交通事故の後遺障害等級申請では、弁護士に相談すると、申請時や異議申し立ての際など、多くのメリットがあります。後遺障害認定で結果に納得がいかない場合などは異議申し立てなどを依頼することもできます。ただ、弁護士への依頼で気になるのが費用の問題です。後遺障害認定にかかる弁護士費用は、等級などにより数十万円から100万円以上必要になります。
交通事故による後遺障害とは
交通事故の被害に遭い、治療を行ったにもかかわらず、完治せずに何らかの症状が残ってしまった状態を「後遺障害」といいます。
「後遺障害」と「後遺症」の違いとは
日常生活でも、病気やケガのために症状が残った状態を指す言葉として「後遺症」が使われます。しかし、交通事故の後遺障害と後遺症は厳密には少し意味が違い、後遺障害は「交通事故による後遺症」のみに用いられる用語です。
さらに、後遺障害には定義が決まっており、どのような症状でも認定を受けられるわけではなく、たとえ後遺症が残っていても、条件に当てはまっていなければ、後遺障害とは認めてもらえません。
後遺障害の定義とは
後遺障害と認定を受けるには以下の4つの定義を全て満たす必要があります。
2、後遺症の存在が医学的に証明されており、交通事故と症状との間に「相当因果関係」(事故と後遺症に関して、事故が起きなければ後遺症も起こらなかったと考えられる、社会通念上相当といえる条件関係がある)が認められる。
3、後遺症によって労働力の喪失または低下が起こっている。
4、後遺症の程度が「自動車損害賠償保障法施行令(自賠責施行令)」に定められている等級のいずれかに該当している。
後遺障害の等級とは
後遺障害は自賠責施行令により、症状の重さや種類によって1級~14級までの14段階(部位や程度によりさらに140種類に分かれる)の等級に分かれています。1級が何よりも症状が重く、補償も手厚くなっており、数字が大きくなるほど症状は軽くなっていきます。
後遺障害等級認定の仕組みとは
交通事故の後遺障害で補償を受けるには、自賠責保険に関する審査を行っている「損害保険料率算出機構」の「自賠責損害調査事務所」に申請を行い、後遺障害等級の認定をもらう必要があります。後遺症が残ったからといって自動的に認定されるわけではないので注意しましょう。
後遺障害等級認定を含む自賠責保険の審査で、原則として使用されているのが「書面主義」です。後遺障害の認定は、基本的に申請は書類を提出して行わなければなりません。そのため、提出書類の作成は非常に重要で、内容に不備があれば、たとえ実際に後遺症が残っていたとしても認定してもらえない可能性もあります。
後遺障害の申請方法とは
後遺障害等級の申請方法には、保険会社に手続きを依頼する「事前認定」と自分で申請を行う「被害者請求」の2種類があります。
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
特徴 | 加害者の加入している任意保険会社を通じて申請を行ってもらう方法。 | 被害者自身が書類作成などを行い、加害者の加入している自賠責保険会社を通じて申請する方法。 |
メリット | ・手続きを全て保険会社にやってもらえるため、被害者や家族の負担がかからずに済む。 ・レントゲンやCT画像など申請に必要な資料等の取得費用は保険会社に払ってもらえる。 ・熟練の保険スタッフが申請を行うため、ミスなどが発生しにくく安心で、手続きもスムーズに進む。 | ・被害者が自分で全ての手続きを行うため、透明性が高くなり、納得いく申請ができる。 ・自賠責保険の先払い制度が利用できる。 示談成立前でも保険金の一部を受け取れるようになるため、後遺障害による経済的な不安が軽減される。 |
デメリット | ・保険会社に一任する方法のため、手続きの透明性は低くなる。 ・保険会社はなるべく支払う保険金を低く抑えようとするため、きちんと認定を受けられなかったり、思っていたよりも低い等級での認定になってしまったりする可能性がある。 ・保険金の支払いが任意保険と自賠責保険合わせての一括払いとなり、自賠責保険の前払い制度が利用できなくなるため、経済的に不安のある方は注意が必要。 | ・被害者や家族がすべての手続きを行わないといけないため、手間と時間がかかる。 ・被害者は申請に慣れていないため、手続き上のミスや書類の不備などが起こり、時間をとられる可能性がある。 ・画像資料などを取得するための費用は被害者自身で負担しなくてはならない。 |
適正な後遺障害等級は後遺障害慰謝料にも大きく影響する
交通事故で相手方から受け取れる示談金の額は、認定される後遺障害等級によって大きく影響を受けます。後遺障害では等級によって加害者に請求できる後遺障害慰謝料の金額が決められており、等級が1つ違えば、慰謝料額も大きく変わってくるのです。
後遺障害認定について弁護士に相談するメリット
交通事故で後遺障害認定の申請を行う際、弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。
1、認定を見据えたアドバイスがもらえる
1つ目のメリットは、認定を見据えたアドバイスを受けられる点です。後遺障害等級の申請が上手くいかない場合で多いのが、必要な医学的資料などが不足しているケースです。
医師は治療の専門家であっても後遺障害認定についての知識はもっていないため、医師に言われる検査だけを受けていると後遺障害認定では医学的な根拠が不十分とみなされてしまう可能性があるのです。
2、症状固定のタイミングを相談できる
2つ目のメリットは、症状固定のタイミングを相談できる点です。医師から「これ以上治療を行っても症状の改善は見込めない」と診断された状態を「症状固定」といい、症状固定後も残っている症状が後遺障害認定の対象となります。そのため、いつ症状固定にするかのタイミングは後遺障害等級の認定において非常に大切です。
症状固定が早すぎると「もう少しきちんと治療すれば治ったのではないか」「本当は大したケガでないのでは」と思われて、後遺障害の認定を受けられない恐れがあるのです。
症状固定の診断は基本的に医師の判断に基づきますが、どの程度症状が回復しているかについては被害者本人にしか分からない部分もあります。弁護士であれば、いつ症状固定にすれば良いか、後遺障害申請を考慮したタイミングのアドバイスをもらえるようになります。
3、後遺障害診断書の内容を確認してもらえる
3つ目のメリットは、後遺障害診断書の内容を確認してもらえる点です。「後遺障害診断書」は、後遺障害申請の際に医師から書いてもらう診断書で、後遺障害認定は「書面主義」を採用しているため、後遺障害診断書の内容は非常に重要になります。
医師の仕事は症状を治療するのが目的のため、「後遺障害が残っている」=「治っていない」内容の診断書は作成するのがためらわれ、医師だけに任せていると、診断書に漏れや抜けなどの不備が発生する恐れがあります。
弁護士であれば、診断書の不備や記載漏れ、検査の必要性などをチェックしたり、問題がある場合は医師に改善してくれるよう交渉してもらったり、といった対策が可能になるため、非該当になるリスクを減らせます。
4、結果に納得がいかない場合の異議申し立てなどを依頼できる
4つ目のメリットは、申請結果に納得がいかなかった場合に、異議申し立ての依頼もできる点です。後遺障害等級の申請では、認定を受けられない「非該当」になってしまったり、想定よりも低い等級での認定しか受けられなかったりした場合など、納得がいかない結果になったケースで再審査を求める「異議申し立て」が行えます。
しかし、そのまま再審査を受けても結果が変わる可能性は低く、異議申し立てでは、最初の審査で不足していた書類や検査結果などをプラスして申請を行う必要があります。
弁護士に依頼すれば、異議申し立てを行う場合も、どこに不備があったのか、再審査ではどの点に注意すれば良いのか、アドバイスをもらえます。初回の申請時から弁護士に依頼していれば、万一、非該当になった場合でも、スムーズに異議申し立てを行えるようになるでしょう。
後遺障害認定について弁護士に相談するデメリット
後遺障害認定で弁護士に依頼すると多くのメリットを得られる反面、次のようなデメリットが生じる場合もあります。
1、依頼するには費用がかかる
1つ目のデメリットは、依頼するのに費用がかかる点です。弁護士への依頼を考えた際、多くの方が不安に思うのが費用面の問題ではないでしょうか。たしかに、弁護士に依頼すると、安くても十数万円から数十万円、案件によっては百万円以上の弁護士費用がかかります。
交通事故で弁護士に依頼する際の費用内訳や弁護士費用を抑える方法については、下の項目で解説しているため、詳しくはそちらをご覧ください。
2、依頼先の選定が難しい
2つ目のデメリットは、依頼する弁護士事務所の選定が難しい点です。多くの方は、交通事故を含めて、これまで弁護士に依頼した経験がなく、いきなり事務所を選べといわれても、どこに決めればいいのかわからないケースがほとんどでしょう。
交通事故案件に強いかどうか、インターネットでの口コミの評判は良いか、などポイントはいくつかあるものの、弁護士も人間ですから、どうしても合う・合わないがあって、失敗してしまったと感じる場合もあるかもしれません。
3、弁護士を変更したい場合は費用と手間がかかる
3つ目のデメリットは、弁護士を変更したい場合に費用と手間がかかる点です。依頼した弁護士が合っていないので、変えたいと思った場合、基本的に着手金など、これまでの費用は返ってきません。
また、新しい弁護士を探したり、依頼内容や前の弁護士の進捗具合を打ち合わせしたりするなど、引継ぎのために余計な手間と時間もかかります。交通事故の後遺障害認定で弁護士に依頼する際は、このようなデメリットが生じる可能性があると考えておきましょう。
しかし、これらデメリットを考慮した上でも、弁護士への依頼にはさまざまなメリットがあるのも事実です。続いては、弁護士への依頼で非常に気になるポイントでもある弁護士費用についてみていきましょう。
交通事故で弁護士に依頼するときの費用内訳
後遺障害認定など、交通事故で弁護士に依頼を行う場合に必要な費用の内訳は以下のようになっています。こちらは一般的な相場であり、詳細な費用項目や金額は、依頼先の事務所によって異なります。
費用の種類 | 費用の説明 | 金額の目安 |
---|---|---|
相談料 | 弁護士に法律相談するための費用。 相談を行ったからといって、必ずその弁護士に依頼する必要はないため、いくつかの事務所で法律相談をしてみて、自分に合うところを探してみると良いでしょう。 初回相談無料のサービスをしている事務所も多いため、ホームページなどで調べてみてください。 | 30分あたり 5,000~10,000円 |
着手金 | 弁護士が正式に依頼に着手する際に支払う費用です。 依頼が成功するかどうかにかかわらず、依頼した時点で発生します。 事務所によって設定金額は異なるものの、最低でも10万円程度は必要です。 ただ、交通事故に関しては着手金0円で依頼を受けてもらえる弁護士もいます。 | 10万円~ |
報酬金 | 依頼内容を達成した場合に、成功報酬として支払う費用です。 事務所によっては、成功報酬をとらずに着手金のみにしている場合もあります。 金額の目安は「経済的利益の10~30%程度」となっています。 例えば、加害者から得られた賠償金が300万円だとすると、報酬額は、300万×16%=48万円となります。 | 経済的利益額ごとの算定基準 ・300万円以下:16% ・300万円越え3000万円以下:10%+18万円 ・3000万円越え3億円以下:6%+138万円 ・3億円越え:4%+738万円 |
日当 | 弁護士が出張など、事務所外での活動を行った場合に請求される費用です。 金額は移動距離や活動日数などによって決まります。 | 半日:3万~5万円 1日:5万~10万円 |
実費 | 交通費、収入印紙代、通信費など、弁護士活動に必要となる諸費用です。 ・交通費……弁護士が病院や事故現場、税務署、関係機関などに赴く際にかかる交通費。 ・収入印紙代……訴訟を起こす際にかかる収入印紙の代金。 必要になった場合に、その都度支払うのが一般的ですが、最初から裁判を起こすと決めているケースでは依頼時に請求される場合もあります。 ・通信費……郵便の切手代や配送料などにかかる費用。 相手方の保険会社とやり取りする際、必要になります。 | – |
消費税 | 弁護士費用にも普段の買い物と同様に10%の消費税が課税されます。 | – |
上記の費用目安を合計して、総額がどれくらいになるかをみていきましょう。
相談料1万円+着手金10万円+成功報酬16万円+10%消費税=29万7,000円
後遺障害の認定を受けると、賠償金が100万円を超えるケースも少なくはありません。さらに、重い障害になると、1000万円を超える場合もあります。
相談料1万円+着手金10万円+成功報酬1000万円×10%+18万円+10%消費税=141万9,000円
※どちらのケースも日当、実費などは含まず。
弁護士費用を抑える方法はある?
交通事故の後遺障害認定で弁護士に依頼したいと考えている方のなかには、費用面を気にされている人も多いのではないでしょうか。ここからは、後遺障害認定で弁護士費用を抑える方法について解説します。
無料法律相談で見積もりを取る
はじめに、各弁護士事務所が実施している無料法律相談を利用して、弁護士費用の見積もりを出してもらいましょう。無料相談であれば、相談料はかかりませんし、見積もりで弁護士費用が事前に分かれば、どの事務所に依頼すればよいか選べるようになります。
特に、着手金を設けず、成功報酬のみにしている弁護士なら、初期費用を抑えられるため、一度見積もりをお願いしてみましょう。
事故発生後、早めに弁護士に相談する
弁護士に依頼したいと考えている場合は、無料相談を利用して、事故発生後から、なるべく早く相談しておくと費用を抑えられる可能性が高くなります。話を聞いておくと、後遺障害で認定されるためのポイントや弁護士に依頼した場合の費用感、実際に依頼すべき時期などがわかり、その後の行動をスムーズに進められるでしょう。
弁護士特約を利用する
弁護士特約(弁護士費用特約)は、自動車保険に付帯しているオプションの1つで、交通事故に遭った場合の弁護士費用を補償してもらえる特約です。一般的には、法律相談料10万円、着手金・報酬金・そのほかの弁護士費用については300万円まで補償してもらえます。
上記の例のように、経済的利益が1,000万円を超える場合でも、弁護士費用は150万円程度のため、300万円の補償が受けられれば、ほとんどの事故で費用を気にせず弁護士に依頼できるようになります。
後遺障害等級が認められない・認定等級に不満があるときは?
後遺障害の申請を行ったにもかかわらず、等級認定を受けられなかった場合や等級認定に不満がある場合には、次の3つの対応が可能です。
- 異議申し立て
- 裁判外紛争解決手続き(ADR)の利用
- 訴訟の提起
交通事故の後遺障害が認定される割合は5%程度といわれており、申請を行っても認定されない「非該当」になってしまう可能性も高くなっています。ここからは、申請結果に納得できなかった場合の各対応について解説していきます。
1、異議申し立て
後遺障害の審査を行う「損害保険料算出機構」に異議申し立てを行い、再審査を申請する方法です。異議申し立てにも、最初の申請と同じように事前認定と被害者請求の2種類があります。
初回で事前認定を選んでいた場合は、異議申し立てを事前認定にするか被害者請求にするか選択できますが、被害者請求で申請していた場合は、異議申し立ても被害者請求で行います。
異議申し立てにかかる期間は通常2~3か月程度ですが、長い場合は6か月程度かかるケースもあります。後遺障害の異議申し立てには追加の費用などはかからず、また、回数に制限がないため何度でも申請可能です。
しかし、単に再審査を申請するだけでは再び非該当になってしまう可能性が高く、結果を変えるためには、画像資料や検査結果など新しく後遺障害の証明となる医学的な証拠など、当初の申請で不足していた資料などを追加して提出するなどの対策が必要になるでしょう。
2、自賠責保険・共済紛争処理機構(ADR(裁判外紛争処理手続)などと呼ばれることがあります)の利用
自賠責保険・共済紛争処理機構(ADR(裁判外紛争処理手続)などと呼ばれることがあります)を利用して裁判外で解決を図る方法です。
自賠責に対する後遺障害申請で利用するADR機関は自賠責保険・共済紛争処理機構ですが、中立的な視点から判断が可能な医師、弁護士、学識経験者などの専門家により構成される紛争処理委員の審査により非該当の妥当性が判断されます。
自賠責保険・共済紛争処理機構の利用も異議申し立てと同じく無料で行えますが、利用できるのは1度だけと決まっています。
3、訴訟の提起
裁判所に訴訟を起こして非該当の是非を判断してもらう方法です。裁判では、「損害保険料算出機構」や自賠責保険・共済紛争処理機構の結果とは独立した判断を出してもらえるため、結果を覆したり、より高い等級での認定を得られたりする可能性も高くなります。
ただ、訴訟の提起には、異議申し立てや自賠責保険・共済紛争処理機構の利用と異なり、時間も費用もかかるため、被害者にとってもそれだけ負担の大きい最後の手段といえるでしょう。また、結果を変えるためには、新しい医学的な証拠や資料が必要になります。さらに、裁判には法的な知識や複雑な手続きが要求されるため、一般の方が自分だけで訴訟を提起するのは難しいでしょう。
非該当の結果を覆すためには
後遺障害の申請で非該当になってしまった場合、異議申し立てなどいくつかの手段がとれるものの、2020年のデータでの成功率は約15%となっており、初回の申請と同じく狭き門といえます。
異議申し立て等で特に大切になるのが、初回に不足していた資料を揃えるなど、自分の症状を客観的に証明するための対策です。
例えば、腕や脚の可動域に関する後遺障害の場合、検査による他動値が等級認定の基準を満たしているにもかかわらず、機能障害が否認されてしまった場合、異議申し立てでは可動域が交通事故のケガによって生じたと証明できる器質損傷などの所見を提示する必要があります。
では、そのためにどのような資料や医学的な証拠が必要になるのか、一般の方には、なかなか判断が難しいところでしょう。
まとめ
交通事故の被害に遭い、治療後も何らかの症状が残ってしまった場合の後遺障害認定や非該当になった場合の異議申し立て等では、弁護士に相談してアドバイスをもらいながら手続きを進めていくと、多くのメリットがあって安心です。
後遺障害認定で弁護士に依頼すると、相談料や着手金、成功報酬、実費などが必要ですが、無料相談を行っている事務所や弁護士特約など、費用を抑える方法もあるため、上手に利用して、後遺障害認定を受けられるようにしていきましょう。
交通事故の被害に遭い、後遺障害の申請に不安のある方、また、申請したものの納得のいく結果が出なかった方は、一度、弁護士へ相談を検討してみてください。
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