交通事故で依頼した弁護士は、示談交渉の途中でも変更できます。
示談の結果は弁護士の腕に関わるところもあるので、満足する結果を得るには誰に依頼するかは重要です。不満や悩みが生じているなら、弁護士の変更を検討するのは有効な手段です。
交通事故で弁護士に依頼するメリット
交通事故の損害賠償については、加害者側と話し合いをする示談交渉で決定します。
示談交渉を弁護士に依頼すると、示談金が増額されたり交渉がスムーズに進んだりと様々なメリットが生じます。
メリット1:慰謝料が増額される
弁護士に依頼すると慰謝料を増額できる可能性が高くなります。
交通事故の慰謝料を含む賠償金は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3つの算定基準があります。
自賠責基準はすべての自動車が加入を義務づけられている自賠責保険の算定基準です。事故に対する最低限の補償を目的としているため、もらえる慰謝料は3つの中で最も低額になります。
任意保険基準は加害者が加入している任意保険会社が用いる慰謝料算定基準です。自賠責保険よりは高額になるといわれますが、実際にはそれほど違いはなく少し上回る程度です。
弁護士基準(裁判基準)は弁護士に依頼するか、訴訟を起こすと適用される算定基準で裁判基準とも言われています。
弁護士がいれば裁判を起こさなくても適用され、獲得できる慰謝料は3つのなかで最も高額になります。
例えば、ケガで3か月通院すると、自賠責基準での慰謝料の目安は25万8000円です。しかし弁護士基準では53万円になります。
自賠責基準と比べると2〜3倍の金額になる事例は珍しくなく、弁護士基準こそ適正な慰謝料といえるでしょう。
メリット2:請求漏れの心配がなくなる
弁護士に依頼すると、請求漏れのリスクがなくなります。
交通事故の被害者が請求できる損害賠償には治療費やケガに対する傷害慰謝料など様々なものがあります。なかには、事故で仕事を休んだことに対する補償である「休業損害」や、後遺症が残った場合に将来受け取るはずだった利益に対する補償を求める「後遺障害逸失利益」など一般の方には聞き慣れないお金も含まれます。
相手方の保険会社は支払うお金をなるべく減らしたいと考えますから、漏れに気づいても指摘しない可能性があります。そのため、損害賠償の請求は法律の専門家である弁護士に任せるのが安心と言えるでしょう。
さらに、弁護士基準は慰謝料だけでなく、休業損害や入院雑費など、その他の損害賠償にも適用され、増額が見込めます。
メリット3:交渉をスムーズに進められる
弁護士に依頼すれば交渉をスムーズに進められ、被害者の不利にならないよう、きちんと主張してもらえます。結果、納得のいく結果になりやすいといえます。
交通事故では被害者自身が相手方の保険会社と示談交渉を行わなければなりません。相手は交渉にも慣れているプロであり、一枚上手です、一般の方が話をしてもうまくいかず、結果的に不利な条件で示談させられてしまう恐れが生じます。
強引に交渉を進めたり、わざと対応を遅らせたりして交渉の主導権を握ろうとするような、悪質な対応をする保険会社も存在しています。また、交通事故では後遺障害の認定など、各種手続きも慣れていないと時間がかかりがちです。被害者が自身で示談交渉に当たると時間がかかりますし、ストレスも大きくなってしまうでしょう。
しかし弁護士と揉めると裁判になる可能性があるので、保険会社としては無理な主張はしにくくなります。弁護士がいれば、希望とおりの結果を得られやすくなるでしょう。
示談交渉を依頼する弁護士の選び方
ひとくちに弁護士と言っても、専門分野や被害者との相性などは様々です。後悔しないよう自分に合った弁護士を見つけるための選び方を紹介します。もし自分に合わないと感じたら、弁護士の変更を考えてください。
きちんと向き合ってくれる
弁護士を選ぶときは被害者一人一人に、きちんと向き合ってくれる人かどうかを見るようにしましょう。
弁護士の人柄や仕事の進め方は、非常に大切な選び方のポイントです。
レスポンスが遅くあまり信頼できない、難しい専門用語ばかり使い説明がわかりにくいなど、相性が悪いと感じる弁護士はおすすめできません。納得して示談交渉を進めるのは難しくなると思われます。
弁護士に依頼するときは実際に事務所に足を運んで相談を行い、信頼して任せられる相手かどうかを判断してください。
交通事故案件の実績が豊富
交通事故案件を得意分野にしていて、示談交渉に強い弁護士に任せるほうが安心です。
交通事故の損害賠償は相場があるのですが、示談交渉によって左右される部分はあります。弁護士の腕次第で受け取れる示談金が変わってくる可能性があるため、交通事故の事案に強い弁護士を選ぶようにしましょう。
弁護士にはそれぞれ得意分野があります。特に交通事故では過去の判例や医学的な知識も必要になるため、豊富な案件に携わってきた実績が大切になります。
費用を明確に説明してくれる
費用がどのくらい必要になるのか、きちんと説明してくれる弁護士を選びましょう。
弁護士に依頼すると損害賠償が増額される可能性が高くなります。しかし、弁護士費用よりも増額分が少ないと赤字になってしまう「費用倒れ」が発生してしまいます。
弁護士費用は事務所によって異なります。公式サイト等を確認するだけでは不明な点も多いです。はじめに損害賠償はどれくらいになり、弁護士費用はいくらになるか、見積もりを出してもらうようにしてください。
交通事故で依頼した弁護士は変更できる?
交通事故で依頼した弁護士は変更できます。
示談交渉の進め方や内容に不満があれば、弁護士の変更を考えるのは一つの方法でしょう。ただ、注意点もありますので気を付けてください。
交通事故の弁護士は変更できる
交通事故の示談交渉を任せる弁護士は変更できます。
弁護士とは委任契約書を取り交わして事件の交渉などを依頼することになります。正式な契約書を交わしているので、途中で契約を取り止めて弁護士を変更するのは難しいのではないかと思われるかもしれません。
しかし、一度契約してしまったら、最後まで変更できなことはありません。今の弁護士に不満や不安を抱えてしまうと、交渉を進めても納得のいく結果にならない可能性が高いため弁護士を変更すべきといえるでしょう。
弁護士を変更しても意味がないケースはある
弁護士を変更すれば、交渉のやり方を今までとは違った形で進められるようになります。ただ、内容によっては、弁護士を変更しても意味がないケースはあります。
代表的な3つの例を紹介します。
- 一度結んだ示談を破棄してやり直す
- 病状固定を取り消す
- 通院日数が少なすぎて慰謝料が減額されるのを防いでほしい
以上のような要望は、弁護士を変えても受け入れられません。
一度合意して示談書に署名捺印してしまうと基本的にやり直しはできなく、示談の破棄は難しくなります。
また、病状固定は医師の診断に基づくものであり、通院日数が少ないのはきちんと通院しなかった被害者に原因があると考えられ、弁護士の力で改善するのは困難なのです。
弁護士の変更を検討したいケース
交通事故の示談交渉を進めるにあたり、弁護士の変更を検討すべきケースを解説します。
不満をもっているのに弁護士を変更しないと、結果に対する満足感や納得感が減ってしまいます。不安な思いは消えませんし、ずっと心にしこりが残った状態になります。
交通事故の示談交内容はケガの治療や今後の生活にも影響を与える重要なものであり、遠慮する必要はありません。気になることがあれば、弁護士の変更を検討するようにしましょう。
やる気がなく対応が遅い
弁護士にやる気がない、すぐに対応してくれないといったなどで、交渉の進展に不安があるなら、変更を検討すべきといえます。
交渉の進捗について全然報告してこない、連絡したくても電話がつながらない、折り返しの連絡もない、など明らかに対応が遅い弁護士は、適切な対応をしているとは言えず要注意です。やる気があるとも言えません。
弁護士はいくつもの案件を抱えていて忙しいのが普通ですし、すぐに連絡できない状況は感がられるのですが、あなたへの対応が後回しにされている可能性があります。
放っておくと示談成立までに時間がかかってしまう恐れがあるでしょう。
ただ、交通事故の場合は、後遺障害等級認定のように手続きに1~2か月かかるものもあるため、対応が遅く見えてもすべてが弁護士の責任とは限らない面があります。
相性が合わない
弁護士とはお互いに信頼し合える良好なパートナー関係を築いていくのが望ましく、相性に問題のある弁護士なら変更するのも1つの方法です。
交通事故の示談交渉には早くても2~3か月程度はかかり、長い時間つき合うことになります。なので、相性が合わないのはストレスになるでしょう。
なかには、事務所の代表や相談したときの弁護士は頼りになりそうだったけれど、担当になった弁護士と相性が良くないこともあります。弁護士も人間でどうしても相性の良し悪しはありますので、合わないなら我慢するよりも変更を検討してみてください。
交通事故の知識があまりない
依頼した弁護士が交通事故を専門にしていなかった場合も変えるべきといえます。
弁護士にはそれぞれ得意分野があり、事業歴が長い弁護士だからといってすべての案件に精通しているわけではありません。
交通事故には後遺障害等級認定のように、医学知識を求められたり、特別な手続きを要する場面があり、専門知識や経験の有無が損害賠償額に影響を与える場合もあります。
話を聞いてくれない
一方的に話をしてこちらの言うことを聞いてくれない、専門用語ばかり使うので話が分かりにくいといった弁護士とは、後々問題や揉め事に発展する可能性もあります。
納得のいく示談結果を出すためには、弁護士との信頼関係を築くことは不可欠です。もし弁護士とコミュニケーションをとりにくいと感じたら、変更を考えてもよいでしょう。
希望する解決に向かってくれない
示談交渉の進め方について、弁護士と方針が合わないときも変更を考える理由になります。
例えば、被害者はスピード解決を求めているのに、弁護士はじっくりと示談をすすめ時間がかかってしまうようなケースがあります。被害者は早く示談金を受け取りたいけれど、弁護士は示談金を増額するため強い態度で交渉を行うため決着がつかないといったときは、被害者の希望を優先している弁護士とは言えなくなってしまいます。
示談交渉のスタンスに関して弁護士と反りが合わないと感じた場合は、交代を検討してもいいでしょう。
業務停止状態になった
依頼先の弁護士事務所が業務停止になってしまったら、弁護士を変更せざるを得なくなります。
業務停止は所属している弁護士会によって行われる処分で、現在受任している契約や裁判はすべて解任となります。滅多にあることではないのですが、こうしたケースもあるということは知っておいてください。
業務停止の場合は既に支払っている着手金は返金してもらえるのが基本です。業務停止になった弁護士事務所が所属する弁護士会に問い合わせるようにしましょう。
弁護士を変更するための手順
弁護士の変更を決めてからの流れを見ていきましょう。
1、新しく依頼する弁護士を探す
新たな弁護士を探します。
他の弁護士からセカンドオピニオンをもらい、今のままでも問題ないようであれば変更は取りやめにしてもかまいません。
あなたが感じている不安や不満によっては、どの弁護士に頼んでも結果はそれほど変わらない可能性があります。弁護士に相談するときは、現在の状況や自分が感じている不満を明確に伝え「○○弁護士ならどのように対応しますか?」と尋ねてみてください。
質問するときは「××弁護士(現在の弁護士)の対応は問題点がありますか?」のような聞き方ではなく、「あなたならどうしますか?」と尋ねて対応内容を確認するのがおすすめです。弁護士は日本弁護士連合会(日弁連)の定める「弁護士職務基本規定」において、他の弁護士を「不利益に陥れてはならない(第71条)」とされているため、直接他の弁護士を批判することは言いにくいためです。
弁護士への相談は費用が気になりますが、多くの弁護士事務所では初回無料で法律相談を行っています。費用を抑えての自分に合った弁護士探しは可能です。
2、現在の弁護士に変更することを伝える
新しく依頼したい弁護士に、引き受けてもらえるか確認します。承諾をもらったら、これまで依頼していた弁護士に変更する旨を伝えます。
このとき注意したいのは、必ず新しい弁護士に引き受けてもらえると確かめてから伝える点です。もし、新しい弁護士に断られてしまったら、依頼する弁護士がいない状態になってしまいます。
3、保険会社に変更を伝える
保険会社に弁護士を変更したい旨を連絡します。加害者側と自身が加入している両方の保険会社に連絡してください。
相手方の保険会社は交渉相手ですので、常識的にも交渉担当者が変わることは伝える必要があります。
自身の保険会社は弁護士特約の関係もありますので、連絡は怠らないようにしましょう。
4、新しい弁護士と契約する
これまでの弁護士との委任契約が解除となったら、新しい弁護士と正式な契約を行います。
以前の弁護士には「解任通知書」を送った段階で、契約解除になります。変更後の弁護士が受任通知を保険会社に送付することで、引き継ぎは完了します。
5、弁護士同士で案件を引継ぐ
新旧の弁護士同士で案件の引き継ぎを行ってもらいます。
前の弁護士が所有する資料を新しい弁護士に渡して進捗状況を伝えるのが一般的です。特に依頼者がすることはないことがほとんどです。
ただ、なかには依頼者自身が前の弁護士から書類をもらい、新しい弁護士に渡す引き継ぎ方法もあります。
弁護士を変更するさいの注意点
弁護士を変更するさいは、費用面などでいくつか注意点があります。
着手金は返金されない
途中で弁護士を変更すると、すでに支払った着手金は返ってきません。
弁護士に正式な依頼を行う時点で支払う報酬であり、返金を求めても応じてもらえないデメリットがあるので気を付けましょう。
これまでの費用清算が必要な場合がある
前の弁護士との契約を途中で解除すると、費用の清算が必要になることがあります。
すでに弁護士が一定の業務を行っていれば、実費などは請求されます。変更するさいに清算費用はいくら発生するのか、事前に確認してください。
解約時に費用が発生することがある
契約内容によっては、委任契約の解除料や手数料といった費用が発生するケースがあります。トラブルの元にもなるので注意が必要です。
弁護士特約はリセットされない
途中で弁護士を変えたとき、これまでに支払われた弁護士特約の金額はリセットされません。
弁護士費用特約(弁護士特約)は自動車保険などの任意保険に付帯する特約で、交通事故の被害者になったとき損害賠償請求にかかる弁護士費用を保険会社が補償してくれるサービスです。弁護士特約を活用することで、費用を気にせずに弁護士への依頼ができるようになります。
弁護士特約で支払われる費用には上限があり、最高300万円と決まっています。本来なら弁護士1人で300万円まで使えるのですが、途中で変更しても金額じゃリセットされないシステムです。
前の弁護士と新しい弁護士両方の費用を合わせて、300万円までしか支払われません。
もし300万円を超えてしまうと自腹になりますので、特約の残額を保険会社に照会してから弁護士を変更しましょう。
中には、着手金を二重で支払わなくても良いとしている保険会社はあります。新しい弁護士への着手金は自己負担になるのかも、あらかじめ確認してください。
書類はすべて返還してもらう
示談交渉に使用した書類や個人情報などはすべて返却してもらいます。
弁護士は個人情報にかかわる資料などは依頼者に返却しなければならないという規定がありますが、もし応じてもらえないときは所属している弁護士会に相談してください。
委任契約を解除してから次の弁護士に依頼する
新しい弁護士と契約するのは、必ず前の弁護士との委任契約を解除してからにしましょう。
弁護士を変更しても状況が変わらないケースも
すでに示談が成立しているケースや、病状固定など医師が判断する内容についての変更など、別の弁護士に依頼しても状況が変わりにくい問題はあります。
法テラスは弁護士の変更はできない
法テラスの無料相談では、弁護士の変更はできません。
日本司法支援センター(法テラス)は、国民がトラブル解決に必要な法的サービスを受けられるよう国によって設立された機関です。経済的に余裕のない人に対する「民事法律扶助業務」といわれる制度があり、このなかに弁護士費用の立替えを行う「代理援助」があります。代理援助を利用していると、弁護士を変えるには法テラスの承認が必要になり、自分の意志で自由に変更することはできないのです。
また、「交通事故紛争処理センター」も同様です。
交通事故紛争処理センターは交通事故被害者のため裁判外紛争解決機関(ADR)で無料相談や和解斡旋を実施していますが、こちらも弁護士変更はできないと考えてください。
まとめ
交通事故の問題解決を依頼した弁護士に不満があれば、弁護士の変更は有効な手段です。
示談交渉などを弁護士に任せることは慰謝料増額などのメリットがあるのですが、不満や不信感をもったままの交渉は結果への満足度が下がります。また将来にわたって後悔を引きずる原因にもなるでしょう。
弁護士が合わないと感じたら、遠慮せずに変更してかまいません。
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