交通事故に遭ったら、加害者に対し損害賠償を請求できます。
請求できる賠償金には多くの費目があり、計算方法は3つあります。より多くの金額を受け取るためには、適切な請求方法を選ばなければなりません。
交通事故の損害賠償とは
損害賠償とは、他人から不法行為(権利の侵害)を受けた際に、加害者に請求できる賠償金です。交通事故では、ケガの治療費や車の修理代の他、慰謝料などが含まれます。
損害賠償は不法行為に対して発生する
交通事故を起こして他人にケガを負わせたり、車両や物を壊したりするのも不法行為の1つと解釈され、被害者は相手の不法行為によって損害を被ったと評価されます。
道路交通法70条では安全運転の義務として、「車両等の運転者は、道路・交通等の状況に応じて他人に危害を及ぼさない速度と方法で運転しなければならない」と定められています。また、民法709条では「故意または過失」により「相手の権利または法律上保護される利益を侵害した者」はその「損害を賠償する責任を負う」と定められています。
これらを>金銭にして支払うのが損害賠償です。
損害賠償の相手は加害者だけとは限らない
交通事故の損害賠償を請求する対象は、加害者だけとは限りません。
直接事故を起こした加害者一人だけでなく、その使用者や運行供与者などが含まれる場合があります。ちなみに使用者は労働する者に対して賃金を支払う者を指し、会社や経営者などがあたります。運行供与者は車の運行を支配し、その運行によって利益を得ている者を指します。
民法715条では使用者の責任として「事業のために他人を使用する者は被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。また、自動車損害賠償保障法3条にある「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は、その運行によって他人の生命や身体を害したとき生じた損害を賠償する責任を負う」とされ、こちらも賠償請求の対象になることがあるのです。
交通事故で獲得できる損害賠償金の種類
交通事故の損害賠償は被害者自身に対するものと被害者の財物に対するものがあります。
被害者自身の損害は肉体への損害である「財産的損害」と精神に対する「精神的損害」の2種類があります。財産的損害はさらに「積極損害」と「消極損害」の2種類があり、計、以下の4つに分けられます。
- 積極損害(財産的損害)
- 消極損害(財産的損害)
- 精神的損害
- 物損(被害者の財物への損害)
それぞれについて詳しくみていきましょう。
財産的損害
事故によって被害者の財産に与えた損害を指します。ケガの治療費や入院費はもちろん、事故によって仕事を休んだために減ってしまった給与なども含まれます。財産的損害は、大きく積極損害と消極損害の2つに分けられます。
積極損害
事故によって被害者が出費せざるを得なくなったお金を積極損害と呼びます。
積極障害に含まれるのは、事故によるケガの「治療費」から医療機関へ通院するためにかかる「交通費」、ケガのため看護が必要になったときの「付添看護費」、入院にかかった「雑費」などです。
さらに、後遺症が残り利用することになった車椅子やコルセット代、リハビリ、介護費用などの「装具・器具購入費」、示談交渉を弁護士に依頼する場合の「弁護士費用」などが当たります。
死亡事故では「葬儀費用」が父母や配偶者、子供といった相続人にあたる遺族に支払われます。
消極損害
交通事故が起きたために本来入るはずだった利益が手に入らなくなり、発生した損失を消極損害と呼びます。
原則として事故によって会社を休んだで減少した収入の補填を行う「休業損害」、後遺症が残ったために仕事を続けられなくなり、将来の収入が減少することへの補填である「後遺障害逸失利益」などが含まれます。
休業損害は主婦(主夫)も請求できます。無職でも求職中など、一部対象になる場合もあります。
精神的損害
交通事故により、ケガをしたことそのものや治療や入院に対する苦しみなど、精神的な苦痛に対する金銭的な賠償です。
精神的損害に対する賠償金は「慰謝料」とも呼ばれます。慰謝料と損害賠償は同じもののように思われることもありますが、実は損害賠償のうち精神的苦痛に対するものを指す言葉です。
交通事故の慰謝料には、人身事故ではケガを負ったことに対する「傷害慰謝料」、事故で後遺症が残ってしまった苦痛に対する「後遺障害慰謝料」、被害者が亡くなってしまった死亡事故では、本人や残された家族の無念、苦しみに対する「死亡慰謝料」の3つに分類されます。
物的損害
事故によって発生した被害者の財物への損害で、故障した車の「修理代・買い替え費用」や「代車費用」、載っていた荷物に被害が出た場合の賠償金などが含まれます。交通事故の被害者は、これらの項目すべてについて受けた被害に相当する金額を賠償請求できます。
損害賠償の算定基準
交通事故の賠償請求するときに注意しなければならないのが、損害賠償には複数の算定方法があることです。
交通事故で使う基準は「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3種類です。請求できる金額に与える影響を解説します。相手側の言われるままにしていると低い金額で示談してしまう恐れがありますので、気を付けましょう。
自賠責基準
自動者やバイクなどを運転する上で、すべての車に加入が義務づけられている自賠責保険に基づく算定基準です。自賠責保険は交通事故における最低限の補償を目的としているため、自賠責基準の損害賠償額は少なく、3つのなかで最も低い金額になります。
自賠責保険には、死亡・後遺障害3000万円(介護を要する場合4000万円)、傷害120万円までと上限が決まっています。もし損害賠償がこの金額を上回った場合には、基本的に加害者が加入している任意保険から残りが支払われます。
任意保険基準
事故の加害者が加入している任意保険会社が定めている損害賠償の算定基準です。計算方法は各保険会社が自由に決められ、会社によって異なります。外部には非公開になっており、正確な金額を知ることはできません。
一般的には自賠責基準よりも高額になるといわれますが、実際には上回るとしても数十万程度のことが多く、それほど金額に違いはありません。
弁護士基準
弁護士に示談交渉を依頼したときに適用される算定基準で、受け取る損害賠償の金額は3つのなかで最も高額になります。
弁護士基準は公益社団法人「日弁連交通事故相談センター」から発刊されている「交通事故損害額算定基準」(通称:青本)や日弁連交通事故センター東京支部から刊行されている「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)などをもとに算出されます。
裁判を起こしたときにも使われるため「裁判基準」と呼ばれることもありますが、弁護士に依頼すれば裁判所に訴訟を起こさなくても弁護士基準が適用され、高い示談金を受け取れるようになります。
損害賠償金が支払われるまでの流れ
実際に事故が起きてから賠償金を請求し、獲得できるまでの流れをみていきます。手順が難しそうに感じますが、示談交渉などは弁護士に任せると被害者の負担を軽減することが可能です。
1、事故発生→警察への通報
交通事故が起きたときは、まず警察に通報するようにしてください。警察に「事故届」を提出することで、自動車安全運転センターから「交通事故証明書」が発行され、人身事故として扱われるようになります。
人身事故として処理されないと示談交渉で不利になります。相手が通報しないように提案してくることがありますが、応じてはいけません。万が一、当日に通報できなかったときは、後日の届け出も可能です。
2、病院での治療
人身事故にあったら当日に、医療機関に行って診察を受けるようにしてください。事故の直後はなんともないと思っても、交通事故では後から痛みなどが出てくるケースもあります。一度は医師の診断を受けるようにしましょう。
ただし、整骨院や接骨院など、医師がいない施設は治療費が支払われないので気を付けましょう。
3、通院→完治・病状固定
通院をしてケガの完治を目指します。これ以上治療をしても良くなる見込みがないときは、病状固定との診断が下されます。
通院による治療は、自分の勝手な判断で中止するのは避けましょう。医師から「完治」または「病状固定」と言われるまで続けまてください。病状固定とはそれ以上治療を続けても症状が改善しない状態を指します。病状固定後も後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級の認定を申請・取得して後遺障害慰謝料の請求を行います。
仕事が忙しいから、家庭の事情があるといった理由で通院を止めてしまうと、大した怪我ではないと思われて示談交渉で不利が生じる可能性が出てくるので注意してください。
4、保険会社との示談交渉
ケガの完治または病状固定となったら、相手方の保険会社と示談交渉を開始します。治療が終わってから示談交渉に入るのは、ケガが治ってからでないと治療費や後遺障害に関する賠償金が正確に計算できないためです。ただ、通常は治療費等の支払いに関する話があるため、相手側の保険会社からはもっと早くから連絡くると思っておきましょう。
被害者が亡くなった死亡事故では治療期間が存在しません。四十九日法要までにかかった費用を含む、死亡慰謝料が遺族に支払われます。示談交渉は四十九日が終わった頃に、はじめることが多いです。
5、示談成立→損害賠償獲得
示談が成立すると、2週間程度で慰謝料など賠償金の支払いが行われます。
示談は一度成立すると、覆すのは困難です。内容に納得できない部分が少しでもあれば、安易に保険会社の言いなりになることはありません。自分だけではどうにもならないと感じたときは、弁護士など法律の専門家に相談するのが妥当でしょう。
交通事故の損害賠償請求で注意したいポイント
交通事故の損害賠償を請求するときに注意したいポイントを解説します。交通事故の被害に遭うなんて頻繁にある事態ではなく、知識も経験もないケースがほとんどかと思われます。しかしよくわからないからと、相手側が主張する内容をそのまま受け入れると、損をする可能性があるので気を付けてください。
相手が提示する損害賠償は低額の場合が多い
交通事故の示談交渉で、加害者の保険会社が提示してくる損害賠償額は、不当なほどの低額になっていたり、本来は請求可能な項目が含まれていなかったり、加害者側の過失割合を低くして計算するといった可能性がある点には注意が必要です。
任意保険基準の賠償金は弁護士基準に比べれば金額が少ないですし、保険会社は支払う金額をなるべく安く済ませようとするものです。仕事を休んだのに休業損害の項目が含まれていなかったなど、本来もらえるはずのお金が入っていない事例はあるのです。費目の確認は入念に行うようにしましょう。
損害賠償の請求には時効がある
交通事故の損害賠償には時効が存在しています。放っておくと請求が不可能になる場合もあるため注意してください。
民法724条に定められている交通事故における損害賠償の時効は「被害者が損害および加害者を知ったとき」から、
- 物損事故の場合は3年
- 人身事故の場合は5年(2020年4月1日より前に発生した事故では3年)
となっています。
物損事故と人身事故の時効はもともとは同じでしたが、2020年4月の改正民法施工に伴い人身事故のほうが長くなりました。
ポイントになるのは、時効のスタートが「被害者が損害または加害者を知ったとき」とされていることです。
例えば、ひき逃げのように犯人が明らかでない事故の場合、5年が経過しても時効になるとは限りません。ただ、民法724条では20年間、請求権を行使しない場合は時効になると定められているため、ひき逃げで犯人が不明の場合でも事故から20年経過すると時効が成立します。
損害賠償金を増額させる方法
交通事故の損害賠償を増額する方法を紹介します。
交通事故の賠償金はケガの治療や車の修理、今後の生活費にもなる重要なお金です。少しでも高いほうが嬉しいですから、しっかりチェックしておきましょう。
損害賠償には増額の余地がある
示談交渉で相手側が提示してくる損害賠償額は増額の余地があります。慰謝料などを、最初から低い金額を提示してくるためです。
保険会社が出してきた金額は、保険金を少しでも減額できるように計算されているのが普通です。交通事故の示談交渉では、保険会社が主張する内容をそのまま受け入れる必要性はありません。
損害賠償を増額するには弁護士への相談を
交通事故の損害賠償を増額する方法に、弁護士に示談交渉を依頼することがあります。保険会社が提示する賠償金は、任意保険基準で計算された相場です。弁護士を利用して弁護士基準が適用されれば、確実に増額が見込めます。
こちら側が賠償金を増額しようとすれば相手方は当然嫌がりますし、適正な金額を得るためには粘り強い話し合いが重要になります。
また弁護士は請求漏れがないよう費目を確認してもらえるのもメリットです。交通事故の損害賠償を増額したいと考えている方は、弁護士のアドバイスを受けてみてください。
交通事故の損賠賠償は種類が多く計算方法も複雑
交通事故の損害賠償は種類が多く、算定方法も3種類あり非常に複雑です。知識のない個人が示談交渉の場に立っても、増額できるどころか保険会社に言われるまま少ない金額で示談に応じてしまう事態に陥りやすいでしょう。
しっかりと慰謝料などの賠償金を獲得したいのであれば、弁護士への依頼を検討してみてください。弁護士に頼めば弁護士基準で損害賠償請求でき、その他の費目に関しても適正額を計算してもらえます。さらに示談交渉も行ってくれ、賠償金を増額したいといった要望も通る可能性が高くなります。
交通事故の被害に遭い、賠償請求に不安があるなら、一度弁護士へ相談するのがおすすめです。費用が心配であれば、無料相談サービスがある事務所を選ぶのが良いでしょう。また、弁護士特約が付帯する自動車保険に加入していれば、弁護士費用の負担なく利用できる可能性があります。
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