デジタルタトゥーとは
はじめに、どうしてこのような言葉が生まれたのか、その意味から説明していきます。
デジタルタトゥーは、インターネットやSNS上への投稿、アップした画像が本人の意思によって消すのが難しく、永続的にネット上に残り続ける現象を指すネットスラングの1つです。
ネット上のデータやログは一旦記録されると完全に消去するのは困難で、さらに他人に拡散される可能性もあります。
そうした様子を、身体に入れるタトゥー(入れ墨)に例えて、一度入れてしまったタトゥーがそう簡単には消せない様子からデジタルタトゥーといわれています。
デジタルタトゥーとして残る情報
デジタルタトゥーに分類される情報には次のようなものがあります。
住所や氏名、個人の写真はもちろん、ネットの閲覧履歴や検索履歴、動画の視聴履歴も含まれます。
名誉毀損などに該当する書き込みやデマ、悪意・フェイクのある情報、画像、動画などです。ネット上では匿名で書き込みができるため、こうした投稿が起こりやすいといえます。
しかし、投稿が拡散されると、本人の意思に反して広まっていき、取り返しがつかなくなるおそれがあります。
いわゆるバイトテロといわれるもので、友達とふざけている動画や写真なども不用意にアップしてしまうと、拡散されて消せなくなるかもしれません。
結果、炎上してしまい、バイトをクビになったり、学生であれば学校でも処分を受けたりと社会生活に重大な影響を与えるおそれがあります。
元交際相手や配偶者の裸など性的な画像・動画を相手の許可なくネット上に公開することです。たいていは相手と別れたことや交際を拒否されたなどの復讐のために行われ、復讐ポルノとも呼ばれます。
最近では、多くのスマートフォンで自分の位置情報から目的地までの地図などを調べられるようになっています。
しかし、こうした情報が悪用されれば、自分が今どこにいるのか他人に知られることになりますし、もし自宅の位置情報が流出すれば、住所も特定されてしまいます。
過去に犯した犯罪や逮捕、刑務所へ収監された事実などは他人に知られれば、就職差別を受けたり、日常生活にも影響が出るおそれがあります。
簡単には消せないデジタルタトゥー
デジタルタトゥーの恐ろしいところは、どこか1つの掲示板やSNSでした何気ない投稿がいくつものサイトにコピーされてしまう可能性があるところです。
自分では友達など一部の人に限ってだけ見せるつもりだったものでも、思わぬところで拡散する恐れがあります。すべてを把握できるとも限りませんし、一度デジタルタトゥーとなってしまった投稿は簡単には消せなくなります。
デジタルタトゥーの事例や弊害
もしネット上にこうした情報が残れば、現在の生活や仕事に支障が出るだけでなく、将来にわたって影響をおよぼす恐れもあります。ここからは、実際の事例や弊害について紹介します。
バイトテロの動画投稿
SNSの普及とともに、不用意な投稿によってネット上で炎上する事例がみられるようになりましたが、そのなかでも、社会への影響が大きく、注目を集めたのがアルバイトによる、いわゆる「バイトテロ」といわれる悪ふざけでしょう。
バイト中の仲間内での悪ふざけを投稿するバイトテロ動画は、Twitterへの投稿が多かったことから「バカッター」と呼ばれました。最近ではInstagramを利用した「バカスタグラム」といわれるバイトテロも登場しています。
2019年に回転寿司チェーンくら寿司でゴミ箱に捨てた切り身をまな板に乗せるバイトテロ動画が投稿されました。この動画は高校生や専門学校生のアルバイトらが撮影したものでした。仲間内で楽しむつもりであったといいますが、Instagramに投稿したことから拡散してしまいます。
知り合いに注意されたため投稿から3時間後に削除しましたが、炎上を止めることはできませんでした。店舗へは抗議の電話が1300件も寄せられたといわれ、事態を重く見たくら寿司は彼らを退職処分にし、さらに偽計業務妨害で書類送検されることになりました。
この事例は現在でもネットの記事として閲覧でき、そこには、動画の一部を写真に撮ったものが掲載されています。動画自体はとっくに消されていますが、彼らの行為は今もまだネットに残り続けているといえます。
リベンジポルノでの画像流出
リベンジポルノの恐ろしさは、知らないうちに自分の画像がネット上に出回り、デジタルタトゥーになっているケースがあることです。
リベンジポルノで全国初の逮捕例となった2015年の事件では、加害者の男性がトラブルになった女性の裸の写真をLINEのグループに投稿。写真が投降されたとき、女性はすでにグループを抜けていたため、知人に教えられるまでリベンジポルノに気づきませんでした。
痴漢冤罪事件
デジタルタゥーのなかでその後の生活にも影響を与える可能性が大きいのが、冤罪による犯罪歴や逮捕歴です。
なかでも、痴漢冤罪は誰にでも起こりうる可能性がある上に、職場にいられなくなったり、家族との関係が悪くなったりと、人生そのものを変えてしまうこともあります。
痴漢事件で実名報道されるケースもありますが、反対に冤罪だと判明したときには大きく報道されることはありませんし、報道すらされないこともあるでしょう。そのため、多くの人には誤解を与えたままになる可能性があります。そして、逮捕されたときの報道はニュースサイトなどで長くウェブ上に残り続けます。
デジタルタトゥーの弊害
デジタルタトゥーによる弊害には、
- 家族や親しい人に迷惑がかかる。
- アルバイトをクビになる。
- 就職や交際や結婚の際に影響が出る。
- 賃貸物件の審査の面で不利益を受ける。
など、いろいろなものが考えられます。
なにより、この弊害は一時的なものではなく、時間が経ってからもまた別の弊害が現れる可能性があります。
デジタルタトゥーを削除する方法はある?
デジタルタトゥーがネット上に残ると、さまざまな弊害が起きる可能性があります。
それを防ぐため、こうした情報を削除することはできるのでしょうか。入れ墨に例えられるデジタルタトゥーを削除するのは簡単ではありませんが、手段がないわけではありません。
続いては、デジタルタトゥーを消去する方法を説明します。
投稿者に連絡して削除してもらう
投稿した相手のアカウントや連絡先がわかるのであれば、相手にDMを送ったり、コンタクトをとって削除してもらう方法があります。
ただ、相手が素直に削除に応じてくれるとは限りませんし、Twitterのようにツイートが複数のアカウントによって拡散している場合は、そのすべてに連絡をとるのは簡単ではありません。
サイト管理者に削除を要請する
掲示板サイトなどの場合は、サイトを管理者や運営企業に連絡して削除を依頼できます。削除依頼フォームが設けられている場合もありますし、サイト上に運営のメールアドレスなどが載っていればそこに連絡します。
自分だけで解決できないケースは弁護士に相談を
デジタルタトゥーを削除する方法は存在しないわけではありませんが、いずれも難しく不確実といえます。そのため、削除に失敗する可能性も高いと考えられます。
もし、自分だけではどうにもならないと感じた場合には、弁護士など法律の専門家に相談してみてください。弁護士であれば、削除に関する適切なアドバイスをもらうことができますし、法的手続きをとる場合にも力を貸してもらえます。
投稿の削除に関しては、裁判所への削除仮処分の申立など法的手続きにより削除を行う方法もあります。削除仮処分は、手続きが複雑なため個人でやるのは難しく、弁護士などに相談しながら進めるのが普通です。
また、リベンジポルノのように、他人の投稿によってデジタルタトゥーの被害に遭ったときには、加害者に損害賠償・慰謝料を求める訴訟を起こすこともできます。
弁護士に削除を依頼する場合の費用
弁護士に依頼した場合の費用の相場や削除にかかる期間の目安は以下のようになります。
弁護士に被害の内容を相談し、今後の対応についてアドバイスをもらうための費用です。
1回の相談時間は30分から1時間ごとの事務所が多く、初回相談無料のところもありますので、事前に調べてみてください。
弁護士に仮処分による削除を依頼するとき、はじめに支払う必要です。
裁判所に仮処分を求める際に必要となる、手数料の収入印紙代や相手への書類送達にかかる費用です。
印紙代が2000円程度、切手代が1000円程度とそれほど高いものではありません。
裁判所に仮処分を求める際、もし訴えが不当なものであった場合に相手が不利益を蒙ることのないよう、法務局に担保金を供託します。
金額はそれぞれのケースで異なり、請求が認められれば後で返還してもらえます。ですが、一時的とはいえ、担保として10万以上のお金が必要になると思っておいてください。
仮処分の申立が認められ、削除に成功したとき、報酬として弁護士に支払う費用です。
トータルでは多ければ100万程度の費用が発生する計算になります。ただ、これはあくまでも目安です。それぞれの費用を最大で計算した場合のため、実際の金額は依頼内容や弁護士事務所によって変わります。
特に、成功報酬および着手金は事務所によって大きく変動する部分で、着手金は高くても成功報酬が安い事務所や、逆に着手金0円で成功したときだけ報酬が必要になる事務所などさまざまです。
削除にかかる期間
削除仮処分を求める場合にかかる期間は1~2か月です。仮処分は民事保全法に基づいて実施される暫定的な措置で、通常の裁判よりも早く結果が出るのが特徴です。しかし、法的手続きを用いると、削除までに1か月程度は必要になると考えておきましょう。
依頼する際は、ネットでのトラブルや削除請求、誹謗中傷問題などに強みのある弁護士や弁護士事務所を選ぶことをおすすめします。
デジタルタトゥーを含めたネットトラブルでは、相手の身元を特定する発信者情報開示請求のようにインターネット特有の手続きがあります。そのため、法律知識だけでなく、こうした問題に関する専門的な知識やノウハウをもった弁護士が必要とされます。
ネットトラブルに強い弁護士であれば、投稿の削除だけでなく、加害者への訴訟など、その後の対応に関しても心強い味方になってくれます。デジタルタトゥーの削除でお悩みの方は、一度、弁護士など法律の専門家へ相談してみることをおすすめします。
デジタルタトゥーの被害に遭わないためにできること
デジタルタトゥーは起こってしまった後で削除するのは非常に難しく、普段から被害に遭わないように心がける必要があります。デジタルタトゥーの被害に遭わないためにできることをまとめました。
ネット上での発言や投稿は慎重に行う
インターネットやSNSでの発言、写真や動画の投稿は常に慎重に行うようにしましょう。一度、問題のある投稿をしてしまうと、すぐに消したとしても、誰かがすでにコピーしたり、スクリーンショットを撮っている可能性があります。
Twitterのようにリツイートで簡単に発言が広まってしまうメディアもありますし、炎上などが起きてしまうと手のつけようがなくなります。
人を傷つける行為をしない
誰かの悪口を言ったり、他人を誹謗中傷するような発言、画像を投稿するのはやめるようにしましょう。匿名での投稿が可能なネット上では、普段よりも攻撃的になってしまう人もいるため、注意が必要です。
個人情報の開示に注意する
個人情報をネット上で不用意に投稿しないようにしましょう。本名や住所はもちろんですが、写真や動画などもネットに上げる際には個人を特定できるものが映っていないかチェックしたほうがいいでしょう。
SNSで位置情報サービスを許可して投稿すると、住所などが分かってしまう可能性があるのでオフにしておくことをおすすめします。また、信頼できるサイトであるかを確かめ、セキュリティに不安があるところへの投稿は控えるようにします。
性的な写真の撮影には応じない
リベンジポルノの被害を防ぐため、恋人や配偶者であっても、性的な写真や動画の撮影を求められた場合には断るようにしましょう。
また、恋人や友達からそういった写真を送ってほしいといわれても応じないようにします。今はよくても、将来、仲が悪くなったときや別れたり、離婚したときに、悪用される恐れがあります。
出してもいい情報のルールを決めておく
どこまでの情報をネット上に出していいか、自分なりのルールを決めておきましょう。ルールに当てはめてOKなものだけ投稿することで、不用意な発言や画像で炎上する危険性を減らせます。
危険な内容は最初から投稿しないと決めておけば、軽い気持ちでの投稿が思わぬ結果を生んでしまった、という事態を防ぐことができます。
ネットから離れる時間をもつ
ネットから距離をおき、ネット以外の世界を広げていくのも有効な方法です。ネットにかかわる時間を減らすことで、失言や悪ふざけなど、デジタルタトゥーになる投稿をしてしまう機会も減ります。
ネット以外に広い視野をもつことで、自分の投稿が社会常識に照らして問題のないものか冷静に判断できるようになるでしょう。
まとめ
デジタルタトゥーは一度拡散されてしまうと、簡単には削除できず、現在の生活や将来にも影響を及ぼす可能性があります。
被害を受けないようにするためには、普段から炎上しそうな発言や動画などの投稿を控えるようにし、デジタルタトゥーを生まないことが大切です。
しかし、もし、過去の投稿がデジタルタトゥーになり、削除できなくて困っているという方は、削除を求める法的手続きなどもありますので、一度、弁護士など法律の専門家に相談するようにして力を借りるようにしてみてください。