交通事故の後遺障害に認定される確率は5%程度です。
交通事故に遭い治療後も何らかの症状が残った時、後遺障害の認定を受ければ慰謝料といった賠償金を相手方に請求できるようになります。しかし、認定基準が厳しく認定されない確率は低いのが現状です。
交通事故による後遺障害とは何か
交通事故に遭って負傷したケガが治療後も完全に回復せず、何らかの症状が残ってしまった状態が「後遺障害」です。
病気が治った後も何らかの症状が残るケースは後遺症と呼ばれますが、後遺障害は交通事故でのケガによる症状のみに使われます。また、どのような症状でも認められるわけではなく、専門機関による認定を受けるとはじめて後遺障害が認められます。
後遺障害の程度は人によって異なります。体に痛みや痺れなどが残る軽度のものから、指や腕、脚など身体の一部を失ったり、失明したりといった重度のものまでさまざまです。
交通事故の後遺障害は後遺症の重さによって等級が決められており、認定された等級に応じて加害者に精神的苦痛に対する慰謝料や障害で働けなくなった分の賃金(逸失利益)などを請求できる仕組みです。
後遺障害の定義
後遺障害には4つの定義があり、原則として下記のすべてを満たすと認定を受けられるようになります。
- 交通事故によ怪我が治った後にも何らかの肉体的・精神的な症状が残っており、将来においても回復が難しいと見込まれる。
- 症状と交通事故との相当因果関係(原因から結果に至る関係が社会通念上認められること)が医学的に証明されている。
- 症状による労働能力の喪失または低下が認められる。
- 症状の度合いが「自動車損害賠償保障法施行令」に決められている後遺障害等級のいずれかに該当している。
後遺障害の等級
後遺障害は症状の重さによって1級~14級に分かれています。さらにそれぞれの等級は障害別に140種類35系列に細かく分類されています。
後遺障害等級認定の申請
後遺障害等級の審査は「損害保険料率算出機構」の「自賠責損害調査事務所」と言われる専門機関に申請して認定してもらいます。後遺症があれば自動的に後遺障害と認められるわけではないので注意してください。
後遺障害等級の申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2つあります。
事前認定
加害者が加入している任意保険会社を通じて申請する方法です。診断書等の資料を送ると、あとは保険会社がすべて手続きをしてくれます。
書類の準備など複雑な手続きが不要になるため、申請に関する手間と費用を減らせるのは大きいメリットです。しかし、保険会社の申請方法に不備があると等級の認定を受けられなかったり、低い等級での認定になってしまったりする可能性が出てきてしまいます。
被害者請求
加害者の加入している自賠責保険会社に、被害者自身が直接申請を行う方法です。書類作成や資料集めなど、申請に関する手続きは全て自分で行わなければなりません。大きな手間と時間がかかるデメリットがありますが、自身に有利な書類を用意できますので適切な等級に認定されやすくできます。
また、加害者との示談成立前に自賠責保険の先払い制度が利用できるのもメリットです。
事前認定と被害者請求どちらを選ぶか
事前認定と被害者請求にはそれぞれメリット、デメリットがあります。認定されやすくしたいなら被害者請求がおすすめですが、知識や経験のない方が申請書類を作成するのはかなり手間と時間がかかる作業になります。
申請に関する負担をなるべく減らしたいのであれば、事前認定を選ぶのが良いでしょう。
後遺障害等級認定の認定確率は高くない
交通事故の被害者が受け取る損害賠償の金額は、後遺障害の認定を受けられるかどうかで大きく変わってきます。損をしないためにも後遺症が残っているなら、後遺障害へ申請するべきでしょう。しかし、実際は認定される確率は決して高くないという厳しい現状があります。
「損害保険料率算出機構」の統計によると2021年の自賠責保険支払い件数898,407件のなかで、認定されたのは45,095件で全体の約5%程度です。
支払い件数に占める後遺障害の認定割合は毎年概ね同じで、過去5年間でほとんど変わっていません。さらに交通事故の後遺障害で多く見られる「むちうち」のような軽度の後遺症(14級または12級)はさらに確率が下がるのが現状です。
後遺障害が認定されない理由
後遺障害等級申請のうち9割以上が認定されない原因のひとつが、申請方法や提出書類などの問題です。客観的に症状を説明できるようにすることが、認定確率を上げる必須ポイントです。
1、診断書の内容が不十分
後遺障害の審査で重視されるのは、医師に作成してもらう「後遺障害診断書」の記載内容です。内容が不十分だったり、不備があったりすると、非該当になったり低い等級になってしまう可能性が高くなってしまいます。手足の一部を損傷したようなケガなら一目でわかりますが、本人は頑固な痛みやしびれがあったとしても、むちうちのように外見から判断しづらい症状のため曖昧な書き方をされていると認定されないことが多いです。
医療のエキスパートである医師が作成する診断書には問題などないように思えますが、担当する医師によっては後遺障害診断書を書き慣れていなかったり、診断書の重要性をよく理解していない可能性はあります。
診断書に原因があると思われるときは、医師に新しい診断書を書いてもらいます。ただ、どういった記述をすれば認定を受けやすくなるか、一般の人が判断するのは簡単ではないでしょう。交通事故の後遺障害に詳しい弁護士に確認してもらってください。
2、他覚的所見や検査が不足している
後遺障害の申請は症状を裏付ける他覚的所見や検査結果が重要です。身体の一部が欠損したようなケースなら外見から症状の重さが分かりますが、むちうちによる痛みや痺れが発生する神経症状はどの程度の後遺症が残っているかは分かりにくいです。症状を証明するためには客観的な証拠を提示しなければなりません。
診断書やカルテ、医師の意見書と合わせて、医学的な根拠となるレントゲンやMRI、CTといった画像資料やジャクソンテスト、スパークリングテストといった神経学的検査の結果などを添付すれば認定される確率を上げられます。ただ、医師の判断だけではどのような検査、画像を準備すればいいのかは不十分になる可能性があるので注意が必要です。
3、通院期間・通院日数が足りていない
ケガや後遺症を治療するため医療機関に通っていた期間・日数が短いと、認定を受けるのが難しくなるのが通常です。通院している期間が短いと「たいした症状ではないのではないか」「もう少し治療を続ければ治るのではないか」といった判断をされる傾向にあり、非該当になる恐れが生じます。
なかには、「仕事が忙しい」「家庭の事情がある」などの理由から途中で通院をやめてしまう方もおられますが、勝手に治療をストップしてしまうと後遺障害の認定を受けにくくなってしまいます。
4、症状に連続性・一貫性がない
訴えている症状に連続性や一貫性がないと認定を受けるのは困難になってしまいます。
- 途中で症状の内容が変わる。
- 最初は何ともなかったのに後から症状を訴える。
- 一度は治ったと思ったが、また同じ症状が出てきて治療を再開した。
上記のような状況は症状の連続性・一貫性に乏しく、事故と後遺障害の因果関係に疑いをもたれる可能性が出てきます。病院では小さな症状も含め医師にすべての自覚症状を伝え、途中で主張を変えず一貫するようにしましょう。医療機関のカルテ等のほかに、自覚症状を自分で記録しておくのも有効です。
5、交通事故の規模が小さい
人身事故でも規模の小さいと後遺障害の認定を受けにくくなるケースがあります。小さな事故ではケガの度合いも小さくなるのが一般的で、後遺障害も残りにくくなります。しかし、軽いように見えるケガでも、むちうちでは痛みや痺れなどの神経症状がしつこく残ることはあります。
後遺障害等級に納得できないときはどうする?
交通事故の後遺症による後遺障害等級の認定率は高くないため、申請しても非該当になってしまう可能性は十分にあります。等級の判断に納得できないときは「異議申し立て」「紛争処理手続き(ADR機関の利用)」「訴訟の提起」という3つの対応ができます。
1、異議申し立て
自賠責損害調査事務所の中にある自賠責保険審査会」に対して書面で申請を行い、等級認定の再審査を求める方法です。異議申し立ては基本的に費用はかからず無料で利用できるうえ、回数に制限も設けられていません。そのため、時効にならなければ何度でも再審査を求められます。
異議申し立ての申請から結果が出るまでの目安は2~6ヶ月とされ、後遺障害等級の申請と同じく事前認定、被害者請求の2通りで申請が可能です。ただ、2019年のデータによると、異議申し立てによって非該当の判断が覆った確率は約12%となっており、狭き門といえるでしょう。
最初の審査で認定を受けられなかったのは、後遺障害を認めるだけの証拠が不足していたと考えられます。結果を変えるには、後遺障害診断書や症状を証明するための画像・検査資料など、後遺障害が認められるだけの証拠を新しく準備しなければなりません。
2、紛争処理手続き(ADR機関の利用)
ADR(裁判外紛争処理手続き)を利用して解決を図る方法です。ADRは裁判によらず法的な紛争を解決するための手段で、専門知識を有し中立的な観点から判断できる第三者(医師、弁護士、学識経験者など)で構成するADR機関(紛争処理委員会)が審査を行います。
結果の通知は申請から3ヶ月程度で出され、裁判などと比べてスピーディに解決を望めるのがADRのメリットです。ADRの利用に料金は必要ありませんが、利用できるのは1回限りと決められています。
ただ、ADRは基本的に現在の紛争を解決するのが目的であり、これまでの書類等をもとに審査の妥当性を判断するだけです。ADRの際に新たな資料の提出はできません。
3、訴訟の提起
裁判所に民事訴訟を起こして決着を図る方法です。訴訟の提起は内容にもよるものの解決までに半年~1年程度と長期間かかり、さらに裁判費用も支払わなければなりません。そのため、異議申し立てやADRで満足な結果を勝ち取れなかったときの最終手段と言えるでしょう。
裁判は自賠責損害調査事務所やADR機関での結果とは異なり、裁判所の判断によって認定を受けられるかどうかが決まります。そのため、非該当になっていても後遺障害と認定されたり、等級を上げられる確率を高めることができます。
後遺障害等級が認定されないときは時効に注意
後遺障害に関する自賠責保険の請求権は時効があり、3年で消滅します。3年以上経つと認定をもらえても意味がなくなってしまいます。3年もあると時間的にはかなり余裕があるように感じますが、訴訟を提起するときなどは解決まで長い時間を要しますので、時効は全く無視できません。
異議申し立てにより認定された事例を紹介
実際に交通事故の後遺障害申請で非該当になったり、想定よりも等級が低く認定されてしまった後、異議申し立てで希望の等級に認定された事例を紹介します。
ケース①:むちうちで非該当から認定を獲得できた事例
Aさんは車を運転中に追突事故に遭い、頸椎捻挫と診断され肉体的・精神的に大きなダメージを受けました。その後も後頭部などに痛みや違和感といったむちうちの症状が出ています。そのため、後遺障害等級の認定を受けようとしたAさんですが、結果は非該当になってしまいました。
事故のために辛い思いをしていたAさんはなんとか補償を受けたいと考え、弁護士に相談し異議申し立ての手続きをしました。弁護士のアドバイスを踏まえ新しい診断書に加え詳細な医療記録を入手し、さらに重大な事故であると示すために刑事記録や事故の直後を撮影した画像などを取り寄せました。
しっかりと資料を集め異議申し立てを行った結果、14級9号での後遺障害等級に認定され後遺障害慰謝料を含む賠償金を請求できるようになりました。
ケース②:納得できない等級を異議申し立てで変更できた事例
歩道を歩いていたBさんは道路を横断中に左側から走行してきた車に衝突される事故に遭い、右肩を骨折するケガを負ってしまいます。治療した後も肩の痛みや違和感などが残ったBさんは後遺障害等級の申請を行い、14級の認定を受けました。しかし、肩の症状によって日常生活にも影響が出ていたBさんは、認定された等級が低いと感じ異議申し立てを決めます。
望む認定を受けられるか不安だったBさんは、弁護士に相談しました。相手方の任意保険会社から資料を取り寄せると医学的所見に乏しく、低い等級になったと判明しました。
しかし、実際に医療記録などを取り寄せて精査すると医学的根拠は十分に認められると考えられたため、今度は被害者請求で申請を実施しました。資料だけでなく担当医の意見書なども添付したところ、無事に12級に修正されました。
まとめ
交通事故によるケガで治療後も何らかの症状が残ったら、後遺障害等級が認められると慰謝料などの賠償金を請求できるようになります。しかし、後遺障害の認定率は5%程度と決して高い数字ではありません。
非該当になったり思っていたよりも低い等級になったときは、異議申し立てなどの方法により結果を覆せる可能性はあります。ただ、結果を変更するには、なぜ認定が受けられなかったのか理由を考え、対策を講じなければなりません。
交通事故の事案に詳しく実績がある弁護士に相談すれば、どこが悪かったのかを洗い出し適切な資料集めなどが行えるようになるため、再審査で認定を受けられる確率が高まります。後遺障害等級の認定について悩んでいる方は、あきらめずに弁護士に相談してみましょう。
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