐ合意ができれば示談金受け取りまでの期間は短縮できますが、その場合、示談内容が相手の有利なものになる可能性も高く、おすすめできません。デメリットは費用がかかることですが、弁護士特約が利用できれば問題にならないケースも多くあります。
参考:日本弁護士連合会|リーフレット「弁護士費用保険(権利保護保険)」(2020年4月1日改訂) (PDFファイル;402KB)
交通事故の示談交渉を早く進ませるため注意すべきポイント
交通事故の示談交渉はなるべく早く進めたいものですが、なかには交渉が長引く原因になる注意すべきポイントもあります。どのようなケースで交渉が長引いてしまうのかをみていきましょう。
相手が無保険の場合
相手が任意保険に加入していない場合や自賠責保険の期限が切れている場合は交渉に時間がかかる恐れがあります。交通事故では、基本的に相手方の保険会社と示談交渉を行いますが、無保険では相手との窓口がなく、加害者本人と直接交渉しなければならなくなります。
こうした加害者が相手だと、経済的に余裕がないため無保険を続けていたり、誠意のない態度をみせたり、損害賠償の支払いに消極的だったりといったことが考えられます。そのため、書類を送付しても対応が遅かったり、連絡しても無視されたり、交渉に時間がかかることが予想されます。
ケガが重症の場合
交通事故によって受けたケガが重症の場合も示談までの期間が長くなる可能性があります。人身事故では、完治または病状固定にならないと、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料の正確な計算ができません。
後遺障害に争いがある場合
後遺障害の認定に関して、争いがある場合にも交渉が長期化しやすくなります。後遺障害の認定は等級が重くなるほど、もらえる慰謝料も多くなるため、納得がいかない場合は異議申し立てを行えます。後遺障害等級の認定には早くても1~2か月かかり、争いがあるとそれ以上の時間が必要です。
後遺障害の等級が決まらなければ、慰謝料や逸失利益の算定ができず、それだけ示談交渉が遅れることになります。
過失割合に争いがある場合
相手方の主張する過失割合について争いがある場合も交渉が長引く原因になります。交通事故で自分と相手のどちらにどれくらいの過失があるか割合で表したものを過失割合といいます。
交通事故では、どちらか一方が100%悪いということは少なく、通常は過失割合に従って損害賠償が決められます。被害者の過失割合が大きくなると損害賠償が減額されるため、加害者側が自分たちに有利な過失割合を主張してくることもあり、交渉が揉めるケースも多いです。
車や自転車の損傷が大きい場合
事故で車や自転車が大きな傷を受けた場合にも示談交渉が長引きやすくなります。
損傷が大きいと車の買い替えなど損害賠償が高額になってしまうのですが、そうしたケースでは相手方も示談金を少しで減らすため本当に買い替える必要があるかなど反論してくることがあり、結果として交渉が揉めることが考えられます。
交渉だけで解決せず訴訟になった場合
示談交渉が上手くまとまらず、裁判を起こすことになった場合も、示談成立までの時間は延びます。
交通事故による民事訴訟の審理期間は平均12.4か月とされており、裁判になった場合は交渉だけで解決する場合よりも、さらに1年ほど時間が必要になります。
早期解決を目指すなら弁護士に相談を
このように、交通事故では様々な理由から示談交渉に時間がかかることがあります。早期解決を望むなら、早めに交渉のプロである弁護士への相談を。弁護士であれば、被害者にとって一番いい形での早期解決を目指すことができます。
弁護士に依頼するときは、示談交渉がはじまる前の治療中の段階から相談・依頼することをおすすめします。相手方とどのように交渉を進めていくか、どういった主張を行うかを弁護士と共有することで交渉をスムーズに進められるようになり、早期の示談成立につながります。
まとめ
交通事故では示談が成立した後で損害賠償が支払われるため、示談交渉にかかる時間はなるべく短縮するのが望ましいといえます。しかし、事故の内容やケガの程度、相手方との主張の食い違いなど、様々な理由から交渉が長引いてしまうことも考えられます。
不安をお持ちの方は、弁護士に依頼することで、交渉がスムーズに進み、損害賠償が増額されるなど多くのメリットがあります。早期解決を目指すなら、ぜひ交渉のプロである実績のある弁護士への依頼を検討してみてください。当事務所ではなるべく依頼者の方の価値観を尊重することを心がけていますので、ぜひ勇気を振り絞ってお問い合わせください。
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