交通事故の過失割合9対0は片側賠償になります。過失割合は9対1、8対2など合計10割になるになるのが普通ですが、9対0や8対0など合計10にならない過失割合で決着を付けることは可能です。
過失割合とは何か
過失割合は交通事故の当事者それぞれの責任を表したもので、損害賠償の金額を左右する重要なものでもあります。
過失割合は不注意の程度を割合で示したもの
過失割合は事故の当事者たちにどのくらいの責任(不注意)があったかを9対1や8対2などの割合で表したものです。交通事故においてはどちらか片方だけに100%の責任がある10対0のケースは滅多にありません。追突事故などを除けば、ほとんどの事故では被害者側にも一定の過失があるとされています。
そのため、加害者のみに全ての責任を負わせるのは不公平になります。そこで、当事者双方の不注意の程度を過失割合という9対1といった形で示され、それぞれが支払う損害賠償額が調整されます。
過失割合は損害賠償額に影響する
過失割合の数値は損害賠償額に直接影響します。例えば、過失割合が8対2であった場合、被害者は損害額の80%を請求できますが、残りの20%は請求できないことになります。このように、過失割合に応じて賠償金が差し引かれることを「過失相殺」といいます。
過失割合は誰が決めるのか
過失割合は示談交渉により事故の当事者同士で取り決めます。
過失割合は事故の当事者が決める
過失割合が何対何になるかは、事故の当事者やその代理人が話し合う「示談交渉」で決定します。
示談交渉では相手方の保険会社が被害者側に「損害賠償額や過失割合はこれくらいで良いですか?」という「示談案」を提案してきます。被害者が合意すると過失割合が決まります。
過失割合は警察が決めるのではない
警察が過失割合を決めるわけではありません。事故の報告があると警察が現場に駆けつけて事故状況を調査し、「実況見分調書」という文書が作成されます。過失割合を算出する際の参考資料になる書類にはなりますが、警察は「民事不介入の原則」があるという理由から民事事件に分類される交通事故のトラブルに直接介入することはできないのです。実況見分調書を取り寄せることはできますが、過失割合を決めるのはあくまで当事者になります。
過失割合が決まる時期
9対1など過失割合が決まるのは示談が成立したときです。事案によりますが、交渉が開始してから2ヶ月〜1年程度で成立することが多いです。ただし、示談交渉は被害者の損害が確定し損害賠償額の計算ができなければ始めることができません。
具体的な損害の確定時期は以下の通りです。
死傷者は出なかったものの、車同士の衝突によって車や物が壊れてしまった物損事故では、修理代の見積もりが出た段階で損害が確定します。車が損傷した事故なら早ければ当日、遅くても1ヶ月以内に見積もりが出る事例ががほとんどになります。
死傷者が発生した人身事故では、基本的に被害者の怪我が完治した時点で損害が確定します。軽傷であれば2週間〜1ヶ月程度、重傷であれば1ヶ月以上の治療が必要になります。
事故に遭いケガが完治せずに後遺症が残ってしまった事例では、後遺障害等級認定の結果がわかった時点で損害が確定します。
後遺障害等級認定の申請ができるのは、担当医師が症状固定(これ以上症状の改善が見込めない状態)の判断をした後です。だいたい症状固定から後遺障害等級が認定されるまでには2ヶ月程度かかります。
以上のように、事故の態様によって損害額の確定時期は異なります。物損事故では比較的すぐに損害が確定しますが、後遺症が残るような事故では時間がかかる傾向があります。
過失割合は裁判例を参考に算出される
過去の裁判例を分析すると、事故パターンによって過失割合は決められていることが分かります。
基本の過失割合は判例タイムス社が出版している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」に掲載されています。
たとえば、交差点内で右折車と左折者が同一方向に走行して衝突した事例では、右折車が70%、左折者が30%の過失割合になります。この事故では交差点内で優先されるのは直進車、左折車、右折車の順番になるため、右折車の不注意の度合いの方が大きくなります。
示談交渉では相手方の保険会社が過失割合を算出し、被害者に提案してくるのが通常ですが、提案された過失割合が必ずしも正しいとは限らないので注意しましょう。保険会社は被害者に保険金を支払いする立場であり、被害者に不利な条件を提示してきやすいと言われています。
過失割合9対0とはどういうこと?
過失割合は8:2や7:3のように合計が10割になるのが原則です。しかし、中には10:0や9:1ではなく、9対0になることがあります。
過失割合9対0と9対1との違い
本来であれば過失割合が9対1のところ、9対0にして損害賠償することを「片側賠償」といいます。9:0のみでなく8:0や7:0のケースも存在します。
9対0は一見すると被害者の過失割合が0のように見えますが、実際には被害者にも1割の過失が課せられています。しかし、片側賠償では被害者の賠償義務が免除されるシステムのため、責任が1割あっても加害者に賠償金を支払う必要はありません。
過失割合が9対0になるのはどのような事故?
被害者は「自分に責任は一切なかった」、加害者は「相手にも1割の責任があった」とそれぞれに主張しているのであれば、どちらかが妥協しなければ一向に交渉が進まないでしょう。両者の譲歩を引き出し解決する策として9対0の片側賠償が使用されることがあります。
過失割合9対0のメリット・デメリット
過失割合を9対0にする片側賠償にはメリットもデメリットもあるのが注意点です。
過失割合9対0のメリット
過失割合を9対0にするのは金銭的も精神的にもメリットをもたらします。
加害者に賠償金を支払わなくて済む
交通事故において損害が発生するのは被害者だけではありません。加害者に生じた損害については、被害者が過失の割合に応じて支払う必要があります。例えば、過失割合9対1で加害者にも20万円の損害が生じると被害者には2万円の賠償義務が生じます。
そこで、片側賠償を利用して9対0にすれば、加害者に対して賠償金を支払わずに済みます。
交渉を早期に終わすことができる
9対0の片側賠償は過失割合10:0の妥協案としてよく使われます。相手方は支払う賠償金が減るため譲歩を引き出しやすく、交渉を早く終わらせられる可能性が高くなります。
保険の等級が下がらない
自動車保険は契約者の事故実態に応じて20段階(一部の共済では22段階)の等級が定められています。一年間無事故でいると等級が上がり保険料が割安になります。逆に事故を起こして保険を利用すると等級が下がって保険料が割増になってしまいます。
ただし、たとえ事故が発生したとしても被害者側に落ち度がなければ保険を利用しなくて済みます。つまり、片側賠償によって過失割合を9対0にすれば保険の等級が下がることはなくなるのです。
保険会社に示談を代行してもらえる
多くの保険会社は「示談代行サービス」をおこなっています。加害者側の任意保険会社が示談交渉に参加するのは、示談交渉サービスを利用しているからです。
ただし、過失割合が10:0の事故だと自身が加入している保険会社に示談交渉を代行してもらうことはできません。被害者の過失が0であると、加害者への賠償義務が存在しません。言い換えれば保険会社が加害者に保険金を支払う必要がないことになります。
過失割合9対0のデメリット
過失割合を9対0にすると10対0よりも請求できる賠償金が減ってしまいます。
片側賠償を利用するのは、過失割合の設定を10:0か9:1でもめているケースがほとんどです。被害者に全く悪い点がないにもかかわらず9対0で妥協してしまうと、全体の損害額の1割分を受け取ることができず損をしてしまいます。10:0のときよりも賠償金が低額になる点は大きなデメリットといえるでしょう。
過失割合に納得いかないときの具体策
相手方の保険会社が提示する過失割合に納得いかないときは、弁護士に相談する等の具体策を試してみましょう。
過失割合を変更してもらえるよう交渉する
過失割合に納得いかないときは、相手方に変更したい旨を主張しましょう。もちろん、何の根拠もない主張が通ることはありませんので、交渉を成功させるために必要となるコツを頭に入れておいてください。
保険会社としては被害者へ支払う保険金の額を抑えたいと考えています。被害者に不利な過失割合をわざと提示しているケースも十分に考えられるでしょう。
過失割合の算定は事故状況を正しく把握していなければできません。相手方と主張が食い違っているときは、以下の証拠を示すことが重要です。
・防犯カメラの映像
・事故現場や事故車両の写真
・目撃者の証言
・警察が作成した実況見分調書
特に、ドライブレコーダーの写真は事故状況を裏付ける強力な証拠になります。交渉を有利に進めたいときは、これらの証拠を提供することで交渉を有利に進められるでしょう。
弁護士に相談する
相手方の保険会社は交渉経験が豊富なため、個人が一人で交渉を続けても思うように主張が通らないことも多くあります。このような場合は、交通事故に詳しい弁護士への相談がおすすめです。
- 被害者に有利な過失割合を算出してくれる
- 慰謝料の金額を増額してくれる
- 弁護士特約を利用すれば実質タダで弁護士に依頼できる
弁護士に相談するのは上記のようなメリットがあります。
被害者に有利な過失割合を算出してくれる
任意保険会社が提示してきた過失割合が誤っていれば、弁護士が適正な割合を算出してくれます。主張を裏付ける証拠を収集してから反論してくれるため、より高い確率で修正できるでしょう。
弁護士が介入したことで被害者が有利になった事例を2つ紹介します。
一時停止を無視した加害者の車両が、優先道路を走行していた被害者の車両に衝突した事例です。
相手方の保険会社は過失割合8:2を主張しましたが、これに納得いかなかった被害者は弁護士への相談を決意しました。弁護士は過去の裁判例を引き合いに出し、事故態様から見て加害者の責任が大きいことを主張したところ、9対0で合意を得ることに成功しました。
信号待ちをしていた被害者の車が、後ろから来た自動車に追突された事例です。本来、追突事故の基本過失割合は10:0です。しかし、今回の事例では路上に雪が積もっており、被害者の車両がやや滑車している状態でした。
被害者にも一定の落ち度がありましたが、保険会社からは7:3という過大な過失割合が提示されました。相談を受けた弁護士は、自動車の傷つき方などから主な落ち度は加害者側にあることを主張しました。その結果、最終的には9対1に変更することができました。
慰謝料を増額できる可能性がある
人身事故の被害者は怪我を負った精神的苦痛を償わせるために、加害者に慰謝料請求ができます。相手方の保険会社は慰謝料の金額を計算し被害者側に提示します。しかし、任意保険会社が算出した慰謝料の金額は「任意保険基準」で算出するため、裁判で認められる金額を大きく下回ってしまいます。
弁護士特約があれば実質無料で弁護士に相談できる
被害者の加入している自動車保険に、弁護士特約というオプションがついていることがあります。弁護士特約とは交通事故の問題を弁護士に相談したときに、被害者が契約している保険会社が弁護士費用を代わりに支払ってくれるサービスです。
参考:日本弁護士連合会
まとめ
交通事故の示談交渉でもめたときは、過失割合9対0の片側賠償を提案することで相手方の譲歩を引き出しやすくなります。ただし、被害者は悪くないのに過失割合9対0にすると賠償金の受取額が減ってしまう点には注意が必要です。
どうしても過失割合に納得がいかないときは、弁護士に相談し交渉を代理してもらうのがおすすめです。少しでも過失割合を有利にしたいのであれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士特約があれば負担0円で弁護士のアドバイスを受けられます。
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