発信者情報開示請求から逃れる事はできるのか?請求後の対応まで解説

発信者情報開示請求から逃れる事はできるのか?請求後の対応まで解説

昨今、インターネット上での誹謗中傷の問題が多くなるにつれて、「発信者情報開示請求」が増えています。

しかし、被害者側にとっては時間や費用の負担などから、手続き面のハードルの高さが懸念されています。

本記事では、発信者情報開示請求の流れや開示請求を請求を受けた場合にどのような対処をすべきかなどを解説していきます。

発信者情報開示請求とは?

誹謗中傷や名誉毀損などにより、権利侵害が発生した場合に発信者の情報(住所、氏名、メールアドレス、IPアドレス等)について開示請求すること。

プロバイダ責任制限法4条に規定されています。2020年8月31日に「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項」の発信者情報を定める省令が改正され、発信者情報の開示請求対象に「電話番号が追加」されました。

発信者情報開示請求ができる者

  • 自然人(権利義務の主体である個人)
  • 法人
  • 権利能力なき社団(法人格を有しない団体、法律の規定によらないで設立される)

インターネットサービスプロバイダが海外プロキシサーバー経由であった場合は、準拠法と裁判管轄の問題が生じるため、時間や費用の負担が大きくなります。また、開示が認められない可能性もあります。

発信者情報開示請求をするための要件

1特定電気通信による情報の流通

「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」と定義されています(プロバイダ責任制限法2条1号)。インターネット上のウェブサイトで行う、誰でも閲覧することができる情報発信のことを指しています。

2「自己の権利を侵害されたとする者」に該当すること

「権利が侵害されたとする」とは、単に自らが被害を受けた旨を述べることで足りるとされています。

3権利が侵害されたことが明らかであること

権利侵害が存在すること、および、仮に権利侵害が存在するとしてもその違法性を例外的に無くしてしまう事情が存在しないこと、をいいます。

4正当理由の存在

発信者に対して損害賠償請求する民事上の責任を問う場合や刑事告訴するために発信者を特定する必要がある場合などが該当します。

5「開示関係役務提供者」に該当すること

開示関係役務提供者とは、特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者をいいます。たとえば、サーバーを提供している者、電子掲示板を管理している者、インターネットサービスプロバイダなどのことです。

6「発信者情報」に該当すること

投稿者の(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、SIMカード識別番号、タイムスタンプ等)をいいます。

7「保有」の要件

発信情報の開示の対象となる情報は、開示関係役務提供者が「保有」するものでなくてはならない。

発信者情報開示請求の流れ

一般的には「ウェブサイト管理者 → 経由プロバイダ」の2段階で行います。

発信者情報開示請求書を送付する(任意開示)

ウェブサイト管理者に対して、IPアドレスやメールアドレス等などを開示してもらうよう請求します。

請求方法として、Webのフォームやメール、書式を送付するなどがあります。書式は、プロバイダ責任制限法関連情報Webサイトで公開されています。

なお、書き込み削除に関する情報は、各サイトの「削除ガイドライン」「コミュニティガイドライン」など、独自で記載されている場合があるので確認しましょう。

請求に応じるかどうかは、サイト管理者によって異なります。1か月前後かかる場合もあります。開示されないケースも多くあるようです。

ウェブのアクセスログは、約3~6か月の保存期間が目安となっています。

発信者情報開示請求を逃れる事はできるのか?

サイトの管理者や経由プロバイダが発信者情報の開示に応じてくれない場合や応じてくれない可能性が高い場合は、法的手続きとして民事保全法の「仮処分」を求める手続を行います。

保全命令の申立てでは、1.被保全権利の存在(名誉権、プライバシー権、著作権など)、2.権利関係及び保全の必要性を疎明しなければなりません。(民事保全法13条1項)

1と2を疎明し、裁判所が仮処分すべきであると判断すれば、保全命令が出されます。(民事保全法13条2項)

  • 疎明とは、裁判官に対して証拠を提出して、一応確からしいと思わせることを指します。通常の裁判では「証明」が求められますが、仮処分では「疎明」をもって足りるとされます。
  • 仮処分とは、金銭債権以外の権利を保全するために用いられる処分です。

仮処分命令は、2週間〜3ヶ月程度かかる場合があります。発信者情報開示請求の訴訟では、約6ヶ月程度かかると言われていますが、仮処分であると迅速な対応が期待できます。

この仮処分命令の結果、サイトの管理者などから、誹謗中傷を行った人のIPアドレスが開示されます。

IPアドレスから、利用した経由プロバイダ(たとえば、OCNやBIGLOBE、携帯のキャリア)を調べます。そして、経由プロバイダに対して、発信者情報開示請求(訴訟)を行うことになります。

発信者情報開示請求をされてしまったら?

誹謗中傷された人が、インターネットプロバイダに対して、発信者情報開示請求をした場合、一般的には、誹謗中傷した人の元に「発信者情報開示に係る意見照会書」が簡易書留で送られてきます。

「発信者情報開示に係る意見照会書」とは、発信者情報開示請求に応じることが可能であるか確認するための書類です。

プロバイダ責任制限法4条2項「開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。」という規定から受けたものです。

経由プロバイダから送られてくるケースがほとんどです。

意見照会書には、

  • 請求者の氏名
  • 掲載された情報
  • 侵害された権利
  • 権利が明らかに侵害されたとする理由
  • 発信者情報の開示を受けるべき正当理由

などが記載されています。

発信者情報開示に同意しない場合、拒否する理由を具体的に記載する必要があります。

このように同意するか否かを選べるので、必ず同意しなければならないわけではありません。本当に権利侵害を行っていない場合は、適切な反論をすることが大切です。

「発信者情報開示に係る意見照会書」は、到着後から2週間以内に提出するように求められるケースが多いようです。

まとめ

このように発信者情報開示請求の仕組みやその後の対応までを解説しました。特に「発信者情報開示に係る意見照会書」については、書き込み内容が不適切で権利侵害があったか否かについては、判断が難しいと考えられます。

この書類が送られてきた段階では、判断に迷うかと思います。まずは弁護士に相談することをおすすめします。

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