ネット上の誹謗中傷は、場合によっては犯罪となり、匿名だからバレない、責任追求されないといった話ではありません。
刑事上だけでなく、民事上での責任を負わせられることもあります。
ネット上の誹謗中傷はどんな罪に問われるの?
犯罪類型
脅迫罪(刑法222条1項)
生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、害を加えることを相手に告知し、脅迫すること。
対象は、人間であり、会社のような法人は対象となりません。「害悪の告知」は、一般に人を畏怖させるに足りる程度であれば成立します。
- 法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下です。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は3年です。
名誉棄損罪(刑法230条1項)
公然と事実を摘示し、他人の名誉を傷つけ、社会的評価を下げた場合に成立します。
「公然と事実を摘示」とは、不特定多数が認識できる状態で、具体的な事実としてその内容を広めること。真実かどうかは問われません。しかし「人」とは、団体や法人も含まれます。
- 法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下です。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は3年、告訴期間は6ヶ月。
侮辱罪(刑法231条)
事実を摘示しなくても、不特定多数が認識できる状態で、他人を侮辱した場合に成立します。
「バカ」、「アホ」など具体的事実を伴わない表現、「チビ」「デブ」などの身体的特徴に関する暴言などが含まれます。
- 法定刑は、拘留又は科料。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は1年、告訴期間は6ヶ月。
名誉棄損罪と侮辱罪の違いは「事実の摘示があるかどうか」です。しかし、どちらも「公然と」との規定があり、不特定多数の人が認識しうる状態で加害者の行為が行われる必要があります。
そして、どちらも「親告罪」です。親告罪とは、被害者の告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪です。
威力業務妨害罪(刑法234条)
威力を用いて人の業務を妨害する犯罪です。爆破予告、悪質なSNSの投稿、悪質なメール、迷惑電話、ビラ配布、バイトテロなどについて、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
最近では、衣料品店で購入した商品が偽物だと返品を迫り、その様子を動画撮影していたYouTuberが、威力業務妨害罪の嫌疑で逮捕されたケースもあります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は3年です。
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
不特定多数に嘘の情報を流したり、他人を欺いたりして業務を妨害する行為です。
事故や災害に便乗したデマ、試験中に不正な手段で入試問題をネット上に流す、大量の虚偽注文を行う、バイトテロ などについて、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下です。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は3年です。
信用毀損罪(刑法233条前段)
嘘の情報を流し、騙したりすることによって、他人の信用・信頼を低下させる行為です。信用とは、経済的な信用を指し、商品やサービスの質も含むとされています。
ネット上の誹謗中傷、産地偽装である粗悪品であるなどと虚偽の事実をネット上に投稿する行為などについて、信用棄損罪が成立する可能性があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
- 刑法上、未遂は規定されていません。
- 公訴時効は3年です。
強要罪(刑法223条1項)
脅迫や暴行を用いて、義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりする行為です。
店員に土下座を要求する、無理に退職を迫る、無理やり契約書にサインさせる、無理やり商品を購入させる(押し売り)などについて、強要罪が成立する可能性があります。
- 法定刑は、3年以下の懲役で、罰金刑がありません。
- 未遂であっても罰せられます。
- 公訴時効は3年です。
具体例・慰謝料
芸能人に対する誹謗中傷について
刑事上の責任
芸能人のスキャンダルやゴシップについて、加害者がネット上で誹謗中傷をした場合、加害者は名誉棄損罪にとわれる可能性があります。
そして、加害者が、名誉棄損罪の嫌疑で逮捕され有罪判決を受けた場合、前科がつきます。
民事上の責任
加害者が、芸能人や有名人のイメージを悪くした場合、影響が各所に及ぶことから、経済的損失が大きくなります。
慰謝料の相場
侮辱罪の慰謝料の相場は、およそ10万円程度と言われています。
名誉毀損の慰謝料の相場は、およそ10万円から100万円程度と言われています。
誹謗中傷と批判や意見との違い
「誹謗中傷」は法律用語で定義されていませんが、一般的に他人を悪く言ったり、根拠のないことを言いふらしたり、他人の名誉を傷つけることを言います。誹謗中傷の判断として、批判や意見との違いに区別がつきにくいという問題があります。
「批判」とは、物事を検討して客観的に判定・評価することです。
一方「批判」は、相手の行動・主張に関して客観的に判定や評価、反論することです。
誹謗中傷などのネット上のトラブルに対処する動き
これらの誹謗中傷に対する動きが加速してきており、2020年4月にはByteDance株式会社、Facebook Japan株式会社、LINE株式会社、Twitter Japan株式会社などを中心に「⼀般社団法⼈ソーシャルメディア利⽤環境整備機構」が設立しました。
「ソーシャルメディア利⽤環境整備機構(SMAJ)」とは、児童が安心・安全にインターネットを利⽤できる環境の整備を目的として2017年に設立した「青少年ネット利用環境整備協議会」を母体に、SNS上でのいじめや違法な有害コンテンツなどの課題やSNS等の安心・安全な利用環境実現を強化するため設立した⼀般社団法⼈です。
- 実効性の高い利用者保護施策の検討・実施
- SNSを活用した啓発活動のサポート
- 利用者属性に応じた利用環境整備の推進
誹謗中傷をされたらとるべき手段
インターネット上での誹謗中傷を削除する
誹謗中傷が書き込まれたときは、サイトや掲示板などの利用規約やガイドライン、削除方法を確認しましょう。
誹謗中傷を見つけたら、証拠の保全を急ぐことが重要です。削除されると民事上の損害賠償請求や刑事告訴が難しくなるためです。
証拠を保存した後は、サイト管理会社や運営会社、掲示板管理者にへ削除要請を行います。ツイッターやインスタグラムなどSNSのほか、ヤフーやグーグルなどの検索サイトへの削除要請も対象となり得ます。
削除リクエストには、数日かかることもあります。
削除要請をしても応じてもらえない場合の対策としては、法的手段として「仮処分」を用いることが一般的です。
「仮処分」とは、裁判の前に裁判の結果を待たずに勝訴の状態を確保することができる手続きです。仮処分の申し立ては、民事保全法に規定されています。
裁判所が仮処分命令を発すれば、相手方は削除に応じなければなりません。仮処分命令に従わない場合は、強制執行となります。
誹謗中傷の発信者の情報開示を請求する
プロバイダ責任制限法4条に基づき、サイト管理者やプロバイダに発信者情報の開示請求を行い、法的措置を講じるための準備をします。
必ずしも裁判手続きを経て行う必要はなく、発信者情報の開示請求をすることができます。
プロバイダ責任制限法は「特定電気通信」を開示請求の対象にしています。メールやDMの送信者は対象外となります。
- 発信者の住所
- 発信者の氏名
- メールアドレス
- 電話番号
- タイムスタンプ(発信時刻)
- SIMカード識別番号
- IPアドレス、ポート番号
- インターネット接続サービス利用者識別符号
IPアドレスや発信者情報のログの保存期間は、およそ3~6ヶ月程度とされています。こうした発信者情報開示請求により、投稿者を特定することができるケースもあります。
法的措置を講じる
誹謗中傷を行った人は、刑事上の責任だけではなく、民事上の損害賠償責任等も負わなければならない可能性があります。
しかし、だからといって、誹謗中傷を行った相手方と個人で直接やり取りをすると、身の危険を伴い、法律知識が乏しいため、適正な法的手段を講じることができない可能性もあります。
また、誹謗中傷した人に対して不満を投稿すると、誹謗中傷を行った人から訴えられる場合もあります。こうした問題を回避するため、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
誹謗中傷を行った人がとるべき行動
SNSに投稿する場合は、相手の立場なり、同じことを書かれた時にどう思うかを考えながら書き込むことが大切です。
まとめ
本記事では、ネット上の誹謗中傷について、どのような罪になるのか?また、誹謗中傷された側、誹謗中傷をした側がどのような対処、行動をするべきなのかなどを解説しました。
誹謗中傷された側が相手を特定するためには、手続きが複雑であり、手間や時間がかかります。誹謗中傷を行った側も個人で対処することは難しいと考えられます。
どちらの立場であってもネットに詳しい弁護士等の専門家に相談してみるのが一つの方法です。弁護士に依頼すれば、交渉をすべて行ってくれるため、精神的な負担が軽減されます。
また、SNS上で何か書き込みをするときには、今一度、投稿内容を見直すことも大切です。