名誉毀損で法律に問われるとどうなる?民法と刑法の責任について

名誉毀損で法律に問われるとどうなる?民法と刑法の責任について

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名誉毀損の被害にあった人は加害者に責任を追及することができます。

一方で、名誉毀損してしまった人は、責任を追及される前に然るべき行動を取ることが重要になります。

今回の記事では、名誉毀損の被害者と加害者がするべき対応について説明します。

民法と刑法とは

名誉毀損を含む内容の発言をした場合、民事と刑事上の責任を追及されるおそれがあります。それでは、民事上の責任追及、刑事上の責任追及それぞれについて説明します。

民法とは

民法は、代金を払って商品を購入する売買契約や、相続問題、交通事故の損害賠償問題など、個人間における法律関係を規定しています。

裁判を起こした側を「原告」、起こされた側を「被告」といいます。民事裁判の主体はあくまで個人であるため、裁判を行うかどうかは任意であり、訴訟に至っても途中で和解し解決できるケースも多くあります。

刑法とは

刑法は、犯罪にあたる行為の要件や、犯罪を犯した者に与える刑罰を規定している法律です。

例えば、人を殺傷した場合は殺人罪や傷害罪に問われます。犯罪の容疑をかけられると「被疑者」と呼ばれます。

そして、検察官によって起訴されると「被告人」と呼び方が変わり、刑事裁判にかけられます。刑事裁判によって有罪が確定すると、懲役刑や罰金刑などの刑事罰が言い渡されます。

他人の名誉を毀損をした場合、刑法第230条が名誉毀損における罪と刑罰を規定していることから、刑法上の責任を問われます。

また、民法においても、故意又は過失によって他人の名誉を傷つけることは、民法第709条の「不法行為」に該当するため、民法上の責任も問われることになります。

このように、名誉毀損をした場合、民法と刑法のどちらの責任にも問われることになります。

名誉毀損の民法での責任と具体例

民事で名誉毀損のトラブルを争う場合は、民法の第709条を根拠にして責任を追及することになります。

民法第709条は不法行為責任を規定しており、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者に対して、これによって生じた損害の賠償を求めることができます。

請求できる内容は以下の通りです。

損害賠償

損害賠償とは、不法行為によって被害者が受けた損害を金銭を支払うことで補償することです。

不法行為による損害賠償が認められるためには、下記が必要です。

  1. 損害が発生したこと
  2. 被害者の権利を侵害したこと
  3. 加害者に故意または過失があること
  4. 加害行為と損害との間に因果関係があること

例えば、「名誉毀損発言によって店の売上が減少した」と主張しても、加害者の名誉毀損行為が売上の減少を招いたことを証明することは困難ですので、名誉毀損行為と損害との間の因果関係は認められないことになります。

POINT
このように、誹謗中傷と損害の発生との間の因果関係を証明するのは非常に難しく、損害賠償が認められないケース多々あります。しかし、その場合でも、以下で紹介する慰謝料を請求することができます。

慰謝料

慰謝料は法律上の用語ではありませんが、民法第710条が規定している「財産以外の損害」のうち、誹謗中傷によって受けた精神的損害に対する賠償金を意味します。

損害賠償請求と同様に、慰謝料請求についても①損害が発生したこと②被害者の権利を侵害したこと③加害者に故意または過失があること④加害行為と損害との間に因果関係があることが必要です。

損害賠償請求については、誹謗中傷と発生した損害との因果関係を証明することが困難ですが、慰謝料については、相手の誹謗中傷行為によって精神的損害を受けたことは明らかです。

そのため、誹謗中傷によって相手を訴えるときは、慰謝料請求するのが一般的になります。

名誉回復措置

ネットで誹謗中傷された場合、書き込みが残ったままだと被害者の名誉が傷つけられたままですので、民法第723条の名誉回復措置によって被害者の救済を図ります。

民法第723条は、他人の名誉を傷つけた者に対して、裁判所は加害者に名誉を回復する措置をとるよう命令を出すことができると規定されています。

例えば、新聞や週刊誌などで謝罪広告の掲載を義務付けることで、被害者の名誉を毀損したことに謝罪します。他にも、ネット上で名誉毀損された場合は、加害者が運営するウェブサイトに訂正文や謝罪文の掲載を義務付けることができます。

民事責任が問われた具体例

名誉毀損によって民事責任が問われ、慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載を命じられた事例を紹介します。

ねつ造された自身の研究データを、ホームページに掲載された事例

原告が学会誌に投稿した記事において、被告が研究データのねつ造又は改ざん等をおこない、その旨をホームページに記載した事例では、原告の社会的評価を低下させたことが認められました。

 その結果、2012年11月8日、東京地方裁判所は、被告に330万円の支払いと、ホームページからの文書の削除及び謝罪広告の掲載を命じています。

被害者の法的な対応手順

名誉毀損による被害にあった場合、放置しておくと書き込みが拡散されて、傷付けられた名誉が取り返せなくなってしまいます。

また、名誉毀損してきた加害者に対して民事裁判を起こして、慰謝料を請求することもできます。被害者の法的対応手順は以下の通りです。

1サイト運営者等のコンテンツプロバイダに対して開示請求をする

相手から受けた損害を支払ってほしい場合は、民事裁判にて損害賠償請求することができます。ただし、ネット上で名誉毀損された場合、相手方の身元がわからなければ訴訟を提起することができません。

そこで、プロバイダ責任制限法に規定されている「発信者情報開示請求」という制度を利用します。発信者情報開示請求とは、投稿者の住所や電話番号などの情報を保有しているプロバイダ等に対して、情報開示を求める制度です。

通常、発信者は、インターネット通信事業者のような経由プロバイダとプロバイダ契約をしてインターネットに接続しています。そして、ネット上にあるSNSや掲示板などの運営サイトのサーバと通信することで当該サイトを閲覧しています。

そのため、発信者を特定するためには、まずはサイト運営者に対して、発信者のIPアドレス等の開示を請求します。

 なお、コンテンツプロバイダに対して先に削除請求をしてしまうと、発信者のIPアドレスが消えてしまい発信者を特定できなくなる可能性があるので注意が必要です。
2書き込みの削除依頼をする

次に、名誉毀損の内容が含まれる投稿を削除してもらうことで、被害の拡散を防ぎましょう。

書き込みを削除してもらうためには、サイトやSNSの利用規約に則って、サイト管理者や掲示板の運営会社に書き込みの削除を依頼します。

もちろん、削除するかどうかは運営側が判断するので、場合によっては対応してくれないこともあります。削除依頼を断られたときは、裁判所の仮処分手続きを利用しましょう。仮処分が認められると、勝訴判決と同様の効果が発生します。

裁判所が削除命令を発することにより、ほとんどの運営サイトは命令に応じるため、書き込みの削除を確実に求めることができます。

3民事裁判で損害賠償請求する

上記の削除請求と並行して、携帯のキャリアなどの経由プロバイダに対して、IPアドレスの利用者である発信者の情報開示を請求することになります。

このように、民事裁判を提起するには相手の身元を特定しなければならないケースもあります。開示請求は裁判上の手続きになるため、知識の豊富な弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

加害者の法的な対応手順

他人の名誉を毀損してしまった場合、被害者の方に民事訴訟を起こされて賠償請求されるおそれがあります。裁判を起こされる前にできる法的対応としては以下のものがあります。

該当の書き込みを削除する

名誉毀損発言に心当たりがある場合は、すぐに該当の書き込みを削除しましょう。

この点、ブログやSNSの場合には、自分の投稿を容易に削除することができます。しかし、口コミサイトや掲示板等においては、投稿者と削除申請者が一致しているか確認できず、一度投稿をしてしまうと削除できないケースがあります。

削除できない場合は、弁護士に相談することでサイト側に削除依頼を出してもらいましょう。弁護士名義の削除申請は信頼性が高いため、ほとんどの場合でサイト側は削除対応してくれます。

示談交渉する

ネット上で名誉毀損発言をすると、発信者情報開示請求によって身元が特定され、慰謝料請求する旨の内容証明郵便が送られる場合があります。

内容証明郵便を無視すると、民事訴訟で訴えられるおそれがあるため、こちら側の意向を示さなければなりません。

そこで、相手方に示談交渉を持ちかけて、民事裁判ではなく、当事者の合意でトラブルを解決することが考えられます。

被害者の方に誠意のある謝罪をすることで、民事訴訟を起こされた時の慰謝料請求額より安く抑えられるケースもあります。

POINT
一方で、示談交渉をするには法的知識が必要になるため、困った時は弁護士に相談するのがおすすめです。交渉や示談所の作成を代行でしてくれるだけでなく、金額は適切なのか、本当に慰謝料を支払うべきであるかを詳しく教えてくれます。

名誉毀損の刑法上の責任と具体例

刑法230条は名誉毀損罪について「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。

懲役刑とは、犯罪者を受刑施設に拘禁して、強制的に労務作業をさせる刑罰です。禁固刑とは、懲役刑と違って強制労働はないですが、身柄が拘束される刑罰になります。そして、罰金刑とは、強制的に金銭を取り立てる刑罰です。

 また、有罪判決を受けた場合、刑事罰を受けた事実が前科として残ります。前科が残ると検察庁のデータベースなどに記録されます。さらに、前科があると、海外渡航や国家資格の受験に制限がかかるなど、生活を送る上で悪影響が生じます。

刑事責任が問われた具体例

名誉毀損によって有罪判決が下され、刑事罰を言い渡された事例を紹介します。

お笑い芸人に対して名誉毀損をおこなった事例

投稿者が、有名芸人に対する強姦容疑の告訴状を2011年9月にインターネットの掲示板に掲載したとして名誉毀損罪に問われました。

大阪地裁は、虚偽の内容でお笑い芸人の名誉を傷つけたとして、懲役1年2ヶ月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。

被害者の法的な対応手順

名誉毀損してきた相手の処罰を求める場合、警察に刑事告訴する必要があります。刑事告訴とは、犯罪の被害者が捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、加害者への処罰意思を示すことです。

ただし、告訴状を提出すれば必ず事件として捜査してもらえるわけではなく、事件性が軽微な被害については、警察が捜査してくれないケースもあります。なぜなら、事件性が低いものまで全て捜査してしまうと、他の重大事件を捜査する警察官の人員が足りなくなってしまうからです。

そこで、専門的な知識を備えた弁護士に依頼することで、加害者の行為が法的にどのような問題があるかを明らかにし、犯罪事実を正確に申告することができます。

加害者に対して正しく処罰を求めたい場合は、一度弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。

加害者の法的な対応手順

名誉毀損の加害者が、有罪判決を言い渡されないようにできる対策について解説します。

まず、刑事裁判は、検察官が起訴(検察官が刑事事件について裁判所の審判を求める意思表示)をすることで開始します。日本の裁判では、一度起訴されると約99.9%の刑事事件で有罪が確定します。

そのため、名誉毀損の嫌疑をかけられた加害者は、不起訴処分を得ることで有罪判決の回避を目指します。

不起訴処分を得るためには、示談交渉によって被害者に謝罪をして、被害届を取り下げてもらうことが現実的です。もし被害者と示談を成立させることができれば、謝罪や金銭の支払いによって被害者の方から許しがあったものと評価され、逮捕や起訴を回避できる可能性があるからです。

ただし、被害者の方と示談交渉をするためには、被害者の方と連絡が取れなければなりません。

 仮に本人が被害者の連絡先を知っていたとしても、加害者が被害者と直接連絡をとることで事態を悪化させる可能性が高く、個人で示談交渉を進めるのは現実的には厳しいといえます。

そこで、刑事事件で嫌疑をかけられた場合は、弁護士に依頼することで、被害者の方と示談交渉をすることができます。このとき弁護士は、警察や検察から被害者の連絡先を聞くことができ、被害者と直接連絡を取ることで示談交渉のスケジュールを組んでくれます。

このように、被害者の方と示談をしたい場合は、早期に弁護士に相談して、適切な示談交渉をおこなうことが重要になります。

まとめ

民法は個人間の関係を規律する法律、刑法は犯罪と刑罰について定めた法律になります。そして、名誉毀損はどちらの責任も問われることになります。

名誉毀損の被害にあった人は、早急に対処することで、加害者に対して民事または刑事上の責任を追及できます。一方で、他人の名誉を毀損してしまった人は、示談を成立させることで、以降の被害者からの責任追及を取り下げてもらえる場合があります。

どちらにおいても、弁護士に相談することでトラブルの解決をサポートしてくるので、困った時は弁護士などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

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