自己破産は所有している財産のうち一定の価値があるものについては失ってしまいますが、免責を得られれば、借金の支払いが免除となります。そのため、多くの必要書類を作成して複雑な手続きを進めていく必要があります。
裁判所への申し立てなど何も分からない状態では難しいものと思われますが、弁護士に依頼することができます。
弁護士に依頼すれば、書類の手続きや、裁判所への対応などを弁護士に任せることができるため、自分だけで行うよりも簡単に手続きを進めることができます。
今回は自己破産の制度の手続きの流れを解説していきます。
自己破産とはどんな制度?
貸金業者からの多重債務や、クレジットカードの利用超過などにより、借金の返済が不可能になった人が申し立てを行った場合に、裁判所が破産法に基づき、借金の返済義務を免除する制度が自己破産です。
自己破産制度の目的は、債務者の生活を経済的に再建することです。多額の借金を抱え、利子だけを支払っている状態では、この先、何年、何十年経っても返済が終わりません。
日々の生活も返済のために追われ、債務者の一生は借金を返済するためだけのものになってしまいます。
このような状態の人を普通の生活に戻すための制度が自己破産です。
自己破産制度を利用することにより、所有している財産のうち一定の価値があるものについては失ってしまいますが、借金を返済する必要がなくなり、債務者自身の生活を再建することが可能になります。
したがって、自己破産制度というのは、債務者に新たな生活を始めるためのチャンスを与える機会と考えられています。
自己破産の種類
自己破産は申立書に記載された内容や、本人の財産の資産価値によって「同時廃止」と「管財事件(少額管財事件)の二つの手続きに分類されます。
通常、自己破産を行うときは、申立を行った本人が持っていた財産を換価することにより、どのくらい債権者に公平に配当できるかを調べるため、資産価値などの調査が行われるのが原則です。
しかし、資産をほとんど持っていない場合や免責不許可事由に該当しない場合は多くの時間や人員をかけてまで調査する必要がありません。主に資産の多さや借入理由で、手続きが分けられています。
本人が所有している財産が少額であること(20万円以下)、資産を換価処分しても債権者に配当できないことが明らかで免責不許可事由がない場合は、調査を行わずに、破産手続きの開始と同時に手続きを終了(廃止)します。
・管財事件
本人に一定以上の財産がある場合、または、ギャンブルや浪費など、借金の理由が免責不許可事由に該当している場合は、調査を行ったり、財産を換価したりする必要があるため、破産管財人が選定され、その後は管財人の指導の下に手続きが進められます。
・少額管財事件
管財事件の中でも引継ぎ予納金を少額にして、費用を抑えることができる方法です。
ただし、一部の裁判所での運用であること、弁護士に依頼していること、借入先が多くなく複雑でないことなどの条件があります。
自己破産の手続きの期間
破産手続き開始と同時に廃止を行う同時廃止は財産の調査が必要ないため、免責までの期間は短くなります。
管財事件の場合は資産状況の調査や、実際に財産を換価処分すること、債権者との話し合いなどに時間を要すため、手続きが完了するまで時間がかかります。少額管財事件だと財産が少ない分、管財事件に比べ手続き期間は短くなります。
約3~4ヵ月
・管財事件
約6~12ヵ月
・少額管財事件
約4~6ヵ月
自己破産の手続きに必要な書類と流れ
自己破産手続きに必要な書類と、どのような流れで手続きが開始されて免責が認められることになるのか説明します。
自己破産の手続きの流れ
まずは弁護士に依頼します。紹介や近くの弁護士事務所、インターネットで探すことが主流です。実際に相談してみて任せられると思える、債務整理を扱っている事務所に依頼しましょう。その際、費用についてや、心配事、気になることなどあれば包み隠さず質問しておくことが大切です。
弁護士に依頼をしたら必要書類を作成し申立ての準備が始まります。必要書類については次の項目で説明しますが、弁護士に依頼しておけば、書類作成はしてくれますので、本人は指示された書類を集めることになります。
書類が揃った時点で、裁判所に対し自己破産の申し立てを行います。当日に裁判官による面接が行われる裁判所もあり、面接修了後、自己破産の手続きが開始されます。
同時廃止の場合は、手続き開始と同時に終了し、免責審尋の日時が決定します。
免責審尋を行った後、約1週間で免責審尋の結果が郵送されます。また、2週間程度で官報に免責許可決定が公告されます。債権者等の不服申し立てがされずに公告日翌日から2週間を経過すると、免責許可決定が確定します。
管財事件の場合は、手続き開始後に、破産管財人が選定され、管財人との面接を行います。事案にもよりますが、申し立てをしてから約3ヵ月後に、債権者集会が開かれ、債権者から異議がない場合、約1週間後に免責が決定します。その後の流れは、同時廃止とおなじです。
自己破産に必要な書類
自己破産に必要な書類は個々のケースによって異なりますが、共通している基本書類を説明します。
裁判所へ申し立てを行うための書類になります。破産申し立てを行う裁判所で入手できます。
・陳述書
何故、自己破産をすることになったか理由や経緯を説明し、自分が反省していることや、今後の再起の意欲について記載します。破産申し立てを行う裁判所で入手します。
・住民票、戸籍謄本
家族全員の記載があるものが必要です。発行から3ヵ月以内のものが必要です。
・収入がわかる書類
サラリーマンなら給与明細、自営業ならば確定申告の写し等の収入証明を用意します。
・預金通帳
借金返済で使用しているものだけではなく、全ての預金通帳の直近2年分のコピーが必要になります。
・源泉徴収票・課税(非課税)証明書
給与取得者ならば源泉徴収票、自営ならば課税証明書が必要です。
・居住地がわかる資料
持ち家ならば不動産の登記簿謄本、賃貸に住んでいるならば賃貸契約書のコピー、実家に住んでいる場合は、居住証明書を提出します。
・資産がわかる資料
車を持っている場合は、車検証。退職金の受け取り予定があれば退職金の見込み額証明を会社から入手します。他にも、生命保険の証書なども提出する必要があります。
自己破産は弁護士に依頼するべき?
自己破産は高い費用を払ってまでも、弁護士などの専門家に依頼するべきなのでしょうか。
弁護士に依頼するメリットについては下記で述べますが、日弁連の調査によると自己破産をした人のほとんどは弁護士に依頼しています。
自己破産手続きを弁護士に依頼した場合のメリット
裁量免責が受けられる可能性が高くなる
自己破産の手続きには、裁判所に出頭して、借金の理由や経緯を聞かれる審尋という手続きが行われることがあります。そして、借金の理由が競馬やパチンコなどのギャンブルや、浪費等である場合、免責不許可事由を問われて、免責が許可されない可能性があります。
弁護士に依頼した場合、審尋にも同席してくれるので、今までの経験を活かしたテクニックを使い、本人が反省していることについて代弁してくれます。
裁判所への円滑な対応により、免責不許可事由に該当していても、裁量免責が受けやすくなる可能性があります。
用意する書類を的確に教えてくれる
自己破産の申し立てには、多数の書類が必要になります。書類の中には官公庁や市町村役場から取り寄せるものもあるため、サラリーマンなど、平日に仕事をしている人だと、なかなか書類を取りそろえることが難しくなります。
弁護士に依頼することで、必要な書類を取りそろえてくれたり、どのような書類を用意すればいいのか的確なアドバイスをもらうことができます。
自己破産以外の方法も検討できる
債務整理の方法は自己破産だけではありません。「任意整理」や「個人再生」といった方法もあります。
自己破産とは違い、借金の返済が免除されることはなく、返済を行う必要はありますが、住宅を維持したまま、借金の整理ができたり、保証人に迷惑をかけることなく、借金問題を解決することもできる場合があります。
弁護士に、現在の状況や、どのように借金問題を解決したいかという希望を伝えることで、どの債務整理の方法が適切なのかアドバイスをしてくれます。
大切なことは借金問題の解決です。弁護士に相談することで自己破産よりも良い解決方法が見つかるかもしれません。
司法書士と弁護士の違い
弁護士の他に、司法書士にも自己破産の手続きを依頼することができます。ただし、弁護士と司法書士には行うことのできる業務の範囲に違いがあるので注意が必要です。
自己破産手続きでは、審尋があり、裁判所から呼び出しを受けたら、審尋に出席して話をしなければなりません。裁判所は平日しかやっていないので、サラリーマンならば、会社を休んだり早退するなどして審尋に出席しなければならないでしょう。
弁護士は債務者の代理人になるので、債務者の代わりに審尋に出席することができます。その場合、債務者本人は同席しなくてもよくなることもあります。
司法書士は債務者の書類作成代理人です。依頼人の代わりに、申し立てに必要な書類を作成することはできますが、弁護士のように代理として、審尋に出席したり、裁判所と話し合いを行ったりすることはできません。
・管財事件となった場合にかかる費用
自己破産する際に、財産があると判断されたり、免責不許可事由があったりすると管財事件という手続きになることがあります。この管財事件となったときは、依頼費用とは別に裁判所に支払う予納金というお金が必要になります。
弁護士に依頼していれば少額管財という予納金20万円で済む、費用を抑えた手続きができることがあります。
対して、司法書士に依頼すると通常の必ず管財事件として扱われるため、予納金は原則50万円が必要になります。
個人でも自己破産の申し立ては可能
自己破産の手続きは必ずしも、弁護士に依頼しなければならないわけではなく、必要書類を取り揃えれば、個人での申立ても可能です。
しかし、多くの必要書類を取り揃え、書類の記入ミスがあれば、何度も修正しなければいけないため、未経験ではどうしても時間がかかってしまいます。
また、督促や取り立てで苦しんでいる場合、弁護士に依頼した場合であれば、債権者に通知した時点ですぐに取り立てが止まりますが、個人で申し立てした場合は、申し立てが受理されるまで、督促や取り立ては止めることができません。
免責不許可事由に該当している場合でも、本人だけで裁判所と話し合いを行う必要があるので、裁量免責が獲得できる可能性も低くなる恐れがあります。
以上のことから自分で申立てを行うためには、やりきる意思や根気が必要になると言えるでしょう。
自己破産手続き中の制限
自己破産手続きが開始されると、一定の制限を受けます。
生活に影響を与えることもありますので、注意しましょう。
クレジットカードやローンが使えなくなる
債務整理を行った場合は、信用情報機関に事故情報として登録されます。いわゆるブラックリスト状態です。
金融機関は、この情報を共有するため、事故情報が登録されている間は、新規の借り入れやクレジットカードの作成ができなくなります。
新規の契約ができないだけではなく、今まで使用していたクレジットカードも使えなくなるので、公共料金等の支払をクレジットカードで行っていた場合は注意が必要です。
自己破産の場合、登録情報が削除されるまでは5年~10年ほどの期間が必要になり、その間はローンを組んだり、クレジットカードを作成することはできなくなります。
一部の職業に制限が掛かかり休職・転職が必要になる
自己破産の手続き期間中は、資格や職業が制限される場合があります。警備員、弁護士、宅地建物取引士などは、破産者が就くことはできません。
免責が許可された時に、復権となるので、それ以降は再度仕事をすることが可能ですが、破産手続き終了から免責許可までの間は、一時的に休職するか転職する必要があります。
引っ越しや旅行の制限
自己破産の手続き中の引っ越しや旅行に関しては裁判所の許可が必要になります。
同時廃止については旅行の制限はありませんが、管財事件となった場合は、長期間住居を離れることを制限されます。
破産手続きが終わればこの制限は解除されますので、数か月程度の制限となります。
自己破産ができる人の条件
借金がいくら以上ならば、自己破産が可能か?といった質問がよく寄せられます。
ですが、自己破産できるかどうかは借金の総額だけで決まるものではありません。
資産状況、収入、借金の理由なども重要なのです。
借金が支払い不能である
「返済ができない状態であること」これが破産法に定められた条件の一つになります。ただ単に債務者側が、支払いが無理だと思っているだけでは認められません。
負債の金額が大きくても、支払えるだけの収入があったり、保有している資産が債務よりもはるかに大きかったりする場合、自己破産は認められません。逆に、負債金額が少なくても、返済できるだけの収入がなければ自己破産することができる可能性があるのです。
借金の理由が免責不許可事由にあたるものではない
借金の理由が、浪費やギャンブル、株やFX投資などであれば、免責不許可事由に該当してしまい、免責にならない可能性があります。
また、破産の手続きに対して協力的ではないと見做された場合や、クレジットカードで換金行為をしたり、資産を故意に隠したり、虚偽の申告を行ったりすることで免責不許可となる場合もあります。
免責不許可事由にあたる借金でも免責が認められる場合もある
免責不許可事由に該当している場合は、管財事件として手続きが進められます。破産管財人が、免責不許可が問われる事項についての調査を行います。
破産管財人は調査の結果や、本人の反省の度合いなどを裁判所に報告し、免責許可の判断を委ねることになります。免責不許可事由に該当する事項の程度がそれほど大きくなかったり、本人が今までの生活について反省していることを考慮して、裁判所の裁量で免責が許可される可能性があります。
実際、借金の理由がギャンブルや浪費であっても、本人が反省し、今後の生活の再建の意欲が見られる場合であれば、裁量免責が下りることは少なくありません。
まとめ
自己破産の手続き自体は、難しいものではありません。ただし、書類を取りそろえるのに時間がかかるだけでなく、法律に詳しくない人ならば、記入するのにもかなり時間がかかってしまいます。
個人で自己破産することによって、弁護士への依頼費用は節約できますが、その分、時間や労力の消費は大きいものになります。また、免責不許可自由に該当しているなら、裁量免責を受けるためにどのように裁判官に対して話をするかを考えておかなくてはいけません。
弁護士に依頼すれば、不備のないように、最後までサポートしてもらうことができます。