名誉毀損の判例を確認し、名誉毀損の知識を深めよう

名誉毀損の判例を確認し、名誉毀損の知識を深めよう

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最近では、ネットやSNSを中心に誹謗中傷名誉毀損問題への関心が高まっています。では、実際にこうした罪に当てはまると判断されるのは、どういったケースがあるのでしょうか。

過去に職場やネットで起きた名誉毀損事件の判例を見ながら確認していきましょう。

名誉毀損の判例を確認しよう

実際に過去に起きた名誉毀損の判例を紹介していきます。1つの1つの事例は職場であったり、ネットの書き込みが原因であったりと、私たちの日常生活においても起きる可能性があるものばかりです。

これらの事例を確認して、どのような行為が名誉毀損になるのかを学んでいきましょう。

事例1:職場内のメールが名誉毀損と判断された事件

2005年4月20日に東京高裁で出た判例で、ある保険会社のサービスセンターで起きた部下を叱咤するメールのやり取りが名誉毀損と判断された事例です。

センター所長のAさんは、部下である、エリア総合職で課長代理のBさんの仕事ぶりに以前から不満をもっていました。Bさんの案件処理状況は、他の社員と比べても明らかに劣るものと思えため、AさんはBさんを叱咤する目的で以下のようなメールを送ります。

そのとき、このメールがBさんだけでなく、職場の同僚ら十数人にも同時に送信されていました。

さらに、メールには、

「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SC(※作成者注:サービスセンター)にとっても、会社にとっても損失そのものです。」、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい。」

といったBさんに対して侮辱的な表現が含まれていたり、退職勧告ととれるような内容が含まれていたりしたことが問題になり、Bさんは名誉毀損およびパワハラとしてAさんを不法行為で訴えました。

 裁判の結果、パワハラは認められなかったものの、名誉毀損は認められ、Aさんに対して5万円の損害賠償支払いが命じられています。

この事例では、メールを他の社員にも送信したことにより、名誉棄損が成立したといえます。

名誉毀損には条件の1つに「公然性」といわれるものがあり、例え悪口であっても、多くの人が見たり聞いたりできる状態でなければ成立しないとされているため、Bさんとの1対1でのやりとりであれば、結論も変わっていた可能性があります。

慰謝料は少額ですが、職場におけるメールのやり取りでも名誉毀損と判断されるケースがある点は普段から注意する必要があるといえるでしょう。

事例2:SNSでの同級生に対する誹謗中傷の事例

兵庫県神戸市内の大学生が高校のとき同級生だった男性になりすまし、Twitter上で卑猥な内容の投稿をした事件です。

Twitterのアカウントを共同で管理していたAさんとBさんは、大学在籍時に、高校時代の同級生だったCさんに対して、性的な卑猥な内容や薬物依存症をイメージさせるような内容をCさんの写真つきで何度も投稿しました。

一部は96万人ものフォロワーがいるアカウントに対して返信するかたちで投稿されたため、大勢のユーザーの目に触れる状態になっていました。

 2019年、Cさんはなりすまし投稿で名誉毀損の被害を受けたとして2人を訴え、2021年5月、AさんとBさんに対して慰謝料合計55万円の支払いを命じる判決が出されました。

裁判では、2人の投稿は、Cさんが公の場で卑猥な発言をする人間のようなイメージができ、社会的な信用を低下させるもので名誉を貶めるものだったという趣旨の判断がされています。

問題のTwitterアカウントは2人で管理していたもので、投稿者の一方は自分は関係ないと主張しましたが、判決では、この投稿者について、投稿内容を知りながら削除せず放置したと認定され、損害賠償は2人で支払うことになっています。

この事例は、他人名義のアカウント作成した場合、その他人になりすまして投稿した場合には罪に問われる可能性があることも示しており、アカウントを作った以上は適切に管理する必要があるといえます。

POINT
最近では、学生の間でもスマホをもつのが当たり前になり、SNSに触れる機会も多くなっていますが、そのぶん、こうした同級生への書き込みが原因で名誉毀損に問われるケースも増えています。

事例3:ラーメン店に対するSNSでの名誉毀損事件

加害者が福島県郡山市で人気のラーメン店に対して、SNSやインターネットで事実無根の書き込みを行い、店の評判を害したとして名誉毀損と判断された事例です。

この店は、地鶏を使った自家製スープが自慢だったのですが、ある時、もともと客の1人だったAさんからSNS上で誹謗中傷の書き込みを繰り返されるようになりました。

書き込みの被害は1年以上にわたって続き、店の評判や信用を傷つけられたと考えた店主のBさんは、2019年7月、110万円の損害賠償を請求する裁判を起こします。

AさんはSNSやグルメサイトなどに店の口コミを投稿しており、最初はBさんの店にも好意的な投稿をしていました。しかし、BさんがAさんのアドバイスに従わなかったことから、関係が悪化。

Aさんはネット上に、

「アホなラーメン専門店、反社会勢力を使うのではなく、当たり前のように業務用スープを使っていたからだ、犯罪に手を貸したのも明白になってるのに?」、「作ってるのに店に匂いがしないのなど、作ってない証拠だ。(中略)いい加減、虚偽するのは止めたらどうか」、「作ってもいないのに、一から作っているような虚偽を公表し、犯罪まで犯し、謝罪もなにも無しに営業している最低のラーメン屋」

など、店に対して、事実とは全く異なる内容の攻撃的な書き込みを投稿するようになります。

Aさんのフェイスブックのコメントには「先日、教えて頂いてから行くのを止めました」というものもあり、常連客が来なくなったこともあったりと店の客離れにもつながっていました。

 2020年7月の判決では、Aさんの名誉毀損を認め、Bさんに対して損害賠償11万円の支払いを命じています。

請求額に対して実際の賠償額がかなり低く思えますが、これはAさん個人の発信力が限られており社会的影響力も低かった点が考慮されたためです。もしAさんが有名人であったり、フォロワー数が多ければ慰謝料も上がった可能性があります。

Bさんは裁判ではなく、直接Aさんに書き込みを止めてもらうよう頼もうかとも考えたそうです。しかし、そんなことをすれば「ラーメン屋が謝りに来た。やっぱり業務用スープを使っていたんだ」といった書き込みを投稿されると思い、訴訟という手段をとったといいます。

このように、名誉毀損では、相手に反省を促したり、当事者間での話し合いにより解決するのが非常に難しくなっており、法的手段に訴えなければならないケースもあります。

最近では、飲食店の口コミをネットに投稿される方も増えていると思いますが、あまりに行き過ぎた投稿は、名誉毀損として損害賠償の対象になります。

事例4:あおり運転デマ投稿の事例

近年では事例3のようにネット上での商店や企業に対する誹謗中傷事件も増えており、このケースもその1つです。

2017年10月に起きた東名高速道でのあおり運転事件に関連して、全く無関係の建設会社を、まるで加害者の勤務先であるかのようなデマの書き込みを行った事件です。

 投稿者は書類送検され、2021年5月、福岡高裁で30万円の罰金支払いが命じられました。

この事例では、掲示板に犯人の親が建設会社を経営しているのでは、という書き込みがあった直後に、「これ違うかな?」といって全く関係のない会社のURLを投稿していました。

投稿者自身にも確信があったわけではないため、裁判で弁護側は確認をとるための投稿だったとして無罪を主張しましたが認められませんでした。

POINT
最近では、事件の加害者や関係者の個人情報などがネットに書き込まれるケースが増えていますが、そうした投稿では、加害者が本当のことだと信じている信じていないに関わらず、相手の名誉を傷つける内容であれば名誉毀損が成立する可能性があります。

事例5:女性研修医によるトイレへの中傷ビラ貼り付け事件

2017年5月、奈良県内の公立病院に勤務する女性研修医Aさんが大阪市内の病院トイレに知人の男性Bさんを実名で誹謗中傷する内容のビラを貼って回った事件す。

これまではSNSやネットにおける事例を中心にみてきましたが、もちろん、こうしたリアルでの行為も対象になり、大勢の前で悪口を言ったり、この事例のように中傷ビラを撒く行為は公然性があるとみなされます。

この事例では、
「Bは最低最悪の人間です。存在価値がありません」
と書かれたビラが複数のトイレに貼られ、病院関係者からの連絡でそれを知ったBさんは警察に相談し、被害届を提出しました。

警察による捜査の結果、防犯カメラの映像などからAさんが特定され、2017年6月に名誉毀損の容疑で逮捕されています。

 この事例では、後に示談が成立したため、Aさんは不起訴になりましたが、名誉毀損であっても、場合によっては警察に逮捕されてしまうケースもあることがわかります。

名誉毀損が認められるかどうかの判断

上記の実例をもとに、実際に名誉毀損が認められるかどうかの判断では何が焦点になるのかを解説します。

まず、名誉毀損の罪名通り、発言や書き込みによって相手の名誉を傷つけていることが最初の条件です。悪口や店舗の口コミ、デマなど形を問わず、相手の社会的な評価を下げ、誹謗中傷する内容であれば当てはまります。

さらに他にも、誹謗中傷が大勢の人の目に触れたり、聞かれたりする状態にあったかどうか(公然性があるかどうか)、という点もあります。

自分と相手にしか見えない、聞こえない状況であれば名誉毀損にはなりません。

ただ、事例1のように、本来はプライベートなやり取りにあたるメールでも、職場の全員に送信した場合には公然性が認められます。

また、誹謗中傷の内容である事実が真実か嘘かに関わりなく成立するため、デマの書き込みや書き込んだ本人が本当かどうかわかっていない場合でも罪になります。

紹介した事例以外にも名誉毀損にあたる場合はある?

今回は、名誉毀損の代表的な事例や身近に起こりそうな事例を紹介してきました。

名誉毀損は個々の事例により基準も異なり、普通の人には判断が難しい場合もあるため、過去に被害を受けたことがあるかもしれないとお考えの方は、一度、法律の専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。

ネットやSNSでの誹謗中傷問題は、一定の期間を過ぎると通信記録が削除されて犯人の特定が難しくなるため、訴訟を考えている場合はなるべく早い段階で相談するようにしてください。

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