ネット上の誹謗中傷は罪になる可能性があります。匿名でも続きによって身元が特定されれば、刑事上だけでなく民事上での責任を負わせられることがあります。匿名だからバレない、責任を追及されないことはありません。
この記事の目次
ネット上の誹謗中傷は何罪になる?
誹謗中傷で問われる可能性があるのは、主に7つの罪です。ネット上の誹謗中傷にはX(旧ツイッター)、インスタなどのSNSのほか、ライン、メールなども含まれます。
脅迫罪(刑法222条1項)
人間の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し、害を加えることを相手に告知し脅迫する行為です。
「害悪の告知」は一般に人を畏怖させるに足りる程度であれば成立します。本人だけでなく、親族などに対する脅迫も対象になります。
- 法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は3年
名誉棄損罪(刑法230条1項)
誹謗中傷の中でも多いのが名誉棄損罪です。公然と事実を摘示し他人の名誉を傷つけ社会的評価を下げた場合に成立します。
「公然と事実を摘示」とは、不特定多数が認識できる状態で具体的な事実として広めることです。真実かどうかは問われず、個人だけでなく団体や法人も含まれます。
- 法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は3年、告訴期間は6ヶ月
侮辱罪(刑法231条)
事実を摘示しなくても不特定多数が認識できる状態で、他人を侮辱した場合に成立します。
「バカ」、「アホ」など具体的事実を伴わない表現、「チビ」「デブ」「ブス」などの身体的特徴に関する暴言などが含まれます。
- 法定刑は拘留又は科料
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は1年、告訴期間は6ヶ月
名誉棄損罪と侮辱罪の違いは「事実の摘示があるかないか」です。どちらも「公然と」との規定があり、不特定多数の人が認識しうる状態で加害者の行為が行われると該当します。
そして、どちらも「親告罪」になり、被害者の告訴がなければ公訴を提起できません。
威力業務妨害罪(刑法234条)
人の業務を妨害する犯罪です。爆破予告、悪質なSNSの投稿、悪質なメール、迷惑電話、ビラ配布、バイトテロなどが、威力業務妨害罪になる可能性があります。
ネット上で事実に反して店舗の不備や店員の人柄や行為を批判したり、店舗や会社に対しデマなどを流すような誹謗中傷が、威力業務妨害罪として処罰された事例があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は3年
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
不特定多数に嘘の情報を流したり他人を欺いたりして業務を妨害する行為です。
事故や災害に便乗したデマ、試験中に不正な手段で入試問題をネット上に流す、大量の虚偽注文を行う、バイトテロなどが、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は3年
信用毀損罪(刑法233条前段)
嘘の情報を流すなどで、他人の信用・信頼を低下させる行為です。信用は経済的な信用を指し、商品やサービスの質も含むとされています。
産地偽装品である、粗悪品であるといった虚偽の事実をネット上に投稿する行為など、ネット上の誹謗中傷が該当する可能性があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 刑法上、未遂は規定されていない
- 公訴時効は3年
強要罪(刑法223条1項)
誹謗中傷だけでなく、脅迫や暴行を用いて義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりすると、強要罪に問われる可能性があります。
店員に土下座を要求する、無理に退職を迫る、無理やり契約書にサインさせる、無理やり商品を購入させる(押し売り)などが当てはまります。
- 法定刑は、3年以下の懲役で罰金刑はなし
- 未遂であっても罰せられる
- 公訴時効は3年
誹謗中傷による罪や慰謝料の具体例
どのような罪になり慰謝料がどのくらいの金額になるのか、芸能人への誹謗中傷を例に挙げていきます。
刑事上の責任
芸能人のスキャンダルやゴシップなどネット上で誹謗中傷すると、名誉棄損罪や侮辱罪になる可能性があります。
もし加害者が名誉棄損罪の嫌疑で逮捕・起訴され有罪判決を受ければ、前科が付いてしまいます。
民事上の責任
民事上で誹謗中傷による慰謝料を含む損害賠償を請求されると、芸能人への賠償金は10~100万程度が目安です。
名誉毀損が認められると慰謝料ぼ金額は、およそ10万円から100万円、侮辱罪の相場はおよそ10万円と言われています。
しかし、誹謗中傷により芸能人や有名人のイメージが低下すれば影響が各所に及び仕事が減るため、経済的損失は大きくなると考えられます。
誹謗中傷と批判や意見との違い
「誹謗中傷」は法律用語で定義されていませんが、一般的に他人を悪く言う、根拠のないことを言いふらす、他人の名誉を傷つけるなどの行為が当たります。批判や意見との違いが分かりにくく、誹謗中傷との区別がつきにくいのが問題点です。
「批判」とは、物事を検討して客観的に判定・評価することです。
一方「批判」は、相手の行動・主張に関して客観的に判定や評価、反論することです。
ネット上のトラブルに対処する動き
誹謗中傷は社会問題にもなっており、対策として2020年4月にはByteDance株式会社、Facebook Japan株式会社、LINE株式会社、Twitter Japan株式会社などを中心とした「一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)」が設立されました。
児童が安心・安全にインターネットを利用できる環境の整備を目的に2017年に設立した「青少年ネット利用環境整備協議会」を母体に、SNS上でのいじめや違法な有害コンテンツなどの課題をなくしSNS等の安心・安全な利用環境の実現を強化するための一般社団法人です。
- 実効性の高い利用者保護施策の検討・実施
- SNSを活用した啓発活動のサポート
- 利用者属性に応じた利用環境整備の推進
ネット上の誹謗中傷が増え社会問題にもなっており、対応の強化は急を要す問題です。官公庁や関連団体とも連携、協力しながら、誹謗中傷防止の啓発や困ったときの相談先などを提供しています。
誹謗中傷の被害にあったときの対処法
誹謗中傷の被害に遭ってしまったら、泣き寝入りするのではなく毅然と対応するのが望ましいです。できる対処法を紹介します。
インターネット上での誹謗中傷を削除する
サイトの管理者に連絡し、以下のような流れで誹謗中傷を削除してもらいます。
まず、サイトや掲示板などの利用規約やガイドラインをよく読み、削除方法を確認します。
そして、誹謗中傷の証拠の保全を急いで行います。削除されると民事上の損害賠償請求や刑事告訴が難しくなりますので、後回しにせずに見つけた時点で証拠を残しておくことが重要です。
次に、サイト管理会社や運営会社、掲示板管理者に、誹謗中傷の削除要請を直接行います。X(旧ツイッター)やインスタグラムなどSNSの他、ヤフーやグーグルなどの検索サイトへの削除要請も対象となり得ます。削除リクエストにかかる期間は運営会社により異なりますが、1週間程度経っても変化が見られないときは削除依頼の進行情報を問い合わせてください。
削除要請をしても応じてもらえない場合は法的措置に入りますが、「仮処分」を用いることが一般的です。
「仮処分」は裁判の結果を待たずに勝訴の状態を確保できる手続きです。仮処分の申し立ては民事保全法に規定されています。裁判所が仮処分命令を発すれば、相手方は削除に応じなければなりません。仮処分命令に従わなければ強制執行されます。
発信者情報の開示請求をする
発信者情報開示請求により、誹謗中傷の投稿者を特定することができるケースがあります。プロバイダ責任制限法4条に基づきサイト管理者やプロバイダに発信者情報の開示請求を行い、法的措置を講じるための準備をします。
ただ、必ずしも裁判手続きを経なくても、書き込んだ人の情報は開示請求できます。また、プロバイダ責任制限法は「特定電気通信」を開示請求の対象にしており、メールやDMの送信者は対象外になる点は注意してください。
- 発信者の住所
- 発信者の氏名
- メールアドレス
- 電話番号
- タイムスタンプ(発信時刻)
- SIMカード識別番号
- IPアドレス、ポート番号
- インターネット接続サービス利用者識別符号
IPアドレスや発信者情報のログの保存期間はおよそ3~6ヶ月とされていますので、早めに開示請求するのが良いでしょう。
参考:総務省・インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)
刑事告訴する
刑事告訴すると警察が犯人特定の捜査をします。脅迫や名誉棄損のような内容であれば、犯人を逮捕し身柄拘束してくれます。刑事事件は再犯を防止する効果が期待できますので、1人で悩んでいるよりも警察に相談してください。
相手が罪になるのか分からないときは、弁護士に相談し判断を仰ぐのがおすすめです。
民事事件として訴える
誹謗中傷の犯人が判明すれば、民事事件として訴えることができます。特定の個人に向けられており権利を侵害されている内容であれば、民事事件として扱えます
ただ、裁判での解決は時間がかかってしまいます。1年以上要するケースもあり、時間や費用の面での負担が大きくなることは覚悟しておくべきでしょう。また、裁判を起こすには法律の知識が必要になります。自分だけで行うのは難しいものがありますので、ネット上のトラブル解決が豊富な弁護士に相談してください。
法的処置をとったことにより、誹謗中傷をした犯人から逆恨みをされることもあります。危害を加えられるなど身の危険を伴うような事態になる恐れもありますので、やはり弁護士のアドバイスをもらいつつ適切な対策を講じるのが安心でおすすめです。
誹謗中傷を行った人がとるべき行動
誹謗中傷は罪になるものです。自身の行動にもし不安があれば、弁護士に相談してください。弁護士が相手と交渉し示談になれば、罪に問われずに済む可能性があります。
まとめ
ネット上での誹謗中傷は、名誉棄損や侮辱罪、脅迫罪といった罪に問われることになります。被害者は犯人を刑事や民事で訴えることができます。ただ、法律の知識がない個人がすべて対応するのは非常に大変です。
もし、誹謗中傷による悩みがあるなら、ネットのトラブルに詳しい弁護士に相談してください。弁護士が適切に対処し、誹謗中傷による精神的な負担を取り除いてくれます。