インターネット上の誹謗中傷に対する民事責任と刑事責任とは?

インターネット上の誹謗中傷に対する民事責任と刑事責任とは?

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ネットで誹謗中傷に遭い、相手を訴えたいと思った場合、民事と刑事の双方から法的責任を問うことができます。

民事では損害賠償請求、刑事では警察の捜査や起訴を求めることが可能です。

この記事では、民事と刑事はどう違うのか、被害にあったらどうすればいいか解説します。

誹謗中傷で訴えたらどんな法的責任が問える?

ネット上の掲示板やSNSで誹謗中傷の被害に遭い、加害者を訴えた場合、法律上では民事責任刑事責任の2種類の責任を問うことができます。

まずはそれぞれどういった責任かを解説していきます。

民事責任

民法第709条を根拠に、民法上の不法行為に対して、相手が受けた損害を賠償する責任を負うことを「民事責任」といいます。

他人の権利や法律によって保護されるべき利益を害する行為を不法行為と呼び、故意か過失かに関わらず損害を与えた側は不法行為責任を負い、被害者に損害を賠償しなくてはなりません。

民事責任の内容には以下のようなものがあり、通常は損害賠償・慰謝料がほとんどですが、ネットでの誹謗中傷の場合には、その他に名誉回復措置が含まれる場合もあります。

損害賠償

不法行為により被害者が受けた損害の補償で、基本的には金銭で支払われます。

損害賠償を請求できるのは被害を受けた本人だけですが、被害者が死亡した場合には、父母や子ども、相続人が代わって請求できるようになります。

慰謝料

損害賠償のうち、精神的損害について請求するものを慰謝料といいます。

ネットでの誹謗中傷のように信用を傷つけられたときや、相手に生命や身体を危険にさらされたりした場合などは、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。

名誉回復措置

誹謗中傷問題では、たとえ賠償金を支払ってもらっても、傷つけられた評判がすぐに戻るわけではない場合もあります。そんなときに相手に請求できるのが、名誉回復措置です。

民法第723条では、他人の名誉を傷つけた者に対して、裁判所は加害者に名誉を回復する措置をとるよう命令を出すことができるとされています。

回復措置の内容は様々ですが、新聞や週刊誌などに間違った記事を書かれた場合の謝罪広告や企業がホームページに謝罪文を載せたりする例がよく知られています。

POINT
民法上の賠償責任は、被害者が受けた損害を補償することが目的であって、刑法のように相手に懲罰を与えるものではありません。
そのため、高額な慰謝料等を請求することもできますが、実際に判決で認められる損害賠償や慰謝料の金額は基本的に被害の規模に応じたものになります。

刑事責任

刑法やその他の法律で定められた犯罪に該当する行為をすると、逮捕されたり、刑罰に処せられます。こうした、刑事法上の責任を「刑事責任」といいます。

刑事責任の内容は、加害者の行為が刑法上、どのような犯罪にあたるかで変わってきます。

刑法の場合は、民法と違い、犯罪行為を取り締まり、犯人に懲罰を与えることが目的のため、有罪になると金銭の支払いだけでなく、刑務所に入ったり、強制的な労役に就くことになりますし、前科として経歴にも残ります。

ネットでの誹謗中傷の場合、適用される犯罪には主に以下のものがあります。

名誉毀損

他者の名誉を傷つける行為に対して適用される犯罪で、成立すれば3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金に処せられます。ネット上での誹謗中傷行為の大半は名誉毀損に該当すると考えられます。

名誉毀損にはいくつかの成立要件があり、

  1. 不特定多数が見聞きできる状況下での発言や書き込み。
  2. 何らかの事実を持ち出して相手の評判を低下させること。

なお、ここでいう事実は、内容が本当かどうかに関わらないため、嘘をついていないからといって犯罪にならないわけではありません。

侮辱罪

侮辱罪は名誉毀損と似ていますが、こちらは「バカ」「死ね」「きもい」のような単なる悪口に適用されます。つまり、名誉毀損と違って具体的な話題がなくても犯罪になる場合があるということです。

侮辱罪が成立すると、30日未満の短期の収監である拘留または1000円以上1万円未満の罰金である科料に処せられます。

業務妨害罪

嘘の情報や威力などを用いて相手の業務を妨害する犯罪で、ネットで嘘の情報を流して特定の商店や企業の営業を妨害した場合には、偽計業務妨害になる可能性がありますし、殺害予告や爆弾を仕掛けたなどの書き込みをした場合には威力業務妨害にあたる可能性があり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

信用毀損罪

謝った情報や嘘の情報を流して他人の信用をおとしめた場合に適用され、業務妨害罪と同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

過去に起こった誹謗中傷の民事事件・刑事事件の例

ここまで、誹謗中傷に対する民事・刑事での責任の内容について解説してきましたが、ここからは、過去に起きた事件で、実際に起こった誹謗中傷に関する民事事件・刑事事件の例をみていきたいと思います。

民事事件の例

最初に民事事件で損害賠償の支払いが認められた例を紹介していきます。

ラーメン店へのSNSでの誹謗中傷事例

2019年7月、福島県郡山市で人気のラーメン店が客の男性からSNSやインターネットで誹謗中傷を受けた事件で、店側は男性に対して110万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。

男性はもともと店の客だったのですが、店主が自分のアドバイスに従わなかったことを不満にもち、SNSやグルメサイトの口コミに「業務用スープを使っている」「反社会的勢力を使っている」など事実無根の投稿をするようになります。

加害者のフェイスブックのコメントにはこれをみて行くのをやめたという書き込みもあり、実際に店の客離れにもつながっていました。

2020年7月の判決では、加害者に損害賠償11万円の支払いが命じられています。

同僚の妻によるLINEグループでの事例

同じ会社に勤務する夫をもつ妻5人で構成されるLINEグループで、自分の夫の職場トラブルを根に持った1人が、ある妻の夫に対して「今年最大の変質者」「汚いことを平気でやる人物なのでみなさんお気をつけください」「皆口には出さなくても馬鹿にされてますよ。憐れですね」といった書き込みを行いました。

被害者からの訴えにより、裁判では慰謝料・弁護士費用を含めた33万円の支払いを命じています。

刑事事件の例

続いては刑事事件で罰金・科料の支払いが命じられた例を紹介します。

女子プロレスラー木村花さんの誹謗中傷の事例

2020年5月、女子プロレスラーの木村花さんがテレビ番組での発言をきっかけにネット上でバッシングを受け、SNS上で誹謗中傷の書き込みが相次いだことから自ら命を絶った事件です。

ネット上での誹謗中傷が社会的な注目を集める発端にもなりました。

 大阪府の男性が書類送検されましたが、略式起訴で科料9000円の支払いが命じられました。

誹謗中傷は結果的に人の命を奪ってしまうこともある行為ですが、刑法上は名誉毀損や侮辱罪など、それほど重い罪に該当しないため、罰則もかなり軽く感じられることがあります。

ただ、木村さんの事例では、民事でも訴訟が行われており、SNSで誹謗中傷投稿を行った長野県の男性に対して賠償金129万円の支払いが命じられています。

刑事事件のほうが重い罰を受けるようなイメージがありますが、軽い犯罪の場合には、民事の賠償金額のほうが上回るケースもあります。

東名高速あおり運転デマ投稿の事例

2017年6月に起きた東名高速道でのあおり運転事故に関連して、無関係の建設会社がまるで犯人の勤務先であるかのようなデマや個人情報をネット上に書き込んだとして、投稿者ら11人が書類送検されています。

 そのうちの1人には、名誉毀損で罰金30万円が言い渡されています。

加害者はネット上でのやり取りに加わり、「これ違うかな?」といって全く関係のない会社のURLを投稿しており、検索した内容を投稿しただけで名誉を毀損する意図はなかったと無罪を主張していましたが、裁判では認められませんでした。

このように、たとえ加害者が真実だと思っていなくても、投稿内容が相手の社会的信用を傷つけるものであれば、刑事上の責任を問われるケースもあります。

法的責任を問うためにしておくべき準備

ここからは、実際に誹謗中傷の被害者になったとき、投稿者の法的責任を追及するためにやるべき準備を解説していきます。

誹謗中傷を行った相手に対しては、民事または刑事での責任を問うことができますし、両方で訴えることも可能です。

民事・刑事による対応の違いとして、最終的に警察へ被害届を出すか、裁判所に訴訟を起こすかで、警察へ被害届を出すかという違いがありますが、証拠の保管など被害を受けてからすべき基本的な対応についてはどちらの場合でもほとんど変わりません。

証拠の保管

ネットで誹謗中傷の書き込みを見つけたとき、まずやるべきことは、問題の投稿を証拠に残すことです。掲示板やSNSの書き込みは比較的簡単に削除することができます。

もちろん、投稿を消したからといって、訴えが起こせなくなるわけではありませんが、不利になる可能性もあるため、明確な証拠を残しておきましょう。

書き込みをURL付きでプリントアウトするか、プリンターがない場合には、スクリーンショットやスマホのカメラなどで写真に収めておきましょう。

IPアドレス、タイムスタンプの調査

次に、サイトやSNSの管理者から、投稿をした人が投稿をしたときのIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらいます。

書き込みの削除を先に行ってしまうと、IPアドレスやタイムスタンプも削除されてしまう可能性があるので、気を付けてください。

ただ、サイトやSNSの管理者が任意に解除してくれない可能性があるので、裁判所に対して削除仮処分を申し立てることで開示させることが一般的です。

書き込みの削除依頼

次にやるのが問題の書き込みを削除することです。誹謗中傷の書き込みがネットに残っていると、いつまでも被害に遭い続けることになるため、そうならないよう、サイトやSNSの管理者に投稿の削除を求めます。

削除依頼はメールフォームや違反報告から比較的簡単にできることがほとんどですが、多くのサイトはユーザーの書き込みを無闇に消すのを嫌がる傾向にあるため、これだけで実際の削除に至るのは難しいと考えられます。

運営者がきちんと対応してくれないときは、裁判所に削除仮処分の申立を行います。仮処分は民事保全法に定められた手続きで、裁判に勝利したのと同様の処分を下してもらうことができ、通常の裁判より結果が出るまで早いのが特徴です。

あなたの主張が認められて裁判所から削除仮処分が言い渡されれば、おそらく今度は運営者も従うでしょうし、問題の書き込みを削除してもらうことができるでしょう。

発信者の特定

証拠をとって、IPアドレスを特定し、書き込みを消したら、次は加害者の法的責任を問う番ですが、その前に、投稿者を割り出し、訴訟の手続きに必要になる氏名や住所といった個人情報を入手しなくてはいけません。

ネットは匿名が基本の世界のため、SNS等の誹謗中傷では、必ず加害者を特定するためのプロセスが必要になってきます。

相手の個人情報は、プロバイダ責任制限法第4条に基づき、投稿者がネット接続に利用しているプロバイダから入手します。具体的には、書き込みがあったサイトまたはSNSの管理者から開示されたIPアドレスやタイムスタンプをもとにプロバイダの特定を行います。

そして、今度はプロバイダに対して開示請求を実施します。ただ、プロバイダは投稿者本人に開示の可否を尋ねるため、素直に開示してもらえるケースはほとんどありません。

そこで、また裁判所に開示請求の訴えを起こす必要があります。

POINT
今度は仮処分ではなく、正式な訴訟で、あなたの主張が認められれば、相手の個人情報が開示されるため、それをもとに民事で法的責任を追及するのであれば相手に損害賠償の訴えを起こし、刑事であれば警察に被害届または告訴状を提出します。

警察に被害届を出す

民事の場合は、このまま訴訟になりますが、刑事で責任追及する場合には、警察に被害届を提出します。被害届とは、その名の通り、警察に犯罪の被害に遭ったことを申告する書面です。

被害届を受理した警察は、捜査を行ったり、犯人を逮捕したりする場合がありますが、被害届の効果は法律で明確に規定されているものではないため、必ずしも捜査してもらえるとは限りません。

もう1つ、警察に提出できる書面には、告訴状と呼ばれるものもあり、こちらは事件があったことだけでなく、犯人の処罰を望んでいることを訴えるものです。

告訴状を受理した警察では、多くの場合、捜査や犯人の起訴が行われますが、一方で告訴状を受理してもらえないケースもあります。

さきほど誹謗中傷の加害者を特定する方法について述べましたが、刑事事件の場合、民事と違って必ずしも相手を特定する必要はなく、相手の氏名が不明のままでも警察に被害届や告訴状を提出することは可能です。

ただ、あまり内容が曖昧なものであると、受理や捜査をしてもらいにくくなるため、なるべくなら、開示請求で加害者を特定し、民事での裁判と合わせて刑事でも被害届を出すほうが良いでしょう。

複雑な手続きは専門家に相談を

ここまで見てきたように、誹謗中傷の被害に遭ってから加害者を訴えるまでの過程は非常に複雑ですし、何度も仮処分の申立や訴訟を行うことになるため、法律知識等のない一般の方が個人で行うのは難しいものです。

もし、ネット掲示板やSNSで誹謗中傷の被害に遭ってなんとかしたいけれど、手続きが難しそうだから、どうしていいかわからないと思っている方は、一度、弁護士など法律の専門家に相談してみてください。

専門知識やノウハウをもった弁護士であれば、適格なアドバイスをもらえたり、訴訟手続きの代行を依頼することができますし、ネットでの問題に強い弁護士もいますので、心強い味方になってもらえるはずです。

誹謗中傷に悩んでおられる方は、ぜひ一度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

ネットで誹謗中傷の被害に遭ったときは、相手に対して民事と刑事の2種類の法的責任を問うことができます。

民事事件の場合は損害賠償請求ができ、刑事事件の場合は、起訴されて有罪になれば法律で定められた刑罰に処されます。

訴えるためには、被害に遭ったときには証拠を残したり、相手を特定する必要がありますが、こうした手続きはとても複雑になっているため、個人でやるのが無理だと思ったら、弁護士など法律の専門家に相談するようにしてみてください。

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