常日頃は我慢していても、ある日溜まったストレスで、同僚の悪口をつい言ってしまうことも珍しくありませんが、問題なのは悪口が職場内に広まってしまった時。自分では拡散させるつもりが無くても、噂の広がるスピードは早いため、いつのまにか会社の全ての人間が知っていたなんて事態になったら大変です。
悪口の内容や、相手が受けたダメージによっては名誉毀損で悪口を言った相手に訴えられるケースもあります。
職場での悪口が名誉毀損になる事例とは?
職場で同僚や上司の悪口を言ってしまい、それが噂となって多くの人が知ってしまった時、名誉毀損になるのかならないのか事例を紹介します。
噂が事実でなくても名誉毀損になる事例
新入社員のAさんと、上司のB課長が休日にショッピングをしているところを発見したCさん。Aさんは独身だけど、B課長は妻子ある立場なので、これは不倫では?と思い、同僚や他の部署の社員に「AさんとB課長は不倫している」と少し誇張して話してしまいました。
噂はすぐに社内に広がってしまい、Aさんは噂に耐えられずに会社を休むことが多くなり、それについてB課長も上司に呼ばれて事実関係を確認されました。
実際、二人は偶然に街で会ったということで、不倫の事実はなかったのですが、Aさんはそのまま会社を退職することになりました。
この場合AさんやB課長に対しての名誉毀損になるのでしょうか?
1.公然の場で
2.具体的な事実を摘示して
3.相手の社会的信用を低下させた
この3つの条件に当てはまった時に成立します。
このケースの場合、職場の複数の人に対して、二人の不倫の噂を流したというのは、公然の場での発言とみなされます。
つぎに、不倫関係の事実があったかどうかはあるか、ないかの判断ができることがらであるため、具体的な事実を摘示していることになります。
最後に、不倫関係というのは背徳行為であり、世間一般からみれば信用を大きく失ってしまう行為であるため、社会的信用を低下させていることになります。
実際、このケースでは二人の間に不倫の関係はなく、Cさんの勘違いで、全くの嘘だったのですが、もしも二人の間に本当に不倫関係があっても、事実か嘘かには関係なく名誉毀損となります。
事実であれば名誉毀損にならない事例
「経理のBさんが会社のお金を横領している」
経理のBさんが、車を買い替えたり、毎日のように高価なアクセサリーを身につけていることが多くなり「もしかしたら会社の金を横領しているのではないか?」と、同僚と噂をしていたら、噂が社内に広がり、社内でも経理に監査が入ることになった。
実際、経理の書類には多くのミスがあったものの、Bさんは単純なミスで横領などしていないと主張。噂を流した人物を探し出して、訴えると言っているが、これは名誉毀損になるのでしょうか?
会社内で複数の人物に話をしたということで、公然性は成立し、横領の事実はあるかないかの判断ができることがらなので、事実の摘示があったと言えます。
さらに、会社のお金を横領していたのであれば、犯罪行為になりBさんの信用には大きなダメージを与えることになり、前のケースの不倫の噂と同様に名誉毀損の成立要件は満たしていますが、このケースの場合、横領が事実であるか?が重要なポイントになります。
刑法235条の2項では
「前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」
1.公共の利害に関係し
2.目的が公益を図るためのものであり
3.真実であることが証明できた
この3つのポイントに当てはまっていれば、名誉毀損にはならないのです。
経理のBさんが不正を行っているのは、会社に損害を与える、社会的にみて重大な犯罪行為なので1に当てはまります。話をすることによって間接的にBさんの行為を止めさせようという意図や、調査を行って欲しいという意図も感じ取れます。
そして3番目の、本当にBさんの不正が証明できれば、名誉毀損にはならないということになります。
Bさんは横領の事実がないと主張していますが、経理でミスがあったことは確認されていますので、そのミスが故意であるものなのか?そして実際に横領が行われていたのか証明できれば、名誉毀損にはなりません。
しかし、横領の事実が無かった場合は、Bさんに対する名誉毀損が成立します。(真実性の誤信、という有名な論点もあるのですが、この記事では割愛します)
飲み会での悪口は?
職場で仲のいい同僚や部下との飲み会で、参加していない人物の噂話で盛り上がることはよくあることです。話の内容が、全く根も葉もない噂話であって、飲み会で話していたことが悪口を言った相手にバレてしまった場合は名誉毀損になるのでしょうか?
噂話が相手の社会的信用にダメージを与えるようなものであれば、飲み会で話した噂話や悪口の内容が事実であるか嘘であるかは関係ありません。
この場合で問題になるのは、飲み会が「公然の場」であるかどうかということになります。
仲間内での飲み会ということなので、限られた範囲の中での発言では、基本的には「公然と」というポイントには当てはまらないと考えられます。
SNSで悪口を広めた場合はどうなる?
Twitterなどで職場に対する鬱積した不満などを発信してストレス解消をする人もいますが、自分の感じたこと、不満に思っていることをツイートするだけなら問題はありませんが、職場の同僚の悪口などをツイートした場合、相手の名前をイニシャルや伏字にしていたとしても、容易に対象の人物が推測される場合は、名誉毀損で訴えられる可能性があります。
Twitterでの発言は公然の場での発言と見做されていますので、悪口が事実を摘示しているなら名誉毀損、摘示がないのであれば侮辱罪に当たるケースが多いです。
職場で名誉毀損されたら?
職場で流された噂のために、会社での人間関係に影響が出たのであれば、噂を流した相手を訴えたいと思いますよね。名誉毀損で訴えるにはどのように行動したらいいのでしょうか?
個人を特定する
まず、噂の発信源になっている個人を特定する必要があります。証拠になるような録音データなどが入手できれば一番いいですが、噂を聞いたという複数人の証人がいれば個人を特定できる証拠となりえます。
上司などに相談してみる
刑事事件では立件が難しく、民事事件では裁判に勝利しても、賠償金額などはそれほど多くないため、裁判を起こして相手を追及するのがいいのか、今まで通りに会社での人間関係を修復させるのに重点を置くのか判断しなければいけません。
いきなり訴訟を起こすのではなく、相談できるような上司がいるならば、相手を特定してから対応について相談してみるのが得策です。噂を完全に否定するだけで、今までの人間関係が維持できるのであれば、第三者の手を借りて問題を解決する方法もあります。
法テラスなどで無料相談を受ける
相手を訴えるにしても、民事で訴えた方がいいのか、刑事告訴した方がいいのか判断がつかない人も多いと思います。まずは、弁護士に相談するのがいいのですが、相談料がかかる事務所よりは、無料相談可能な事務所を探すほうがよいでしょう。
法律専門のアドバイザーである弁護士が相談を受けてくれるので、民事・刑事どちらの方向がよいのか、訴訟によって得らえる自分のメリットはどのようなものがあるのか確認してから次のステップにすすみましょう。
警察に告訴状を提出する
相手を刑事罰で処分して欲しいのであれば、警察に告訴状を提出します。被害届でもいいのですが、被害届は警察に対して被害があったことを報告するものになり、事件性があって捜査が必要なのかは警察が判断することになります。
告訴状であれば、一部例外をのぞいて、警察は受理をしなければなりません。その後検察庁に送検された後に立件するのかは検察の判断になりますので、捜査はしてもらえますが、必ず立件されるとは限りません。
また、親告罪になるので、告訴状を提出できるのは被害を受けた本人に限られます。
弁護士に相談する
民事で訴訟を起こす場合は、弁護士に依頼します。弁護士に依頼する場合は、費用がかかりますので、訴訟に勝てる見込みや、賠償金を請求するならばどのくらい受け取ることができるかについても確認してください。
まとめ
職場での名誉毀損は誰でも被害者にも加害者にもなる可能性があります。また、同じ内容で噂が広まっても被害者によって受忍限度が違いますので、どの程度の話までなら大丈夫かというラインは引くことができません。
自分が加害者にならないためには、不特定多数の前で他の人のことを悪く言うのは避けることでしょう。被害者となってしまったのであれば、その後どのように仕事をしていきたいかによって対応方法を考えなければいけません。