誹謗中傷に関する法律改正はいつから?匿名投稿者の情報開示は簡単になる?

誹謗中傷に関する法律改正はいつから?匿名投稿者の情報開示は簡単になる?

誹謗中傷の書き込みした人を訴えるためには匿名投稿者の情報開示をする必要があります。しかし、現行法では情報開示請求するために裁判を複数しなければなりません。

法律改正によって情報開示請求の制度がどのように変化するかみていきましょう。

プロバイダ責任制限法の施行日はいつ?

近年、誹謗中傷の被害が後を絶たず、芸能人が自殺した事件も発生したことから社会的に問題となっています。

誹謗中傷を取り締まる法律には、誹謗中傷の発信者を特定できるプロバイダー責任制限法がありますが、情報開示における手続きが複雑で、費用もかかることからハードルが高いものになっています。

投稿者の情報開示を巡っては、総務省も2020年8月に省令を改正し、プロバイダ責任制限法に基づく情報開示の項目に電話番号を追加しています。

さらに、2021年2月26日には、手続きの簡略化を図るため、プロバイダ責任制限法の改正案を閣議決定しました。来年末までに施行される見通しです

プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法の内容は、「プロバイダ側に発生する損害賠償責任の制限」と「発信者情報の開示請求」に大きく分かれます。

プロバイダ側に発生する損害賠償の制限

インターネットで誹謗中傷があった場合、プロバイダは誹謗中傷のコメントを削除しなければ、誹謗中傷を受けた被害者から損害賠償請求されるおそれがあります。

一方で、削除したコメントが誹謗中傷に該当しない場合、表現の自由を侵害したことを理由に、発信者から損害賠償請求されるおそれがあります。

このとき、プロバイダは該当する書き込みを削除するかの判断ができない場合があります。

そこで、プロバイダ責任制限法は、該当の書き込みを削除した場合、削除しなかった場合の両方において、プロバイダに発生する責任を免除する規定を設けています。

プロバイダ責任制限法の3条1項は、

「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、または、情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、プロバイダは権利の侵害を主張する者への損害賠償責任は発生しない」

と規定されています。

反対に、インターネット上に、人の名誉や著作権を侵害する情報があることを知っていた場合や知ることができた場合は、権利の侵害を主張した人に損害賠償の責任を負うことになります。

プロバイダ責任制限法3条2項は、情報の流通によって他人の権利が侵害されたと信じる相当の理由があったため、その情報を削除した場合や、権利を侵害を主張する者から削除の申し出があったことを発信者に連絡したが、7日以内に反論がないため、その情報を削除した場合は、プロバイダは発信者への損害賠償責任は発生しない、と規定されています。

そのため、ネット上の情報が名誉毀損やプライバシー侵害等の人の権利を害することが不明確なときに削除してしまった場合や、発信者に反論の機会を与えずに削除した場合には、発信者に対して損害賠償の責任を負うことになります。

発信者情報の開示請求

誹謗中傷を受けた被害者は、書き込みの内容によって請求者の権利の侵害が明白で、請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると場合は、発信者情報の開示請求ができます。

まず、コンテンツプロバイダ(インターネット掲示板などのサイト運営者等)にIPアドレス・タイムスタンプの開示請求ができます。

さらに、経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対して、IPアドレス・タイムスタンプの利用者の氏名や住所の開示請求をすることで、誹謗中傷の書き込みをした加害者を特定することができます。これらの開示請求は、裁判上の請求になります。

POINT
誹謗中傷の発信者を訴えるには、発信者の特定が必要不可欠なため、プロバイダ責任制限法は誹謗中傷の対策においてとても重要な法律になります。

発信者情報開示手続きの現状

プロバイダ責任制限法の目的を果たす為に、プロバイダ責任制限法に基づく「開示対象となる発信者情報の追加」や「開示手続をより円滑にする為の方策」などについて省令改正や法改正を行いました。

例えば、令和2年8月31日に、発信者に開示請求できる内容を定める省令の一部が改正され、新たに「発信者の電話番号」が開示対象に追加されました。

これは、近年SNSなどのサービスでアカウント作成時の連絡先登録や、セキュリティ対策での電話番号登録が一般化されていることが背景にあります。

電話番号の開示を受けることができれば、電話会社から弁護士会照会などを通じて発信者の氏名・住所を取得可能になります。IPアドレス・タイムスタンプの開示請求をした後に氏名・住所などの開示請求をおこなうため、最低でも2回の手続が必要になります。

このような厳格な手続きを行う必要があるのは、投稿者側の表現の自由などの権利保護が考慮されていることが理由です。

しかし、裁判手続には費用がかかる上に、投稿者の特定だけで半年以上かかる場合もあります。このような実情から、現行法では被害者側に重い負担がかかってしまいます。

プロバイダ責任制限法の改正法の概要

そこで、ネット中傷による被害をより簡易的に救済するためにプロバイダ責任制限法が改正されました。

新しい裁判手続では、複数回の手続を取る手間が緩和する措置がされ、1つの裁判手続きで投稿者の情報開示を求めることができる制度が創設されました。

また、裁判所が必要と判断した場合には、情報開示が認められる前であっても、コンテンツ事業者等に対し、発信者が使用したアクセスプロバイダ等に関する情報提供を命じることが可能になります。

従来、段階的に行ってきた複数の手続を同時並行で行うことになるため、裁判の手間や時間が緩和されることが期待できます。

POINT
現状では、時間のかかる裁判手続きを数回しないと投稿者を特定できず、情報開示に半年から1年以上かかってしまう場合が多くあります。
新たな制度では、申し立てから開示命令決定まで数カ月程度に短縮されると見込まれています。

法律改正により期待される影響

プロバイダ責任制限法が改正されることで、従来より情報開示請求をスムーズに行うことができます。

改正前より特定されやすくなることで、誹謗中傷に対する国民の意識が変化し、匿名アカウントでの誹謗中傷が少なくなるこが期待されます。

 ただし、開示要件が緩和化されるわけではないため、申し出によっては棄却される場合もあります。あまりに簡単に開示請求ができてしまうと、言論の萎縮が懸念されるからです。

誹謗中傷の抑止効果を出しつつ、言論の萎縮効果につながらないような、バランスのとれた運用が大切になります。

まとめ

ネット上の誹謗中傷の被害は日々増加しています。しかし、改正法施行前の法律では発信者を特定する手続きにコストと時間がかかってしまうので、実用レベルには達していません。

プロバイダ責任制限法の改正法が施行されると、従来よりも簡略化された手続きで発信者情報の開示請求ができるので、誹謗中傷の加害者を訴えやすくなります。

また、取り締まりの数が増えることで、国民の「ネット上での誹謗中傷は不法行為である」という認識が強まり、抑止的効果も期待できるでしょう。

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