発信者情報開示請求を受け請求者に訴訟を提起されても、棄却された判例はあります。

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発信者情報開示請求が棄却される要件
発信者情報開示請求はネットでの投稿に関するトラブル解決では高い頻度で利用される制度で、プロバイダ責任制限法で定められています。ただ、すべて開示されるわけではなく開示が棄却されるケースはあります。
発信者情報開示請求は掲示板やSNSといったインターネット上で誹謗中傷や権利を侵害した加害者を特定し法的措置をとるため、NTTなどの通信事業者やサイトを運営するプロバイダに投稿者の個人情報を開示してもらう制度です。請求が認められると発信者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスといった個人情報が第三者に知られてしまうため、個人情報保護の観点から開示には厳格な要件が定められています。
請求が認められるために必要な要件の中で、主に重要な要件は以下の2つです。
- 請求者の権利が侵害されたことが明らかであること。
- 損害賠償請求のため等、情報開示を受ける正当な理由があること。

権利侵害が侵害されたことが明らかであること
発信者情報開示請求が認められるには、請求者の権利が侵害されたことを明らかにする必要があります。
権利侵害の例としては、
- 名誉を傷つける書き込みをされた
- 侮辱的な内容の投稿を受けた
- プライバシーに関わることを投稿された
など、上記のようなケースが挙げられます。
発信者情報開示請求で特に多いのは、相手の投稿によって名誉を傷つけられたとする名誉権侵害です。
ただ、「社会的評価が低下するおそれがある」「事実の摘示が存在した」といった判例の中で作られてきた要件を満たしていないと、一般的に権利の侵害なしと判断されます。
そして、著作権や肖像権、商標権などの侵害も該当します。インターネットに誰かの顔写真や、本の文面や画像を無断で掲載したりするのは、利権侵害に当たるので注意してください。
開示を必要とする正当な理由があること
開示請求者は、発信者情報を取得する合理的な必要性を有していなければなりません。
請求者の多くは損害賠償などの法的措置を視野に入れています。裁判手続きのためという理由を有するため、この要件が満たされていないとして請求が棄却される可能性は低いでしょう。

発信者開示情報請求が棄却された裁判事例
発信者情報開示請求の棄却はあり得ることであり、実際にあった3つの判例を紹介しますので確認してください。
権利侵害が認められなかった大手回転寿司チェーンによるプロバイダへの開示請求
大手回転寿司チェーンがネット掲示板に化学調味料、人工甘味料、合成着色料、人工保存料といった添加物不使用の表記が「イカサマくさい」という投稿が誹謗中傷に相当するとして、プロバイダに情報開示を求める訴訟を起こしました。
回転寿司チェーン側は、書き込みにより社会的評価が低下し株価に影響が出たと主張しました。
しかし、東京地裁は判決でいずれの投稿も意見・論評の枠を超えてはおらず、社会的評価を低下させたとまではいえない。そのため、名誉を侵害するものではなかったと請求を棄却しました。
正当な理由が否認された大手ネット掲示板の投稿に対する開示請求
大手ネット掲示板の書き込みで名誉を傷つけられたと主張する人が、損害賠償請求を目的に情報開示請求の訴訟を起こしました。
本件は通常なら開示が認められてもおかしくないのですが、請求者側は自身のブログに「氏名や住所が分かり次第、探偵や興信所があなたの全てを調べます」「卑怯な小心者は表舞台に引きずり出して、晒し者にして差し上げます」「発信者の名前を公表する」などの内容を記載していました。
そのため、東京地裁は判決で請求者が開示された個人情報をみだりに利用し、相手の生活の平穏を脅かす可能性があるとして請求を棄却しています。
請求の一部が認められたストーカー事件に関するブログへの開示請求
請求者は以前に知人の女性に対しメールを送ったり、職場で待ち伏せたりするなどストーカー行為を行い、警察で取り調べを受けた上で今後は女性に近づかないとする上申書を提出していました。
しかし、ネット上にある複数のブログで「まだストーカー行為を続けている」「被害者を殺すかもしれない」といった内容の投稿があったため、請求者が発信者に対する訴えを起こしました。
この判決では「数ヶ月時間をおいて犯行を繰り返している」「いつか私を殺しにやって来そうな気がする」といった根拠のない投稿については開示請求を認める判決をしています。しかし、「請求者が警察の取り調べを受けている」という内容のブログは公益を図るためだったとして、開示請求を棄却しました。
発信者情報開示請求を棄却にするためやること
自身が発信者情報開示請求を受けたけれど、棄却してもらいたいときにできることを解説します。
要件を満たしていなければ棄却される
発信者開示情報請求は権利侵害があること、正当な理由という二つの要件を満たさないと判断されれば、訴訟になっても棄却される可能性はあります。
即座に投稿者の個人情報が請求者に見られてしまうわけではなく、発信者が何もしなくても棄却になる可能性は十分あるでしょう。
ただ、開示請求は投稿の内容で認められるかどうかが変わっています。裁判の判決も各ケースにより異なり、発信者の側から判断するのはとても難しいのが現状です。インターネットによる利権侵害に関する法律に詳しくないと、自身の個人情報開示請求が認められるのかの判断は難しいと言えます。

弁護士に相談する
発信者情報開示請求を受けた時に良い方法といえるのは、弁護士への相談です。
法律に詳しくなければ、請求を棄却するために具体的にどう行動するのが正しいのか分からないと思われます。間違った対応をしてしまうリスクも大きく、個人情報開示請求を受けた後どうすれば良いか、個人だけで検討し判断を下すのは避けたほうが良いでしょう。
また、情報開示の重要な要件である権利侵害を否定し棄却してもらうには、しっかり証拠を揃え法的な準備を行う必要があります。裁判所に投稿に違法性がないことを訴える書面を作成し提出するなどできることはありますが、法律の知識がない人が最善の対策をとるのは困難なのが現状です。
法律の知識が豊富な弁護士に依頼すれば、請求が棄却される可能性はあるのか、棄却されるためにはどうすればいいのかを教えてもらえます。

まとめ
発信者情報開示請求はプロバイダ責任制限法で定められていますが、権利侵害や正当な理由がないなど、条件次第では棄却されることがあります。
裁判でも棄却された判例はあり、すべてのケースで個人情報が開示されることはありません。
しかし、棄却されるのか自身で判断するのは難しいですし、請求者に訴訟を起こされる可能性はあります。発信者情報開示請求がなされ意見照会書が届いたり、請求者に訴訟を起こされそうといった悩みがあるなら、早い段階で弁護士に相談してください。法律に基づき最善な方法を模索してくれるため、依頼者の不安を取り除いてくれるでしょう。
費用の負担が気になりますが、無料相談サービスを行っている弁護士事務所は気軽に利用できます。とりあえず話だけでも聞いてもらうことも可能です。