名誉毀損の時間制限は?刑事と民事の違いについて理解しよう

名誉毀損の時間制限は?刑事と民事の違いについて理解しよう

ネットで誹謗中傷の被害を受けたとき、投稿があってからかなり時間が経った書き込みでも訴えることができるでしょうか?

名誉毀損には時間制限があるため、一定の期間を過ぎると告訴や慰謝料請求ができなくなります。

この記事では刑事と民事、それぞれの時間制限を解説します。

名誉毀損の時間制限(民事の場合)

民法では故意や過失によって他人に損害を与える行為を不法行為と呼んでおり、民法709条で損害賠償・慰謝料請求の対象とされています。
ですが、不法行為による損害賠償請求権には時間制限が存在します。これを特に「時効」と呼びます。

民法の2つの時効

民法における損害賠償の時効には以下の2つがあります。

被害者が損害および加害者を知ってから3年

ネットの書き込みで誹謗中傷の被害を受けたことに気づき、投稿者が誰であるか知ったときから3年以内に賠償請求の裁判を起こさなければ、民法724条1号によって時効が成立し、民事で慰謝料をとることはできなくなります。

ここで問題になるのが、「加害者を知ったとき」とはいつのことを指しているかです。

加害者を知ったときというくらいですから、相手の実名などがわかったときのようにも思われますが、ここでは、民事において損害賠償請求の裁判を起こせる状態になる程度に相手の情報を知ったときとされています。

つまり、「裁判を起こせるだけの情報を得ているか」が基準になるわけです。

ネットの書き込みは匿名が基本のため、相手のアカウント名が分かっただけでは訴訟を起こすことはできません。加害者のプロバイダを特定して情報の開示請求を行い、相手の氏名・住所といった個人情報を手に入れる必要があります。

そのため、ネットの誹謗中傷事件では、開示により相手の情報を知ったときが加害者を知ったときにあたると考えられます。

つまり、ネットやSNSでの匿名の相手による誹謗中傷では、開示請求によって相手を特定したときから時効が起算されると考えられ、これより3年以内に相手方に請求をする必要があるといえます。

逆に加害者を知らなければ、3年以上経過していても慰謝料を請求することが可能になります。

不法行為から20年間請求しない場合

ただ、もう1つ、損害賠償請求には、一定期間行使しないと権利が消滅してしまう期間が定められています。民法724条では不法行為から20年が経過したときも請求権が消滅するとされています。ですので、この期間に注意することも必要です。

名誉毀損罪の時間制限(刑事の場合)

次に、投稿者を刑法上の犯罪として裁くため刑事告訴する場合の時間制限について解説します。

名誉毀損罪は『公然と事実を摘示した』ことが要件の一つです。名誉毀損罪は親告罪と呼ばれる類型の犯罪にあたり、被害者が告訴しなければ裁かれることがないため、なにもしなければいたずらに時間制限が経過してしまうこともあり得ます。

親告罪とは

刑法において、被害者が告訴しない限り公訴を提起することができない犯罪のことを親告罪といいます。

被害者のプライバシーに関わる犯罪や内容が軽微で当人同士の話し合いで解決することが望ましいものなどは親告罪とされています。

名誉毀損は被害者の告訴が訴訟条件となっている絶対的親告罪にあたります。そのため、たとえ犯罪の事実があったとしても、警察が即座に動いてくれるわけではなく、被害者が行動を起こさなければ加害者が裁かれることはありません。

 被害に遭っていても訴えないまま時間制限が過ぎてしまえば罪に問うことは不可能になってしまいます。

刑事の2つの時間制限

刑事における名誉毀損の時間制限には、告訴期間の時間制限と公訴時効の2種類があります。

告訴期間の時間制限

1つ目は、犯罪の被害者等が捜査機関に対して被害に遭ったことを申し出て、加害者の処罰を求める告訴に関する時間制限です。

名誉毀損の告訴期間は、犯人を知った日から6か月以内です。誹謗中傷の書き込みを見ただけでは時間制限のカウントはスタートしません。

では、「犯人を知った日」とは具体的にどのようなときを指すかといえば、住所や氏名などを知る必要はないものの、投稿者が誰であるかを特定できる状態のこととされます。

細かな個人情報まで判明する必要はありませんが、誰が書き込んだか認識できれば、犯人を知った日にあたります。ネットでの書き込みの場合は相手のアカウントが分かれば犯人を知った日と判断される可能性が高いでしょう。

しかし、アカウントが分かったとしても、すぐにカウントがはじまるわけではありません。告訴期間が進行するにはもう1つ、犯罪が終了していることという条件があるためです。

相手は誹謗中傷の書き込みを続けている場合はもちろん、以前の投稿が残っていて、まだ大勢の人の目に触れる状態にある場合も名誉毀損が継続していると判断できます。

公訴時効

もう1つの時間制限が、犯罪の終了後、一定期間が過ぎると検察官が犯人を罪に問うことができなくなるという効果を持つ公訴時効です。

犯罪が起きてから検察官が起訴するまでに間が空き過ぎても時効になってしまい、加害者に刑事罰を与えることは不可能になります。

告訴と公訴では別々に時間制限が設けられており、公訴時効は犯罪によって変わります。名誉毀損の公訴時効は3年ですので、この期間内に公訴しないと加害者を罰することはできなくなります。

POINT
こちらも犯罪が終了してから時効のカウントがはじまることになっているため、相手が投稿を続けている場合などは時効が進行しないと考えられます。

時効になる前にやるべきこと

見てきたように、名誉毀損には民事と刑事、それぞれに時間制限が存在しています。名誉毀損の訴訟対応は早期対応が鍵です。

刑事の場合は最短6か月で時間制限となる可能性がありますし、民事の場合でも3年が経っていると慰謝料請求ができない場合があります。

投稿から数年経った書き込みですと、刑事・民事ともに訴えを起こせないこともあるため、もし、古い書き込みを対象に投稿者を訴えたいと思っている方は今すぐに行動を起こす必要があります。

法律以外にも時間制限がある場合も

ネットの誹謗中傷に対して裁判を起こす場合、プロバイダによるアクセスログの保存期間という問題があり、これが法律以外のもう1つの時間制限になっています。

加害者が書き込みを投稿したことを証明するためには、まず、コンテンツプロバイダ(インターネット掲示板などのサイト運営者等)のアクセス時の記録が必要ですが、プロバイダの保有しているログには保存期間があります。

一般的に数か月から半年となっていますので、なにもしないでいると投稿者や投稿時刻を特定するためのIPアドレスやタイムスタンプが消されてしまいます。

記録が無くなれば、法律上はまだ時間制限がきていなくても加害者を特定することができなくなり、事実上、訴訟が不可能になります。

そのため、法律上はまだ時間制限になっていないからといって安心することはできません。早くに行動しなければならないのは、こういった理由も存在しているからです。

 さらに、経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対して、情報開示請求をしますが、経由プロバイダが持っているアクセス記録にも保有期限があります。

ログの削除を止めるには

経由プロバイダが持っているアクセス記録が削除されてしまうと法律上の時効が来る前に事実上、加害者の特定が不可能になり、法律とは別のところで時間制限を迎えてしまいます。

これを防ぐために、経由プロバイダにアクセス記録の削除を禁止する仮処分を裁判所に対して求めます。

通常、開示請求をしてもプロバイダが任意で応じるケースは少なく、多くの場合は裁判で開示させることになるため、手続きには数か月を要しますので、結果が出るころにはログがなくなっている可能性が高いです。

ログの保存については申し入れれば任意で応じてくれるプロバイダもあります。開示請求を行うためにいつまでログを保存しておいてほしいといった内容を書面で送達すれば、多くのプロバイダは要請に応じてくれるようです。発信者情報開示の手続きには時間がかかるため、早期の仮処分申請が重要です。

 しかし、なかには拒否される場合もありますので、このような場合には裁判所へログ保存の仮処分を求める必要があります。

SNSごとのログ保存や対応の違いについて

SNSによってはアクセスログの保存期間や対応姿勢が異なるため、利用しているサービスごとに注意が必要です。

たとえば、X(旧Twitter)ではアクセスログの保存期間が数か月程度とされており、誹謗中傷の投稿があった際には早期に発信者情報開示請求を進める必要があります。

InstagramやFacebookなどMeta系のサービスは、比較的ログの保存期間が長いケースもありますが、明確な保存期間は公表されていないことが多く、証拠保全には早期対応が欠かせません。

掲示板型のサービス(5ちゃんねるなど)では、運営体制により対応にばらつきがあり、ログ保存に協力的でないケースも見られます。

このように、SNSごとにログの保存状況や対応方針に差があるため、どのプラットフォームで誹謗中傷を受けたかに応じて、迅速な対応が求められます。

法律の専門家に相談を

名誉毀損で加害者を訴えたいと考えている方で、問題の投稿が古く、もしかしたら時間制限にかかっているかもしれないと心配している方は、一度、弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。

3年や6か月というのは法律上の決まりですが、犯人を知ったときや犯罪が終了したときなど細かな規定があるため、本当に時効にあたるのかは個別の事件ごとに判断しなければならず、普通の人にはなかなか難しいでしょう。

さらに、ネットでの誹謗中傷事件では、プロバイダのアクセス記録など技術的な面も問題になります。

記録が削除されないよう裁判所を通して消去禁止の仮処分を申請する必要がありますが、こうした手続きも一般の人には経験がなく、ハードルが高いものです。

そんなとき専門家に相談すれば、あなたのケースが時効になるか、刑事・民事で訴えることができるかについて適切なアドバイスをもらうことができます。

実際の訴訟の手続きを進めるうえでも、力になってもらうことができます。なかには、ネットでのトラブルに強い弁護士もおりますし、そうした事務所に依頼すれば、複雑な手続きもスムーズに進めてくれるでしょう。

ネットでの誹謗中傷トラブルは時間との戦いになるケースもあります。

過去の書き込みについて訴訟を考えている方は、なるべく早めに弁護士へ相談するようにしてみてください。

まとめ

名誉毀損には民事・刑事でそれぞれに時間制限が存在しています。

民事の場合は、被害者が加害者と損害を知ってから3年または不法行為のときから20年という時効があります。刑事の場合は、告訴期間の時間制限が6か月、公訴時効が3年です。この期間を過ぎると、犯罪として訴えたり、慰謝料を請求することができなくなります

ほかに、アクセスログの保存期間の問題もあるため、被害に遭って相手を訴えたいと思ったときはなるべく早く行動する必要があります。

ネットの名誉毀損に対する訴訟は、ログの保存や加害者の特定など手続きも複雑で、なにをすればいいかわからないことが多いと思います。

そのため、時間を無駄にすることのないよう、まずは弁護士など法律の専門家に相談して力になってもらうようのがおすすめです。

執筆・監修者、豊川祐行弁護士

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。

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