ですが、こうした業者は非弁行為に当たる可能性があります。
非弁行為とは?
弁護士・弁護士法人でない者が弁護士の報酬をもらって弁護士の業務を行う行為は非弁行為と呼ばれて法律違反に当たります。
非弁行為の要件
弁護士法72条では、「弁護士又は弁護士法人でない者」が「報酬を得る目的」で「一般の法律事務」を取り扱ったり、周旋(間に入って取り持つこと)することを「業にする」ことを禁じています。
これだけでは何を指しているのか、よくわからないので、それぞれの要件を細かくみていきます。
訴訟事件、非訟事件、審査請求、異議申立て、不服申立てなどその他「一般的な法律事件」に関する鑑定、代理、仲裁、和解などの行為を意味します。もちろん、交渉も含まれます。
法律事件は、法律上の権利義務に関する争いや新しい権利義務関係が生じる案件のことを指します。
弁護士資格をもたない人間はもちろんですが、司法書士や行政書士、税理士、社会保険労務士など他の法律系資格保有者であっても、認められている範囲外の法律事務を行えば非弁行為に該当します。
これらの資格では法律事務の一部が行えるだけで、弁護士のように法律事務全般が認められているわけではないのです。また、弁護士法人についてですが、これは弁護士業務を行う法人のことで、社員はすべて弁護士であることが求められます。
条件のなかに報酬を得る目的とあるため、無料の法律相談は非弁行為には含まれませんし、他人に弁護士を紹介する行為は法律事務の周旋になりますが、お金をもらわないのであれば問題にはなりません。
条件には「業にする」とあるため、非弁行為が成立するためには、こうした法律事務を反復継続して行う必要があります。法律事務に該当するようなサービスを事業にしている業者などは非弁行為に当てはまる可能性が高いといえます。
非弁行為をするとどうなる?
弁護士法第77条では、非弁行為を行った場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられると定められています。ただ、これは非弁行為を行った当人(削除代行業者など)に課されるものであり、一般的に依頼者は処罰の対象にならないとされています。
典型的な非弁行為
賃貸物件の立ち退きや債務整理、交通事故などの交渉の請負やとりまとめなどが典型的な非弁行為にあたります。
例えば、
- 不動産業者が家主に代わって滞納家賃や立ち退きを要求する。
- 「事件屋」「示談屋」のように資格をもたない人間が交通事故や債務整理などの示談交渉をまとめる。
- 退職代行サービス会社が未払い残業代の請求や有給休暇買取の交渉を行う。
など法律が関係する案件で交渉の代理人になると非弁行為にあたる可能性が高いです。
ネット上での非弁行為問題
近年問題になっているのが、インターネット上で非弁行為を行う業者の存在です。非弁行為の条文はもともと、いわゆる「事件屋」などによる違法な法的紛争への介入を防止し、当事者の正当な利益を保護するために設けられたものでした。
しかし、インターネットの発展により、ネット上の誹謗中傷に対する書き込み削除の問題やネットでの法律相談など、新たな分野での非弁行為が問題になっています。なかでも、代行業者の問題は、こうしたネットに関する非弁行為の代表的なケースといえます。
書き込み削除にまつわる非弁行為の事例
それでは、ネットの書き込み削除ではどのようなケースが非弁行為に該当するのでしょうか。いくつか、具体例を紹介していきます。
書き込みの削除請求を代行する
ネットには誹謗中傷書き込みを削除すると称する業者がたくさんありますが、こうした削除依頼の代行は非弁行為にあたる可能性があります。
代行業者が行う削除依頼は、基本的に誹謗中傷が書き込まれたサイト管理者に削除請求フォームからメールを送る方法で、裁判所に申請して法的手続きに基づき行うものではありません。
サイトの管理者と書き込みを削除してもらえるよう交渉する
業者のなかには、直接サイト運営者に書き込みを削除してもらえるよう交渉してくれる場合もあるかもしれません。こうした示談交渉も弁護士など法律の専門家のみに許されている行為であり、非弁行為にあたります。
削除申請のノウハウを提供する
業者が代行するのはもちろんですが、業者がノウハウを教えるのも非弁行為になる可能性があります。
特に問題になるのが裁判所への削除仮処分の申請です。業者が削除仮処分の手続きに必要な書面のテンプレートや申請分など配布する行為は、たとえ被害者自身が手続きを行うとしても非弁行為にあたります。
誹謗中傷に関する法律相談にのる
代行業者が誹謗中傷や削除請求に関する法律相談に乗るのも、もちろん非弁行為にあたります。報酬をもらって法律相談ができるのは弁護士など法律の専門家に限られています。
削除代行業者と弁護士の削除請求はどう行われる?違いはある?
削除代行業者と法律の専門家である弁護士では、削除請求を行う場合にとれる手段にも大きな違いがあります。それぞれの削除請求の方法とどのような違いがあるのかを説明します。
削除代行業者の場合
代行業者による削除請求は、誹謗中傷の書き込みが行われたサイトの削除請求フォームから管理者にメールを送り、削除を依頼する形式になります。業者は弁護士でないため、法律手続きを代行することはできません。
そのため、削除請求の方法自体は、被害者自身が行う場合とほぼ変わりません。
つまり、代行業者といっても特別なことをしてくれるわけではなく、ただあなたの代わりにメールを送ってくれるだけといえます。そのため、サイト管理者が削除に応じてくれず、書き込みの削除に失敗するリスクがあります。
弁護士の場合
弁護士に依頼すると、削除フォームだけでなく、裁判所への法的手続きにより削除請求を行うことが可能になります。さらに、削除後には、書き込みによる信用低下などの被害に対して、投稿者への慰謝料・損害賠償請求訴訟についても相談に乗ってもらえたり、訴訟を請け負うことができます。
削除請求に関しては、弁護士もあなたに代わって削除フォームから業者に削除依頼のメールを行うことができ、弁護士の名前があることで、サイト管理者も削除に応じてくれやすくなると考えられます。
さらに、弁護士に依頼すると、フォームだけでなく、サイト側が削除してくれない場合でも裁判所に削除仮処分を申請することができます。仮処分は裁判所が出す暫定的措置で、通常の判決と同様の効果があり、削除仮処分が決定されればサイト管理者も従うものと考えられます。
削除仮処分を弁護士に依頼したときの費用は20万~30万が相場です。このほかにも、弁護士の日当や印紙代など申請手続きにかかる諸費用が実費で必要になります。
また、仮処分申請時には、法務局に対して10万~30万円程度の担保金を供託しなければなりませんが、こちらは仮処分決定後、還付を受けることができます。
インターネット書き込みの削除請求は非弁行為にあたる?
ネット上には、代わりに削除請求を行いますと謳う業者が存在しますが、そもそも、書き込みの削除代行自体がすでに非弁行為にあたります。代行業者が行う削除請求は、本人に代わってサイト管理者に削除申請のメールを送信するというものです。
一見すると、これだけでは非弁行為の要件である法律事務に当てはまらないと思われるかもしれません。しかし、過去には、運営者へのメールを送るだけであっても、本人を代理するのは法律事務にあたるとする判例が出ています。
こうした判決が出た1つの要因として、裁判所は法的根拠がないまま、ネット上の情報が削除され、表現の自由が損なわれることを危惧しているとみられます。
この判決により、弁護士資格をもたない者が、どのような方法であれ、削除請求を代行することは非弁行為にあたることが認定されました。
また、代行業者への依頼は違法であるだけでなく、書き込みの削除に失敗したり、不当に高額な報酬を請求される恐れもあります。上記の判決も、もともとは書き込み削除に失敗した業者への報酬返還を求めたものでした。
削除代行業者に依頼してしまった場合にとるべき対処
この記事を見ている方のなかには、すでに削除代行業者に記事削除を依頼してしまった方もいるかもしれません。では、既に代行業者に依頼してしまった場合、どうすればいいのでしょうか。
書き込みの「削除」を謳う業者は違法
ここまで説明してきたように、ネット上の広告で「記事削除」と謳っている、弁護士以外の業者に関しては、すべて弁護士法違反の疑いが高いといえます。
削除業者のなかには弁護士との提携を謳っているところもありますが、本当に弁護士が削除の手続きをしているかどうかは不明ですし、安易にこうした業者に依頼するのはやめたほうがいいでしょう。
非弁行為は依頼した人に罰則はありませんが、違法行為に関与してしまっていることになりますし、企業等の場合は、コンプライアンス上の問題にもなる可能性があります。
違法に払った代金は返還請求できる
代行業者へ支払った代金など、法律上の根拠なく取得した利益は民法に定められている不当利得にあたり、返金請求が可能です。
民法では不当利得を得た者は、それによって損失を受けた者に返還しなければならないと定められており、さらに、悪意ある受益者の場合は、利息をつけて返還する必要があります。
弁護士に依頼して返金請求を
違法な削除代行業者に契約解除や返金請求をする場合には、弁護士など法律の専門家に相談・依頼するようにしましょう。契約解除や返金を求めても、業者によっては素直に応じてくれない可能性が高く、過去には返金トラブルで裁判になった事例もあります。
弁護士であれば、法律の専門知識をもとに、業者と示談交渉を行ったり、どうしても応じない場合には、訴訟などの対策をとることができます。
まとめ
報酬をもらってネット上の記事や書き込みを削除する代行業者は、弁護士法における非弁行為にあたり、違法になります。こうした業者に依頼すると、書き込み削除に失敗する可能性があるだけでなく、高額な報酬を請求されることもあり危険です。
書き込み削除は弁護士など法律の専門家に依頼するとともに、もし代行業者に依頼してしまったという場合には、弁護士に相談して契約解除・返金請求などの対応をとるようにして解決しましょう。