「自己破産したら、今住んでいる賃貸を追い出されるのでは?」
「大家さんに破産を知られたら、退去させられてしまう?」
自己破産を考えたとき、住まいへの影響に不安を感じる方は少なくありません。
賃貸借契約は、破産手続きが始まっても自動的には終わりません。一方で、管財事件(破産管財人が選ばれる手続き)の場合や家賃の滞納がある場合など、注意すべき場面もあります。
今の住まいに不安を抱えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。
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この記事の目次
自己破産しても今の賃貸を追い出されない理由
自己破産をしても、今の賃貸から追い出されることは原則としてありません。破産は借金を整理する手続きであり、賃貸借契約を終わらせる効力はないためです。
ここでは、追い出されない法的な理由と、大家に破産が知られる経路を解説します。
大家が自己破産を理由に賃貸契約を解除できない理由
以前の民法には、賃借人が破産したときに大家が解約を申し入れられる規定(旧民法621条)がありました。この規定は、2004年の法改正で削除されています。
現在は、破産したという事実だけでは、契約を解除する理由になりません。賃貸借の解除が認められるのは、家賃の滞納などで大家との信頼関係が壊れた場合に限られるのが一般的です。
家賃を期日どおりに払っている限り、住まいを失う心配はほとんどないといえるでしょう。
- 家賃の滞納が続き、信頼関係が壊れた場合
- 無断の又貸し(転貸)や契約と異なる使い方をした場合
- 建物の老朽化など、正当な理由で更新を拒まれた場合
退去を求められるのは、家賃の滞納や契約違反など、破産とは別の理由がある場合です。自己破産そのものを理由に追い出されることはないと考えてよいでしょう。

契約書の「破産したら解除」条項が無効とされる理由
賃貸借契約書には「借主が破産したときは契約を解除できる」という条項(破産条項)が入っていることがあります。
最高裁判所は昭和43年11月21日の判決で、賃借人の破産などを理由にすぐ解除できるとする特約を無効と判断しました。根拠とされたのは、借主に不利な特約を無効とする旧借家法の規定(現在の借地借家法28条・30条にあたる)です。
その後、破産を理由とする解約申入れを認めていた旧民法621条も削除されました。そのため、破産条項だけを根拠にした退去要求は、認められない可能性が高いと考えられます。

大家に自己破産が知られる3つの経路
大家に自己破産の事実が伝わる経路は、主に次の3つです。
- 官報:破産手続開始決定や免責許可決定(借金の支払い義務を免除する決定)が掲載される
- 裁判所からの通知:滞納家賃があり、大家が債権者になっている場合に届く
- 保証会社:家賃を立て替えた保証会社が債権者になり、大家に伝わることがある
官報は国が発行する機関紙ですが、一般の大家が日常的に確認することは多くありません。
注意したいのは、滞納家賃がある場合です。滞納家賃も借金と同じく、債権者一覧表にすべて記載しなければなりません。大家だけを債権者から外すことはできないため、裁判所から大家に通知が届きます。
弁護士が債権者に送る「受任通知」も、滞納がなければ大家に送られることはありません。

手続き中の賃貸の扱い|同時廃止と管財事件の違い
自己破産の手続きには「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。どちらの場合も、賃貸借契約が自動的に終わることはありません。
ただし、管財事件では破産管財人が選ばれ、住まいに関する制限が加わります。
ここでは、手続きの種類ごとの違いと、手続き中に注意すべき点を解説します。
同時廃止と管財事件で異なる住まいへの影響
同時廃止は、目立った財産がない場合に選ばれる手続きです。破産管財人は選ばれません。手続き開始と同時に破産手続きが終わります。
管財事件は、一定の財産がある場合や、借金の原因を調べる必要がある場合に選ばれます。管財人が財産を調べるため、期間が長くなりやすい点に注意しましょう。
| 項目 | 同時廃止 | 管財事件 |
|---|---|---|
| 破産管財人 | 選ばれない | 選ばれる |
| 期間の目安 | 申立てから免責まで3〜4か月程度 | 6か月〜1年程度 |
| 賃貸借契約 | そのまま続く | 原則として続く(管財人に解除権あり) |
| 引越し | 制限なし | 裁判所の許可が必要 |
| 郵便物 | 転送なし | 管財人に転送される |
表のとおり、管財事件のほうが生活上の制限は多くなります。

管財事件で破産管財人が賃貸契約を解除するケース
お互いの義務がまだ残っている契約について、管財人が解除するか続けるかを選べるとするのが破産法53条の規定。賃貸借契約もこれにあたるため、理論上は管財人が解除することも可能です。
ただし、生活の拠点を失わせることは、破産者の生活の立て直しという破産法の目的に反しかねません。そのため、居住用の賃貸を管財人が解除することは通常ありません。
なお、敷金を返してもらう権利も財産の一つとして扱われます。住み続ける場合の扱いは裁判所の運用によって異なるため、事前に弁護士へ確認しておきましょう。

管財事件の手続き中に引っ越すときは裁判所の許可が必要
破産法37条により、管財事件の手続き中は、引越しや長期の旅行に裁判所の許可が必要です。無断で引っ越すと、免責に悪影響が出るおそれがあります。
許可は、管財人を通じて裁判所に申し立てるのが一般的。家賃の安い物件へ移るなど、正当な理由があれば認められることが多いでしょう。
- STEP1:弁護士に転居の予定と理由を伝える
- STEP2:管財人を通じて裁判所に転居の許可を申し立てる
- STEP3:許可が出てから新居の契約・引越しをする
また、管財事件では本人宛ての郵便物が管財人に転送されます(破産法81条)。引越し後の住所の扱いも含めて、事前に弁護士と相談しておくと安心です。

自己破産で賃貸を追い出されるおそれがあるケース
自己破産そのものは退去の理由になりません。ただし、家賃の支払い状況や保証の内容によっては、退去を求められたり、家族に負担がかかったりすることがあります。
ここでは、追い出されるおそれがある代表的な3つのケースを解説します。
家賃を滞納している場合は破産とは別に解除されるおそれがある
手続き開始前にたまった滞納家賃は「破産債権」(破産手続きの中でまとめて処理される債権)となり、ほかの借金と同じく免責の対象になります。ただし、免責されても滞納した事実が消えるわけではありません。
家賃の滞納が数か月続くと、信頼関係が壊れたとして契約を解除されるおそれがあります。解除は破産手続きとは別に進むため、手続き中でも退去を求められる可能性がある点に注意しましょう。
滞納がある方は、申立て前に弁護士へ状況を伝えておくことが大切です。

保証会社が家賃を立て替えている場合は保証の継続に注意する
家賃を滞納すると、保証会社が大家に代わって支払うことがあります。このとき保証会社は、立て替えた家賃をあなたに請求する権利を持ちます。
この請求権は破産債権となるため、保証会社も債権者として破産を知ることになるでしょう。保証会社との関係が悪化すると、保証の継続を断られるおそれもあります。
保証が受けられなくなった場合、大家から新しい保証人を求められることも考えられます。対応に迷ったら、契約書を用意して弁護士に相談してください。

家賃に家族の連帯保証人がいる場合は保証人に請求される
破産法253条2項により、免責の効果は連帯保証人には及びません。滞納家賃がある場合、大家は連帯保証人である家族に支払いを求めることができます。
家族が支払えなければ、家族も債務整理を検討しなければならないケースもあるでしょう。家族関係のトラブルを防ぐためにも、申立て前に事情を伝えておくことをおすすめします。

今の賃貸を守りながら自己破産を進める4つのポイント
今の住まいを守るためには、手続きの前後でやるべきことと避けるべきことがあります。特に、家賃の払い方を間違えると、住まいだけでなく免責にも影響しかねません。
ここでは、住まいを守りながら手続きを進めるための4つのポイントを解説します。
申立て後も毎月の家賃は期日どおりに払い続ける
手続き開始後の家賃は、破産債権にあたらず免責の対象になりません。毎月の家賃を期日どおりに払うことが、住まいを守るいちばんの方法です。
破産しても、99万円までの現金は「自由財産」として手元に残せます(破産法34条3項)。家賃はこの自由財産や、手続き開始後の給料から支払いましょう。
収入が減って家賃の支払いが難しい場合は、家賃の安い物件への転居も選択肢の一つです。

申立て前に滞納家賃だけを先に返さない
偏頗弁済とは、返済できない状態になった後に、一部の債権者だけに返済することです。住まいを守りたい気持ちから、滞納家賃だけをまとめて返したくなる方もいるでしょう。
しかし、偏頗弁済は免責不許可事由(免責が認められない理由)にあたり、管財人に取り戻される(否認される)こともあります(破産法162条・252条1項3号)。毎月の家賃を期日に払うことと、たまった滞納分を返すことは別と考えてください。
家族が自分のお金で立て替えて払う場合は、問題にならないこともあります。判断が難しいため、支払う前に必ず弁護士へ相談しましょう。

申立て前に契約書と保証会社の種類を確認する
まずは賃貸借契約書と保証委託契約書を手元に用意しましょう。確認しておきたいのは、次の4点です。
- 破産条項(破産を理由とする解除条項)の有無
- 保証会社の名称と、保証契約の更新条件
- 連帯保証人の有無
- 次回の契約更新の時期
保証会社が信用情報機関に加盟しているかは、CICの会員会社検索で確認できます。加盟している保証会社は、審査の際に信用情報を照会する可能性も否定できません。
契約書の読み方がわからない場合は、そのまま弁護士に見せるのが確実です。

住まいへの影響は申立て前に弁護士へ相談する
家賃の払い方や引越しの時期は、申立ての前に決めておくのが理想です。滞納が積み重なってからでは、契約解除の手続きが先に進んでしまうかもしれません。
弁護士に依頼すれば、契約内容を踏まえて住まいへの影響を個別に判断してもらえます。申立てのタイミングを住まいの状況に合わせて調整できる点も、弁護士に任せるメリットの一つ。
「今の家に住み続けられるか」が不安な方は、まずは弁護士に相談して状況を確認してみてください。

自己破産後に新しく賃貸を借りる方法
自己破産の後でも、新しく賃貸を借りることは可能です。ただし、保証会社の審査で信用情報が確認されることもあるので、物件選びは工夫しましょう。
ここでは、破産後に賃貸を借りるための4つの方法を紹介します。
信用情報機関ごとに異なる自己破産の登録期間を確認する
| 信用情報機関 | 主な加盟会社 | 登録期間の目安 |
|---|---|---|
| CIC | クレジットカード会社・信販会社など | 契約終了から5年以内 |
| JICC(日本信用情報機構) | 消費者金融・クレジットカード会社など | 契約終了から5年以内 |
| KSC(全国銀行個人信用情報センター) | 銀行・信用金庫など | 破産手続開始決定から7年以内(官報情報) |
保証会社がどの信用情報機関に加盟しているかによって、審査に影響が出る期間は変わります。登録期間が過ぎれば、破産の情報は信用情報から削除される仕組みです。
自分の登録状況を知りたい場合は、CIC・JICC・KSCに本人開示を請求してみましょう。引っ越し先を探す前に、一度確認しておくと安心でしょう。

破産後は信用情報を照会しない保証会社の物件を選ぶ
| 種類 | 特徴 | 破産後の審査 |
|---|---|---|
| 信販系 | クレジットカード会社などが運営し、信用情報機関に加盟している | 登録期間中は通りにくい |
| 独立系 | 賃貸保証を専門とし、収入や支払い能力を重視する傾向がある | 信用情報を照会しない会社なら通る可能性がある |
物件を探すときは、不動産会社に「信販系以外の保証会社を使えるか」を確認しましょう。複数の保証会社から選べる物件もあります。
ただし、独立系の保証会社でも、業界団体などで家賃の滞納履歴を共有している場合があります。過去に家賃を滞納していると、審査に影響するおそれがある点は押さえておいてください。
安定した収入があることを示せれば、審査に通る可能性は高まるでしょう。

保証人なしで借りられるUR賃貸住宅や公営住宅を検討する
UR賃貸住宅は、都市再生機構(UR)が管理する賃貸住宅です。礼金・仲介手数料・更新料がかからず、保証人も必要ありません。
| 区分(単身の場合) | 入居の基準 |
|---|---|
| 家賃6万2,500円未満 | 平均月収が家賃の4倍以上 |
| 家賃6万2,500円以上 | 平均月収が25万円以上 |
| 貯蓄で申し込む場合 | 貯蓄額が月額家賃の100倍以上 |
公営住宅は、都道府県や市区町村が運営する住宅です。収入が一定以下であることなどが条件で、家賃は収入に応じて決まります。
応募が多く抽選になる地域もあるため、時間に余裕をもって申し込みましょう。連帯保証人の要否など細かい条件は自治体ごとに異なるので、お住まいの窓口で確認してください。

収入が少ない方は住宅セーフティネット制度と居住サポート住宅を利用する
住宅セーフティネット制度は、低所得者や高齢者など、住まい探しに配慮が必要な方を支援する国の仕組みです。登録された住宅は、こうした方の入居を拒まない賃貸住宅として専用サイトで公開されています。
2025年10月には改正法が施行され、「居住サポート住宅」と「認定家賃債務保証業者」の制度が始まりました。居住サポート住宅では、居住支援法人などが見守りや福祉サービスへのつなぎを行います。
認定保証業者は、居住サポート住宅に入る方の家賃保証を原則として引き受ける仕組み。利用したい場合は、市区町村の住宅窓口や居住支援法人に相談してみてください。

自己破産と賃貸に関するよくある質問
ここでは、本文では取り上げきれなかった疑問を3つ取り上げます。
家族の名義なら自己破産後でも賃貸を借りられますか?
【破産後に家族と住む方】収入のある家族が契約者になれば、借りられる可能性は十分にあるでしょう。
入居審査は、契約者本人の収入や信用情報をもとに行われます。そのため、配偶者や親など収入のある家族が契約者となり、同居人として入居する方も少なくありません。
ただし、実際には住まない家族の名義だけを借りる「名義貸し」は契約違反にあたるおそれがあります。入居者として正しく申告したうえで契約しましょう。
社宅に住んでいる場合、自己破産すると退去になりますか?
【社宅・借り上げ社宅に住んでいる方】自己破産を理由に、社宅から退去を求められることは基本的にありません。
社宅は勤務先との契約にもとづく住まいであり、自己破産は解雇や退去の正当な理由になりません。破産の事実が会社に通知されることも、原則としてないでしょう。
ただし、会社から借入れをしている場合は、会社も債権者になります。債権者一覧表に会社を記載するため、会社に破産が知られる点に注意してください。
生活保護を受けながら今の賃貸に住み続けられますか?
【生活保護の受給を考えている方】家賃が住宅扶助の上限内であれば、今の賃貸に住み続けられる可能性があります。
生活保護の住宅扶助には、地域や世帯人数ごとに家賃の上限額があります。今の家賃が上限を超えていると、より安い物件への転居を求められるかもしれません。
生活保護を受けていても、自己破産の申立てはできます。申立て費用の負担を抑える方法もあるので、弁護士に相談してみてください。
まとめ:自己破産しても家賃を払っていれば賃貸を追い出されない
自己破産をしても、それだけを理由に今の賃貸から追い出されることはありません。契約書の破産条項も、そのまま効力が認められる可能性は低いでしょう。
- 申立て後も毎月の家賃は期日どおりに払う
- 滞納家賃だけを先に返さない(偏頗弁済に注意)
- 管財事件中の引越しは裁判所の許可を得る
- 契約書と保証会社の種類を申立て前に確認する
家賃の滞納がある場合は、破産とは別に契約を解除されるおそれがあります。今の住まいを守るためにも、申立ての前に弁護士へ相談することが大切です。

2010年、早稲田大学卒業後、同大学大学院法務研究科を修了し、2016年東京弁護士会にて弁護士登録。都内法律事務所での勤務を経て独立し、数多くの人を助けたいという想いから「弁護士法人あまた法律事務所」を設立。
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