X(旧Twitter/ツイッター)の悪質性が高いポストに対しては、相手が匿名でもX(旧Twitter社/ツイッター)に発信者情報開示請求で加害者を特定し対処できます。X(旧Twitter/ツイッター)等のSNSでは、プライバシー侵害や侮辱など誹謗中傷当たる書き込みが掲載されることは珍しくありません。ただ、情報開示をスムーズに進めるためには、開示する前に注意点を知っておくことが重要です。

この記事の目次
X(旧Twitter/ツイッター)に発信者情報開示請求するさいの注意点
発信者の特定を成功させるために、注意すべきポイントを解説します。
自分に対し名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫などに当たる悪質な投稿がなされたら、X(旧Twitter/ツイッター社)に発信者情報開示請求を行い、投稿者が誰なのか特定します。その後、民事事件や刑事事件として訴訟を起こすといった対処ができるようになります。
任意削除に応じてもらえない場合がある
発信者情報開示請求する前に検討したいのが任意削除です。任意削除は情報開示命令や法的措置の一つである仮処分によらず、X(旧Twitter社)に問い合わせを直接行い問題のツイートを削除してもらうものです。
X(旧Twitte/ツイッターr)では個人への悪口や嫌がらせなど悪意のある内容のポスト(ツイート)を禁止するルールがあります。依頼や通報により違反の事実が判明すると削除したり、アカウントを停止したりしています。
X(旧Twitter/ツイッター)上で誹謗中傷にあたるツイートを見つけた時点でスクリーンショットを撮るなど証拠を残し、ルールに反している旨を伝えX(旧Twitter社/ツイッター)に削除依頼を出します。明らかに悪質性が高いと認められると該当ツイートの削除、アカウント自体の凍結といった措置が期待できます。
依頼から削除されるまでの期間ははっきり決まっていませんが、数日から1か月程度が一般的でしょう。
しかし、削除の判断はX(旧Twitter社/ツイッター)に一任されており、依頼しても削除が認められない事例は多くあります。運営しているのがアメリカの企業であるX(旧Twitter社/ツイッター)は、日本よりも表現の自由を尊重している面があります。そのため、容易に書き込みの削除には応じない姿勢が見られるのです。
誹謗中傷による書き込みに対し損害賠償や処罰を望むのであれば、投稿者の情報開示命令を求めるとともにポスト自体を削除してもらうための削除仮処分を申し立てする必要があります。仮処分の命令がなされ悪質な書き込みである証拠を提示できれば、削除依頼に応じてくれる期待は持てます。
IPアドレスから投稿者が特定できない場合がある
発信者情報開示請求の後、仮処分の命令が下るとX(旧Twitter社/ツイッター)から開示命令を受けたIPアドレスをもとに、プロバイダを特定し住所、氏名、メールアドレスといった相手の個人情報の特定が可能になります。しかし、必ずしもすべてのケースで投稿者の特定ができるわけではないのが実情です。
X(旧Twitter社/ツイッター)は投稿者の住所や氏名といった個人情報までは持っておらず、得られる情報は以下の2つになります。
- IPアドレス……インターネットで通信の相手先を識別するために機器(パソコンやスマートフォン)ごとに使用される番号。
- タイムスタンプ……特定の電子データがその時刻に確かに存在していたことを表す電子的な時刻証明。
問題となるのはIPアドレスです。
プロバイダの発信者情報開示請求に関して定められているプロバイダ責任制限法第4条1項によると、対象になるのは「当該権利の侵害に係る発信者情報」とされています。つまり、情報開示命令できるのは投稿が行われたときのIPアドレスということになります。
X(旧Twitter社/ツイッター)から情報開示を受けることができるのはアカウントにログインしたことを示す「ログイン時IPアドレス」となっているため、法律を厳格に適用するならこのIPでプロバイダに情報の開示はできないことになります。
ただし、実際にはプロバイダの大半はログイン時のアドレスでも開示命令に応じると考えられ、裁判所の判決でもツイート直前のログイン時アドレスがあれば投稿者の情報開示を認めています。

ツイートから期間が経過すぎると開示できない場合がある
X(旧Twitter社/ツイッター)をはじめ投稿者の情報を保持しているプロバイダの多くでは、アクセスログの保存期間が決められています。だいたいのサイトは3か月から6か月になっていますが、X(旧Twitter/ツイッター)はアカウントが削除されていると30日程度しか残っていないと言われています。保存期間が経過するとアクセス記録が削除され残っていない状況になります。期間が経ちすぎていると開示を行っても、加害者の情報が分からなくなってしまうわけです。
仮処分は本訴と比べて決定までの時間が短いのが特徴で、本来の裁判が1年から2年かかるのに比べると2週間から3か月ほどで結果が出ます。しかし、これはあくまでもX(旧Twitter社/ツイッター)からIPアドレスに関する情報を提供してもらえるだけで、この後、接続プロバイダを特定しての発信者情報開示請求が必要です。
仮処分の命令が決定しても実際に発信者情報が開示されるまでは時間がかかると予想されます。契約者にはプロバイダから意見照会書が送付され、個人情報を開示しても良いか問われます。相手方が任意での開示を拒否し訴訟になれば、判決が出る頃には記録の保全期間が過ぎていることがあるのは注意点です。
管轄裁判所が別れる事がある
ポストの削除仮処分と情報の開示命令仮処分を同時に行う際の注意点として、管轄する裁判所が2か所に分かれるケースがあります。削除の仮処分は住所地を管轄している地方裁判所へ申立てをするため、東京在住なら東京地裁、大阪在住であれば大阪地裁になります。
一方、発信者情報開示請求では通常、相手側の住所地が管轄になります。会社が東京にあれば東京地裁、大阪なら大阪地裁とそれぞれの地方裁判所が管轄します。
X(旧Twitter社/ツイッター)は Corp. Japan株式会社(旧Twitter Japan株式会社)といわれる日本法人がありますが、アメリカの法人で日本国内に住所地がなく法律上の管轄が定まっていません。そのため発信者情報開示請求は民事訴訟法10条の2及び民事訴訟規則6条を適用することになり、東京地裁の管轄ということになります。

改正プロバイダ責任制限法により開示しやすくなった
2022年10月1日に改正プロバイダ責任法が施行されたことにより、以前よりも誹謗中傷した人物の特定はしやすくなっています。
IPアドレスと発信者情報の開示を一緒にできるようになったのは大きな前進です。従来は仮処分申立てを行いX(旧Twitter社/ツイッター)にIPアドレス、プロバイダに情報開示請求するという法的手続きが2回必要になるのが注意点でした。しかし、改正後の「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」によると、発信者情報開示をまとめて実行できるようになっています。さらに、「非訟手続」により一般的な訴訟よりも簡単な手続きがとれるようになり、加害者を特定するまでの時間短縮にもつながるとされてます。
また、発信者情報開示命令の対象がX(旧Twitter/ツイッター)などのSNSも対象になり、利用しやすくなったと言えます。アカウント作成や削除、ログインやログアウト、登録しているメールアドレスやSMS認証の電話番号といった情報が発信者情報開示の内容に含まれるようになったのはメリットでしょう。
被害者の負担が減り、誹謗中傷への対処がしやすくなったと言えます。
参考:総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」
発信者情報開示請求にかかる費用
X(旧Twitter/ツイッター)へ発信者情報開示請求する際には、裁判所に支払う印紙代がかかります。
1つの申立てごとに1,000円が必要になり、申立書1つでできる接続プロバイダの発信者情報開示命令と提供命令の申立てで2,000円、ログの消去禁止では開示命令と消去禁止命令の申立てで2,000円です。
自分ですべての開示請求手続きをするなら費用は印紙代のみで済みますが、弁護士に対応を依頼すると弁護士費用が発生するのが注意点になります。
着手金や報酬、事務手数料などが発生します。大金がないと弁護士の利用は無理と思いがちですが、初回の相談料は無料のサービスを実施している弁護士事務所は多くあります。費用が発生しないならハードルが低く気軽に利用できますので、相談時に総費用がいくらくらいになるかを確認し依頼の有無を決めることが可能です。
また、加害者への損害賠償請求が成功すれば、受け取った賠償金から弁護士費用を捻出する方法もあります。悩みがあるなら相談だけでもしてみるのがおすすめです。
注意点が多い発信者情報開示請求は弁護士に依頼
X(旧Twitter/ツイッター)への個人情報開示請求には注意点がいくつもあります。法律の知識に疎い個人では対応が困難ため、法律に精通している弁護士の力を借りるのは有効な方法です。
仮処分の手続き自体は自分だけで行うことも可能ですが、現実的ではありません。請求を成功させるには証拠のほか用意すべき書類が多く手間がかかるためです。そのうえ、開示命令にはアクセス記録の保存期間がタイムリミットになっており、やるべきことが多いにもかかわらず時間的な余裕がない注意点があります。
発信者情報開示請求するなら、インターネット分野のトラブル分に強く豊富な実績がある弁護士を選ぶのがよいでしょう。確かな知識とノウハウをもった弁護士は注意点を考慮しながら、スムーズに解決に導いてくれます。
X(旧Twitter/ツイッター)での悪質な書き込みにお困りなら、早めに弁護士に相談しサポートを受けるのがおすすめです。