インターネットを利用している限り、誰でも誹謗中傷の被害を受ける危険があります。では、誹謗中傷を減らすためにどのようなことができるでしょうか。
誹謗中傷を助長するインターネット世界の特徴
インターネットには誹謗中傷が生まれやすい特徴がいくつかあります。それぞれの特徴について解説します。
匿名性の保障
インターネットの世界の特徴として、「匿名性」が保障されていることがあげられます。匿名性とは、発言した人の身元が分からないシステムを意味します。
Facebookなど実名を載せるSNSもありますが、Twitterを含めたほとんどのSNSは匿名で書き込みをするのが一般的です。
匿名性には個人情報が流出しにくいメリットがありますが、責任の所在が曖昧になってしまうデメリットもあります。匿名の世界では発信者を特定するのが非常に困難なため、身元がバレないなら何を言っても許されると誤解している人も大勢います。
集団心理の発生
ネットやSNSは有名人を含めた多くの人が利用しており、中には誹謗中傷を書き込む人もいます。すると、他の誰かが誹謗中傷しているから、自分もやって許されるのではないかという「集団心理」が生まれます。
特に、ネット社会では、他人をおとしめることで快楽を得ようとする人も一定数存在しており、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という同調に便乗して誹謗中傷をするケースも多々あります。
正義感の強要
攻撃的な書き込みをする大多数は、許せなかった、失望したといった感覚をベースに、自分が正しく、相手が間違っていると考えています。
このような人は、「悪い事をした人は報いを受けるべきだ」「人に迷惑をかけた人間を徹底的に罰しなければいけない」と思っていることが多く、行き過ぎた正義感から相手を攻撃してしまいます。
例えば、コロナウイルスに罹患した事を隠して高速バスに乗車した女性に対し、インターネット上で誹謗中傷が集中した上に、実名とされる名前や顔写真、SNSアカウント等が晒されるという事件が起きました。
誹謗中傷をおこなった人たちの心情としては、未知のウイルスに対する恐怖や、「相手に落ち度があるのだから叩かれて当然だ」という正義感が働いていたのではないかと考えられます。
誹謗中傷はなぜ起こる?なくならない理由
では、なぜ誹謗中傷はなくならないのでしょうか。その理由について考えられるものをいくつか紹介します。
誹謗中傷をしている自覚がない
誹謗中傷がなくならない理由として大きいのは、発信者自身が「誹謗中傷をしている自覚がない」ということです。
多くの人は、自分にとっての正しさや常識を持っており、それに反する価値観を持った人に攻撃的になってしまいがちです。
たとえば、親が未婚の子どもに対し「結婚できないのはクズ人間」などひどい言葉を投げつけることがあります。結婚することが常識と考える親にとっては、子どもが未婚であることが許せないのです。このとき、攻撃的な発言をした本人には悪いことをしている自覚がなく、むしろ「正しいことをしている」と勘違いしている可能性すらあります。
法制度に問題がある
誹謗中傷の加害者を取り締まるには、加害者の身元を特定することが必須になります。この点、現行法においても、発信者情報開示請求をすることで加害者を特定することは可能です。
しかし、情報開示請求の制度は複数の裁判手続きを踏む必要があるため、時間と費用がかかってしまうことから、この制度を有効に利用できる人は限られています。
加害者視点としては、「わざわざお金と時間をかけて法的措置はとってこないだろう」と考えるのが普通ですし、そもそも犯人を特定する制度が存在していることを知らない場合もあります。
このように、加害者を特定する法制度にはまだ課題があるため、誹謗中傷の減少につながりにくいのだと考えられます。
どうすれば誹謗中傷が減るのか
誹謗中傷を減らすにはどのようなことが効果的でしょうか。自分が誹謗中傷しないようにする心構えや、誹謗中傷を減らすための社会の動きを一つずつ解説します。
書き込む前に、自分がされたらと考えてみる
誹謗中傷をなくすために大切なのは、感情的にならず、相手を尊重することです。怒りを覚えた時や自分が正しいと思った時こそ、一呼吸置くことが大事です。さらには、他者を尊重するという当たり前の道徳心を忘れないことも重要です。
法律の改正を待つ
現在、政府は誹謗中傷の加害者を特定しやすくする法整備をおこなっています。現行法においても、誹謗中傷の被害を受けたときは、発信者情報開示請求によって発信者を特定することで訴えを提起することができます。
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法によって規定されている制度です。IPアドレス・タイムスタンプの開示請求をした後に氏名・住所などの開示請求をおこなうことで、発信者の身元の特定が可能になります。
しかし、これらの開示請求は裁判手続きですので、費用と時間がかかってしまうデメリットがあります。最低でも2回の裁判手続が必要になり、投稿者の特定だけで半年以上かかる場合も少なくありません。
そこで、ネット中傷による被害をより簡易的に救済するためにプロバイダ責任制限法の改正が予定されています。新しい手続では、複数回の手続を取る手間が簡略化され、1つの手続きで投稿者の情報開示を求めることができるようになります。
そして、たとえば、裁判所が必要と判断した場合には、判決という時間のかかるプロセスを経ることなく、コンテンツ事業者等に対し、発信者が使用したアクセスプロバイダ等に関する情報提供を命じることが可能になります。
従来、段階的に行ってきた複数の手続を同時並行で行うことになるため、裁判の手間や時間が緩和されることが期待できます。
誹謗中傷されたらするべきこと
誹謗中傷の被害に遭ったときはすぐに対策を講じましょう。なぜなら、一度SNSや掲示板などで情報が拡散してしまうと、傷ついた名誉が取り戻せなくなるリスクがあるからです。具体的な対策法は以下の通りです。
誹謗中傷は法律に触れる行為ですので、裁判に発展する場合も多くあります。裁判を有利に進めるには証拠が不可欠ですので、投稿されたページをURLつきで印刷したり、スクリーンショットをとったりして、該当の書き込みを控えましょう。
誹謗中傷した人に損害賠償請求をしたいという希望がない場合は、すみやかに問題の書き込みを削除する必要があります。誹謗中傷の書き込みがいつまでもネット上に残っていると、権利が侵害され続けることになるためです。
多くのサイトでは削除請求用の問い合わせフォームを用意しているので、それに従って問い合わせることで、削除してもらえる場合があります。
請求に応じるかは運営の判断次第になるため、必ずしも対応してくれるわけではありません。対応してくれなかった場合は、裁判所に削除請求の仮処分を求めましょう。
仮処分が認められると、裁判に勝ったときの判決と同様の効果が発生します。仮処分は、判決までにかかる時間が通常の裁判より短いため、迅速に物事を処理することができます。
誹謗中傷の発信者を訴えたい場合は、2、3に記載した削除請求を行う前に、書き込みを行った犯人を特定する必要があります。
投稿者を特定するには、まず、コンテンツプロバイダ(インターネット掲示板などのサイト運営者等)にIPアドレス・タイムスタンプの開示請求をします。
さらに、経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対して、IPアドレス・タイムスタンプの利用者の氏名や住所の開示請求をすることで、誹謗中傷の書き込みをした加害者を特定することができます。
投稿者の個人情報を特定することで、民事裁判による損害賠償請求や刑事告訴による刑事責任追及をおこなうことができます。
仮処分も含めて、裁判手続きを進めるにはある程度の法律知識が必要になります。「被害に遭って訴訟を考えているけど裁判の進め方がわからない」という人は、一度、法律の専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
まとめ
誹謗中傷を減らすためには、インターネットの特徴を理解した上で、健全な道徳心を持ってインターネットを利用しなければなりません。普段からイライラしやすい人ほど、投稿前に一度内容を確認するようにしましょう。
また、誹謗中傷をされた場合は、被害が拡散する前にすぐに対策に移ることが大切になります。困ったときは弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。