交通事故の過失割合に納得できないとき、裁判を起こせば有利な割合に修正できる可能性があります。
交通事故の過失割合を裁判で争う流れを解説
交通事故の過失割合とは、事故に対してどちらがどれだけ責任があるかを0~10の数字で表したもので、数字が大きいほうを「加害者」、小さいほうを「被害者」と呼んでいます。
過失割合は示談交渉において決定するのが原則ですが、裁判で争い解決する方法もあります。裁判を起こしたときの流れを解説します。
1、裁判所に訴状を提出
訴える側である「原告」が管轄の裁判所に「訴状」を提出し、訴訟の提起を行います。裁判には損害賠償請求に関する「民事裁判」、刑法等に定められた犯罪を裁く「刑事裁判」、免許停止や罰金に関わる「行政裁判」の3種類があります。
交通事故の示談交渉が決裂した時の裁判は、民事裁判(民事訴訟)にあたります。
民事裁判の訴状には、当事者の住所や氏名、訴えの内容・理由、裁判所名などを記載し、相手方に郵送する分と合わせて2部作成します。訴状のひな型は多くの裁判所でホームページからダウンロードできます。弁護士に依頼すれば1か月程度で作成可能です。
また、警察から出される交通事故の証明書や、症状・後遺障害の等級などが書かれた医師の診断書など証拠となる書類も一緒に提出します。提出した書類は裁判所から相手方に送達され、加害者は訴状の内容に対し自分の主張を書いた「答弁書」を裁判所に提出する流れになります。
2、口頭弁論
訴状に問題がなければ、平均3か月以内に第1回の裁判期日が決定され「口頭弁論」が実施されます。「口頭弁論」とは、当事者または代理人が法廷に出向いて、裁判官に対しそれぞれの主張を述べる手続きです。主張に不備があれば裁判長が質問を行い、次回以降明らかにするよう指示されます。
第1回口頭弁論は答弁書の提出のみとなるため、加害者(被告)本人は欠席する事例が多くなっています。初回の口頭弁論は、訴状や証拠書類、答弁書などの確認が行われるだけとなり、5~10分と短時間で終わることがほとんどです。
民事訴訟では書類手続きが重視されるため、裁判の期日自体はそれほどかからないことは珍しくないのです。交通事故の裁判での口頭弁論は、平均1.7回、間隔は平均1.9か月で、口頭弁論が1回のみで終了する事例もみられます。
3、証拠調べ・証人尋問
口頭弁論で明らかになった争点をもとに、それぞれの主張を裏付ける証拠の提出や証言の尋問を行います。証拠として提出される書類は、主に病院のカルテや警察の捜査資料などです。また、誰が見ても事実わかるようなドライブレコーダーの映像や音声などの記録は重要な証拠になるので、用意しておくのが良いでしょう。警察・検察の文書等を証拠として取り寄せる「文書送付嘱託」「調査嘱託」の手続きも多用されます。
尋問では、医師や事故の目撃者、保険会社の担当者などが証人になります。ただ、尋問は実施されないこともあり、平均回数は1.1回、平均人数0.4人となっています。
4、和解協議
裁判の流れの中で、裁判所から「和解」を提案されるケースがあります。
交通事故の裁判では、判例を見ると和解が73.1%、判決が18.5%、その他(取り下げなど)が8.4%というデータがあり、和解の勧告による終結は多いと言えます。裁判官は判決より和解のほうが望ましいと考える傾向があり、判決にこだわりすぎると心証を悪くする心配もありますので注意が必要です。
裁判所から示される案をもとにお互いが和解を受け入れれば、判決と同等の効力をもった「和解調書」が作成されます。これで裁判は終結です。
和解となると尋問や判決は行われません。そのため裁判が早く終わるメリットが生まれやすいです。
5、判決
和解が成立しなければ口頭弁論や証拠を調べたのち、お互いが最終準備書面を提出して審理が終了します。その後、判決が言い渡される流れです。
判決には、原告の請求を全て認める「全部認容判決」、原告請求の一部を認める「一部認容判決」、原告請求をすべて棄却(不適法として訴えを退ける)する「請求棄却判決」の3種類があります。
6、不服申立て
裁判所の判決に不満があれば、上級裁判所に不服申し立てという形で上訴する流れとなります。
一審判決に対する上訴を「控訴」、二審判決に対する上訴を「上告」といいます。ただ、実際には上告できるのは重大裁判に限られ、たいてい上訴は一度きりになります。
交通事故裁判のメリット
交通事故の過失割合に納得いかず裁判すると、被害者自身にはどのような影響があるのか、裁判に持ち込むメリットをみていきます。
メリット①:裁判基準で賠償金を受け取れる
裁判を起こすと「裁判基準」での賠償金が受け取れるようになります。
交通事故の損害賠償を計算する算定基準には、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準(弁護士基準)」の3種類が存在します。
「自賠責基準」は加入が義務になっている自賠責保険による算定基準で、最低限の補償となるため賠償額は極めて低く設定されています。「任意保険基準」は加害者が加入している任意保険会社の算定基準で、自賠責基準と同じくらいかやや高い程度で大きな差はありません。
「裁判基準」は別名「弁護士基準」と呼ばれ、裁判を起こすか弁護士に依頼すれば適用されます。3つの基準のなかでは、高額な賠償金を請求できます。
メリット②:遅延損害金・弁護士費用の請求ができる
裁判を起こすと、加害者に「遅延損害金」や「弁護士費用」を請求できるようになります。
民法における金銭債務の支払いが遅れると、遅延による損害を補償するための金銭である「遅延損害金」を相手に請求できます。遅延損害金を請求できるのは、裁判を起こした事例のみになるため、示談交渉では請求できません。
そして交通事故の交渉にかかった「弁護士費用」の一部(10%程度)を加害者に請求できるようになります。
メリット③:過失割合が有利に変更される可能性がある
過失割合を有利に変更できる可能性が高くなります。それぞれの主張に食い違いがあり、示談交渉だけでは決着がつかない事例では、裁判所に訴えると被害者に有利な割合へと修正できることがあります。
保険会社が提示してくる過失割合は、通称「緑本」と言われている市販の書籍などを参考にしたもので、弁護士など法律の専門家の視点からすると、誤りや不適当なものも多いのです。
そのままの示談金で応じてしまうと、損をすることになります。しかし裁判により、賠償金が増額される可能性が高まります。
過失割合は損害賠償額に大きな影響を与えるため、相手の主張を簡単に変えるのは難しいものです。裁判で変更するしか手段がない事例もあります。
メリット④:交通事故の紛争を確実に解決できる
裁判になると、交通事故に関する紛争を確実に解決できるようになります。示談を成立させるためには、交渉による相手方との合意が必要です。しかし、過失割合などでいちど揉めてしまうと、妥協点を見出し和解するのは簡単ではなくなります。
裁判の判決は、相手の合意がなくても効力を発揮します。加害者本人が支払いを拒否したとしても、強制執行により相手の車や不動産などを競売にかけ、強制的に損害賠償を払わせることができます。どうしても話し合いだけで示談できなさそうなケースでは、裁判を起こすのは有効な手段といえるでしょう。
交通事故裁判のデメリット
交通事故の裁判には、デメリットも存在します。
1、判決が出るまで時間がかかる
解決までに時間がかかってしまうデメリットがある点は承知の上、裁判をする必要があります。
裁判所の統計によると、交通事故裁判の審理期間は平均12.4か月とされています。このうち、約20%は6か月以内に終結しているのですが、判決が出るまでに半年から1年以上など非常に長引く可能性はあります。
過失割合の主張に相違がある事案では、長期に渡る争いになりやすいです。特に怪我の後遺症が残るなど、慰謝料を含む賠償金の金額が高くなるほど裁判はすんなりと進まなくなります。
2、賠償額が減額される恐れがある
示談交渉の時よりも、賠償金が減額されてしまうことがあります。裁判を起こしたからといって、必ずしも自分に有利な判決となり勝訴するわけではありません。裁判では当然、相手方も弁護士をつけて反論してきますので、負けることも考えられます。
しっかりと証拠を揃え法廷で自分の主張が客観的に正しいと裁判で立証できなければ、示談交渉よりも不利な過失割合や賠償金となる判決が出る恐れはあります。過失割合に納得いかずに提訴したのに、被害者側の過失割合が高くなってしまうのは本末転倒でしょう。
裁判を起こす際は、裁判で敗訴するデメリットがあることも考慮に入れて判断する必要があります。
3、弁護士との打ち合わせや出廷などに手間がかかる
裁判はさまざまな手続きや準備に時間がかかるのが大きなデメリットです。
裁判では訴状などの書面をしっかり準備することが大切です。被害者本人が個人で全てを用意をするのは、手間がかかり非常に大変です。弁護士に依頼すれば、訴状等の書類作成は対応してくれますが、弁護士と打ち合わせをする時間を確保しなければなりません。弁護士との打ち合わせも最初の1回で済むとは限らず、裁判を進めていく過程で随時必要になる可能性があります。
また、裁判の日に出廷するのであれば、欠勤したり休業したりして仕事に支障が出るデメリットもあります。
4、裁判費用がかかる
訴訟費用が必要になります。裁判に訴えを起こすには裁判費用や弁護士に支払う報酬など、さまざまな費用が発生します。
・訴訟費用……裁判を起こす時に発生する費用。裁判の手数料となる「収入印紙代」と郵便物の送付に必要な「郵便代(郵便切手代)」の2種類があります。収入印紙代は訴状の請求額により、以下のように金額が決められています。
訴額(請求する損害賠償額) | 収入印紙代 |
---|---|
100万円まで | 10万円増えるごとに1000円 |
500万円まで | 20万円増えるごとに2000円 |
1000万円まで | 50万円増えるごとに2000円 |
10億円まで | 100万円増えるごとに3000円 |
・弁護士費用……裁判手続きは弁護士が実施するため、弁護士費用が発生します。金額は弁護士事務所により違いがありますが、目安は以下のようになります。
費用項目 | 費用の内容 | 金額の目安 |
---|---|---|
相談料 | 弁護士に法律相談を行う費用。30分~1時間ごとに料金が決まっている。 | 5000~10000円 |
着手金 | 正式に依頼する際に発生する費用。 | 10万円~ |
成功報酬 | 依頼が成功した後に支払う費用。「経済的利益」とは弁護士の介入により得られた利益を指す。 | 経済的利益の10~30%(+数万円) |
その他 | 弁護士の交通費や通信費、事務所外での活動に対する日当などの費用。 | 日当は移動距離や活動日数による。その他の費用は基本的に実費請求。 |
弁護士費用の一部は加害者に請求できます。訴訟にかかる費用は初めに原告が支払い、裁判後に敗訴した側が負担するシステムです。しかし、確実に裁判に勝てる保証はなく、金銭負担が発生するリスクは存在しています。また、弁護士費用については全額請求できないため、依頼すれば費用の支払いが生じます。
ただ、加入している自動車保険に弁護士特約が付いていれば、保険会社が弁護士費用を負担してくれます。300万円までとの上限はありますが、費用を気にせずに弁護士を利用できます。自身が加入している任意保険に特約が付いていないかを、事前にチェックしておくのがおすすめです。自動車保険だけでなく、クレジットカードや火災保険などに付帯していることもあります。
5、相手に支払い能力がない場合がある
任意保険に加入していない、収入がないなど、交通事故を起こした相手に支払い能力がない場合があります。
裁判で希望の過失割合にできても、加害者本人の支払い能力を超える賠償金は回収できません。被害者の立場としては損害を被っているのに賠償金を受け取れないことで腑に落ちないのは当然ですが、加害者に支払うお金がないならどうしようもありません。相手の保険加入状況や財産状況などを調べてから、裁判を考えるようにしましょう。
もし支払ってもらえる可能性が低いようであれば、裁判以外の方法を検討するのがおすすめです。どのような方法を取るのかの判断は、専門的な知識が必要になります。弁護士に相談して、自身にとってふさわしい方法を選ぶようにしてください。
交通事故で裁判になるのは1割ほど
交通事故の過失割合を決めるために裁判になる事例は全体の1割程度とされています。パーセンテージとしてはそれほど高くはありません。
通常、過失割合は、当事者同士の示談交渉によって決められ、90%以上の事故では示談が成立します。
交通事故で裁判まで起こしたりするのか、と思われるかもしれませんが、全体で見れば裁判まで行くのは少数派といえます。しかし、なかには相手の主張に絶対に納得できない、話し合いだけでは解決できない状況になるときもあり、最終手段として裁判で決着をつけることになります。
特に裁判になりやすいのは、次のような事案です。
裁判になりやすい事案
1、過失割合で折り合いがつかない
1つ目は、示談交渉だけで過失割合の問題に決着がつかない事例です。
交通事故の過失割合について双方の折り合いがつかず、いくら交渉を重ねても妥協点が見出せなければ、裁判になる可能性が高くなります。過失割合は損害賠償の全体に影響を与える大切な数字です。1割異なるだけで、受け取る賠償額が数十万円から数百万円と大きく変わる事例もあります。
通常、過失割合の交渉は、最初に相手方の保険会社が提示する示談案に書かれている比率をベースに進めていきます。
2、保険会社が不十分な賠償金額しか認めない
2つ目は、保険会社の認める賠償金額・慰謝料が十分でない事例です。
交通事故の示談案は加害者側の保険会社が用意しますが、基準を大きく下回る賠償額しか提示せず、被害者側とトラブルに発展することは少なくありません。保険会社も民間企業のため、支払う保険金額はなるべく低く抑えようとするのが普通です。賠償額が大きい事故ほど、通院や入院の治療費や慰謝料などの賠償金を低くしようとする傾向が強くなります。
損害賠償の金額に納得がいかず、合理的な説明ももらえなければ、保険会社の言いなりにならず変更を求めて交渉するべきです。
3、加害者が無保険で賠償に応じようとしない
3つ目は、加害者が任意の自動車保険に入っておらず、損害賠償請求に応じようとしない事例です。
損害保険料率算出機構によると、自賠責保険に加えて加入する任意の自動車保険は、ドライバーの約10%が加入していないとされています。
車のドライバーは全員が加入を義務付けられている自賠責保険は、交通事故に対する最低限の補償を目的としたものです。相手が任意保険に入っていなければ不十分な額の示談金しか受け取れなくなります。
たとえば、自賠責保険は対人賠償のみのため、壊れた車の修理代など対物賠償に関しての補償は受けられません。また、支払われる分についても、金額的には決して十分とはいえないものです。
4、損害賠償請求権の時効が近づいている
4つ目は、損害賠償請求権の時効が迫っているケースです。
交通事故の損害賠償請求には時効が存在しています。人身事故なら5年、物損事故なら3年を過ぎると賠償金を請求する権利が失われます。そのため、時効にならないようなるべく早いうちから示談交渉を進めるべきなのですが、予想以上に時間がかかってしまい時効が近づいてしまう事例もあります。
時効が迫っているとき、裁判を起こすのはひとつの対処法です。自分の権利を主張し裁判を起こす「請求」を行えば、時効のカウントを中断させることができます。加害者への訴訟により時効は中断され、判決が出た後にこれまでの時効は無効になり新たに時効が開始されます。
交通事故で裁判を検討するなら弁護士にまず相談を
交通事故で裁判には、メリットが多い反面、デメリットも存在しています。裁判を起こすと、裁判費用や弁護士費用などのコストに加え、半年以上の時間もかかるため、始める前にはよく確認する必要があるでしょう。
交通事故の示談交渉に納得がいかず、裁判を起こそうか迷っている方は、弁護士への相談をおすすめします。弁護士はメリットとデメリットを多方面から考慮して、訴訟を起こすべきか適正な判断を下せます。また示談交渉でも効果的な対応を行ってもらえるため、過失割合を有利に変更でき、良い結果になる可能性が高まります。
さらに相場が高額になる弁護士基準での賠償金請求が可能になります。裁判ではなく示談交渉で解決を目指すケースにも、損害賠償の増額が見込めます。
まとめ
交通事故の過失割合は、裁判での変更が可能です。裁判の流れは訴状を提出→口頭弁論→証拠調べ・証人尋問→和解や判決となるのが一般的です。
交通事故の裁判では有利な過失割合への変更のほか賠償金の増額などのメリットがありますが、手間や時間、費用がかかったり、逆に賠償金が減らされてしまったりするデメリットも考えられます。裁判は簡単にできるものではないと言えます。
裁判をしたほうが良いのか、しないほうが良いのか、悩み続けるのは不安なものです。自分で判断が難しいのであれば、法律の専門家である弁護士に相談するのが安心です。特に交通事故の案件に強い弁護士に依頼すれば、満足できる結果を導いてくれるでしょう。
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