名誉毀損とは
名誉毀損罪とは、刑法230条に定められている犯罪で、リアルでの発言やネット上の書き込みによって他人の名誉を傷つけた場合に適用されます。
名誉毀損の成立要件
名誉毀損には要件があり、公然と事実を摘示して他人の社会的評価を低下させた場合に成立し、個人だけでなく企業など法人に対しても適用されます。
公然性が求められるため、周囲に人がいるときに悪口を言われたり、ネットやSNSでも不特定多数の目に入る書き込みの場合に適用されますが、逆に個室での1対1での会話であったり、相手へ直接メッセージを送った場合には、成立する可能性は低いといえます。
また、名誉毀損の成立要件における事実とは、実際にあったことではなく、何らかの具体的な事柄を指しており、事実の内容は本当か嘘かに関係なく相手の名誉を傷つければ罪になります。
また、名誉毀損が成立するには、「●●は過去に犯罪を犯したことがある」「●●は上司と不倫している」「●●の店で料理を注文したら腐っていて食中毒を起こした」などのように、具体的な事実を提示する必要があります。
名誉毀損になるとどんな責任を問われるのか
名誉毀損が成立すると、加害者は刑事上・民事上の2種類の責任を問われます。
刑事上の責任は、警察が捜査を行い、裁判で有罪になった場合に受ける罰則で、名誉毀損の場合には刑法に、3年以下の懲役または禁錮もしくは50万円以下の罰金と定められています。
加害者は捜査時に警察に逮捕される可能性もありますし、有罪になれば当然、前科がつくことになります。
また、これとは別に被害者の訴えによる民事裁判でも、加害者は不法行為に対する損害賠償・慰謝料を支払う必要性が生じます。
民事での慰謝料は刑事裁判の罰金とは別に払う必要があり、名誉毀損では個人の場合、10万~50万円、個人事業主や会社などの場合は、50万~100万円が相場ですが、内容が悪質と判断されればこれ以上の金額が言い渡されることもあります。
名誉毀損には時効がある?
刑事および民事で名誉毀損の加害者を訴える場合に気をつけないといけないのが、それぞれの訴えには期限が設けられていることです。
まず、刑事の場合、警察に犯罪の捜査を依頼する告訴の段階で時間制限があります。告訴には告訴期間が決められていて、名誉毀損の場合は、これが犯人を知った日から『6カ月以内』と定められています。
さらに、公訴時効と呼ばれる加害者を起訴することのできる期間にも時効があります。名誉毀損の公訴期間は「3年」となっているため、3年以内に加害者を起訴できないと罪に問うことができなくなります。
ほかに、民事でも時効があり、損害賠償を請求できるのは損害および加害者を知ったときから3年以内で、被害に遭ってから20年が経つと損害賠償請求権がなくなります。
名誉毀損で刑事告訴するには
それでは、ネットやリアルで実際に名誉毀損の被害に遭ったとき、加害者を刑事告訴するにはどうすればいいのか、刑事告訴の流れを解説していきます。
1、告訴状の提出
名誉毀損は親告罪といわれる犯罪に分類されるため、被害者からの訴えがない限り、警察が捜査に動くことはありません。
そのため、加害者を刑事告訴するには必ず被害者から行動を起こす必要があり、具体的には警察に告訴状を提出します。
犯罪の被害者が捜査機関に対して犯罪の事実を申告して、犯人を捜査・処罰してくれるように求めることを告訴といい、このとき、捜査機関に提出する書面が告訴状です。
告訴状には、告訴の趣旨や告訴の理由となる犯罪の内容、被告訴人(加害者)の氏名や住所、証拠などを記載する必要があります。
告訴状とよく似た書面に被害届がありますが、こちらは犯罪の被害に遭ったことを警察に申告するものです。
被疑者不詳のままで作成される場合もあり、提出自体は告訴状よりも簡単ですが、その分、事件の捜査や加害者への処罰を求める意思表示は含まれず、警察も必ずしも捜査を行う必要はありません。
名誉毀損を含め、多くの事件ではまず警察に相談に行き、被害届を提出する場合が多いです。
しかし、被害届は捜査の発端になることもありますが、捜査義務まではないので、必ずしも捜査が行われるとは限りません。ですから、刑事告訴の際には告訴状を出すことが望ましいのですが、警察は簡単には告訴状を受理してくれない傾向があります。
これには、警察が抱える事件の件数が多いことや告訴状を受け取ると必ず捜査しなければならないので扱いに慎重になるといった理由が考えられます。特に告訴内容が曖昧なものや犯人不明のものだと受理される可能性は低くなります。
2、警察の捜査と逮捕
告訴状が受理されると、刑事訴訟法242条により、警察は事件の捜査に着手し、事件資料や証拠などを検察に送る必要があります。
捜査の結果、書類送検になる場合もありますが、逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断された場合は、加害者が逮捕されることになります。
名誉毀損でも悪質なケースでは実際に加害者が逮捕された事例もあります。逮捕された加害者は48時間以内に検察へと身柄を送致され、検察官が必要と判断すれば裁判所に勾留請求が出されて引き続き警察の留置所で身柄を拘束されます。
3、起訴・不起訴の決定
勾留が満期になった後、警察での取り調べをもとに検察官が加害者を起訴するかどうか判断します。
もしこのとき、加害者が被害者側と和解して告訴が取り消されていた場合、親告罪では、告訴が取り消されると検察が起訴することはできないため、必ず不起訴になります。
そうでない場合で、起訴するに足る十分な証拠があると判断された場合は、加害者が起訴され、刑事裁判が実施されます。最終的に判決が下され、有罪が確定すれば、加害者は懲役や罰金といった刑罰を受けることになります。
ただし、略式起訴であっても起訴されることには変わらないため、通常の起訴と同様、加害者には前科がつきます。
手続きは弁護士と相談しながら進めよう
ここまで見てきたように、刑事告訴の場合、民事裁判などと違って、告訴してからは警察が捜査を行い、検察が起訴するため、被害者にできることはあまりありません。
一番大変なのは、告訴状を受理してもらい、警察に捜査を開始してもらうまでといえます。
告訴状を受理してもらうには、事件の内容をなるべく具体的に記述する必要がありますし、加害者が誰かもはっきりさせなければなりません。
自分一人ではなかなか受理してもらえる告訴状を作成するのは大変ですし、インターネット上で匿名の相手から誹謗中傷の被害に遭ったケースでは、加害者の個人情報を知るために発信者情報開示請求といった特別な手続きも必要になります。
そこで、もし名誉毀損の被害に遭い、加害者を刑事告訴したいときには、弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、警察に受理してもらえる告訴状を作成することができますし、刑事告訴が難しいと思われる場合には、民事での損害賠償請求や加害者との示談など様々な相談に乗ってもらうことも可能です。
名誉毀損で刑事告訴したら加害者はどうなる?
名誉毀損で相手を刑事告訴した場合、加害者はどんな末路を辿るのでしょうか。
告訴を行うと警察による捜査がはじまり、
- 加害者が逮捕される。
- 刑事裁判で有罪になる。
- 罰金や懲役などの刑罰を受ける。
といった結果になることが考えられます。
さらに、加害者には前科がつくことになりますし、逮捕や有罪判決を受けた事実は家庭や学校、職場など、その後の社会生活にも影響を与えるかもしれません。
それでは実際に、名誉毀損で刑事告訴された人たちがどうなったのか、いくつかの事例をみていきたいと思います。
飲食店での虚偽の異物混入をSNS投稿した事例→逮捕
2016年、大手回天寿司チェーンで寿司の中に異物が混入していたという虚偽の内容がSNSにアップされた事例です。
加害者の男性は、寿司の中に赤いガラス片のようなものが入っていて、口の中が切れたと主張していました。男性から話を聞いたという家族が写真つきで行った投稿はSNS内でも拡散していました。
ですが、店側の調査では厨房内で該当するガラス製器具は使用されておらず、客席の置かれている醤油さしにも破損はありませんでした。警察や保健所の調査でも、混入が疑われる証拠は見つかっていません。
店側は、投稿は虚偽であり、法的措置も検討するといった内容の発表を行い、警察は男性を名誉毀損の疑いで逮捕しています。
SNSへの軽い気持ちの書き込みでも、名誉毀損に該当すれば、このように警察による逮捕に結びつく可能性があります。
女性研修医による病院トイレへの中傷ビラ貼り付け事件→出演予定のテレビ番組が放送中止に
2017年、ある研修医の女性が知人男性を中傷するビラを大阪市内にある病院のトイレに貼ってまわった事件です。ビラには男性のことを「最低最悪の人間です。存在価値がありません」などと書かれていました。
病院関係者からこのことを聞かされた男性は警察に被害届を提出し、女性研修医は名誉毀損の疑いで逮捕されています。
後に示談が成立したため不起訴になっていますが、女性研修医は医療系のテレビ番組に出演予定で、すでに収録は終わっていたものの、番組は急遽、再放送に差し替えられることになりました。
このケースでは、自分自身が名誉毀損の罪に問われただけでなく、番組の放送中止によってテレビ出演の機会がキャンセルされ、大勢の人に迷惑をかけることになりました。
飲食店への誹謗中傷を行った市議の事例→罰金、議員辞職
2017年5月、石川県加賀市議の乾浩人氏がインターネットの匿名コミュニティサイトで、知り合いの男性が経営する飲食店に対して複数回にわたり「ゴキブリ入りの料理」など誹謗中傷の書き込みを行った事件です。
店から相談を受けた石川県警は書類送検を行い、乾氏には名誉毀損罪で罰金30万円の着式命令が出されました。
乾氏は命令後も議員を続けようとしたものの、市議会は「市民を誹謗中傷したことは断じて許されるものではない」として乾氏への辞職勧告決議案を可決し、委員会や本会議への出席を拒否する方針を決めます。これを受けて、乾氏は市議会に辞職願を提出し、議員辞職することとなりました。
名誉毀損で刑事告訴するのに必要な費用
最後に、実際に誹謗中傷の加害者を名誉毀損として刑事告訴する場合、どれくらいの費用がかかるかを説明していきます。
多くの人は専門の法律知識をもたないため、告訴する場合は弁護士など法律の専門家に依頼することになるでしょう。ですから、ここでは弁護士にまかせる場合の費用の相場をみていきます。
相談料 1時間5000~10000円
依頼の際はいきなり加害者を告訴するのではなく、自分がどのような被害に遭ったのか弁護士に相談することからはじめるのが普通です。
相談料は1時間ごとに料金が決まっていて、10000円程度が相場です。事務所によっては初回相談無料のところもあるので、探してみると費用を抑えることができます。
着手金 50000円~
着手金は弁護士が実際に依頼に取り掛かる際に必要になる費用で、刑事告訴の場合は告訴状の作成費用になります。
着手金は50000円くらいからが相場になっていて、依頼内容によって金額が変動することがあります。加害者が複数いるなど複雑な依頼ならその分高額になります。
ほかに警察署まで弁護士に同伴してもらう場合や、弁護士名義での告訴状を作成してもらう場合には別途費用が必要になります。
成功報酬 50000円~
成功報酬は依頼が成功した場合に払う報酬で、この場合は告訴状が受理されたときに支払います。相場は50000円からですが、こちらも依頼が複雑な場合には金額が変わることがあります。
刑事告訴の費用総額 10万~20万円
以上の費用を合計した金額で、名誉毀損で加害者を刑事告訴する費用は10万~20万円が目安といえます。
このほか、民事で慰謝料請求を行う場合は、別途弁護士費用が必要になります。
弁護士にまかせるメリット
名誉毀損に対する刑事告訴を弁護士にまかせる一番のメリットは複雑な告訴の手続きをすべてまかせられるところです。
個人で被害届を出すことで警察が動いてくれることもありますし、実際にそうしたケースも多いですが、被害届だけでは警察に捜査してもらえるかどうかがわかりませんし、加害者の処罰を求めるなら、やはり告訴状を作成するのが確実といえます。
最近はネットで検索すれば告訴状の書き方も出てくるので、個人でも告訴状の作成は可能ですが、個人の告訴は弁護士に比較すると警察で受け取ってもらえる可能性が低く、そうしたケースはあまり多くありません。
さらに、加害者の名誉毀損で精神的なダメージを受けているところに、告訴状を作成したり警察に提出したりといった手続きを行うのは精神的に大きな負担になります。
弁護士に依頼することで面倒な手続きを自分でやる必要もなくなりますし、専門知識をもった弁護士が作成した告訴状であれば受理してもらいやすくなり、事件の早期解決にもつながります。
まとめ
名誉毀損は刑法に定められている犯罪の1つにあたり、被害に遭ったときには警察に訴えて、加害者を刑事告訴することが可能です。
警察が捜査に動けば、加害者が逮捕されたり、刑事裁判で有罪になり罰金や懲役などの判決を受けることもあります。
ただ、告訴状がなかなか受理されないなど問題が起きる可能性もあるため、告訴の際には、弁護士など法律の専門家に相談し、よく話し合った上で告訴状の作成などを行うのが望ましいといえます。
インターネットでの誹謗中傷やリアルで誰かに悪口を言われたなど、名誉毀損の被害に悩んでおられる方は、一度弁護士に相談してみるようにしてください。