交通事故による後遺障害慰謝料を請求するためには、後遺障害診断書が必要です。診断書の記載内容は、入通院先の医師によってに違いが生じます。記載されている内容によっては、診断書を提出しても後遺障害の等級が認定されず慰謝料も受け取れくなるため注意が必要です。
後遺障害診断書とはなにか
後遺障害の認定に必要な診断書は、正式名称を「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」といいます。交通事故で負った怪我が完治せずに残ってしまった後遺障害の内容・程度を記載する書類です。
診断書は後遺障害の等級認定には欠かせない書類であり、作成できるのは医師のみです。
後遺障害診断書は等級認定に必要
交通事故によるケガの後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定を申請するさいの必須アイテムです。
交通事故で後遺障害が残ると被害者は加害者に対し「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」等の賠償金を請求できますが、賠償金を請求するためには後遺障害等級の認定を申請しなければなりません。
そこで、必ず用意しなければならないのが後遺障害診断書です。申請すると診断書の内容をもとに審査が行われ、後遺障害等級が認定されます。後遺障害を認定してもらうだけでなく、適正な等級で認定してもらうためには、正しい書式で記入漏れがないように作成した診断書を用意する必要があります。
診断書は誰に書いてもらえる?
診断書は通院し治療を行っている主治医に作成を依頼します。医師法(第19条第2項、第22条)により、作成が可能なのは医師のみと定められており、医師免許を取得していない者が作成しても無効となります。
中には病院ではなく、整骨院(接骨院)や整体院にのみに通ってリハビリをしたいと思う方もいるでしょう。腕の良い整体師さんがいれば頼りたくなりますし、健康保険が適用になる施術もあります。病院よりも良いと考える方のは不思議ではありません。しかし柔道整復師は医師ではないため、整骨院(接骨院)で後遺障害診断書を作成することは不可能です。後遺障害の慰謝料を獲得するためにも、交通事故によるケガは定期的に病院で診察を受けるようにしてください。
ただ、複数の病院に通院している方もいる場合は、どこの医師に診断書をお願いすれば良いのかと迷ってしまいますよね。ベストなのは、治療方針を立ててもらっている医師への依頼です。しかし頸椎捻挫や腰椎捻挫はA病院、鼻骨の骨折はB病院、頭部外傷による高次脳機能障害はC病院など症状により別の医療機関で治療しているときは、それぞれで診断書を作成してもらうほうが良いケースもあります。
後遺障害診断書の書式をあらかじめ用意している医療機関もありますが、被害に遭った側で用意するケースが多いです。自賠責保険会社に請求して送付してもらえますが、インターネットでダウンロードしての入手もできます。急ぎの時はインターネットでダウンロードするのが早いでしょう。一般的な書式と歯科専用の書式がありますので、間違わないように注意してください。
※後遺障害診断書のダウンロードはこちらから
診断書を作成するタイミング
後遺障害診断書の作成は「症状固定」のタイミングが一般的です。症状固定とは怪我の治療を継続してもこれ以上の回復が見込めない状態のことであり、医師によって症状固定となる時期が判断されます。
通常は症状固定と判断されるまで、6か月以上の通院が必要と言われています。例えば、むちうちなど治療によってある程度の改善が見込めるような症状は、固定までに6ヶ月以上が目安とされています。ただし症状や受傷部位によって異なりますので、ケースバイケースではあります。
後遺障害診断書を作成する時期は、自身の症状を見ながら医師に相談して決めるのがベストでしょう。
診断書に記載される内容
後遺障害診断書の記載内容に不備や誤りがあると正しい等級が認定されない可能性があるため、必要な情報を正確に記入しなければなりません。
診断書には、以下のような必要事項を医師に記入してもらう必要があります。
①被害者の基本情報
被害者の氏名・性別・生年月日・年齢・住所・職業などの基本的な情報が記載されます。
②受傷日時
交通事故にあった年月日。むちうちなど、後から症状が出た後遺障害だとしても、事故にあった年月日を記載してあるか確認してください。
③症状固定日
医師が症状固定と判断した年月日。
④当院入院期間・通院期間
後遺障害診断書を作成してもらう病院に入通院していた期間。他院での治療期間は含まずに記載します。
⑤傷病名
症状固定のタイミングで残っていた後遺障害の名前。「頭部外傷」「頸椎捻挫」「肋骨骨折」など、正式な傷病名が全て記載されているか確認してください。
⑥既存の障害
今回の事故以前に存在していた精神または身体の障害を記載されます。既存障害を記載しなければ、後から相手方の保険会社と揉めるおそれがあります。トラブルを避けるためにも、症状、部位、程度について具体的に記載してもらいましょう。
特に医師が交通事故の後遺症と既存障害の関係はないと診断しているなら、はっきりと記載してもらってください。
⑦自覚症状
被害者本人が自覚している症状について記載されます。被害者本人しかわからない症状が記載されるため、普段から医師に自分の状況を明確に伝えましょう。そして正しく書かれているか確認してください。
「原因は不明」「何となく違和感がある」といった抽象的な表現は避けましょう。後遺障害と認められるには、検査結果をもとにしたような医学的に証明できる状態が望まれます。
⑧他覚症状および検査結果
被害者以外の人が医学的・客観的に捉えることができる症状を他覚症状といい、医師が各種検査で確認した医学的所見が記載されます。他覚症状が認められるためには、レントゲンやMRI、CTなどの画像証拠や神経学的検査の結果が記載されている必要があります。
症状の裏付けができなかったときは、原則として後遺障害が認められません。等級認定においては、「他覚症状および検査結果」の記載内容は非常に重要となります。
追加で受けたい検査があれば、医師に伝えて実施してもらいましょう。
⑨障害内容の増悪・緩解の見通し
症状が今後改善するか、それとも悪化するかについての見通しが記載されます。
診断書の作成にかかる費用
後遺障害診断書の作成費用は一律ではありません。自由に決めることができるため、医療機関や医師によって異なります。一般的には5,000円〜10,000円程度で作成してもらえますが、高額だと2万円を超えるところもあります。
診断書の作成費用を加害者側に請求するときのためにも、領収書は大切に保管しておいてください。
依頼から受け取るまでは1週間程度が目安ですが、1か月以上かかることもあります。今すぐ作成してもらうことは難しいため、期間に余裕をもって依頼するのがおすすめです。
費用や作成期間に不安が生じないよう、あらかじめ病院側に確認しておくとよいでしょう。
交通事故による後遺障害とは?
交通事故による怪我が治癒したにもかかわらず、その後も残り続ける神経症状や機能障害を「後遺症」といいます。
そして後遺症の中でも交通事故が原因であると医学的に証明され、さらに労働能力の低下(あるいは喪失)程度が自賠責保険の等級に該当するものが「後遺障害」として扱われます。つまり、必ずしも全ての後遺症が後遺障害として扱われるわけではありません。
後遺症と後遺障害は混同されやすいのですが別物であることは理解しておいてください。
後遺障害等級の認定とは
後遺症が残ったとしても、直ちに後遺障害に関する補償を受けられる訳ではありません。「損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所」という審査機関に「後遺障害等級」の認定を申請し、審査に通ることで補償が決定します。
等級認定を申請する際には、いかに後遺障害の内容を証明する書類を提出できるかが重要になります。診断書は、このタイミングで提出することになります。
後遺障害等級は1~14に分類される
後遺障害等級は障害が残った部位や症状の程度によって1〜14級に分類されることが、「自動車損害賠償保障法施行令」の後遺障害等級表で規定されています。
交通事故でよくあるむちうち(頸椎捻挫)は14級、頭部外傷による高次脳機能障害や頸椎損傷による四肢障害などの重い障害が残った場合は1級に認定されるのが基本です。
等級が認定されることで請求できる損害賠償
後遺障害等級が認められると、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を請求できます。それぞれの賠償金の内容は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
「慰謝料」とは、加害者の言動によって精神的苦痛を受けた際に請求できる賠償金です。後遺障害が残ると以前と同じように生活できなくなり、日々ストレスを感じるでしょう。このような精神的苦痛に対する損害賠償として、後遺障害慰謝料を加害者に請求できます。
後遺障害逸失利益
後遺障害のため労働能力に支障が出ると、働けなくなった分の収入が減少してしまいます。後遺症がなければ得られたと思われる将来の収入のことを「逸失利益」といい、加害者に損害賠償金として請求できます。
適切な診断書を作成してもらうためにできること
後遺障害診断書の内容によって等級が決まるため、診断書に記載されている内容はとても重要になってきます。適切な診断書を作成してもらうために、被害者本人ができることはやっておきましょう。
自覚症状をしっかりと医師に伝える
定期検診では、被害者本人が感じている症状をしっかりと医師に伝えるようにしてください。等級に認められるためには画像検査や神経学的検査の結果だけでなく、被害者本人が感じている自覚症状についても審査されるためです。
特に、むちうちなどの見た目でわかりにくい症状については、どのような自覚症状があるのかの記載が非常に重要になります。「症状が残る部位」「痛みの程度」「どんなときに特に痛むか」「日常生活にどのように影響するか」など、検診の際には被害者本人が感じている自覚症状について医師に細かく訴え説明するようにしましょう。
「医師が忙しそうで話しにくい…」といったことがあるかもしれませんが、痛みの度合いなど本人にしかわからないことはあります。症状について感じていることは遠慮せずに伝えてください。
症状に一貫性・連続性があることを伝える
初めて診察を受けたときから連続かつ一貫して症状が続いていなければ、事故と後遺障害との間の因果関係が否定されてしまう等級認定が受けられないおそれがあります。症状の一貫性・連続性を主張するためにも、事故の直後はすぐに診察を受け検査結果を残すことが大切です。
弁護士に相談して診断書の内容を見てもらう
後遺障害の等級に認めてもらうためには、正確な情報を記載した診断書が必要です。しかし、診断書の作成は、医師が専門とする分野ではありません。医師によって記入方法が異なるうえに、曖昧な表現がなされていたり、必要な診断結果が記載されていなかったりする可能性があります。
後遺障害慰謝料をしっかり請求するためには、被害者側が診断書の書き方を主治医に伝え対応してもらうしかありません。しかし、医学的知識に詳しくない一般個人では、記載内容が適切であるか判断するのは難しいと思われます。それに知識がない人物の指示を、素直に聞いてくれるとは考えられません。そこで、専門知識が豊富な弁護士への相談が有効になります。
主治医が診断書を書いてくれないときの対処法
医師に後遺障害診断書を作成してもらえない事例はあります。
医師が診断書の作成を断る理由はほとんどが正当ではあるのですが、まれに医師の都合というケースは実際にあります。主治医が後遺障害診断書を作成してくれないときはどうすれば良いのか、対処法を確認していきましょう。
正当な理由で診断書の作成を断られるケース
医師が正当な理由で診断書の作成を断るケースを紹介します。また、断られたときの対処法についても解説するので参考にしてください。
医師がまだ症状固定と判断していない
医師が診断書を作成するタイミングは症状固定になったときです。患者が「もう治る見込みはない」と感じていたとしても、主治医がまだ治療を継続する必要があると判断していれば、症状固定と判断されず診断書も作成してもらえません。
症状固定にしてくれと、駄々をこねるような態度はしないようにしましょう。
医師が治療の経過を確認できない
診断書には現在残存している症状を記載すればいいだけでなく、どのように怪我が回復したかについても記載する必要があります。そのため、医師が被害者の治療経過を確認できていなければ、診断書の作成はできないと断られることがあります。
医師が治療経過が確認できない例には、被害者が通院を怠り受診している回数が少ない場合や、転院して新しい医師に診察してもらっていた場合などが挙げられます。
医師に後遺障害が残っていないと判断された
後遺障害が残っていないと判断されると、診断書の作成はできないと言われることがあります。むちうちなどの後遺症が残っていたとしても、MRIなどの画像に異常が見られなければ診断書を書くほどの症状ではないと判断されることがあります。
医師によっては後遺障害の認定に詳しくなく、対象となるのは重傷のみと認識していることがあります。現時点で痛みやしびれが残っているのであれば、たとえ症状が酷くなくても等級に該当することはあります。軽傷でも認定されることを伝えてみてください。
主治医に後遺障害がないと言われてもあきらめず、「今の状況をそのまま記載してください」と診断書の作成を依頼してみましょう。状況を正確に記載すれば、等級認定が認められる余地は十分にあります。
正当な理由なく診断書の作成を断られるケース
医師が正当な理由なしに後遺障害診断書の作成を断る行為は法律で禁止されています(医師法第19条2項)。ですが、医師の事情など正当ではない理由で診断書の作成を断られる事例もあります。
健康保険を使って治療している
健康保険を使って治療していると、後遺障害等級認定に必要な書類は作成できないと断られることがあります。しかし、健康保険を使って交通事故の治療を受けることは認められていますので、自賠責保険へ等級の認定を申請しても問題ありません。
医師が後遺障害診断書の書き方を知らない
主治医に後遺障害診断書の作成を依頼しても、「当院では対応できない」などのあやふやな理由で断られることがあります。このような言い分で断られる理由として、医師が診断書の書き方をよくわかっていないことが挙げられます。
医師の仕事は怪我や病気の治療であるため、治療できずに残ってしまった後遺症への対応は消極的になりがちです。「医師免許を持っているのに知らないなんてあり得るの?」と驚いてしまいますが、すべての医師が万能とは限らず、正しい診断書の書き方を熟知していないケースはあります。診断書の書き方を知らないことを理由に、断られる事例は一定数あるのです。
しかし、医師は後遺障害診断書を作成しなければならない義務があると法律でも定められていますし、正当な理由なしに作成依頼を拒否できません。医師が診断書の書き方を知らないのであれば、こちらから書き方を説明するのが有効です。
後遺障害診断書を入手した後の流れ
後遺障害診断書を入手した後は、後遺障害等級認定を申請してから示談交渉に移ります。
かかる期間としては、症状固定から等級認定を受けるまでに約2ヶ月、等級認定から示談成立までには約2〜3ヶ月かかると考えておいてください。
後遺障害等級の認定を申請する
後遺障害診断書を入手したら、「損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所」という機関に等級の認定を申請します。申請結果は1〜2ヶ月程度でわかります。
等級認定の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。どちらにもメリット・デメリットがあるのですが、高額の賠償金を受け取るためには被害者請求を選ぶのがおすすめです。
加害者側の任意保険会社を仲介して等級認定を申請する方法です。被害者は相手側の保険会社に後遺障害診断書を提出するだけでよく、残りの手続きは相手方の保険会社が代わりにおこなってくれます。
事前認定では、等級認定の手続きを相手方の保険会社に全て任せられるため、被害者側に必要書類を揃えるための手間や費用がかかりません。交通事故の賠償金について詳しくない人や、忙しく時間がない人などにとっては、保険会社がすべてやってくれる事前認定はとてもラクです。
ただ、保険会社に一任すると、加害者側が有利になるような書類しか添付されない懸念が出てきます。被害者にとっては不利になりやすく、正しい等級認定が受けられず獲得できる賠償金の金額が低くなってしまうリスクが高くなります。
また、事前認定で等級認定がなされると、保険金を受けとるのは示談が成立したタイミングになります。等級認定を受けた段階で、保険金を先払いしてもらうことはできません。
被害者本人が相手方の自賠責保険会社に必要書類を直接提出する方法です。あらゆる資料を被害者本人が収集する必要があるため、事前認定と比べると時間や手間がかかるというデメリットがあります。
被害者請求を利用するメリットは、適切な後遺障害等級が認定されやすくなる点です。被害者にとって有利になる書類を集めることができ、手続きの透明性も確保されます。また被害者請求では、等級認定が認められた時点で自賠責保険から後遺障害慰謝料を先払いしてもらえます。慰謝料を早く受け取りたいなら被害者請求が良いでしょう。
自分では完璧に書類を用意できる自信がないのであれば、弁護士に依頼しましょう。面倒な手続きを、すべてやってくれるので安心です。
加害者側と示談交渉する
等級認定を受けたら、加害者側との示談交渉に移行します。示談交渉では、加害者が加入している任意保険会社と損害賠償の金額などについて話し合います。
示談交渉では相手方の保険会社から、示談金、示談金の内訳(車両の修理代、慰謝料、逸失利益など)、過失割合といった内容が記載された示談書が送付されます。示談書の内容を確認し納得できれば、示談書に署名捺印して示談成立になります。
ただし、提示される示談金は、相手方の保険会社が決めた額になります。裁判で認められる適正な金額よりも低額になっていることがほとんどですので、保険会社側の主張を鵜呑みにすると損になる可能性が高くなります。粘り強く交渉を行うことで、賠償金を増額できたという事例は多々あるのが現状です。
後遺障害慰謝料がもらえるかは診断書次第
後遺障害の慰謝料を請求するためには、医師に後遺障害診断書を作成してもらい等級認定の審査を受ける必要があります。後遺障害が認められるか、何等級になるかは、診断書の記載内容によって決まるといえるでしょう。
診断書に記入漏れがあると適切な等級が認められず後遺障害慰謝料がもらえなかったり、もらえても金額が低くなってしまいます。正しい等級を認定してもらい慰謝料を増額するためにも、弁護士に診断書の内容を確認してもらうことをおすすめします。
また医師が診断書を作成してくれないといったときも、弁護士が働きかけてくれます。一個人の依頼には応じてくれなくても、弁護士が登場すれば態度を変える医師は少なくありません。もし後遺障害が認定されなかったとしても弁護士なら書類を修正しての再提出や、異議申し立てのサポートをしてくれますし、慰謝料をもらえる可能性が高まります。
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